熊谷和徳 故郷・仙台へ、タップダンスというアートへの恩返し

インタビュー
舞台
2015.11.10
 撮影:宮川舞子

撮影:宮川舞子

僕らにはタップダンスを通して伝えなければいけないことがある

既報の通り、11月21日〜23日に「東北タップ&アートフェスティバル」が開催されることが明らかになった。仙台出身で、かつてからワークショップなども行い、このフェスティバルを中心になって引っ張っている熊谷和徳をニューヨークでキャッチ! その思いを聞いた。
 
撮影:宮川舞子

撮影:宮川舞子


 
◇ これまでも仙台でタップのワークショップ、発表などを行ってきたことがフェスティバル開催につながっているとのことです。フェスティバルという形でスタートすることへの思いを教えてください。
 
 自分が旅立った故郷で、このような形でタップダンスのフェスができるということは、本当にうれしいことであると同時に身が引き締まる思いです。20数年前にタップダンスのスクールの門を叩き、それから僕を世界のいろんな場所へタップダンスが連れて行ってくれ、いろんな人と出会い、さまざまな経験をさせてもらいました。自分の故郷へ、そしてタップダンスというアートへ恩返しができたらなと願っています。 
 
◇ 仙台では、きっと熊谷さんがタップを広げてきた影響があると思うのですが、どんなふうに根付いていると感じていらっしゃいますか?
 
 仙台にはもともと佐藤勝先生という先生がいて,僕をはじめ、たくさんの人たちがその先生からタップを学び、今につながってきていると思います。そして同様にその先生の先生が東京にいらっしゃるのですが、それぞれの方々の努力によって今に至ったと思っています。
 仙台では8〜9年ほど前に仙台市市民文化事業団の方々と一緒にワークショップを始めて、東京を拠点にするKAZ TAP STUDIOの仲間たちと毎週のように仙台に通ってタップを教えてきました。その8年のあいだには震災だったり、スタジオがなくなったりとさまざまな困難があったのですが、なんとかかんとか続けてこれたのは仙台の子供たちから上は70代くらいの方々がタップが好きで踊りたい!という気持ちに支え続けられてきたからだと思います。そして僕自身も共に成長してこれたという実感があります。 
 
撮影:宮川舞子

撮影:宮川舞子

 
◇ フェスティバルはタップだけでなく、アートや音楽も発信する場になりそうですね。熊谷さんがさまざまなアーティストとコラボしていることとも関わりがあると感じますが、そもそもジャンルを超えて結びつくことへの熊谷さんの考え方について教えてください。
 
 タップダンスという文化を考えた時、そこには音楽や歌や絵画といったさまざまなアートが結びついていると思うんです。今回ワークショップ、オープニングをやってくれるラティール・シーはセネガルの素晴らしいパーカッショニストですが、彼の故郷であるゴレ島はその昔、奴隷の貿易港であったところです。今も世界遺産として残っていますが、そこは僕らの芸術のルーツでもあるんです。また同じく初日に来てくれるシンガーソングライターの七尾旅人さんは同世代の音楽シーンを牽引するアーティストであると思っていますが、今の時代を歌にしている素晴らしいアーティストです。
 彼らであり、ほかの出演してくれるすべてのアーティストとの出会いは自分がタップを踏んでいく上では必然であり、出会うべくして出会った人たちだと思っています。
 
◇ 仙台フィルとのメインイベントの見どころについて教えてください。仙台フィルが地元のクラシックを長く支えてきた姿は、熊谷さんとタップの未来像ともダブル部分のような気がします。
 
 タップダンスはいつも音楽と共に育まれてきました。伝統的にはジャズという音楽で踊ることが主流です。今回、クラシックの音楽で踊る時にタップというアートが、より音楽的にどのように存在し、音を奏でるのかをぜひ『聴いてもらい』と思っています。そこにジャンルを超えた普遍的な『サウンド』があると思っています。
 仙台フィルとの共演については、僕も小学校の音楽鑑賞会で学校の体育館で聴いたことを良く覚えているので、とても感慨深いです(笑)。現在のコンサートマスターの神谷未穂さんもとても素晴らしく共演をすごく楽しみにしています。
 
◇ まったく個人的で勝手な感覚ですが、タップというのは、なんだか地球をノックしているような気がしています。地震などの困難も乗り越えて、あらためて地球と対話していかなければいけない時だなと。そういう意味では、仙台、東北復興をさらに推し進めるイベントという部分でも注目したいと思いますが、そのへんはどうお考えですか?
 
 アフリカの大地を踏みならしていたタップダンスのルーツのことを考えると、今、東北という土地からタップダンスを発信していく意味はとても大きいと思っています。僕たちは自分の故郷が本当に危機的な状況に陥った時に、仙台の生徒たちにとって、僕にとって踊るということの意味は本当に大きく変化していったと思いますし、踊るということをもっと深く考えるきっかけにもなりました。電気もつかず、本当に孤独な状況だった時も、みんなで集まって踊るということがどれだけ幸せなことか肌身で感じることができたんです。僕たちにはここから意味を見い出して発信しなければいけないという使命があると思っています。
 
撮影:宮川舞子

撮影:宮川舞子

 
◇ 今回のフェスティバルには「プレイベント」とついていますが、来年以降さらなる広がりが期待できますね。熊谷さんの中にはどんなイメージがふくらんでいるのでしょうか。
 
 今年はプレと言いつつも、3日間盛りだくさんで本当に内容の濃いイベントになりそうです。すべてのことを企画から自分たちでやっているのでいっぱいいっぱいの状況ではあるのですが、 なぜ今年を『プレ』と呼ぶかというと、十分なタップダンサーを呼ぶことができなかったと感じているからです。『フェスティバル』とは自分の公演ではなく、あくまでタップダンスという芸術をタップダンサーたちが集まって、それぞれがタップダンスへの愛を表現できる場であることです。
 来年は国内はもとよりニューヨークや海外からも素晴らしいタップダンサーを呼んで、本当の意味でのフェスティバルにしたいと思っています。タップダンスというアートが真の意味で理解され、タップダンサーたちが誇りをもって活動できる基盤をつくるために、やらなければいけないことがたくさんあると思っています。そのゼロ号として、今回は大きな第一歩になると信じています。
 

 
イベント情報
東北タップダンス&アートフェスティバル プレイベント  

■公演日程:2015年11月21日(土)〜23日(月・祝)
会場:日立システムズホール仙台
■出演:熊谷和徳 仙台フィルハーモニー管弦楽団 七尾旅人(シンガーソングラーター) 浦上雄次(タップダンサー) 細川慶太良(タップダンサー) 谷口翔有子(タップダンサー) L!atyr Sy(アフリカンドラム) TAPPERS RIOT TAP the FUTURE in SENDAI 松島純(美術) Daisuke Tanabe(音楽家・作曲家) 
■問合せ:仙台TAP the FUTURE事務局  Tel. 090-5589-0189(平日10:00〜17:00)、仙台市市民文化事業団総務課企画調整係 TEL 022-727-1875(平日9:30~17:00)
■公式サイト:
http://www.kaztapstudio.com/top/titl.html
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