欲が生みだす怪異を、知恵で照らして解体する 『応天の門』

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『応天の門』 1 https://ebookstore.sony.jp/item/BT000028944900100101

 

推しがいると詳しくなるの法則

オタクはごく一部の歴史にだけは妙に詳しかったりする。大抵は、どこかで推しを見つけるためだ。幕末や平安、戦国時代の一部あたりが多いと思う。具体的には新撰組(主に土方歳三か沖田総司)、安倍晴明、伊達政宗のどれかには、誰しも引っかかってるんじゃないかなあ。『応天の門』を読むと、それに在原業平と菅原道真も追加されるような気がする。

歴史ミステリーの新本格

ときは平安、魑魅魍魎が都を跋扈し、貴族は血みどろの権力争いに夢中な時代。漢書が最先端の学問で、倭歌がイケてる知的娯楽、説法や加持祈祷はライブやフェスとかにあたる存在だった、そんな時代のクライムサスペンス(犯罪モノ)が、本作『応天の門』。平安京で起きる非日常的な事件。その裏にあるのは人間の欲望だったり、切羽詰まった事情だったりするのだが、様々な思惑からもののけによる怪異にされてしまう。それを知恵の光で照らし、謎を解体するのがメインストーリーだ。

平安で謎解きといえば、何かしらの超常現象が起きそうなものだが、本作はしっかりと本格ミステリーの展開に徹している。ただ、クライムサスペンスというだけあって、ちいさな事件も何かしらの陰謀に絡んでいることが多く、事件解決がそのまま物語の一区切りを意味しないので、どんどん読んでしまう。

学問の神様と歴史的プレイボーイの謎解きコンビだ~!

すべて鬼のせいならば楽であろうなあ


物語の初っ端からこんな会話が出るくらい、鬼も妖怪も出てこない。それでも何かあれば「もしかして鬼の仕業なのでは」という噂がたったりする。このあたりのさじ加減は現代の感覚に近いが、理系的な学問が成立していないから科学とオカルトの区別がつきにくい。そんな時代に、異常にクレバーな天才少年がいる。それが本作の主人公・菅原道真だ。 

無知と権力が嫌いで、自分の知的好奇心を満たすことが大好き。最先端の文化と学問が花開く国、「唐」に憧れる引きこもり。基本的には仏頂面なのだが、オタクなので貴重な唐物を目の前にするとちょっとテンションがおかしくなる。

あと、不意打ちでデレてくるから油断できないぞ!

相棒役は日本史上トップクラスのプレイボーイとして有名な、在原業平。道真のような頭脳はないが、如才ない振る舞いと人たらしスキルがカンストしているため、気難しい道真をまんまと乗せて捜査に巻き込んでいる。人前に出る時は完璧な所作と笑顔で相手をとりこにする天才だ。

手練手管で道真を現場に連れ出し、ときには世の不条理を見せる。一方で、道真に対しては割りと無防備な姿を見せたりもする。ときには若い頃に泣かせた女がしっかり幸せを掴んだ姿で現れて大恥をかいたりもする。

「伊勢物語」で有名な藤原高子との駆け落ちから10年近く経っている。(女遊びは続いてるけど)中年男性の色気が出始めている頃で、なんかすごくいい匂いがしそう。正直、賢いショタと色っぽいおじさんの組み合わせが超絶ストライクだ。

雑に言えば安楽椅子探偵に助けを求める警視庁捜査一課長みたいな構図だ。検非違使(けびいし。今でいう所轄の刑事)との軋轢もちらちらと見える(きっとこれも、本作クライマックスの伏線になっている)。

歴史が最大のネタバレだけど……

テーマはいわゆる「一番恐ろしいのは人間」というやつになると思うのだけれど、それだけで終わらせないから面白い。

様々な立ち位置のキャラクターたちが、信念や怨念、利害やしがらみを通して見る世界は多彩で、人間の知恵をどう使うかで、世の中の見え方はこんなにも変わるのかと思わされる。

その世界の多様さを引き立てるためにか、登場人物たちは皆非常に「キャラが立って」いる。いい人・悪い人それぞれ魅力的で、全員がキーマンに見えてしまうため一人一人紹介することができない(ので、紹介は最推しの主人公コンビに留めた)。

おそらく、クライムサスペンスとしての本作は、タイトルにもある「応天門」にまつわる歴史的大事件がクライマックスになるのだろう。すでに丁寧な伏線も張られている。

あまり知られていない事件なので、気になった方は、ぜひ調べずに本作を読んでほしい。日本史に残る大きな謎のひとつがどう描かれていくのか、とても楽しみだ。

しかし本作、何が切ないって史実だということ。この物語は歴史が最大のネタバレをしており、私たちは、先の展開をすでに知っている。唐に憧れる道真が遣唐使を廃止させた理由や、平将門、崇徳天皇と並ぶ日本三大怨霊になった経緯を思うと、「道真きゅんいったい何があったの…」と言いたくなる。

この少年が日本三大怨霊の一人になるの?

そう、菅原道真といえば「怨霊になった人」という認識だったのだ。政争に破れ、失意のままに没した後に怨霊になって平安京をパニックに陥れたから、知恵の神「天神様」として太宰府に祀られた、白紙(894)に戻そう遣唐使の人。

死人に口なしだ。道真の死後、どのように世間が動いていったのかを考えるのは本当に悲しい。「一番恐ろしいのは人間」というテーマに負けないでほしいと願ってしまう。天神様として神になるところまで含めた、彼の「勝利」を祈ってしまう。

っていうか、この道真くんが太宰府に祀られてるとして、「学問の神様」は(まだ)いいとしても、「パワースポット」とかいう十把一絡げのセーブポイントみたいな扱いをされているのはなんともシュールである。パワーて。パワーって。死後の世界があるとしたら「ハァ? 千年経ってもそんなもんですか?」って心底がっかりしてるんだろうな。かわいい。

面白かったら学ぶのだ

人間、楽しければ学ぶのだ。というか、学ぶこと、知ることって、本来とても楽しいことなんだ。東京大学史料編纂所の本郷和人氏が監修を担当している。当時の文化に関する解説文がものすごく読みやすく面白いので、「解説文は蛇足だろ」って読み飛ばしがちな人もぜひ一読してほしい。本編同様に「知ってる!」と「知らなかった……!」がほどよくブレンドされていて、手が止まらない。

あと、歴史の勉強で「ふじわらのなんちゃら」の多さに折れた人にもオススメします。顔がついてるから覚えられるよ! 藤原常行なんて初めて認識したよ大好き!(顔が)

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◆ライタープロフィール
Amati
https://shimirubon.jp/users/16

4歳のアホ男児と0歳のようじょを育てながら仕事を続ける個人事業主です。
ライターがメインだけど最近自分でも何してんのか分かんなくなってきました。オタク。

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