坂本真綾インタビュー 20周年記念ツアーを終えて「今は自分を褒めてあげたい時期」

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2016.2.25
坂本真綾

坂本真綾


20周年を祝うアルバム『FOLLOW ME UP』を引っさげた全国ツアー『LIVE TOUR 2015-2016 "FOLLOW ME UP"』を無事に終了させた坂本真綾、15周年記念からこの5年間休まず活動し続け、20周年を迎え、ツアーも終わった区切りのタイミングで彼女にインタビューを敢行した。ツアーのこと、歌うこと、そして歌詞を紡ぐことなど語ってもらった。

――まずはツアーお疲れ様でした、20周年記念の一環でもありましたが、20周年を迎えていかがですか?

どうでしょうね、感覚としてはあっという間だったなと。でもこの20年は16歳から35歳までの月日で、人としても一番変わっていく時期だし、色んな事を吸収していく時期なので。その都度変化は感じてきましたけど、自分では根本的にはあまり変わってないなっていう気はします。やっぱり好きなことをやってるんだなって改めて思いますし、夢中になっている時は時間が短く感じるものですから、私にとってはあっという間に感じられるんだと思います。

――元々ライブが苦手だったと言われていますが、それでもライブの回数を重ねてツアーも回り、作詞だけじゃなくて作曲もするようになって、歌うってことに関して心境の変化もありましたか?

うーん、ありましたね。やっぱり元々歌手になろう!って明確なビジョンを持って飛び込んだわけじゃなくて、色んな縁が重なって急に歌手デビューしたのが発端だったので。自分の中で確固としたシンガーとしての土台はやっぱり最初全然なくて、歌うことが好きな普通の女の子というか(笑) 。歌うってことは自分の中で完結できる個人的な行為だったのが、表現にしなければいけなくなって。何が表現できるんだろう、皆を引っ張っていける強いメッセージやパワーを持ってないで歌えるのかな?ってずっと思ってたんです。

――確かにまずは俳優としてのデビューですもんね。

でもとにかく歌うことがすごい好きで、次第に自分なりの表現も出てくるようになって。時間かかったけど15周年くらいにやっと自分を認められるようになったというか、私はこれでいいんだ!って言えるようになるのに15年位かかっちゃいましたね(笑)。

――真綾さんのライブの印象は毎ステージまっさらな「坂本真綾」だと思うんです。いつもニュートラルでいる印象があります。

そうですね、私が私で居られないとライブをやる意味が無いというか。昔は誰かみたいにやらなきゃ!って思うこともあったんですけど、今は本当にそういうのはなくて。特にこの5~6年は頻繁にステージに立つ機会を積極的に設けてきて、昔はどこかアウェイだったステージがホームと思えるようになってきたんです。変にカッコつけることもなくなったし、楽になりましたね。

――そんな中での今回の『FOLLOW ME UP』ツアーでしたが、いかがでしたか?

やればやるほど深まっていく気がしました。最初の座間は緊張もしたし、比較的マニアックなセットリストだったのでお客さんの反応がどう出るか未知数なところもあったんですが、なんか私の中で凄く座間公演の感触がよかったんですよ。歌もどこまでも声が出るようで調子も良かったし、あのスタートをいい感じで切れたのがその後の全ての背中を押してくれた気がしましたね。なんというか、何度歌っても飽きることがないってのは本当に幸せだなって思いましたし。

――確かにセットリストはちょっと挑戦的だった気もします。でもお客さんは本当に喜んでいた感じがしましたね、しっかり受け止めていたというか。

以前やった「Roots of SSW」(2013年アルバム「シンガーソングライター」ツアー)に近いかなと思うんですけど、私の個人的な好みが強く出た選曲になってました。

――全体的に少ししっとりした曲というか。

プログレまで行かないですけど、混沌としたバンドだけのセッションがあったりね(笑)。そういうのが好きなんですよね。拳を振り上げて盛り上がるパートだけじゃなくて、ひとりひとりが自分の世界に入れるようなディープなものを作りたかったんです。シンガーソングライターツアーの時にそういうことをやってみて、その時も実験的だなと思っていたんですけどすごく好評で、こういうセットリストがツボだったってファンのかたが結構居て。私と好きなものが似た人が結構多いんだなって改めてホッとしたというか(笑)。皆が一番好きなのは「プラチナ」とか「マジックナンバー」とかキラキラしてて元気な明るい曲なんだろうなってイメージがあったんですけど、今回恐れずにこういうツアーが出来たのはシンガーソングライターツアーがあったからってのはありますね。

――今年はツアーの中で3年ぶりのカウントダウンもありました。

三年前の「坂本真綾 COUNTDOWN LIVE 2012→2013 ~TOUR“ミツバチ"FINAL ~」は中野サンプラザで、今年は国際フォーラムだったので更に大人数の年越しになって迫力がありましたね。私のテンションも見たことないくらい上がっちゃってました(笑) 。ツアーのちょうど半分って所で折り返しにお祭り的なものが出来て、後半に繋がった感じがしています。

――今回のツアー、ずっとMCで言い続けていた「あなたの中の好きな坂本真綾3曲」がありますが、ここで改めて真綾さん本人の3曲をお聞きしてもいいですか?

MCでは自分で作曲した3曲を挙げてましたけど、それはまあ半分くらいネタのようなもので、実際は日々気分によって変わるものですからね(笑)。 私の場合は、常に一番新しい曲が上位に入ってくるんです。今は私の中では「これから」って曲がすごく自分の中のテーマになっていて、1位かなぁ……どうしても自分が作った曲は成り立ちから違うので、特別に思い入れが深くなるのはしょうがないっていうか。

――ご自身で作ったというと、作曲も最近されていますが、作詞の方は昔からされています。作詞に関してデビューから年月がたってインスピレーションが変わっていく部分ってありますか?

あんまり変わってないとは思ってるんですけど。やっぱり自分が体験したこととか、あとは役者として色んな役を演じながら、その役を通して実際には経験しなかったような、例えば大恋愛だったり、宇宙に行ったり、様々なことを疑似体験してるんですよね。それは自分の中に蓄積されていくものなので、作詞のヒントになるというか。経験によって心がどう動いたかを、自分に向き合って観察していくことが歌詞を書くためには本当に大事だなって思うんです。

――作詞という意味で思い出深い曲ってありますか?

ほとんど毎回「もうだめだー!」って言いながら産みの苦しみを味わってますけど(笑) 。「マジックナンバー」って曲は一番苦労したかもしれないです。それでいて完成した曲に対して、納得もしているし。歌う度に何とも言えない…明るい曲なんですけど胸が締め付けられるというか、自分で書いたけど私に力をくれる曲なんですよね。

――弱ってる時に力をくれるっていいですね。

そうですね、自分で書いた曲だと「光あれ」とか「これから」とかその都度自分自身のために書く曲ってあるんですけど、マジックナンバーはタイアップがあって、凄くポジティブで元気な曲にして欲しいってオーダーだったんです。ちょうど私自身がいろいろと行き詰まっている時期にその宿題がやってきて(笑)。

――よりによって行き詰まってる時に(笑)。

私の中からそういう明るいもの全然出てこないなーって煮詰まって一人で四国に行って、徳島まで行ったのにホテルに缶詰になって書いて(笑) 。でも結果そういう自分が絞り出した言葉が「あきれるくらい明日を信じてる」なんです。だから今でも力をくれるエネルギーが乗ったものになった気はしますね。

――ずっと楽曲を聞かせてもらっていて、最近書かれた曲はすごく情景が見える気がします。

ああ、それはそうですね。昔書き始めた頃は景色とか目に見える部分を取り入れるところがあってもいいんじゃない?って作詞家の岩里祐穂さんや、菅野よう子さんにアドバイスされたこともありました。10代の頃は自分の内面にばっかり目が向いてしまって、抽象的な表現が多くなりがちだったんですよね。それはそれで世界があるんですけど、やっぱり目に見える情景描写から聞き手が想像することもあって、そういうものを挟んでいくことによって少し余白が生まれて、伝わりやすくなるって気付いて。言いたいこといっぱいあるけどここは情景で終わらせようって、力を抜ける場所ができてきましたね。

――そんな経験と成長の中ですが、20周年で少し一段落なのでしょうか?

なんか今、作曲力成長してるかも!って気がしていて(笑)。なのでできるだけストックを溜めておきたいんですよね。締め切りがあるから書かなきゃっていうより、作りたい曲ができたから作って、それが溜まったからアルバムになったっていう物づくりができたらいいなとは思ってます。

――15周年から5年間、ずっと突っ走ってますしね。

15周年の時はちょうど年齢的にも30歳になったってのもあったんですけど、アニバーサリーイヤーが終わった途端トーンダウンしたくないって思ってたんです。結婚もその頃だったんですけど、結婚したからってお休みするつもりもなかったし、そこからいままでの5年はなんというか攻めの姿勢で走ってきました。それでかなりいろいろなことに挑戦できたし充実感もあって、今は締め切りとか忘れてじっくり作る、っていうここ5年とは違う感じで行けたらと。

――日常の中で生まれてくるものをじっくり作るって感じでしょうか。

私の日常って結局仕事なんですけどね(笑)。 私が普段日々働いたり普通のことを積み重ねる中で感じることを、作品に変えていく時間をちゃんととれればいいなって。

――日常が仕事と仰っていましたが、確かに川のようにたゆまず活動されている感じがします。

止まったら死ぬって思ってましたからね(笑)。 10代の頃は周りの友だちが遊んでいる中で私だけ遊べない!とか思っていた時もありましたけど、仕事ってやればやるほど任されることも増えてやりがいも増えるんですよね。だから大人になるほど「今止まったらもったいない!」ってどんどん仕事していました。ここから先は、勢いだけじゃない、どっしりと地に足の着いた感じで取り組む時かなと。

――今回の表題曲「FOLLOW ME」ですが、そんな言葉をいう印象が今までの真綾さんになくて、それを言えるようになったのは何か変化があったんでしょうか。

徐々にですけどね、初めて武道館ライブをやらせてもらったあたりから、私はスタッフやファンの皆さんに支えてもらっているけど、その中心にしっかりと立ってなきゃいけない役割なんだっていう実感というか。誰かに手を引っ張ってもらって始まった音楽ですけど、年月を重ねてきて、私の仕事はフロントに立つ仕事なんだって腹をくくれるようになってきたんです。どんなときでも「こっちに行きたい!」って意志を示していくことが必要なんだなって。

――確かにそうですね。

15周年でやっとなんで遅いんですけどね(笑)。自己暗示じゃないけど自分におまじないのように言い聞かせ続けることで、そういう立場に中身が合ってきたというか。じっくりと時間がかかりましたけど20周年でやっと「FOLLOW ME」って言えるようになったかな、と。

――なるほど。

でもさいたまスーパーアリーナで「FOLLOW ME」ってタイトルをつけた時はまだ若干ひよってたんですよ、 ここまではっきり言い切って大丈夫かな?って(笑)。

――そうなんですか(笑)。

いろんな世代のいろんな気持ちの人が応援してくれてて、その全員に「FOLLOW ME」って言うの結構大変な覚悟じゃないですか(笑) 。でもみんなが私にどういう思いを持ってて、どう曲を聞いてくれてるかはそれぞれだけど、私は皆に対して「FOLLOW ME」しか言えないなって思ったんですよね。

――15周年から5年かけた自己暗示といいますか。

そう(笑) 。でも大事なことですよ、本当の自分っていうのも大事だし、皆に見られている時の自分っていうのを意識しないといけないんですよね。そこがかけ離れすぎるとしんどくて、私はそこが違いすぎるって思った時期が一番しんどかったんですけど、近づければいいんだ!って思ったんですよ。自信がないとか人前に出るのが怖いって気持ちを克服するために、必要な自己暗示でした。表現ってまず自分の中から出てくるものが必要だし、それを相手に伝えなきゃいけないし、周りからもどうしたいか意志表示を求められることが多い仕事だし。皆の力を借りて出来上がる作品だったりライブですけど、やっぱり私が前で旗を振らないといけない。照れずに色んな事を言えるようになりましたし、その方が全部うまく回るんですよね。

――真綾さんはとてもインプットとアウトプットのバランスが良い感じしますね。

でもここんとこアウトプットばっかりで!またたくさんインプットしないとならないですけどね(笑) 。でも一回アルバム完成させたり、ライブ終えると空っぽになるので、また一からって気持ちにはなりますね。

――ライブで最後に歌われる「ポケットを空にして」もそういう所から歌われているナンバーなんでしょうか。

私自身だけじゃなく、お客さんがみんな声を出して歌えるっていいですよね。みんな歌うことで帰り道の足取りが強くなるんじゃないかなって。お客さんが何かを発信して終わる感じがいいなぁ……って思ってるんです。なんか色々な人と話をすると、ライブっていうものが非日常空間って思ってる人が結構いるんだなと。

――そうですね、確かに非日常空間だと思う人が大多数だと思います。

平日はそのために頑張るって思ってる人がいるんだなって、このライブを見たからまた頑張れる!って言って貰うのは凄い嬉しいんですけど、なんかそう言われるとみんなにとっての日常が凄く普通のつまらないものってなのかなって思っちゃんですよ。いや!そうじゃないと思うよ!っていうことをずっと言いたくて、「ポケットを空にして」を歌って、何かエネルギーを持って日常に帰って欲しいんです。それこそ自己暗示でいいんですよ、これは特別な日じゃなくて、今日得たものは日常の中でもきっと感じられるはずだよ!っていう……後味というか、持って帰ってもらうものっていうのを表現するのは今あの曲がしっくりきてるな、と。

――なるほど、日常の中にだって色んな感情があるはずですし、発見もあるはずですしね。

でもこれも定番になって、やるのが当たり前になりすぎると意味も変わってきちゃうかなって。今後そういう後味をどうやって作っていくか、他のやりかたも考えたりするかもしれないですけどね。

――では改めて、21年目を迎える今年はどうなるでしょうか?

本当に今まで歌も、声優も、ミュージカルも経験して、何かしら成長したであろう自分を褒めてあげたい時期なんですよ。その後どういうアウトプットが出てくるかは私自身も楽しみです。

 

インタビュー・文= 加東岳史

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