NAOTO×宮本笑里「ジャンルにとらわれず自由に音楽を楽しんで」 二度目のスタクラフェスはヴァイオリンの”歌声”を
左から 宮本笑里、NAOTO
国内最大の野外型クラシック音楽祭『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL 2019(通称・スタクラ)』が2019年9月28日(土)、29日(日)に、横浜赤レンガ倉庫特設会場で開催される。クラシックの名曲から、スクリーンを彩る映画音楽、ミュージカル音楽まで、さまざまな楽曲を楽しむことができるイベントに今年も、ヴァイオリニストのNAOTOが出演する。『ブランチ on クラシック』と題し29日(日)に行うステージには、同じヴァイオリニストの宮本笑里、尺八奏者の藤原道山をスペシャルゲストとして招き、この日のために準備した特別な楽曲で観客を沸かせる予定だ。9月初旬、東京都内のスタジオでリハーサルを行っていたNAOTOと宮本にスタクラの魅力や、ライブの聴きどころを語ってもらった。
ーー今年もスタクラの季節がやってきました。お二人は昨年も出演されていましたね。出演された印象はいかがでしたか。
NAOTO:日本で野外のクラシックフェスというのはあまりないので、まず開催していることがすごいことだなと思いました。クラシックは生音楽を届けるということを300年以上続けてきたジャンルで、ホール自体も楽器の一部として重要視されているので、箱のキャパシティーも限界があると考えられていましたが、(スタクラは)その一歩目から取っ払っている。とても勇気があることだと思いますし、でもそうしないとクラシックのジャンルは後世に続いていかない。そのことに気付いたということと、そして賛同し、出演している演奏家が多いことは、時代が進んできているんだなぁと感じます。
ステージに出る前は、お客さんの反応っておとなしい感じなのかなぁと想像していたのですが、普段僕が出ることが多いロックフェスやジャズフェスに集まってくれている人たちと同じように、(クラシック好きの人も)音楽を楽しんでいる様子を見て、あぁ結局ジャンルを分けているのは歴史や僕らの方なだけで、お客さんは音楽を楽しんでいるだけなんだなと改めて教えてもらいました。
僕は僕の役割をしっかりと果たして、みなさんには好きな音楽を自由に楽しんで欲しいです。個人的には、龍くん(五嶋龍)が出てくれることがとてもうれしいです。久しぶりに一緒に酒が飲めるなぁと。いまから楽しみです。
NAOTO
宮本:NAOTOさんがおっしゃったように、日本でこういった野外での、クラシックを中心とした生の楽器を外で演奏するフェスティバルというのは聞いたことがなかったので、とても珍しいイベントだと思います。場所も、ステージから海を見ることができる空間で、私たちもそういう特別な場所で演奏することができるということは、あまりない機会なので、初めてイベントのことを聞いたときは「これは絶対に楽しいことになる!」と思いました。
昨年は天気にも恵まれて、大勢の方にいらしていただくことができました。会場にある2つのステージ(HARBOR STAGE、GRASS STAGE)をお客様は両方を行き来しながら楽しまれていたり、寝転がって見ていた方もいらっしゃいました。クラシックの演奏会というと、会場に入るとカチッと緊張してしまうと思うのですが、のんびりリラックスして聴いてもらえるのはいいなと思います。
演奏する側も、テレビなどで聴く機会が多い耳なじみがある曲を演奏したり、この企画だけの特別な曲もあるので、横浜の潮風を感じながら楽しんで欲しいですね。私は、時々「ポーッ」と船の汽笛が聞こえたりするのが、普段のクラシックの演奏会場ではないことなので、とても新鮮でした。
ーー29日(日)にGRASS STAGEで行われる『ブランチ on クラシック』では、お二人は「美女と野獣」で共演される予定ですね。なぜこの曲を選ばれたのですか。
NAOTO:僕ら見たまま、“美女と野獣”だからです。リアルな感じで(笑)。
宮本:(笑)。この曲は以前に六本木の『Billboard Live TOKYO』であったNATOTOさんのコンサートに、私がゲスト出演させていただいたときにも演奏をさせていただきました。アレンジもNAOTOさんがしてくださったのですが、ヴァイオリンのことをよく理解しているNAOTOさんだからこそ生み出すことができた「美女と野獣」に仕上がっていると思います。
NAOTO:僕は前に『Blue Note TOKYO』(東京都港区)でピーボ・ブライソンが「美女と野獣」を歌うのを聴いたことがあったんです。相手はセリーヌ・ディオンではなかったのですが、もう「すげぇ、本物だ!!!」と感激して。「いいな、やりたい!!!」と。なので、その時の気持ちを聴いている人に感じてもらえるようにとアレンジを考えました。
宮本:ビルボードでご一緒させていただいたときに、NAOTOさんの弾き方が、もう完全に歌で、包容力が漂っていて。
宮本笑里
NAOTO:恥ずかしくなるじゃない。普通にやると。
宮本:そう。恥ずかしくなるし、ヴァイオリンでどうやって歌えば良いのか、表現が難しくて。
NAOTO:僕は、こういう歌ものは、歌だと思って弾くんだよね。
宮本:あー。なるほど!
NAOTO:譜面におこしちゃうと、四分音符は四分音符で弾かなきゃいけないって、ソルフェージュの試験みたいに譜面をなぞってしまう。もちろん1回は譜面を読むんだけど、そこからは譜面を読まないようにしてる。歌の人のデュエットも、そのときによってリズムがズレたりもするじゃない。でもそれが個性だったりするから、それは気にしないで。
宮本:うん。うん。
NAOTO:当日は僕らの“歌声”をぜひ、聴きに来て欲しいです。
ーーNAOTOさんと、宮本さんはこれまでに何度も共演なさっていますね。お互い、ほかのヴァイオリニストとは違うな!と思う、エピソードがあれば教えてください。
宮本:NAOTOさんはブリッジをしながら弾くことができたり、本当に唯一無二の存在ですよね。
NAOTO:えー。誰でもできるよ。
宮本:いやいやいやいや。できないですよ。
NAOTO:あれはね、失敗から生まれたんだよ。ポルノグラフィティさんのステージで、毎日ソロ回しをする曲があるんですけど、何公演もライブをやっていると、アドリブでやるネタがもう僕にはなくなってきて・・・。音楽的にね。だからもう、寝っ転がって弾こうって思ったの。
ポルノグラフィティさんは、アリーナクラスの大きな会場でライブをされることが多いので、ステージの後ろにスクリーンが設置されていて、ソロが回ってきたときはその様子を映してくれるんですよ。でもね、僕が突然寝転がったものだから、ステージの下にいたカメラマンが僕を見失ってしまって、僕がいないことになってしまったんです。ソロなのに。ラスト2小節の所で、スクリーンに自分が映っていないことに気が付いて、「やばい。このままいない人になるのはマズい」と思って立ち上がるより、ブリッジだ!と。頭でブリッジしたんです。そしたらウケたんです(笑)。
左から 宮本笑里、NAOTO
ーーその歓声が気持ちよかった??
NAOTO:いや、全然全然。2度とやるまいと思って楽屋に帰ったら、ギターの(新藤)晴一くんに、「NAOTOさん、ウケたから明日からあれお願いします」って言われて。それからマストになったんです・・・。まぁ、あれをやらせてくれるポルノの2人のキャパシティーも素晴らしいですよね。だから失敗から始まっているんです。
宮本:そうだったんですね。
NAOTO:でも笑里ちゃん、ちっちゃいとき練習しんどくて休みたいと思ったときに、寝っ転がって練習して、音だけ親に聴かせていたことない??
宮本:え。ない・・・(笑)。
NAOTO:やっぱ。真面目でちゃんとしてるんだよな、そこは。これに賛同してくれたのは高嶋(ちさ子)さんだけだったんだよなぁ・・・(笑)。マジかぁ。寝っ転がってヴァイオリン弾いたことないの???
宮本:うん。ないですよ。テレビ見ながらとかはあるけど。
NAOTO:マンガ読みながらは??足の指で(ページを)めくれるようになるんだよ。だんだんレベルが上がっていくの。マンガを床に置いて、開いた真ん中に左足のかかとを置いて(押さえて)、右足の指でめくれるようになるの。レベルが上がると、単行本も読めるようになる。
宮本:そんな器用なことはできなくって(笑)。器用なんですよ、NAOTOさん。
NAOTO:いや・・・。そんだけ練習に集中してない。もっと練習しろよって。なんか恥ずかしくなってきた。
左から 宮本笑里、NAOTO
宮本:すごいです。
NAOTO:寝転がって弾くと、当たり前だけど音圧が下がるじゃん。だから弓が弦にかかる圧力がどのくらいいったら、こういう音が鳴るんだとちょっと考え始めるわけ。隣の部屋にいる親にバレちゃいけないから。だから逆に立って弾いたときには、この位力が抜けるんだっていうことも分かってくるんだよね。ほら、手首とかに重りを付けてトレーニングしたら、重りを外したら楽じゃない。あぁいう感じ。これは真面目な話しね。
ブリッジも前はちゃんと、『コの字型』にやっていたの。でもコの字にすると、楽器が裏返っちゃうじゃない。ポジションアップはできるけど、ダウンができないから、フレーズが決まって来ちゃう。だから、ヤバいと思ってブリッジを三角形にしたの。そしたら動きが自由になって良かったんだけど、ファンからは「あぁ、NAOTOさんちょっと年取って来たから、あの体勢(コの字型)はきついんだ」って言われてさ。こっちは進化させたつもりだったのに(泣)。でも、きっとわかってくれている人もいるはずだと思って、頑張っています!
宮本:自分では良くなって、進化したつもりだったのに、ショックですよね。
ーースタクラでも見られるでしょうか。
NAOTO:いいですよ(笑)。「美女と野獣」でやるかは微妙ですけど・・・。でも笑里ちゃんぐらいだったら僕、ブリッジ中に乗っかられても大丈夫です。昔ね、男の人に乗っかられて弾いたことあったから。
宮本:何でそんな罰ゲームみたいなことがあったんですか??
NAOTO:たまに、そういうこともしちゃうんです(笑)。
ーー宮本さんはNAOTOさんのブリッジに驚かれたということですが、NAOTOさんは宮本さんの意外な一面をご存じでしょうか。
NAOTO:笑里ちゃんは変わらないよね。最初に会ったのは、笑里ちゃんが高校2年生のときだったと思うんだけど。制服姿でね。「キレイな人が来はった」と思ったんだけど、そのときから、こうしてプロになって活動されている今まで、ずっと印象も変わらない。めっちゃ真面目な人で、家の練習、リハーサル、本番。全てにおいて、ずっと真っすぐ前を向いている。僕、ヴァイオリニストでこんなに、心を含めて、芯が太い人はいないと思います。僕よりもずっと年下ですけれど、尊敬している所でもあります。この前、笑里ちゃんのインスタグラムを見ていたとき、5時間だったか6時間だったか、「やっと、まとめてヴァイオリンの練習ができて、すごい幸せ」って書いてあってね。僕、そのとき飲んだくれていたから、やばいと思って、「マスター、お勘定してもらっていいですか」って(笑)。やっぱ、ハートが違う。
宮本:NAOTOさんは練習しなくてもできちゃうからですよ。もう、私は練習しないと、どんどん退化しちゃうから。
左から 宮本笑里、NAOTO
ーー今日はいらっしゃらないですが、同じくステージで共演される藤原道山さんについては、NAOTOさんはどんな印象を持たれていますか。
NAOTO:道山さんは僕の大学の先輩なんです。学内にいたときは、僕らの器楽科と道山さんの邦楽科は全く接点がなくて、唯一ある体育の授業でも、彼とは会う機会がなくて。大人になってから、交流するようになりました。道山さんはすごく物腰が柔らかいのですが、音が力強い。尺八って安定しない楽器らしいんです。リズムを出すこともとても難しいと聞いたのですが、道山さんの演奏は、書いてあることにバシッと反応して音も安定している。僕、道山さんから入っているから、あれが普通って思っちゃっているけれど、それを普通だって思わせちゃう道山さんがすごいって思います。分かりやすく言うと、一番最初にキャッチボールした相手が(大リーガーの)大谷翔平みたいな(笑)。
ーー道山さんとは大泉洋さんらの演劇ユニット・TEAM NACSの舞台『PARAMUSHIR ~信じ続けた士魂の旗を掲げて』(2018年)のためにNAOTOさんが書き下ろされた『PARAMUSHIR』を演奏されますね。
NAOTO:はい。この曲はTEAM NACSから「ケルトミュージックを書いてください」という依頼を受けて書かせていただきました。なので、ケーナやバグパイプを使ってレコーディングをしたのですが、お芝居自体は、北海道のカムチャッカ半島と千島列島の間で終戦の日を越えて行われた戦争の史実に基づいたお話しなので、尺八という日本の楽器でその世界を表現できたらと思い、選曲しました。日本人のアイデンティティーというか、ナショナリズムが出ればいいなと思っています。
ーーオープニングはNAOTOさんのオリジナル曲「a beat spring」で幕開けです。この曲はベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第5番「春」を大胆なジャズアレンジで聴かせてくれます。
NAOTO:この曲はとても好きなんです。CMでも流れていますし、みなさん良く知っていらっしゃるかなと。クラシックのまま演奏するのもとっても楽しいのですが、ジャズにしたときに音符自体がちゃんと転がっていってくれるんですよ。ジャンルを変えても音が自然に前に進んでくれるって、なかなかないことなんです。だからいつも弾いていて、ベートーヴェンってすごいなって思っています。肩肘を張らずに、「あぁ、こういう風にアレンジする人もいるんだな」って、ゆったりとした気持ちで聴いてもらえたらうれしいです。ジャズって基本的に使っているコード感っていうのが、フランスの作曲家のラヴェルとか、ドビュッシーが使っているものとよく似ているので、クラシック好きな方でも近代のものが好きな方には、引っかかってもらえるところもあるんじゃないかなと思います。
ーー最後にステージに向けた意気込みを、お願いします。
宮本:NAOTOさんは努力と才能で出来上がっている大先輩。本番のステージでもたくさんのことを学ぶことができたらと思っています。朝から夜まで、ゆったりと楽しむことができるので、足を運んでいただけたらうれしいです。
NAOTO:笑里ちゃんとの共演は本当に楽しみです。いつも笑里ちゃんはステージで何かに挑戦してくれるのですが、リハーサルでそれを打診すると、最初は「ちょっと困ります」っていう顔をするんです。でも、あの表情から、本番までの間に伸びていく過程が好きなので、1回困らせたいと思っています(笑)。本番では楽しんで弾いて欲しいですね。道山さんとは、現代と古典を融合させている道山さんと僕が共演するので、また新しい化学反応が起こるんじゃないかなと思っています。それがすごく楽しみです。
STAND UP! CLASSIC FES '19 NAOTO×宮本笑里コメント
取材・文=Ayano Nishimura 撮影=福岡諒祠