山田将司と村松拓──盟友同士の新たなユニット=とまとくらぶ始動 その成り立ちから語る

インタビュー
音楽
2023.1.5
とまとくらぶ 撮影=大橋祐希

とまとくらぶ 撮影=大橋祐希

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THE BACK HORNの山田将司とNothing’s Carved In Stone/ABSTRACT MASHの村松拓。00年代以降の日本のロックシーンで確固たる存在感を示すフロントマン2名が、新たにユニットとして始動した。その名は──とまとくらぶ。思わず二度見ならぬ二度聞きしたくなる名称に騙されてはいけない。初のオリジナル曲である「故郷」を聴けばわかるように、音楽的にはごく真っ当にやっているし、なんならアコースティック主体でノスタルジーを感じるサウンドと、年輪を重ねてきた2人が歌う言葉には、思わずじーんとさせられるくらいだ。そこに2人の関係性がなんとなく透けてみえるところもとても良い。大前提として気の合う友人同士であること、その上で、この2人ならではなことを肩肘張らずにやっていこう、というスタンス。ロック界に旋風を巻き起こす!みたいなことはあんまりないと思うが、じんわりと愛され広がっていく活動になる気がする。ということで、出発地点に立った2人に話を訊いてみた。

──先日『麦ノ秋音楽祭』で、とまとくらぶのお披露目的なライブを観せてもらいました。やってみてどんな感想を持ちましたか。

山田将司:とまとくらぶとしては初めてだったけど、拓のツアーで一緒にやったりもしてたから……名前がついてやったのは初だったよねえ、くらいの感じ(笑)。

村松拓:うん。楽しく2人で「カラオケ行こうぜ」みたいなノリに近いというか。

山田:ああいう、飲みのイベントでしたしね。

──飲み続けててもどこからも文句が出ないタイプのイベントでした。

山田:(主催・会場が)coedoビールでしたからね。

村松:ケータリングにも置いてあって。

──そういう雰囲気にすごくあってたと思うんです。音楽的にはもちろん、お二人が一緒にいる時の「友達の延長線上」のような佇まいから何から。きっとそういうことがやりたくて結成したわけですよね。

山田:そうだね。普段プライベートでも一緒に飲んだりしてるし、俺たちだったら一緒に何かできるんじゃない? やってみようよ!みたいな……

村松:(笑)。

山田:何も中身ない話になってるけど(笑)、そういうノリだよね。

村松:いや本当に。

山田:お互いにTHE BACK HORNとNothing’s Carved In Stoneっていう主軸のバンドがあるし、とまとくらぶではリラックスして、主軸ではやれないこととか、それこそ飲みの延長みたいな感じで気楽にやれたらっていう気持ちはありますね。

──そこに至る前提として、まず仲が良いというのは傍目からもわかるんですが、交流自体はもう長いですか?

村松:始めはたしか金沢での対バンですね。

山田:2010年。

村松:ナッシングスのツアーに出てもらって。打ち上げとかも行ったんですけど、初対面だったのでその時はそこまで……

山田:ちゃんと飲んだりするようになったのは2016年あたりか。覚えてるんだよな。初めて溝の口で2人で飲んだじゃない、立ち飲み。

村松:はいはい。あれが初めてでしたっけ。そうかもしれないですね。

山田:その頃から結構頻繁に飲むようになって。

村松:ボーカリストとしての共通の悩みがあったりして、僕は相談に乗ってもらったりもしてたし、プライベートの話もだんだんするようになって。

──意外と最近っちゃ最近ですね。

山田:そうですね。でもそれから1年くらいした頃には夏場とか週2~3で普通に飲んでましたから。

村松:エグいくらい一緒にいましたね。

──なんでそんなに距離が縮まったんですか。

山田:(笑)。感覚ですからねぇ。まあ、なんでも話せるくらいフィーリングが合ってると俺は勝手に思ってますけど。

村松:うん。ちょっと似てるなって思う部分が僕的にはあって。将司さんって意外と、弱いところを、あんまり年齢とか先輩後輩関係なく言うタイプなんですよ。

山田:隠さない。

村松:で、僕も結構そういうタイプなんですけど、あんまり周りにそういう人がいなかったので。っていう中に、人に言えない悩みとかもあるっていうのがだんだん分かりはじめて、深くなっていった気がします。あの時は色々そういうことを話しましたよね。音楽を始めた理由とか、どこにも話してないだろうなっていうことを。

山田:してたねえ。用賀のカラオケ行った時だっけ。拓、あの時ママチャリでサンダル、ハーパンで来てたな(笑)。

村松:はははは! 

──人と人との相性はバッチリ窺えました。では音楽的にはお互いをどう思ってます? 

山田:お互いに自分にないものをいっぱい持ってるし、ステージに立ってる時の輝きを客席とかから見ると、どんなにプライベートで仲良くしてても「やっぱりこの人すごいな」って感じるし。

村松:やっぱりカリスマ性がありますね。僕が欲しい部分を持ってるというか。元々それに憧れて「話したいな」と思ったけど全然近づけなかったのもあったし。

山田:……話したらいきなり服脱ぎ始めた、みたいな感じ?(笑)

村松:「おめえまだ自分が可愛いのか」みたいな態度で来るんで(笑)。……僕の場合はナッシングスが動き始めたのが2009年ですけど、将司さんは2000年代に入る前からやってるんですもんね?

山田:うん。98年から。

村松:そこの、一個「山田将司」というものを10代の青春を経ながら作ってきて、今でもTHE BACK HORNと山田将司っていう名前を背負い続けてるところが、ちょっと俺とは重さが違うなと思うんですよ。

山田:こういうこと言ってくれるんですよね。

村松:いやいや、本当にそうだと思うんですけど。俺も来年15年で、それなりになってきてると思うんですけど、そこの差をすごく感じる時があるから。年月ってデカいし、青春時代に何をやってたかってすごくデカいと思うんですよ。俺は就職してたのを辞めてバンド始めたから、バイトめちゃくちゃしてて。そういうのを経た自分だったりもするから。

山田:俺からしたら、逆にそういう経験をして、あのナッシングスっていう鉄壁なプレイヤーたちの中でボーカリストとしてどんどん成長していく拓を横から見ていて。こいつは人としてとんでもない努力をしてきたし、すごい奴だなっていうのは感じますよ。

──音楽的な好みとか、ルーツの部分では近しいところはあるんですか?

山田:いや。近しいところはないかなぁ。

村松:だから教えてもらったりするんですよ。

山田:俺は日本の音楽をメインで聴いてたけど、拓は洋楽をメインでしょ?

村松:メインですね。今回の「故郷」も将司さんの書いてくれた曲だから、やっぱり日本の音楽を聴いてきたその機微が一個一個詰まってる感じで。あれは僕には書けない曲なんですよ。そこに自分を出していくというか、混ぜ合わせて曲を作って、歌に本気で楽しくできるっていうのはすごくありがたくて。

山田:うんうん。

村松:多分観てる人も楽しいと思う。だからそれを僕も将司さんにできないかな?みたいなところはありますよね。聴いてきた音楽の違いを将司さんにフィットする形でプレゼンして。その幅がとまとくらぶなんだろうなっていうのは、今から思ってるかもしれないです。

山田:そうだね。2人がOKしていけるなら、それがとまとくらぶの幅だろうし。次にこういうのやってみようかっていうネタの出し合いの段階で、もうどういうユニットなのかが全然説明できないというか(笑)。

村松:音楽的な説明はしづらいですよね。

──じゃあ、「こういう音楽をしようぜ」ありきの結成では全くないんですね。

山田:そうですね。

村松:もっと俺たちあんな音楽もできるのに、みたいなモチベーションではないかもしれないです。

山田:2人でやれる、見せられることを主軸に曲を作っていけば、お互いのバンドとは違うことができるんじゃないかな?っていう感じかな。

──なるほど。というお二人のユニット名が「とまとくらぶ」になった経緯もおさらいしておいていいですか。

村松:なんか、シリアスとか、すげえロックなのとかは……

山田:嫌だなっていうのは言っていて。

村松:で、何がいいだろうねって。候補はいっぱいあって、「ピュアピュア」とか(笑)。「むらまさ企画」とか。色々20個くらい出しましたよね。

山田:「ピュアピュア」は結構、2位くらい来てたよね。

──そうやって話し合ってるの自体が超楽しい、みたいな。

村松:そうですそうです。

山田:ちょっと「ピュアピュア」は名前に託しすぎてる感じはあるよね。俺らの人生の希望を全部託しちゃってる(笑)。おじさん2人が出てきて「どうも、ピュアピュアです」はねえよなって。

村松:(笑)。

──最終的にはカラオケボックスの名前に着地したんですよね?

村松:そうです。俺んちで飲むときに大体YouTubeとか観るんですけど。「このボーカリストがすごい」とか、「このときのASKAさんヤバくね?」とか喋りながら観てると、試したくなっちゃって「カラオケ行くべ!」ってなるんですよ。

山田:深夜1時くらいにね。

村松:そこがトマトクラブっていうお店なんですよ。

山田:調べたらそこともう1店舗の2店舗しかない。

村松:はっはっはっは!! まあ良いんじゃないですか。トマクラが繁盛して潰れないでいてくれたら、それで良い。

山田:聖地ね。今度行ったらサイン書かせてもらったらいい。「は?」って言われるかもしれないけど(笑)。

──そのあとは、まずは曲を作ろうぜっていう流れだったんですか?

山田:まず一個、拓のツアーのアンコールで新曲をやろうっていうところから始まって。拓が俺らのワンマンツアーに来てくれて、終わってから2人で飯食ってる時に、俺が家で作った元ネタを「こういう曲あるんだけどどう?」って聴かせて、「良いっすね」って。そこから歌詞を書き始めました。

村松:ファミレスでも書いたし。2人で顔突き合わせて。

山田:ガストで歌詞考えるとか20年ぶりくらいだった。

村松:マジでヤバいっすよね(笑)。

山田:なんか良かったなぁ。

村松:「故郷」っていうタイトルだけは決めてあって。そのイメージを最初にちょっと話して。

山田:拓の家で、まずサビから作ってみようってなって、本当2人で作ったよね。1番は俺が書くから2番は拓書いて、みたいな。

村松:あれ面白かったなぁ。

山田:ね。お互いの歌詞に出てくる言葉とか、描写の仕方とかを互いに添削しあったりするのも面白かった。

村松:そこは包み隠さず言うっていう。良いバンドになる条件を最初からできてるっていうのはすごく良い状態ですよね。

山田:そのやり方は良い方にしか行かなそうだよね。



>>次ページ 「自分を作ってくれたものはやっぱり故郷だから、そこを何度でも見直したい」

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