いま注目すべき12人を見逃すな! 知れば知るほど面白い“工芸の世界”
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神谷町にとてつもなくオシャレな美術館があるのをご存じでしょうか。それは、現代陶芸専門の「菊池寛実記念 智美術館」です。スタイリッシュな建物を入ると正面に、書家の篠田桃紅さんの作品がドーンとお出迎えしてくれます。
この智美術館で3月20日(月・祝)まで開催中の『工芸の現在』展が、すこぶる面白い! 陶芸だけでなく、幅広く工芸全般を取り上げていて、いま注目すべき12名の作家さんをまとめて見ることができる、まさに美味しいところどりの展示なのです。
1人の作家さんにつき約5点程度が展示されているのですが、作家さんが何を考えて、いままでどのような活動をしてきたかが分かるような5点が選ばれています。作品は新作から近作で構成されており、新作を制作した作家さんたちは、渾身の想いを込めてそれぞれがギリギリまで作業していたそうです。それでは、ほんの一部ですが、作家さんと作品を、ご紹介します。
◆留守玲
見事第二回菊池寛実賞を受賞されたのは、鉄を使って作品を作る留守玲さん。溶接と溶断を駆使してつくられたという作品は、鉄だけれど、なにか自然のもののような印象を受けます。
『ゴールデン・バグ』は、虫、コンピュータウィルスなどの意味の「バグ」からとったタイトルの作品。留守さんは最終的な形をイメージせずに作っていくスタイルです。その創作方法が、虫が這うような動きと似ていることから、このタイトルを選んだのだとか。鉄の色々な表情を探しながら作っていくので、今この鉄を溶かして出来た形が、現時点では似つかわしくなくても、そのうち良くなったりする。タイトルには「予想をしていなかった良いエラー」という意味も込められているそうです。
◆中田博士
轆轤で形を引き上げていく手法でつくられる、つるりとした美しいフォルムが印象的な中田さんの作品。真珠のような輝きを放つ、釉薬の美しさと、フォルムの美しさが相乗効果を生んでいるようです。
今までの作品は、ろくろで成形する特徴を生かしたふっくらとしたフォルムが多かったそうですが、今回新しい試みで生まれたのがこの作品。器は、「口」の部分がとても大切だそうで、お花の蕾のようなこの形をつくるのは、難しくはあったけれど、とても楽しかったとご本人は語っていました。
◆神谷麻穂
今回最年少30歳の神谷麻穂さんは、お花畑のイメージの8点1組の作品。質感にこだわって制作をされているそうで、ボコボコした形は地面の表情を表しています。地面の土を型にとり、その型をもとに作ったというユニークな制作方法を聞いてビックリしました。
作品は自分の頭の中のイメージを形にするものが多いという神谷さん。今回の作品はお花畑が広がる風景と、お花一輪ごとの両方をイメージしたそう。見ていて春が待ち遠しくなってしまいました。
◆井口大輔
井口大輔さんは、錆びたような土の色合いがとても魅力的な作家さん。「焼く」ことに重きを置いて制作をされている方です。「焼く」と一言で言っても、形をつくる、質感をつくる……など色々な目的や方法がありますが、井口さんの場合は土に負荷をかけて、窯の中の酸素を少なくして焼いているのだそう。そうすることで、独特なカサついた質感が出来上がるのだとか。作品には、何となく土器っぽい懐かしさがありました。
◆川端健太郎
以前、筆者が作品をひと目見て惚れ込んでしまったのが川端健太郎さんの作品です。川端さんは磁土を使って手びねりの手法でつくるのですが、磁土は千切れやすいので、手びねりには向いていない素材なのだそう。制作過程を想像してみると、気が遠くなります……。一度見たら忘れられない強烈な印象の作品は磁器やガラス質など、複雑に素材や色や形が絡み合っていて、ずっと見ていても全く飽きません。
『女(スプーン)』は、2メートル程の大きな作品。こちらも、手びねりで積み上げてつくられており、有機的で独特の世界観があります。「女(スプーン)」というタイトルは、柄杓の始まりが手ですくうことだった、ということからインスピレーションを得ているそうで、やさしく水をすくう女性のイメージなのだとか。タイトルのせいか、同時にあやしくエロティックな感じもあるなぁと思っていたところ、川端さんは「土はエロティックなもので、それを抜きには作れない」と仰ってくださいました。
◆植松竹邑
69歳の竹工芸作家さん。正直にいうと、筆者自身竹工芸はあまり今まで注目して見たことがなく、勝手に地味な印象を抱いていました。が、今回の作品を見て、竹の特性を生かして色々な表情を生み出していることに驚き、興味が湧いてきました。
『弦楽の響き』は、弦をかき鳴らす様を表現した作品です。竹の形を変えるには、熱を加える必要があります。通常はガスバーナーを使って熱を加えるのですが、それでは表情が硬くなりやすいのだそう。そこで植松さんは、お湯を使って竹の形を創り出しているんだとか。「どうやって作られているのか」というプロセスが想像出来るのが、竹作品の面白いポイントでもあります。
◆三嶋りつ惠
ペリエジュエとのコラボレーションが記憶に新しい三嶋りつ惠さんは、ベネチアを拠点に活動されている、ベネチアングラスの作家さん。今回の出展者で唯一、自分の手で作らない、プロデューサー的な立ち位置をとる作家さんです。
三嶋さんはベネチアにある工房で、職人さんと場所を時間で借りて、自分のアイディアを形にする、という制作方法をとっています。出来上がった作品をどう見せていくのか、というところまでご自身でプロデュースしているそうです。
重い作品だと、40㎏にもなる大きなガラスの塊を用いて作品が作られます。工房の方からは、「うちの職人を殺す気か!」と言われるほどなんだとか。肉体的にも、精神的にも、職人さんに過酷な作業の上に成り立っている三嶋さんの作品。飾る場所や光の具合によって表情が変わる、瞬間性と空間性が魅力です。
◆山本茜
山本さんはもともとは、仏像などに、細く切った金箔を膠を使って装飾を施していく、截金の作家さんでした。しかし、その凄まじい截金愛から「装飾ではなく截金を主役にしたい!」という想いを抱きます。その想いから、截金を浮かせて見せるためにガラスの技術を身につけ、截金とガラスを合体させた作品づくりを始めたのだといいます。ガラスと截金が交互に重ねられた作品は、ガラスの中で模様が動いて立体的に見え、とてもエンターテイメント性の高い作品に仕上がっています。
さらに、山本さんは源氏物語の大のファンでもあり、なんと物語の中のシーンや人物の感情をテーマにした源氏物語シリーズを制作されています。しかも「源氏物語の54帖全てをコンプリートする!」という、ミッションを掲げて制作を開始。現在、残り37個のところまで来たそうです。しかし、2016年に完成した最新作「源氏物語シリーズ 第十帖 『賢木』余話(別れのお櫛)」は制作に3年かかってしまったそうで、「死ぬまでにコンプリート出来るのかわからない」というレベルなんだそう。まさにライフワークだなと感じさせられました。
工芸と聞くとなんとなく「古臭い」とか「地味」というイメージを持ってしまいがちですが、この展示を見るともっと知りたい!と思えるはず。筆者も工芸の世界にハマってしまいそうです。展示は2017年3月20日(月・祝)までなので、お見逃しなく!
文・写真=新井まる
会期: 2016年12月17日(土)〜 2017年3月20日(月・祝)
観覧料:一般1000円、大学生800円、小・中・高生500円
※未就学児は無料