開幕間近『Little Voice リトル・ヴォイス』で自分勝手な母親という難役に挑む安蘭けいにインタビュー
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安蘭けい (撮影:中原義史)
大原櫻子が舞台初主演することでも話題を集めている『リトル・ヴォイス』。天才的な歌声を持つ少女が、母と子の確執や淡い恋愛などを経て成長し、人生を切り拓いていくというこの物語で、娘のことを一切考えない自分勝手な母親、マリーに扮するのが安蘭けいだ。これまで演じてきた役柄とは一線を画す、安蘭にとっては初挑戦となる今回のキャラクターへの意気込み、作品への思い入れなどを開幕直前の稽古場で語ってもらった。
――間もなく開幕ということで佳境だとは思いますが、お稽古場の様子はいかがですか。
演出を担当してくださっている、劇団チョコレートケーキの日澤(雄介)さんの演出がとても丁寧で。日澤さん自身も忍耐強く、どんどん変わっていく芝居を役者の気持ちになって時間をかけて待っていてくださるので、すごく実のある稽古ができているように思います。
――主人公のリトル・ヴォイスのお母さん、マリー役を演じるにあたって苦労していることは。
そう、今回とても苦労しています。マリーという女性は、人間としても女性としても本当にひどい、どうしようもない母親なんですよ。アル中ですし、子育てしないし、男にだらしないし。
――すさまじいですね(笑)。
だけど最初に台本を読んだ時点では、すごくキュートな面白い女性にも思えたんです。発する言葉も意外とユニークだったりするので。それで私も最初はそっちの方向に走り気味だったんですが、途中で日澤さんから「もっと汚くやってほしい」と言われたんです。それで「明るい部分はすごくよく出ているんだけれども、実は彼女にはもっと暗い、ダークなところがあるので、そこをもうちょっと意識してやってみてほしい」というリクエストをいただいたことで、今まで自分が思っていたマリーとはまたちょっと違う方向のマリーが見えてきたんですよね。だけど私自身もたぶんそういう部分は持っているはずなんですけど、舞台に立つ時は品性を大切にとか、美しく出るということが第一だと思ってこれまでやってきているものですから。
――宝塚時代からずっとそういう風に意識して演じてきたわけですものね。そういう意味では、マリーはまるで反対の位置にいるキャラクターかもしれません。
そうなんですよ!(笑) 例を挙げると、座る時にも膝と膝が絶対くっつかないような女性というか。そういう、だらしのない人なんです。きっと私の中にだってそういうだらしのないところはあるはずなんだけれども、人前に出る時ってどうしてもピシッとしちゃうじゃないですか。
――それをあえて出さないように、演じないといけない。
それがとても大変なんです。自分が今まで築き上げてきたことをゼロにしてやらないといけなくて、それって結構度胸がいることなんですよね。体当たりでやらないと、なかなかその殻から抜け出せないので。
――こういう役柄は初めての挑戦ですよね。
そうですね、挑戦です。その分、毎回稽古で演じたあとの脱力感、疲れがハンパないです(笑)。でもすごくエネルギーのある女性なので、毎公演、ものすごくエネルギーを消費されそう。やりがいのある、面白い役だとも思いますけど。私を知っているファンの方々はどう思うだろうという心配もありますが、この舞台で初めて私を見る方には、こういう人なのかなって思われそうでちょっと怖い(笑)。なんとか、自分でも振り切って演じられたらいいんですけどね。
――今回のカンパニーとしては、どういう座組だと思われていますか?
少人数ということもあってまとまりがいいですし、主演の(大原)櫻子ちゃんが本当に可愛らしくて、天使みたいで、彼女がいるだけで周りがホワーンとなるんです。演出の日澤さんもすごく優しくて、穏やかな方で。とてもいい空気の中で、とてもドロドロしたお話をやっているなあという感じですね。
――本番を迎えるにあたって、一番楽しみにしていることはなんですか。
こういうだらしない下品な母親役を演じるということを、今は稽古場でみんながそう理解している中でやっているわけなんですが。これが本番になったら舞台の空間で、お客様の前で演じることで私自身も変化するでしょうし、それがどう受け取められるのかなというのがとても興味深いです。この作品自体もどうとらえられるのか、お客様の反応がとても楽しみ。チラシやポスターの印象からは楽しそうなお話を予想してしまうかもしれませんが、結構悲惨なお話でもありますし、もしかしたら「え、こうなっちゃうの?」ってビックリする方もいるかもしれない。最後にリトル・ヴォイスの歌を聴いても手放しで「ああ、よかったねー」という気分にはなれないかもしれませんしね。人間のちょっとイヤな部分も描いているので、そのイメージのギャップをお客様にどう受け止めていただけるかも楽しみです。
――では最後に、お客様へお誘いのメッセージをいただけますか。
人間の業とか、そういう汚い部分を見せている部分もあれば、櫻子ちゃんと山本くん演じるリトル・ヴォイスとビリーのピュアな恋愛の部分もあって、その汚さとピュアさがとてもいいバランスになっている作品だと思います。そしてガッツリとしたお芝居の部分と、櫻子ちゃんが歌うショーの部分とのバランスもすごくいいですしね。櫻子ちゃんの歌手としての才能はもちろん、お芝居だけでなく踊りもできるというマルチな才能ぶりをぜひこの機会に、舞台好きのいろいろな年代の方たちにじっくり観て聴いていただきたいなと思っています。
取材・文=田中里津子 写真撮影=中原義史
■作:ジム・カートライト
■演出:日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)
■配役:
リトル・ヴォイス:大原櫻子
マリー・ホフ:安蘭けい
ビリー:山本涼介
セイディ:池谷のぶえ
ミスター・ブー/電話会社職員:鳥山昌克
レイ・セイ:高橋和也
翻訳:谷 賢一/音楽監督:扇谷研人/美術:原田 愛/照明:原田 保/音響:山本浩一/
衣裳:藤田 友/ヘアメイク:宮内宏明/振付:川崎悦子/歌唱指導:花れん/ 演出助手:和田沙緒理/舞台監督:齋藤英明、八木 智
■日程:5月15日(月)~5月28日(日)
■会場:天王洲 銀河劇場
■主催:ホリプロ/フジパシフィックミュージック 企画制作:ホリプロ
■問合せ:ホリプロ
■日程:6月3日(土) 18:30 、6月4日(日) 13:00
■会場:富山県民会館 大ホール
■主催:イッセイプランニング/富山テレビ放送
■問合せ:イッセイプランニング 076-444-6666 (平日 10:00-18:00)
■日程:6月24日(土) 12:00 /17:00
■会場:北九州ソレイユホール
■主催:RKB 毎日放送/キョードー西日本
■問合せ:キョードー西日本 092-714-0159