『UFCファイトナイト・ジャパン』中村K太郎、廣田瑞人、安西信昌 合同取材レポート
『UFCファイトナイト・ジャパン』(9月23日、さいたまスーパーアリーナ)の開催まで半月となった9月8日、この大会に出場する元DEEPウェルター級王者で“裸締め十段”の異名を持つ中村K太郎、元戦極SRC&DEEPライト級王者・廣田瑞人(ひろた みずと)、元パンクラス・ミドル級王者“アニマル”安西信昌(あんざい しんしょう)が都内で合同取材に応じた。
中村K太郎は2003年のプロデビューから15勝無敗2分けという戦績をあげ、06年からUFCに参戦。だがこの時は、プロ初黒星を喫しただけでなく、UFCで1勝もできずに3連敗し、契約解除されてしまった。
だがその後はDREAM、ケージフォース、戦極SRC、修斗、DEEPなど多くの大会で経験を積み、必殺技である裸締めだけでなく、ハイキックやパンチなど打撃にも磨きをかけていった。そして2015年7月に悠太(ALLIANCE)に裸締めで1R一本勝ちして、DEEPウェルター級王座を獲得する。
中村K太郎
その2カ月後に行われた『UFCファイトナイト・ジャパン2015』で、出場予定だった選手が負傷欠場したため、急きょ代打としてリー・ジンリャン(中国)と対戦した中村は、大激闘を繰り広げた。序盤は「練習で磨いたパンチを使おう」とこだわりすぎため、逆に相手の打撃をもらって苦戦したが、最後は“伝家の宝刀”裸締めで逆転一本勝ちを飾り、UFC初勝利を挙げたのだった。
「さいたまスーパーアリーナは僕にとって、2年前に逆転勝ちしたゲンのいい会場。だから今回も、もし追い込まれても最後には逆転して一本勝ちします! もちろん、追い込まれないで勝てれば一番ですけど」と中村は笑う。
ただ、UFCに出場する選手は強豪ぞろいだから、なかなか簡単には勝たせてはくれない。中村もリーに勝った後、イギリス大会で地元のトム・ブリーズに判定負けしてしまった。
ブリーズ戦後には、オーストラリアの強豪カイル・ノークに裸締めで一本勝ちすることができた。しかし前回、昨年10月の試合では、ブラジルのエリゼウ・ザレスキ・ドス・サントスと接戦の末、判定負けを喫してしまった。
このドス・サントス戦で中村は、たんに敗れただけなく、網膜剥離になり、手術を受けることになった。このため、1年近くも試合から遠ざかることになってしまった。さすがにこれは本人もこたえたようで、「網膜剥離になってしまいました……試合は少し間をおかなくてはなりません。同情のお便りお待ちしてます」とSNSに書き、術後4日目の右目の写真をアップしている。
しかし今回中村は、「目の手術はうまく行って、その後の経過も順調です。川尻(達也)さんが手術を受けたのと同じクリニックなんですけど。再発もしてないですし。今は試合に向けて減量もうまく行って、いい感じです」と復調をアピールする。
中村K太郎
今回中村が対戦する相手のアレックス・モロノは、中村より6歳若い27歳のアメリカ人で、グレイシー・バッハ・ウッドランズ所属。つまり、グレイシー一族の系列の道場に通っている選手で、グレイシー柔術黒帯だ。それだけでなく、テコンドーも黒帯というオールラウンダーである。
モロノについて中村は「(足技主体の)テコンドーの選手というイメージはそれほどないですが、大きなフックを振り回してくる印象ですね。だから、いいフックをもらわないように気をつけて戦います」と、モロノのパンチを警戒する。
モロノの戦績は13勝4敗で、4つのKO勝ちと5つのサブミッション勝ちがあるオールラウンダーだ。サブミッションでは、腕ひしぎ十字固めで3度勝利している。
「寝技になったら、向こうの十字が上か、僕の裸締めが上かの勝負になりますね」と中村。「モロノは一度も一本負けがないらしいから、僕の裸締めで、初めての一本負けを味あわせてあげますよ!」と豪語した。2年ぶりの「さいたまスーパーアリーナ」で、今回も必殺技の裸締めで『パフォーマンス・オブ・ザ・ナイト』(大会ベスト技能賞)の賞金5万ドル(約500万ドル)をゲットできるか?
中村同様、廣田瑞人にとっても「さいたまスーパーアリーナ」は特別な場所だ。ここには、いい思い出だけでなく、苦い思い出もある。ここで、廣田は何度も戦ってきた。2009年8月に『戦極』で北岡悟をTKOして戦極ライト級王座を奪取したのもここだし、同年の大みそかの『Dynamite!! 〜勇気のチカラ2009〜』で行われたDream vs戦極の対抗戦で、北岡の盟友であるDREAMライト級王者・青木真也と戦い、アームロックで右上腕を折られたのもここだった。
「UFCの試合で、僕がここで戦うのは今回が3度目です。UFCでは、さいたまで、まだ一度も勝ってない」と廣田。同アリーナでのUFCの戦績は1敗1分けだ。「だから3度目の正直で、今回は絶対勝ちます!」と勝利を誓った。
廣田も中村と同じく、1度はUFCからリリースされた経験を持つ。2011年に菊野克紀(きくの かつのり)を破ってDEEPライト級王座を獲得し、翌12年に、当時アメリカでUFCに次ぐ総合格闘技団体だった『ストライクフォース』でパット・ヒーリーと大激戦をしたことが評価され、13年からUFCに参戦したのだ。だが、この時は2連敗してリリースされてしまった。
廣田はその後、DEEPで3連勝を重ね、2015年にテレビ東京で放送された番組『Road to UFC Japan』のトーナメントに出場した。これは、「トーナメントで優勝すればUFCとの正式契約がゲットできる」というもので、カメラが出場選手たちに密着して、日常生活や練習を追うという番組だ。
廣田はこのトーナメントを勝ち抜いて決勝進出。同年9月にさいたまスーパーアリーナで行われたUFCジャパンでの決勝戦で、石原“夜叉坊”(いしはら やしゃぼう)の名で知られている、石原暉仁(てると)と対戦。結果は引き分けだったが大激戦で、両者ともUFCとの契約をゲットしたのだ。
しかし石原戦で足を負傷した廣田は、1年3ヵ月もの長期欠場を余儀なくされ、昨年12月の再起戦でコール・ミラー(アメリカ)に判定勝利してUFC初勝利をあげたが、前回はこの6月、オーストラリアのアレクサンダー・ヴォルカノフスキーに判定負けしてしまった。
「新鋭にやられて、すごくショックでした」と廣田は悔しそうに振り返る。「“キワ”の部分ですごくやられましたね。寝ワザからの“立ちぎわ”とか、組みついた後の“離れぎわ”とかが、UFCではすごく大事なんです。そこでちょっとスキを見せると、やられちゃう。一瞬の油断が致命打になる」
廣田瑞人
たしかに現在のUFCのレベルは、初期とは違って、立ち技に穴があるとか、タックルを切るのが苦手とか、寝技に穴がある、などという選手がほとんどいなくなり、「打・投・極」の全局面で戦える選手ばかりになった。だからこそ、“キワ”の攻防が重要になってきたのだ。
「今回の試合に向けて練習していく中で“キワ”を意識してやってきました」と廣田。「その上で、試合ではハイキックで勝ちたいですね。最近、スパーリングで、よく入るコンビネーションがあるんです。右ストレートからの右ハイキック。これで倒したい」とKO勝ちを狙う。
相手のチャールズ・ローザ(アメリカ)は廣田より8㎝長身の178㎝で、フロリダの名門『アメリカン・トップチーム』の選手である。ここにはUFCの現王者が3人も所属し、7月30日にRIZINバンタム級トーナメントで所英男を1R KOした堀口恭司もいる。猛者ぞろいの名門で鍛えているローザは総合戦績11勝3敗。7つのサブミッション勝ちがある寝ワザ師だが、KO勝利も3つある。
「なるべく長い時間、立った状態で戦いたいですね」とストライカーである廣田は、ローザの寝ワザにはつきあわない作戦だ。
「今回は両親も見に来ます。UFCの試合を会場で見るのはたぶん初めてだと思います」と言う廣田。はるばる故郷の長崎県諫早市(いさはやし)から応援に来てくれる両親の前で、見事なKO勝ちを見せたいところだ。
「自分には、もう後がない。とにかく倒しに行く姿を見せたい」廣田は背水の陣で、この一戦に臨む。
廣田瑞人
安西信昌にとって、今大会は2年ぶりの試合になる。パンクラス・ミドル級王座を獲得した2014年からUFCに参戦した安西は、マカオでのUFCデビュー戦では、ブラジルのアルベルト・ミナに何もさせてもらえず、1RでTKO負けを喫してしまった。だが2年前の日本大会でロジャー・サパタ(アメリカ)と対戦した際は、得意のタックルでテイクダウンし、バックを取るのにも成功。そして3R、パンチの打ち合いの最中にサパタが手を痛め、安西はTKOでUFC初勝利を収めた。しかしこの後、いくつものケガに泣かされ、2年間も試合から遠ざかることになってしまったのだ。
「この2年間は、ホントに修行でしたね。でも、おかげで見えてきた部分もある」と安西は言う。「以前と違って、しっかり相手を見るようになりました。それで、自分と相手を客観的に見て戦えるようになったんです」
負傷のために練習が思うに任せない間、人の試合や練習を見続けることで、それまで気づかなかった相手の動きや自分の動きを、一歩引いた位置から客観的に見ることができるようになったというわけだ。
現在の安西は、練習環境にも恵まれている。打撃は元K-1ファイターの宮本健太郎の元で磨き、総合は岡見勇信やGRABAKAの菊田早苗らと修業。レスリングは、自身がコーチを務める明治大学レスリング部で、若い選手たちを相手に汗を流している。
安西信昌
安西の今回の相手ルーク・ジュモー(29=ニュージーランド)は12勝(7サブミッション、5KO) 3敗という戦績のオールラウンダーだ。6月に地元ニュージーランドでUFCデビューし、判定で白星発進した。UFC参戦前から数えると、7連勝中と勢いに乗っている。
「ジュモーの試合は10試合くらい見ましたが、タックルで倒されてない試合が1つもないんです」と安西。「でも、相手は皆いいところまで行くのに、スタミナが切れて逆転されている。だから、そこに気をつけたいですね」
学生時代にレスリングでアジア大会3位の実績を持つ安西も、タックルで倒して上から殴る“グラウンド&パウンド”が得意パターンだ。安西が憧れたUFC&PRIDE王者、マーク・コールマンが得意とした戦法だ。当然、今回もそのスタイルで行くだろうが、タックルで倒してから、ジュモーにのらりくらりとかわされてフィニッシュできず、スタミナを奪われるのだけは避けたい。
安西信昌
「とにかく、何としても勝ちたい」と2年ぶりの試合に闘志を燃やす安西は、5月には米カリフォルニア州サンノゼの『アメリカン・キックボクシング・アカデミー』(AKA)で2週間の特訓も敢行した。AKAにはUFC前ライトヘビー級王者ダニエル・コーミエらがいる。コーミエはレスリングでオリンピックにアメリカ代表として出場した実績も持つ。コーミエ以外にも元UFCヘビー級王者ケイン・ベラスケスや、多くのレスリング・ベースの選手がいる名門ジムでの出稽古は、安西にとって、自分の戦い方を再確認するいい機会になった。
ジュモーは身長で10㎝、リーチで5㎝安西を上回る。「でも自分はいつも大きな相手とばかり試合してますし、練習でもそういう練習ができている。だから慣れてます」と安西は体格差を意に介さない。「逆に、こういう小さな体格の自分が、外国の大きな選手を倒す姿を日本のお客さんに見せたいです!」と“小よく大を制す”試合をして見せると宣言した。2年間の鬱憤(うっぷん)をすべて吹き飛ばすような、豪快な勝利を期待したい。