“プリンセス”を切り口にクラシック・バレエの魅力を満喫できる「Ballet Princess~バレエの世界のお姫様たち~」

コラム
クラシック
舞台
2016.3.1
画:萩尾望都

画:萩尾望都

文:高橋森彦(舞踊評論家)

 切り口はプリンセス。世にも美しく愛らしい白雪姫(「白雪姫」)、不幸な生い立ちから王子に出会い未来を切り開くシンデレラ(「シンデレラ」)、待ち望まれた王子と結ばれるオーロラ姫(「眠れる森の美女」)という3人のバレエ・プリンセスによる饗宴である。

 そう聞くと「ありがちな名作ダイジェスト集では…」と思う向きもあるかもしれない。でも心配ご無用。しっかりとしたコンセプトがあり趣向を凝らした本格派の舞台だ。現代の少女アンが登場し、三つの物語を駆けめぐっていく。メルヘンにファンタジーの世界を加えることによって1本の新しいバレエ作品として生まれ変わる!プリンセス好きはもとよりバレエ鑑賞デビューの方から筋金入りのバレエ・ファンまで見逃せない。

 演出・振付は伊藤範子。名門・谷桃子バレエ団のプリマ・バレリーナとして名をはせ、近年はバレエ作品の創作に意欲的だ。数々のオペラの振付を手がけてきた経験と素養を基に「道化師~パリアッチ~」(谷桃子バレエ団、2013年)、「ホフマンの恋」(世田谷クラシックバレエ連盟、2014年) を発表し、緻密な構成力と音楽を繊細に扱うニュアンスに富んだ振付を高い次元で融合させた。物語のあるバレエを創らせると天下一品である。

演出・振付:伊藤範子

演出・振付:伊藤範子

 幕開けの「白雪姫」はチェレプニンの「アルミードの館」の曲を用いて創作し、「シンデレラ」は王子と出会う宮殿の場面を取り上げ伊藤が新たに振付。クラシック・バレエの最高峰「眠れる森の美女」に関しては第三幕の婚礼の場面をプティパの原振付を尊重しての上演となる。「プラトニックな恋に始まりドラマティックに展開しキラキラ感も出したい。ほっこりしていただき心に訴えかけるような作品になれば」と抱負を語る。

 出演者も所属の枠を超え豪華だ。オーロラ姫は米沢唯(新国立劇場バレエ団プリンシパル)、白雪姫は木村優里(新国立劇場バレエ団ソリスト)、シンデレラは池田理沙子(バレエスタジオDUO)。米沢は今まさに旬なプリマであり、木村は華のある大型新人として注目を浴びる。池田は伊藤作品「ホフマンの恋」でのチャーミングな好演が光った新星だ。「眠れる森の美女」では長田佳世(新国立劇場バレエ団プリンシパル)が風格のある演技によって大らかに舞台を締めるだろう。橋本直樹(「シンデレラ」)、浅田良和(「眠れる森の美女」)という王子二人もノーブルで気品あふれる。ヴィラン役の高岸直樹のスケール感十分な演技も見もの。

(左から)米沢唯/木村優里/池田理沙子

(左から)米沢唯/木村優里/池田理沙子

(左から)橋本直樹/浅田良和

(左から)橋本直樹/浅田良和

(左から)長田佳世/高岸直樹

(左から)長田佳世/高岸直樹

 その脇を実力者や新進気鋭がガッチリ固めるのも心強い。「シンデレラ」の義姉たちに樋口みのり(谷桃子バレエ団)、樋口ゆりという“リアル姉妹”が扮するのも話題。副智美、田中絵美、松本佳織(東京シティ・バレエ団)、西野隼人、小山憲(バレエスタジオHORIUCHI)、荒井成也(井上バレエ団)ら持ち味の異なる一線級の踊り手が舞台に厚みを加えるだろう。

 さらに近年の国内外におけるコンクール受賞者の抜擢も目が離せない。2014年のローザンヌ国際バレエコンクールで第1位に輝き話題を振りまいた二山治雄(白鳥バレエ学園)をはじめ田村幸弘(バレエスタジオDUO)、塩谷綾菜(アートバレエ難波津)、五十嵐愛梨(山本禮子バレエ団)は国内の権威あるコンクールで栄えある第1位を獲得した。次代を担う彼らがソリスト役として思う存分清新な個性を発揮するに違いない。

 「眠れる森の美女」のマズルカを本場ロシアのバレエ団で長年活躍し、キャラクターダンスのエキスパートでもある鈴木未央が監修。バレエミストレスを数多くの公演に携わり成功に導いた林かおりが務め仕上がりに万全を期す。

 第一級のストーリーテラーと選りすぐりのダンサー、経験豊富なスタッフが心を一つにして紡ぎ出す、バレエの宝石箱のような極上のひと時。少女漫画界の巨匠萩尾望都描き下ろしによる宣伝画も夢あふれ期待感が高まる。世代を超えてクラシック・バレエの魅力を満喫できるだろう。幸福な気分に浸り劇場を後にできること請けあいである。

公演情報
Ballet Princess バレエ・プリンセス ~ バレエの世界のお姫様たち ~
 
■公演日時:2016年3月31日(木) 開場17:45/開演18:30
■会場:新宿文化センター 大ホール
:S席8,600円/A席6,900円/B席5,400円(税込)

■プログラム:プロローグ/「白雪姫」より/「シンデレラ」より/「眠れる森の美女」(原振付:マリウス・プティパ)より/エピローグ
※上演時間:約2時間(休憩含む)/音楽:録音音源
■演出・振付:伊藤範子(谷桃子バレエ団 シニアプリンシパル・コレオグラファー)
■出演(予定):
オーロラ姫(眠):米沢唯(新国立劇場バレエ団プリンシパル)/白雪姫:木村優里(新国立劇場バレエ団ソリスト)/シンデレラ:池田理沙子(バレエスタジオDUO) 
王子(シ):橋本直樹/王子(眠):浅田良和 
リラの精(眠):長田佳世(新国立劇場バレエ団プリンシパル) 
ヴィラン:高岸直樹 
義姉(シ):樋口みのり(谷桃子バレエ団) / 義姉(シ):樋口ゆり / 宝石(眠):副智美 / 宝石(眠):田中絵美 / 白い猫(眠):松本佳織(東京シティ・バレエ団) / 赤ずきん(眠):塩谷綾菜(アートバレエ難波津) / フロリナ姫(眠):五十嵐愛梨(山本禮子バレエ団)
宝石(眠):西野隼人 / 狼(眠):小山憲(バレエスタジオHORIUCHI) / 長靴をはいた猫(眠):荒井成也(井上バレエ団) / 道化(シ):田村幸弘(バレエスタジオDUO) / ブルーバード(眠):二山治雄(白鳥バレエ学園)

■公式サイト:
http://www.chacott-jp.com/j/special/ticket/princess/

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