世界中のクラシックファンを熱狂させる、クルレンツィス×ムジカエテルナが初来日記念トークセッション

レポート
クラシック
2019.2.20
(左から)テオドール・クルレンツィス、パトリツィア・コパチンスカヤ 写真=大森克己

(左から)テオドール・クルレンツィス、パトリツィア・コパチンスカヤ 写真=大森克己

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いま、世界中のクラシックファンが熱狂するギリシャ人指揮者、テオドール・クルレンツィス。ザルツブルグ音楽祭に2年連続出演し、そのチケットを2年連続で即日完売させた。そんな、話題のクルレンツィスが手兵ムジカエテルナを引き連れ、初の来日公演を開催、東京と大阪で行った演奏会ではチャイコフスキーの作品が取り上げられた。

初来日を記念し、クルレンツィスと、今回のツアーでソリストを務めたパトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリニスト)、そしてペルミ・オペラ・バレエ劇場ゼネラル・プロデューサーにしてムジカエテルナの事務局長であるマルク・デ・モニーの3人が、 2019年2月12日、都内でトークセッションを行った。モデレーター(司会)は若林恵が担当した。その模様の一部を紹介する。

若林 まずは日本で演奏された手応え等について、一言づついただけますでしょうか。

(左から)若林恵、パトリツィア・コパチンスカヤ、テオドール・クルレンツィス、マルク・デ・モニー 写真=大森克己

(左から)若林恵、パトリツィア・コパチンスカヤ、テオドール・クルレンツィス、マルク・デ・モニー 写真=大森克己

クルレンツィス 皆様、こんにちは。そして今日はありがとうございます。私は日本の文化・日本の人々ををとても尊敬していますし、オーケストラの中にも日本の奏者の方たちがいます。

今回、私にとって初めての日本になりますが、これはとても良いことだと思っています。なぜなら、日本では常にたくさんのコンサートが行われていますが、その中でも、今回は皆様が新しいものに接する機会になるからです。これだけ大量の情報が蔓延している中で、私たちの新しい音楽に触れていただく機会を提供できることを嬉しく思っております。

私たちが価値があると思っているもの、それは何かと言いますと、やはりこのクラシック音楽というものに新しい情報を吹き込むことです。そして、このクラシック音楽が将来も栄えるような、その種を植えていかなくてはいけないと思っています。私たちの仕事というのは新しい新鮮な空気を送り込むことだと思っています。

私たちの演奏は賛否両論ありますが、私たちはどちらかというと保守的だと考えています。作曲家が本当に求めていたものは何なのか、そのことを求めて音楽を奏でること、それが私たちの信念だからです。作曲家が私たちの演奏を聴いてハッピーでいてくれる、満足してくれるという演奏しかしておりません。

やはり、いまの世の中というのは商業的になっているのかもしれません。自分の信念だけで何か物事を行うということができなくなってきています。だから、信念を持って何かをする人を見ると奇妙に映るのかもしれません。しかし私たちはそれ(信念をもつこと)が重要だと思っているのです。

コパチンスカヤ 私は日本が大好きです。日本に来れば来るほど、もっと来たいと思います。演奏するたびに感じるのですが、日本の皆様は他国の人々とは耳がちょっと違いますよね。他とは違う何かフィルターを持って音楽を聴かれていると感じています。日本の皆様というのはやはり理解・感性が違うのかなと。

例えば、歌舞伎とか能について私は全く理解していませんが、何か魅了されるものがありますよね。皆様の持っているエネルギーというのは西洋人とは全く違うと思います。日本の皆様の緊迫感への理解度、静寂の理解度、動きの理解度、そういったもののが、すべて謎めいています。それと比べますと、われわれはまるで象のような感性だなと感じてしまいます(笑)。

パトリツィア・コパチンスカヤ 写真=大森克己

パトリツィア・コパチンスカヤ 写真=大森克己

デ・モニー いまのところ、日本で素晴らしい経験をさせていただいております。本当に新しい発見の連続なのです。今年はムジカエテルナにとっても変革の年だと思っています。なので、このツアーを日本で始められることが私たちにとっても新しい地平を迎える気分です。

日本では今まで3カ所、公演をさせていただきました。ロシア・ヨーロッパ以外でコンサートするのは初めてなのですが、ここ数年間の間で、楽章と楽章の間で拍手が起こらなかった珍しいコンサートでした(笑)。日本のお客様の集中力、そして私たち音楽家や音楽へのリスペクトや、感謝の気持ちというのは、私たちにとってかけがえのない素晴らしい環境といえます。

ですから、日本の聴衆の皆様に私は非常に親近感を抱いていました。これだけ熱心に聴いてくださる方々との出会いは、大きな喜びにほかなりません。今回、日本の聴衆の皆様と出会えて、「昔から知ってる人と会うような気持ち」になりました。これは素晴らしい関係の始まりではないかと思っています。私たちの音楽の中では、この情熱そして精密さというものが交わり合っていて、これは特に日本人にはぴったりなのではないかと考えています。

マルク・デ・モニー 写真=大森克己

マルク・デ・モニー 写真=大森克己

若林 先ほど、ムジカエテルナが新しいフェーズに入るというお話がありました。

クルレンツィス ムジカエテルナというのは夢のオーケストラだと思っています。われわれは常に夢を探求しているのですが、そこにはやはり変革が必要になってくると思っています。というのも、夢というものはひとつ達成してしまいますと、また次の夢を追いかけなければいけない。

本当に夢見る者というのは、その中心に立ってしまったらすぐに次の何かを追い求めることが不可欠となります。われわれの原動力となっているのは夢だからです。ですから、新しいスタート切ること、そして変化があるということが素晴らしいことだと、私は信じているのです。そして、そのことは今後もどんどん新たな形で発信していくつもりです。

実際に人気が高くなる、ポピュラーになってしまうことに対して、私たちはその正反対を行くのではないかと思っています。自分たちの本当の意思を伝えていくのは難しいことですが、あえて私たちは大変な道を選ぶのかもしれません。私たちは本当のところどういうのが理想かというと、修道院にこもりムジカエテルナのメンバーたちと朝の6時くらいから朝日が昇るのを見ながら瞑想をしてリハーサルをして、自分たちの音楽を聴きたい人が聴きにきてくれる……そんなことを夢見ています。そして、3カ月間くらいはその修道院から出て、町のあちらこちらで音楽を聴いてもらうというようなことをしたいです。

(左から)若林恵、パトリツィア・コパチンスカヤ、テオドール・クルレンツィス 写真=大森克己

(左から)若林恵、パトリツィア・コパチンスカヤ、テオドール・クルレンツィス 写真=大森克己

メインストリームで「スピリチュアル」という言葉を使うと、皆様はアメリカのゴスペルを連想されるかもしれませんが、そのような「スピリチュアリズム」ではなく、私たちの人生の中で最も重要なものは何なのか、その追求こそが大事だと思います。やはりこの大きな世界の流れの中にいるアーティストとは違うものを、われわれは求めるべきなのではないかと思っています。メインストリームとはまた別の世界を築いていきたいのです。

記者からの質問:マエストロのオペラのステージはひとつのコンセプトが徹底しています。そういうコンセプトは、マエストロが指揮を引き受ける前からはっきりしているものなのか、それとも公演がスタートしてから作っていくのか。そして、先ほどの発言で、作曲家が喜んでくれるような演奏をしたいとおっしゃってましたが、モーツァルトやヴェルディが喜んでくれたという絶対の自信がおありでいらっしゃるということでしょうか。

クルレンツィス 私の仕事においては、作曲家と私の間に媒体として作品が存在します。パトリシアも同様のことをいうと思いますが、われわれにはミッションがあります。スコアに書かれている音符を再現するということです。ですが、それだけではなく、音楽に秘められているこの精神も再現しないといけない。その精神・スピリットを再現するためには、波長というものが合わなくてはいけません。ラジオでも波長が合わないと、音が聴こえない・通じなくなります。それと似ています。自分が精神的、また感情的でなければその本当の意味は伝わらない、それを再現するのがひとつの仕事なのです。

それから、多くの作曲家ー実は私もパトリシアも作曲をするのですがー、常に自分の考えていることを変えます。バッハもそうでした。最初は何かのアイデアが種としてはありますが、仕事を始めるといろいろな形で変化していくものなのです。作曲家という人種は常に変わっていく、その時々の波長に演奏家である私が合わせていかないといけない、と考えています。

(左から)若林恵、パトリツィア・コパチンスカヤ、テオドール・クルレンツィス、マルク・デ・モニー 写真=大森克己

(左から)若林恵、パトリツィア・コパチンスカヤ、テオドール・クルレンツィス、マルク・デ・モニー 写真=大森克己

デ・モニー それについては、古い音楽ほど大きな問題になっているようですね。私たちは、ラモーを録音したことがあります。いわゆるフランス音楽の純粋派の方たちからは猛烈に反対されました。というのも、彼らは「ラモーはこういうふうに弾くべきなのだ」と強い信念を持っているからです。そして、「こういう音であるべきである」と。私たちの音楽が、その考えにそぐわないと仰るのです。

ラモーが実際に何を望んでいたかを私が知ることは不可能だと思いますし、ナンセンスだと思っています。しかし私たちのアプローチには作曲家に対する限りないリスペクトがあり、そして、楽器も作曲された時代に沿うものを使用しています。ピッチであったりフレージング、その当時の演奏法なども深く研究をしています。

私たちしていることは、スコアに秘められている美しさをどのように表面に浮かび上がらせるか、ということなのです。これこそがアーティストとの出会いであると思います。ラモーと私たち、或いは、ラモーとテオドール(・クルレンツィス)との出会いによって生まれるものこそが真の芸術だと思うのです。私は半分フランス人の血を引いておりますが、私たちのCD・演奏をラモーが聴いてくれたらとても喜んでくれただろうと思っています。私たちの演奏は毎回異なりますが、その音楽に秘められている美しさを引き出そうという思いは常に同じなのです。

(左から)テオドール・クルレンツィス、パトリツィア・コパチンスカヤ

(左から)テオドール・クルレンツィス、パトリツィア・コパチンスカヤ

取材・文=田尻有賀里 写真=大森克己

公演記録

『テオドール・クルレンツィス ムジカエテルナ 初来日ツアー』  ※公演終了
 
<日程・場所>
■2019年2月10日(日)  東京/Bunkamuraオーチャードホール 
チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35 (Vn: パトリツィア・コパチンスカヤ)
チャイコフスキー: 交響曲第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」

主催:Bunkamura

■2019年2月11日(月・祝)  東京/すみだトリフォニーホール 
チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35 (Vn: パトリツィア・コパチンスカヤ)
チャイコフスキー: 交響曲第4番 ヘ短調 op.36

主催: すみだトリフォニーホール

■2019年2月13日(水)  東京/サントリーホール 
チャイコフスキー: 組曲第3番 ト長調 op.55
チャイコフスキー: 幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」op.32
チャイコフスキー: 幻想序曲「ロメオとジュリエット」

主催: KAJIMOTO

■2019年2月14日(木) 大阪/フェスティバルホール 
チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.35 (Vn: パトリツィア・コパチンスカヤ)
チャイコフスキー: 交響曲第6番 ロ短調 op.74 「悲愴」

主催: 堺市/(公財)堺市文化振興財団
 
■来日特設サイト:http://www.musicaeterna2019.jp/
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