川島海荷がパワフルに生々しく! 浅草九劇こけら落とし公演・ベッド&メイキングス『あたらしいエクスプロージョン』初日レポート

レポート
舞台
2017.3.6
(左から)町田マリー、川島海荷、大鶴佐助、八嶋智人、富岡晃一郎 (撮影:引地信彦)

(左から)町田マリー、川島海荷、大鶴佐助、八嶋智人、富岡晃一郎 (撮影:引地信彦)


芸の街・浅草に新たにオープンした小劇場・浅草九劇のこけら落とし公演、ベッド&メイキングス第5回公演『あたらしいエクスプロージョン』が、2017年3月3日に開幕した。主演に八嶋智人(カムカム・ミニキーナ)、ヒロインに川島海荷を迎え、作・演出を手がけるのは福原充則だ。福原は、演劇が行われる空間と作品世界を巧みに絡ませることで知られ、これまでにも野外、倉庫、テント、円形劇場などで上演してきた。

今回は、浅草に根ざした、浅草の風景が浮かぶ作品で、浅草九劇(きゅうげき)のこけら落としに華を添える。福原と俳優・富岡晃一郎による演劇ユニット、ベッド&メイキングスによるプロデュース公演 『あたらしいエクスプロージョン』、開幕初日の模様をレポートする。

ひさご通りに面する浅草九劇

ひさご通りに面する浅草九劇

新たな小劇場「浅草九劇」

浅草花やしきからほど近い商店街の一角。建物1階はカフェバーやホテルが4月1日の開店に向け、工事を進めているところだった。

劇場は二階だ

劇場は二階だ

「九劇」の法被をきたスタッフに誘導され2階への階段をあがると、赤い絨毯のこじんまりとしたロビーと廊下が続く。何十年も前からありそうな小劇場かと錯覚するが、廊下を抜けホールに入ると、真新しい匂いに高揚感が増した。驚かされるのは、舞台との近さだ。客席数130席というが、最後列でも8列目。花道めいた通路も設置されていた。座席がすべて埋まった様は壮観だ。照明が落ち、蝉の声(SE)が聞こえてくる。

ロビーでは九劇の法被を着たスタッフが物販をおこなっている

ロビーでは九劇の法被を着たスタッフが物販をおこなっている

=以下、ネタバレを含みます=

この国のキスはおれたちがはじめてみせる

終戦からまもない東京。2組の映画撮影班を中心に、物語は展開する。

「浅草寺が見えるぞ」
「浅草寺は焼けました。東本願寺じゃないですか?」

そんなやり取りから、物語の舞台が《浅草九劇》と限りなく近い場所だとわかる。杵山は、とにかくカメラを回し映画を撮りたい映画監督。カメラがなければ指で作ったファインダーで、焼け野原をとらえようとする。それにつき従うのが、助監督の今岡(富岡晃一郎)。杵山組で唯一、戦地から生きて帰ってきたクルーだ。

ある雨の日、ふたりは、頭巾を被った美少女に出会う。それが、美人局(つつもたせ)専門のパンパン(街娼)・富美子(川島海荷)だ。演技経験もない富美子を女優に迎え、闇市で謎の煮込み料理を売る寛一(大鶴佐助)、カメラを所有する石王(町田マリー)も巻き込み、映画会社との契約もないまま映画作りをはじようとする。しかしまもなく杵山は、戦時中にプロパガンダ映画の制作に関わった事実から、GHQの裁判に呼び出されることとなる。

かたや、チャンバラ映画のスターであり映画監督である月島右蔵(山本亨)が率いる月島組。カメラはあるけれど、撮りたい『忠臣蔵』がなかなかGHQの検閲を通らない。女優の柚木灘子(町田マリー)、制作の金剛地(八嶋智人)、付き人の哲(大鶴佐助)はいるものの人手も充分とはいえない。

杵山組と月島組の壁となっているのが、GHQ教育局の担当官、デビッド・コンデ(富岡晃一郎)だった。通訳のマイク・サカタ(山本亨)の話から、コンデがだいぶ問題のある人物だと明らかになってくる。ちなみにコンデは実在した人物だ。

八嶋智人(撮影:引地信彦)

八嶋智人(撮影:引地信彦)

6人の個性が贅沢な小劇場

お気づきの方もおられるかもしれないが、キャストは全員複数の役をかけもっている。川島海荷は富美子をメインにもう1役、残りの5名は軽めの役も含め3役以上。それぞれ台詞も多く、シーンも1度ではない。《杵山組》《月島組》そして《GHQ》の場面と役を、6人のキャストがめくるめく往来する。中でも『自由恋愛を撮ろう、日本映画最初のキスシーンを撮ろう』と決意に至る場面は、爆笑の連続。計算されつくしたシーンでは瞬きする暇もない。

6人が、お互いを邪魔することなく、個性全開で舞台を作っている点にも目を見張る。山本亨の、JACで培われた美しい殺陣は、月島右蔵の大御所感を盛り上げると同時に、シーンのコメディ要素を際立たせる。活劇スターの美学が滲む演技で、激動の時代の深みを出す。町田マリーは、すれた美しさと、しなやかな身のこなしが印象的だった。生きぬくために強くならざるをえなかった女性像をよく体現している。八嶋智人は、主要な役の膨大な台詞を滑舌よくこなしながら、アドリブと思われるツッコミで観客を笑いに巻き込むが、ふとした動き(たとえば、ドカっと腰掛け胡坐をかく、後ろから殴られ仏倒れになる等)のキレの良さに演劇人としての身体能力の高さをうかがわせる。富岡晃一郎は、振り回される助監督と支配的立場のコンデ、両極端な役どころだが、どちらの完成度も高く滑らかなセリフ回しに魅せられる。大鶴佐助は、どれがメインの役かわからないほど、めまぐるしく、各場面でスパイスとなる役どころを器用に演じ分ける。朗々とした台詞まわしや身のこなしにアングラ演劇の空気を感じさせながら、古臭さは一切なく、現代の感覚にフィットする仕上がりだ。

こんな個性派ばかりの中で、川島海荷がどう立ちまわるのか。恵まれた顔立ちが足かせになるのでは? そんな心配も「私、明日もあさっても生きていたいだけ」というシーンで払拭してくれた。福原充則の丁寧な脚本・演出があってこそだが、富美子の台詞はしばしば胸に刺さる。必死だからこその力強さ、粗野だからこその純粋さを、川島海荷はパワフルに生々しく愛くるしく演じている。信じられるのは自分の嗅覚だけ、と何でも鼻で嗅いで判断する仕草がまた、けなげで可笑しかった。

(左から)八嶋智人、川島海荷、富岡晃一郎(撮影:引地信彦)

(左から)八嶋智人、川島海荷、富岡晃一郎(撮影:引地信彦)

浅草と唐十郎へのリスペクト

町田マリーには、浅草生まれ浅草育ちの祖母がいるという。大鶴佐助は、浅草で生まれ育った鬼才・唐十郎を父親にもつ。この作品からは、福原充則から唐十郎へのリスペクトが感じられる。唐十郎と縁の深い上野・下谷にいた男娼(唐には『下谷万年町物語』という作品もある)を、大鶴が演じていることも無関係ではなさそうだ。演劇的な仕掛けをあえて明るみに出し説明する演出や、平素な言葉を詩的に紡ぐ台詞など、小劇場の面白さが詰め込まれている。

100年先まで肯定してあげたいって思っただけ

映画のフィルムは、正しく保管すれば100年先までもつのだという。映画撮影において、10秒のシーンにOKが出るということは、つまり、100年残る10秒のOKをもらったということ。「100年先までOKだぞって、そんな肯定をされたことある?」 希望をみつけたような富美子の目が印象的だった。

芸の街に小劇場が生まれ、浅草の歴史を描く作品で歩みはじめた。その第一歩を彩る6人のキャストが、戦後を必死に生き抜く登場人物を最後までフルスロットルで演じている。それを小劇場ならでは濃密な空間で味わえる贅沢な作品だ。ベッド&メイキングス『あたらしいエクスプロージョン』は、2017年3月3日から21日まで浅草九劇にて上演。台詞を借りるなら「さみしい時に頼りになるし」。そんな作品だ。当日券も出るそうなので、ぜひ足を運んでほしい。

取材・文:塚田史香

公演情報
ベッド&メイキングス第5回公演『あたらしいエクスプロージョン』
■日程:2017/3/3(金)~2017/3/21(火)
■会場:浅草九劇 https://asakusa-kokono.com/
■料金:前売¥5,000 当日¥5.200 学生割引¥3,500 高校生以下¥1,000(全席指定・税込)
■作・演出:福原充則
■出演:八嶋智人、川島海荷、町田マリー、大鶴佐助、富岡晃一郎、山本亨
■問い合わせ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(全日10:00~18:00) 
■公式サイト:http://www.bedandmakings.com/

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