新日本プロレス外道さんの「情熱と分析」の仕事術 ~アスリート本から学び倒す社会人超サバイバル術~【コラム】

コラム
スポーツ
2018.6.11

絶好調・新日本プロレスを根っこで支えるレスラー外道

「邪外だよ、いま新日本の根っこを支えてるのは」

数年前に雑誌『KAMINOGE』で武藤敬司はそう語った。最近はビッグマッチの完売も珍しくなくなった破竹の勢いの新日本プロレスだが、その頭脳は邪道&外道の二人だとプロレスリング・マスター武藤が言っているわけだ。これは外道さんの著書『To Be The 外道 "レヴェルが違う!"生き残り術』(ベースボール・マガジン社)を読むしかない…って、かなり唐突な始まり方だが、このコラムは他媒体で連載していた野球本から生きるヒントを貰う『プロ野球から学ぶ社会人サバイバル術』が、今月から『SPICE』へ移籍して対象ジャンルを拡大してのリニューアル1発目である。分かりやすく書くと、石森太二がNOAHを退団して新日本プロレスで『BEST OF THE SUPER Jr.25』のリングに上がるようなものだ(超分かりにくい)。

さて、そんな新日の頭脳・外道だが、高校3年時に新日本プロレスと全日本プロレスに履歴書を送るもアッサリと断られている。身体も174cmとレスラーとしては小柄だし、なにか格闘技の実績があるわけでもない。ただのプロレスファンの18歳は卒業後にプータロー生活に突入し、半年後にあの『たけしプロレス軍団(TPG)』に入るわけだ。お笑い芸人志望もいる中、意外と厳しい練習を重ねる内に人が減り、やがて3人だけが残る。その内の二人がのちの邪道&外道である。冒頭の武藤敬司の発言に戻ると、「そのたけし軍団が、いま新日本の中枢を担ってんじゃん」ということになるのだから、人生は分からない。

流浪のレスラー人生から32歳で新日本のリングへ

駆け出し時代の外道はやがてFMW旗揚げ直前に大仁田厚の付き人になるも、コーヒーカップを投げられたり、中身の入ったカップラーメンを投げつけられたりというとんでもないパワハラの数々に嫌気がさして退団。それから数々の団体を渡り歩いて、32歳になった2001年から新日本プロレスに参戦する。日本最大手のメジャー団体の何がメジャーかって、やっぱりギャラの額が違う。控え室にはちゃんとトレーナーがいる。自由に飲めるペットボトルの水が用意されている。インディ団体育ちの外道は条件面でやっぱり日本のトップ団体なんだなと圧倒されたという。

さて、本書はここからさらに面白くなる。なぜなら“外道さんの新天地で生き残るサバイバル術”の数々が披露されるからだ。「どうやって、ハードな攻撃をスカしつつ、自分のペースに持っていけるか?」セオリーを熟知する外道は、新日本の若手レスラーが激しい攻撃で自分たちが強いとアピールしようが、「さて、どっちのほうがお客さんに対して目立っているかな?」と計算できる余裕がある。お客さんの視線はどっちを見ているのかを熟知しながら戦う。それが場数の違いだし、プロレスの難しい部分でもある。オフィスにもファンにも対戦相手にも「こいつら面白いな、いいね」と思わせなければ、ヨソ者は生き残ることができない。って凄い、まさに30代の転職ノウハウのような内容だ。

「頑張ってます」アピールに意味はない

大人になると、20代の就職活動と違って、ガムシャラに「オレ、できます」アピールではなく、上司や同僚やクライアントの反応を見て、何を求められているか瞬時に判断して動く。大事なのはバランス感覚だ。外道さんは言う。
「これはプロレスだけに限ったことじゃないのかもしれないけど、まずはその物をただ単にガムシャラにやるってだけでは務まらない。ただ『頑張ってさえいれば報われる』なんて甘い世界ではない」
「この競技、ジャンルとは、どういうモノなのか? ということを、キチンと分析して考えられる頭がないと、何をどう頑張れば良いのかすらも分からなくなってしまう」

これはレスラーだけでなく、ライターも同じことだ。頑張って書いてるアピールには何の意味もない。1日8時間寝て大量の連載余裕で回してますの方がプロとして全然偉いと思う。会社員だってそうだろう。クライアントのことを考えず突っ走るのは、根性じゃなくただの迷惑である(これは合コンで出会うおネエちゃんに対しても言える)。頑張るアピールは、一歩間違えばストーカーだ。まずは相手を見て、ベターな戦略を立て、どう戦えばいいのか考え抜くのが外道流である。

外道が語るレスラー棚橋弘至の凄さ

個人的に本書で最も印象に残ったというか勇気を貰ったのが、同僚レスラーの棚橋弘至のことについて書いたこの箇所だ。

「まずはプロレスってこういうモンだっていう心、ピュアな信念みたいな部分も大事だと思う。「ここを曲げてまで売れたくない」ぐらいの頑固で強い気持ちがあったうえで、頭の良さもあると、だんだんとお客さんが認めて、ついてきてくれるんじゃないのか? ピュアな心がなくてもダメだし、同時に冷静な頭もなくちゃダメ。棚橋って選手は、その両方が揃っているんだよ」

凄い、過去にこれほど的確に棚橋というレスラーの魅力を言い表した言葉があっただろうか。誰かからこんな風に自分の仕事を見てもらえたら嬉しいだろうなあと思う。俺も対象に対する情熱と分析、その両方を忘れずにこれからも仕事をしていこうと心に誓ったのだった。

もちろん本書にはプロレスファン必見の中邑真輔、真壁刀義、飯伏幸太といったともに戦ったレスラーに対する鋭い見立ての数々も収録されている。もしかしたら最近、プロレスにハマった人もこのコラムを読んでいるかもしれないから、最後にもう一度書く。

オカダ・カズチカの横で「レヴェルが違うんだよ!」と叫んでるバンダナを巻いたヒゲ面のおっちゃん。あの外道さんこそ、今の新日本プロレスを根っこで支えている男なのである。

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