『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』小池健監督インタビュー ルパン史上かつてないリアリズムと残酷表現はどう生まれたのか?
『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』小池健監督
モンキー・パンチ原作のアクション・コミック『ルパン三世』はこれまでさまざまなアプローチでアニメ化・映画化されてきた。2012年には、テレビアニメ『ルパン三世』第1シリーズの放送開始40周年を記念し、若き日のルパンたちを描いたスピンオフシリーズ『LUPIN the Third -峰不二子という女-』が制作・放送され、ダンディズムとエロティシズムあふれるテイストで話題となった。2014年には、TVシリーズの好評を受け、次元大介を主人公とした劇場版アニメ『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』が公開されている。
そして、2017年2月4日、劇場版アニメ第2弾『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』が公開される。『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』に続いてメガホンをとったのは、石井克人監督の映画『PARTY7』のオープニングアニメで脚光を浴び、アメコミテイストのキャラクターと疾走感あふれる演出で知られる小池健監督。小池監督は制作に約1年の歳月をかけ、若き日の未熟な剣士・石川五ェ門の挫折と覚醒を、ルパンアニメ史上かつてない残酷な演出で描ききっている。小池監督が過去作の世界観を継承しつつ、新たな表現を選んだ理由とは?
『LUPIN THE ⅢRD』の中のリアリズム
『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』 (C)TMS
――今回の『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』は未熟な五ェ門の話です。なぜこのようなコンセプトを選ばれたんでしょうか?
前作の『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』がおかげさまで評判が良かったので、続編のお話を頂きました。その時はまだ誰をフィーチャーするというのは決まっていなくて、じゃあ次は何にしたいか?というところから始まりました。ぼく自身が五ェ門で剣劇をやってみたいと思っていたこともありましたし、メンタル部分を掘り下げるとドラマチックになるんじゃないかと思ったので、わりとすんなり五ェ門に決まりました。
――『次元大介の墓標』もそうですが、キャラクターデザイン・作画監督を担当された『LUPIN the Third -峰不二子という女-』と比べても『LUPIN THE ⅢRD』シリーズはさらにリアリズムが強い作品だと思いました。
そうですね。『LUPIN THE ⅢRD』シリーズの中でのリアリズムは、自分の中ではおさえようと思っていました。ぼく自身はモンキー・パンチ先生の原作初期や、1stルパン(※編注:1971年から放送されたTVアニメ第1シリーズ)の初期に衝撃を受けたので、あの感じを出したいと思って進めた作品です。(ルパン一味が)出会って間もないという関係性は保ちたいと思いながら作っています。三人の関係性には新鮮味を持たせて、なんとなく1970年代前後の雰囲気を出すために、周りの小道具をきっちりと、時代考証も含めて抑えることで、この世界観の中でのリアリティを出せるのかな、と思いました。
――70年代前後で、固定はしていないんですね。
68年から75年くらいまでですね。年代はがっちり固定はしていないし、明記もしていないです。
『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』 (C)TMS
――『血煙の石川五ェ門』のルパンシリーズでの時間軸がどこなのかが気になるんですが。銭形幸一の肩書きは『峰不二子という女』では、SPECIAL POLICEだったんですが、今回は公安警察として登場しています。
『峰不二子という女』は1stルパンの前の話です。『血煙の石川五ェ門』は、1stルパンの5話(「十三代五エ衛門登場」)の直後くらいの時間軸です。
――なるほど。以前、小池監督はルパンがリメイクされる理由を「ルパンがアメコミヒーローのような存在になったから」とおっしゃっていました。だから、サム・ライミ監督の『スパイダーマン』と『アメイジング・スパイダーマン』が違うように、いろいろとリセットして自由に作られているのかと。
多少はそういうところはありますね。ただ、今回の『LUPIN THE ⅢRD』の中でのキャラクター設定はあるので、そこを引き継ぎつつ作っています。
――今までと違う部分では、五ェ門のアクション描写が気になりました。これまで、五ェ門の太刀筋は速くて見えなかったんですが、今回はすべての動きを明確に見せています。何か理由があるんでしょうか?
五ェ門は剣術を極めている人間なので、剣速がものすごく速い。その“剣速が速くて、キレ味もスゴイ”という描写をきっちり見せるためには、その経緯を見せてあげるのが一番いいというのもありましたし、説得力があると思いました。
『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』 (C)TMS
――一方で、すごくファンタジックなシーンもありますね。五ェ門が修行する場面で、巨大なサメと戦いだしたのでビックリしました。
原作にも、サメと戦って斬る修行(漫画『新ルパン三世』27話「五右ェ衛門無双」参照)があるんです。海の岩場で修行するときに、「海の怪物といえば?」と考えたときに、サメが一番インパクトが強い、と思ったので。多少ファンタジックな部分を入れると、観たときに見応えがあるかな、と思って極端な表現も部分部分で入れ込んでいます。
――あのシーンは原作へのオマージュでもあったんですね。
ルパン史上初の“切断面”表現が生まれた理由
『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』 (C)TMS
本作には『次元大介の墓標』にもなかった、“人間の切断面をモロに見せる”表現が多用されています。ルパンのアニメ史上、そんな表現が使われたことはなかったと思います。
なかったですね(笑)。
――なぜああいった演出をされたんでしょう?
“斬って斬って斬りまくる”五ェ門像があったので、脚本の段階から18禁も厭わない、という話にはなっていたんです。かといって、残酷描写がやりたいわけではなくて、剣の怖さ、鋭さを見せる上で、切断描写は欠かせないかな、と思って入れこみました。
――これまでの小池監督の作品にもなかったテイストですよね。それと、悪役で登場するホークの造形が素晴らしかったです。二つ名が「バミューダの亡霊」で、かつて2,000人を戦場で虐殺した男、という無茶苦茶なキャラクターです。あの着想はどこから生まれたんでしょう?
あれは、石井さんのアイデアメモにはじめにあったんです。「テキサスの暴れん坊」と言われていた元プロレスラーのスタン・ハンセンがモチーフになっています。スタン・ハンセンも、「見た目には凶暴な雰囲気はないけど、戦うとスゴイ」みたいな感じなので、ギャップを出せれば面白いかな、と。
――ルパン史上屈指のヤバいキャラクターだと思いました。ホークはひとりだけややリアリズムから外れた特殊なデザインですよね。手がムチャクチャ大きい。あれも石井さんのアイデアですか?
そういうわけではないですね。キャラクターデザインをするときに、パーツが極端に大きいデザインがぼく自身が好きというのもあります。設定上、奇形でああいう形というわけではなくて、単純にデザインだからなんです。
――「スゴイ怪力の象徴」でもある?
そうですね。パワー系のキャラクターなので、「手が大きくて力強い」というイメージは出したかったところはあります。
『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』 (C)TMS
――五ェ門のデザインにもこだわりがあると思いました。例えば、最初に登場した五ェ門の斬鉄剣には鍔(つば)が付いています。デザインはどの段階で決まったんでしょうか?
脚本の段階でぼくが決めました。キャッチコピーが「未熟なり、五ェ門」なので、今回の五ェ門は驕り高ぶっているんです。(斬鉄剣の)刀身は今まで使ってるものと同じままなんですが、装飾の部分は自分で組み替えて使っています。紋付き袴や羽織も頂いた高級なものをいとわず身に着ける。これで、前半で剣がボロボロにされる場面を象徴的に描ければ、と思って、鍔付きの今までの五ェ門とは違う刀にしました。で、後半の修行に入るところで、初心に返って元の白鞘(しらさや)に戻る。
――手を守る鍔付きの刀から白鞘にしたことで、捨て身になって戦うことを象徴しているのかと思っていました(笑)。深読みしすぎましたね。
ああ、なるほど。その解釈もいいですね。思わず「そうです」って言いそうになりました(笑)。
――小道具にもすごく凝った作品なので、いろいろと考えてしまいます。こういった設定は、小池さんがメインで考えられたんですか?
細かいところはぼくが意見を出して作っていったところはありますが、大きい幹の部分は石井さんのアイデアメモをもとに、脚本の高橋(悠也)くんに作って頂いた部分が多いですね。五ェ門がやられて、修行して、開眼するというストーリー軸も高橋くんが考えた部分です。
『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』 (C)TMS
――石井克人さんはクリエイティブ・アドバイザーとしてクレジットされていますが、基本的にはアイデア出しをする人という認識でいいんでしょうか。
そうですね。初めのアイデア出しをやっていただいて、脚本の開発にも付き合っていただいて、だいたい大筋が決まるところまで立ち会っていただいた、という流れです。
――個性的なキャラクターには、やはり石井さんのアイデアが表れているんですね。『PARTY7』で出会われて以来、ずっとご一緒されているような印象があります。石井さんに一番大きく影響を受けたことはなんですか?
石井さんは、人の好みのツボを突いてくるのが上手いんですよ。創作意欲を沸かせてくれるアイデアだったり、メモだったりがふんだんに書かれている。そういう意味で、すごく楽しい部分はあります。かといって、「これをやってくれ」というような感じではなく、「自分で面白いと思ったら使ってくれ」くらいのスタンスなので。非常にやりやすく付き合わせていただいていますね。
自分で意識しないくらいで、ルパンに個性を落とし込んでいけるくらいが一番いい
『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』 (C)TMS
――初めて監督されたルパン作品『次元大介の墓標』のインタビューでは、「自分が監督するとサブカルっぽくなるので、そこは抑えていきたい」とおっしゃっていました。今回も意識された?
それは今回もあります。『ルパン三世』はモンキー・パンチ先生の代表作で、傑作だと思っているので、“ルパンらしさ”を出せるように、出来るだけ自分の個性みたいなものは出さないようにしています。『PARTY7』や『REDLINE』のような画風とは違って、誰が観てもルパンだと思ってもらえるように作っています。
――ただ、今回は逆に小池監督の個性が出ているんじゃないかと思いました。
あれ? 本当ですか。どうしても隠しきれない部分が出ていますか(笑)。
――バイオレンス描写だったり、サメのシーンの極端な表現は、師匠の川尻善昭監督から受け継いでいたり、石井克人さんの影響を受けた結果じゃないかなと。結果的に、『血煙の石川五ェ門』ではそれが出ていると思いました。ルパンの中でも、五ェ門は小池監督にあった題材だったんではないでしょうか。
そうかもしれないですね。自分で意識しないくらいで、ルパンにそれ(個性)を落とし込んでいけるくらいが一番いいのかな、と思います。
――ただ、バイオレンスな描写を「やりすぎ」と止められたりはしなかったですか?
特にはそういったことはなかったですけど。コンテがあがった段階で石井さんに見ていただいて、50人斬りの場面でも実はあった、切断面が出るシーンは無くしました。なぜかと言うと、後半のホークとの対決での断面の表現を大切にしたかったので。多少、そういった調整はしています。
――50人斬りもそこそこ残酷ですけど(笑)。
まあね(笑)。
――でも、気を付けてはいる、と。
そうですよ! 自分勝手にやったわけではなく、色んな方の意見を聞きながら、「確かにそうだな」と思うところは、自分で気を付けています。
『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』 (C)TMS
――『血煙の五ェ門』は絶妙なバランスでルパンとして成り立っていると思います。ルパンの腕に杭が刺さったり、次元の頭が割れたりなんて、これまでのルパンなら考えられなかった。
やっぱり、ダンディズムに生きているキャラクターたちなので、命を懸けている、命のやりとりをしている雰囲気は出したかった、という気持ちはあります。
――それと、『血煙の五ェ門』には実写映画に近い雰囲気を感じました。タランティーノ映画のような、暴力がふんだんに使われたエクスプロイテーションムービーの匂いです。
好きですね。タランティーノは大好きですし、今回のような和風テイストの作品だと、深作欣二監督の『仁義なき戦い』も好きです。やはり、(『血煙の五ェ門』は)実写っぽくしないといけないというか……アニメーションだとどうしても物理的な分量が大きくなるので、寄りの画が多くなっちゃうんです。でも、今回は群像劇でもあるし、五ェ門の凄さを見せるために、引いた画でシチュエーションを見せることを心がけました。自分の作品の中でも、いままでになく望遠ショットが多いと思います。
――『次元大介の墓標』も『血煙の石川五ェ門』も、回収していない伏線が残されています。今後、小池監督が『LUPIN THE ⅢRD』シリーズを監督する場合、これらの伏線は回収されるんでしょうか?
今回の『血煙の石川五ェ門』の反響次第で続編も作れるかな……と自分の中でも希望しているので、そういう部分は消化していきたいですね。
――『次元大介の墓標』でちらりと現れたマモー(編注:『ルパン三世 ルパンVS複製人間』に登場する怪人)も再登場させる予定ですか?
うーん(笑)。多少なりとも、関わってくる部分はあるとは思います。ただ、『ルパン三世 ルパンVS複製人間』は傑作なので、それをリメイクする気は全くないです。そこに繋がっていければな、と漠然とは思っています。
『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』は、2017年2月4日(土)バルト9ほか〈4週間限定〉全国公開。
(C)TMS
原作:モンキー・パンチ
監督・演出:小池健
ルパン三世:栗田貫一
次元大介:小林清志
石川五ェ門:浪川大輔
峰不二子:沢城みゆき
銭形幸一:山寺宏一
脚本:高橋悠也
音楽:ジェイムス下地
クリエイティブ・アドバイザー:石井克人
プロデューサー:浄園祐
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作・著作:トムス・エンタテインメント
原作:モンキー・パンチ
(C)TMS