トニー賞2部門受賞!社会派ミュージカル『パレード』の日本初演に挑む石丸幹二にインタビュー
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石丸幹二(撮影:中田智章)
1998年にブロードウェイで上演され、翌年のトニー賞で最優秀脚本賞と最優秀楽曲賞に輝いたミュージカル『パレード』が、今年5・6月に待望の日本初演を迎える。本作は20世紀初頭、アメリカ南部の街で実際にあった冤罪事件を題材にした、愛と感動の人間ドラマ。少女殺害の罪で逮捕され、裁判にかけられた北部出身のユダヤ人男性レオ・フランク役で、石丸幹二が主演を務める。スチール撮影に臨んだ石丸に、公演への意気込みを聞いた。
――過去にこの作品をご覧になったことは?
ニューヨークの名門リンカーンセンターと、ロンドンの気鋭の小劇場ドンマー・ウェアハウスなどでも上演されたんですよね……演出を変えて。でも、拝見する機会がなくて。作品については台本とキャスト盤CD、あとは耳に入ってくる話題とで知ったという感じです。
――台本やCDと向き合った時、どんな感想をお持ちになりましたか?
まず1曲目の“The Old Red Hills of Home”を聴いた時、「これ歌いたいな」と思ったんです。(南北戦争の遺恨が強く残る)当時のアメリカ南部を象徴した曲で、若い男性が歌った後に年長者が歌うんですが、メロディーにも歌声にもとても惹かれて。でも後で、レオの歌う曲じゃないと分かり、がっかりしました(笑)。
――楽曲を手掛けたジェイソン・ロバート・ブラウンは“ポスト・ソンドハイム”とも呼ばれている人気のソングライターで、日本でも『ソングス・フォー・ア・ニュー・ワールド』や『ラスト5イヤーズ』などで知られています。
私もテキスト(歌詞)を見ながらCDを聴いた時に、「ソンドハイムのようだ」と思いました。南部の土地柄を表現した、聴いていて楽しく、ハッピーになるようなアレンジの曲が多い一方で、歌うには非常に難しい、“うねる”ようなものも。ちなみに、レオの曲はほとんどが後者なんですけどね。そういった曲に乗せて心情を吐露していくっていうのは、役者として歌い甲斐、演じ甲斐があります。
石丸幹二(撮影:中田智章)
――石丸さん演じるレオ・フランクは、地元の鉛筆工場で工場長を務める真面目な男性。しかし、「北部からやって来たユダヤ人」と白い目で見られ、工場で起こった工員の少女の殺害事件で濡れ衣を着せられてしまいます。
そういった冤罪の話は、実際に昔も今も変わらなくありますよね。ミュージカルだからこそ珍しい題材だと言われるかもしれませんが、映画やテレビドラマではよく目にしますし。本作も、蓋をしたくなるような人間の弱さ、愚かさを見事に描き切っていると思います。この年齢になってぜひ立ち向かいたいテーマだし、キャラクターでありますので、「ついにこの時が来たな」という感じです。
今のアメリカ政権に限らず、少し前からネオナチの動きが活発になってきているヨーロッパ諸国を見ていると、「自分たちを守る」という言葉の持つ意味について考えてしまいます。また、強く大きな波を起こしたものが結果的に勝利を得てしまうこととか……。それらは、まさしく、このミュージカルでレオが向き合っている問題と同じなんです。皆さん観終わった後にね、大きな波に流されず自分の信念に基づいて生きるためには、どれだけ踏ん張っていなきゃいけないのかってことに気付くと思います。そして、いつか足元をすくわれそうになった時、レオの話が頭に浮かんでくれればいいなと。
――本作ではレオの無実を信じ、献身的に支える妻ルシールとの愛も見どころですね。
初めから信頼しきった夫婦って、そんなにいないんじゃないかな。ただでさえ人って、思い違いやすれ違いがすごく多いので。でも、ある大きな出来事をきっかけに二人の絆がしっかり結ばれ、互いをより信じ合えるようになる。レオとルシールのようにね。彼らの話はとても美しいし、人はそうやって関係をはぐくむべきだなとも思ったりします。
若いルシールは、事件に巻き込まれる前、社会のぬるま湯に浸かって生きていました。でも、レオと同じ土俵に立って初めて周りを見た時、守るべきものに気付き、自ら立ち上がって意見をはっきりと言うようになる。たとえ孤軍奮闘であっても「No」と言える彼女の勇気、潔さはすごいし、偉いと思います。本作は彼女の成長物語でもあるんですよね。
――そのルシールを演じる堀内敬子さんとは久しぶりの顔合わせとなります。
劇団四季の同期です。在団中、何本も一緒に舞台に立っていました。皆さんよくご存じのものですと、ディズニーの『美女と野獣』。二人でタイトルロールをやりました……懐かしいです。そうして過去に共有した時間があるっていうのは、夫婦役としてとても入りやすいので、彼女が相手役で良かったなと思います。
石丸幹二(撮影:中田智章)
――演出の森新太郎さんはミュージカルを初めて手掛けられるとか。石丸さんとの初タッグも楽しみです。
つい先日『キャバレー』を観に来てくださって。私のMC役にショックを受けていらしたんですよね、ちょっと(笑)。でも、役者としての極端な一面を見ていただけて良かった。キャラクター作りとか事件の切り取り方とか、森さんにとってはお手の物だと思うので、その演出にのっとって、よりスリリングな舞台を作っていきたいと思っています。
――今回、実在の人物を演じられますが、役作りにあたって詳しくリサーチをされる予定ですか?
実は、以前『異国の丘』という作品で冤罪ものをやっているんです。近衛(文麿)首相の息子さんがシベリアに送られ、帰ってこられずに亡くなったというお話で。あの時も主人公のご兄弟やご子孫がいらっしゃる中、間違ったことはできませんし、また、主人公をはじめ被害にあった方たちの想いとか祈り、恨みみたいなものを背負って演じなくてはいけないってことをすごく感じたんですよね。
今回のレオと私は、生きた時代や国も違うので直接的な共通項はありませんが、いろいろと調べることによって彼の想いにできるだけリアルに近づけたらと思っています。当時のアメリカ南部の人たち特有の考え方とか、相当調べる作業がありそうですが。
――最後に、公演を楽しみにしている観客の皆さんにメッセージを。
アメリカでもイギリスでも大きな話題を呼んだ本格的社会派ミュージカル『パレード』を、やっと日本で上演することができます。待ち望んでいてくださった方々に真っ先に観てもらいたいですし、今回初めて本作を知った方々にも、こんな時代だからこそ観ていただきたい。社会的なものに飢えている人、早く来て!というのが私のメッセージです。
石丸幹二(撮影:中田智章)
取材・文:兵藤あおみ 写真撮影:中田智章
ミュージカル『パレード』
■作詞・作曲:ジェイソン・ロバート・ブラウン
■共同構想およびブロードウェイ版演出:ハロルド・プリンス
■演出:森新太郎
石丸幹二 堀内敬子
安崎求、未来優希、小野田龍之介/宮川浩、秋園美緒、飯野めぐみ、莉奈
■日程・会場
2017年5月18日(木)~6月4日(日)
東京芸術劇場プレイハウス(豊島区西池袋1-8-1)
一般発売:2017年2月11日(土)
問合せ:ホリプロ
http://hpot.jp/stage/parade
2017年6月8日(木)~6月10日(土)
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(大阪市北区茶屋町19-1)
一般発売:2017年3月11日(土)
問合せ:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ Tel.06-6377-3888
http://www.umegei.com/schedule/620/
2017年6月15日(木)
愛知県芸術劇場 大ホール
一般発売:2017年3月4日(土)
問合せ:キョードー東海 Tel.052-972-7466 月~土10:00~19:00(日・祝休)
http://www.kyodotokai.co.jp/events/detail/1317
■共催:東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)
■企画制作:ホリプロ