【THE MUSICAL LOVERS】『レ・ミゼラブル』~最終章:間もなく開幕!今年の公演の見どころ~[連載第六回]

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ちょっとマニアックな遊び回を挟んでしまったので、最終章となる今回は「既に大好きな人にもまだ観たことのない人にも」伝わる話を、という当初の目的に立ち返って、来たる5月21日(日)にプレビュー初日を迎える『レ・ミゼラブル』日本初演30周年記念公演の見どころを語ってみたい――もちろん、大いなる独断と偏見によって。ただ、まだ観たわけではない今の段階で具体的な見どころを挙げるのは不可能なので、ここは観劇回数に応じて、何回目だったらこのあたりが見どころになるんじゃないかという形で進めてみようと思う。

初めて観るなら…

数日後の開幕を控えて準備万端の帝国劇場

数日後の開幕を控えて準備万端の帝国劇場

第5回までオタクとして話を進めてきたのにここにきてこんなことを言うのも気が引けるのだが、作品について一から十まで全て知りたくなるのがオタクだとしたら、最近の筆者は一周回ってオタクではないのかもしれないと思うことがある。むしろ、叶うならあんな場面やこんな場面を、初めて観る衝撃をもう一度味わってみたい。そう思って最近は『レ・ミゼラブル』や『オペラ座の怪人』を鑑賞する際、「自分は初演の初日の観客」と思い込んでみるという試みを時々するのだが、やはりそう簡単にはいかずすぐに邪念でいっぱいになってしまう。何も知らずに観るというのはそれくらい貴重で羨ましい体験なので、今回が初レミゼという方にはぜひ、まずは何の前情報も入れずに舞台に身を委ねてみてもらいたい。

つまりは初めて観る人に向けて語っておきたい見どころは特にないわけだが、ひとつだけ、“作品”を観てほしいなあとは思う。30年も上演されている名作を今初めて観るということは、これまでミュージカル自体にそう縁がなく、今回の新キャスト目当てで足を運ぶケースが多いだろうと予測する。そうなるとどうしてもお目当ての役者を追いがちになると思うのだが、その人だけをオペラグラスでガン見するような観方は、おそらく役者本人が望んでいない。キャラクター像というのは役と役者のコラボレーションで、演じる役者によってキャラクター像が、ひいては作品が違って見えるのはロングラン作品の醍醐味。ゆえに“その役者がどうその役を演じるか”に注目することには全く問題がないのだが、“役者”だけに注目すると、せっかくその人が出会わせてくれた“作品”が見えなくなってしまう。

『レ・ミゼラブル』は、あなたが応援している役者が惚れ込み、出演を願ってオーディションに挑み、その世界の住人になろうと必死に稽古を重ねてきた作品だ。まずはその魅力を信じて、作品世界にどっぷり浸ってみようではないか。人の感性と好みは千差万別で、どんな名作にも、つまらないと感じる客は必ずいる。自分がそれに該当すると悟った場合は退屈しのぎに役者をオペラグラスで追えばいいし、そもそも高い料金を払って観に行っているのだから、周囲にとんでもない迷惑をかけない以上はどんな観方をしようと自由だ。だが最初から“役者”だけを観るぞという気持ちで臨むのはあまりにももったいないと、ことレミゼに関しては思うあまり、ついつい上から目線になってしまったことをお許しいただきたい。

リピート観劇2回目~10回目なら…

反対側からも撮ってみた

反対側からも撮ってみた

『レ・ミゼラブル』はストーリーが複雑で、あちこちでいろいろなドラマが同時多発する群像劇だけに、一度観ただけで全てを理解するのは難しい。何の前知識もなしに臨んだ初観劇で衝撃を受けたのなら、公式サイトやパンフレットに載っているストーリーを熟読した上で2回目に臨むと、それだけで新たな発見がたくさんあることと思う。よって2~5回目のリピーターにとっての見どころは、味わい深いストーリーと人間関係である、というのが個人的な意見。音楽を聴き慣れてくると、あの場面とこの場面(例:バルジャンとジャベールのソロ、司教とマリウスなど)は実は同じメロディーだったのかとか、≪民衆の歌≫と≪フィナーレ≫はこういうリンクの仕方をしてたのか、みたいな発見なんかもあるだろう。

6回目くらいになると、バルジャンとジャベールを除くプリンシパル7名が、本役以外にいくつもの役を演じていることなんかにも気づくかもしれない。冒頭の囚人のシーンからしてマリウスやアンジョルラスやテナルディエが紛れ込んでいるし、女工や娼婦の中にはコゼットやエポニーヌがいるし、ファンテーヌは死んでからバリケードで戦っているし、アンジョルラスがマリウスとコゼットの結婚式で給仕をしていたりもする。初観劇からお目当ての役者だけを追うのは筆者的にはご法度だが、本役じゃないからといって手を抜くことなくいちいち役作りしているのが本作の常であり魅力にもつながっているところなので、お目当ての役者の全出演場面をチェックしてみるのは、10回目くらいであれば大アリだ。

もし今回のリピートが数年ぶりという人がいたら、大きな見どころは、2013年に登場した新演出版ということになるだろう。初演以来上演されていたオリジナル演出版の象徴的存在だった回転舞台がなく、原作者ユゴーが描いた絵画をモチーフとした映像が背景に用いられているほか、装置や衣装などのビジュアル面が大きく異なっている。カミテで行われていたことがシモテになったみたいな例も数多いので、オリジナル演出版を観慣れていたら、ものすごく新鮮に映るはずだ。とはいえレミゼのDNAはちゃんと受け継がれているので、きっとすぐに慣れるし好きになるし、新たな感動ポイントを発見したりもできるだろう。(以下ネタバレ)筆者的には、フィナーレに司教が登場することが、新演出版のいちばんの見どころ。あとは、バルジャンがリトル・コゼットを抱き上げるシーンの映像も大好きだ。

何回観てるかもう数えてもいないなら…

過去の舞台写真、パンフ写真、会見写真などから成るモザイクアートも出現中。オタクなら1時間は軽く眺めていられる代物だ(映り込み御免)

過去の舞台写真、パンフ写真、会見写真などから成るモザイクアートも出現中。オタクなら1時間は軽く眺めていられる代物だ(映り込み御免)

新演出版が登場した際、ビジュアル面だけではなく、キャラクター造形も大きく変わったと感じた。だが2015年の新演出版再演を観て、演じる役者に合わせてキャラクター造形が変わるのは前からだったことを思い出した。求められている根本が違うと思われる役もあるにはあるのだが、それにしても「この役はこうあるべき」と明確に決められているわけではないので、例えばオリジナル演出版で求められていたのが赤系統だった役が新演出版では青系統になっているとして、“系統”であれば赤そのもの、青そのものである必要はないため、結果として紫っぽくなることはどちらのバージョンでもありえる。それくらい一人ひとりの役作りが尊重されていて、なおかつ再演の度に丁寧な演出が施される作品なのである。

基本的なキャラクター造形以外にも、“新演出版の演出”だと思っていた動きや表現が2013年の日本公演限定だった、と気づかされる例が多かった2015年の日本公演。そう考えると今回の公演でも、2017年の日本公演限定の、もっと言えば個々の役者の今年限定の、突き詰めればその日その回限定の演出がたくさん生まれるのだろう。というか、これも思い起こせばオリジナル演出版時代から、私たちは「あそこが変わった」「この人は今日ここでこんなことをしてた」とかいう話題で盛り上がり、最終的に「でもやっぱいい作品だよね!」というナントカのひとつ覚えみたいな結論で一致して終わるのが大好きだったではないか。

というわけで、二桁リピーターにとっての見どころは今年も、新キャストと続投キャストそれぞれの新たな表現と作品の変わらぬ強大さ、という2点に尽きる。あまりにも言わずもがなな結論になってしまったので一応ひとつだけライターっぽい(?)ことを付け足すと、今回の日本公演の直前に開幕を迎えたのはブラジル公演だ。アソシエイト・ディレクターが本国から各地に“派遣”されるシステムのおかげで、どこかの地で生まれた新たな演出がほかの地で取り入れられることも少なくない、世界規模のネットワークもまた大きな魅力となっている本作だけに、もしかしたら今回の公演には地球の裏側からの影響があるかもしれない。30年の年月と遥かブラジルの息吹という、時空を越えたロマンが織り込まれるであろう今年の『レ・ミゼラブル』。さて、何回リピートすることになるのやら――。

(おわり)

 
【THE MUSICAL LOVERS】 Season.1『レ・ミゼラブル』連載まとめ

第1回(序章:オタク歴編)
第2回(第一章:中身の偉大さ編)
第3回(第二章:キャメロン・マッキントッシュ伝説)
第4回(第三章:日本版のココがスゴイ)
第5回(第四章:古今東西混合ベストキャストを考える)
​第6回(最終章:間もなく開幕!今年の公演の見どころ)
 
公演情報
ミュージカル『レ・ミゼラブル』
 
■作:アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク
■原作:ヴィクトル・ユゴー
■作詞:ハーバート・クレッツマー
■オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
■演出:ローレンス・コナー/ジェームズ・パウエル
■翻訳:酒井洋子
■訳詞:岩谷時子
■プロデューサー:田口豪孝/坂本義和
■製作:東宝
■公式サイト:http://www.tohostage.com/lesmiserables/

■配役:
ジャン・バルジャン:福井晶一/ヤン・ジュンモ/吉原光夫
ジャベール:川口竜也/吉原光夫/岸祐二
ファンテーヌ:知念里奈/和音美桜/二宮愛
エポニーヌ:昆夏美/唯月ふうか/松原凜子
コゼット:生田絵梨花/清水彩花/小南満佑子
マリウス:海宝直人/内藤大希/田村良太
テナルディエ:駒田一/橋本じゅん/KENTARO
マダム・テナルディエ:森公美子/鈴木ほのか/谷口ゆうな
アンジョルラス:上原理生/上山竜治/相葉裕樹
ほか
 
<東京公演>
■会場:帝国劇場
■日程:2017年5月25日(木)初日~7月17日(月・祝)千穐楽
*プレビュー公演 5月21日(日)~5月24日(水)

 
<福岡公演>
■会場:博多座
■日程:2017年8月1日(火)初日~8月26日(土)千穐楽

 
<大阪公演>
■会場:フェスティバルホール
■日程:2017年9月2日(土)初日~9月15日(金)千穐楽

 
<名古屋公演>
■会場:中日劇場
■日程:2017年9月25日(
)初日~10月16日(月)千穐楽

■『レ・ミゼラブル』日本公式サイト http://www.tohostage.com/lesmiserables/


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