本邦初演『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』出演の 福井晶一・原田優一、演出の板垣恭一にインタビュー

2017.3.16
インタビュー
舞台

(左から)原田優一、福井晶一、板垣恭一


福井晶一原田優一。『レ・ミゼラブル』をはじめ数多くの人気ミュージカルで主要な役を務めてきた二人のミュージカル俳優が、3月17日から開幕する、NYオフ・ブロードウェイ発のミニマムな二人ミュージカルに挑む。タイトルは『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』。出演者は福井と原田とピアノ奏者のみ。小道具は主に帽子、帽子、帽子…。これまでアメリカ、イギリス、フィンランド、オーストラリア、韓国、フランスで上演され、各国で称賛を浴びてきたミュージカル・コメディの日本初演である。その稽古場にお邪魔して、福井、原田、そして今回の訳詞・日本語上演台本・演出を手掛ける板垣恭一から話を聞いた。

『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』稽古風景 キャッチーな音楽にのせて優雅に舞う

■帽子の数だけ役がある

--このたび日本初演となる『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』は、そもそもどんなミュージカルなのですか?

板垣 この作品は二重構造になっていて、ひとつめの階層では、福井さんの演じるダグという男が或るミュージカルの台本を書き、原田さん演じるバドがその作曲をする。彼らは、自分たちの作ったミュージカルをブロードウェイで上演させたいと考えます。そこで有力プロデューサーや劇場主たちを招き、「バッカーズ・オーディション」と呼ばれるプレゼンテーション(試演)をおこなって、出資者を募ろうとします。その劇中ミュージカルの名前も『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』なんです。

で、その劇中ミュージカルの中身が、もうひとつの階層になります。俳優を雇えないダグとバドは、彼らたった二人だけで沢山の役を演じていきます。そして、彼らがいま誰を演じているのかを観客にわからせるために、役名の書かれた帽子を次々に被り替えていきます。歌の途中であっても役をどんどん切り替えていくので、かなり激しい状況になっていきます。それでも最後には、ちょっとした物語的なファンタジーが入ってきて、もしかすると感動的な結末を迎えるかも?……といった感じですね。

役名の記された帽子(一部)

--グーテンバーグ、すなわちドイツ語だとグーテンベルクですが、劇中劇では活版印刷の発明者である彼の伝記が綴られていくのですか。

板垣 劇中でも語られるのですが、実はググってもウィキペディアを調べても、グーテンベルクの詳しい人物史はそれほど出てこないんです。不明な部分が多い。そこでダグとバドが「だったら俺たちで作っちゃおうぜ」と、架空の物語を仕立て上げるんです。

演出中の板垣恭一

--そんな風変わりで複雑なミュージカルに出演される俳優さんお二人は、今どんな気持ちなのですか。

福井 とにかくやることが沢山ありすぎて、稽古の最初の頃は、それを頭に詰め込むことで精一杯でしたね。でも板垣さんが「役者が大変な分だけ、お客さんが楽しんでくれる」と言ってくれたことが励みになりました。本番が近付き、頭の中で整理ができてくるようになると、自分たちもすごく楽しくなってきた。それはお客さまにも伝わるんじゃないかと思います。

福井晶一

原田 ​帽子を被り替えるといった段取りの多さも大変ですが、演じるキャラクターも、僕だったらバドと劇中劇の登場人物たちとの間や、劇中劇の人物たち同士の間を、瞬時に行き来して、演じ分けをしなければいけません。そこがこの劇の見せどころでもありますから、非常に神経を使います。キャラクター設定の変化をつけようとするあまり、理想の高いところにキャラ設定をしてしまうと、いま自分が誰をやっているのか迷子になってしまうこともあります。ただ、そういうところも、お客様から見れば、面白がっていただける要素なのかもしれません。

--お二人がそれぞれ演じる役の数は、どのくらいありますか。帽子の数の分ですか。

板垣 全体の役自体は20くらいかな。ただ、そのうち3分の2くらいは二人の間で行き来して演じられるんです。

福井 そう。一つの同じ役を、二人で入れ替わったりすることが多い。

原田 一人あたり10以上の役は、やってます。

板垣 考えると心が折れるから、ちゃんと数えたことはないよね(一同笑)。

『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』稽古風景 軽快な音楽で踊る

■ミュージカルへの愛とツッコミに溢れたブラック・コメディ

--演じるうえでは非常に大変そうな作品ですが、皆さんが「ここは面白い」と思う点は何ですか。

板垣 お客様は、この作品の二重構造を通して、設定上は役者ではない普通の人が「演技」をする瞬間に立ち会えます。「演技」だけではなく、“何でもない人が「演技」をする”ということ自体を見学することができる。実はそれも福井さんと原田さんという役者による「演技」ではあるのですが。ともあれ、不思議な気分を味わえます。そこでは、「演技」とは何か、ということも問われているのだろうと思います。

原田 ​僕らが普段、舞台の上で演じるということは、お客様のオーディションを受けているようなもので、その意味では、この作品に出てくる「バッカーズ・オーディション」は僕らの日々の生活そのものであるとも思えるんです。だからお客様はこの舞台を観て、普段は意識していないであろうミュージカルの成り立ちとか、僕らの仕事っぷりといったものを確認していただけるのではないでしょうか。

原田優一

福井 そういうことも含めて、帝国劇場などの日比谷界隈に通っていらっしゃるようなミュージカル好きな人、コアなミュージカル・ファンには、すごく楽しめる内容になっていますね。日本のお客様にも共感できるようにと、板垣さんが随所を書き換えてくれていることもあり、もし自分が客席にいたら大笑いするだろうな、という面白さに溢れています。

板垣 オリジナルの台本にはブラック・ジョークが沢山入っているのですが、元のままだと文化的背景の違いで日本人にピンと来ないんです。そこは大胆に、日本人が笑えるネタにかえさせていただいてます。それから、セリフや歌詞も翻訳の正確さを尊重すると、どうしてもテンポが悪くなってしまう。そこはテンポの良さを優先する方向でアレンジしました。

『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』稽古風景

--ミュージカルについてのミュージカルですから、ミュージカル絡みのブラックな笑いも多いのでしょうね。

原田 ​僕らが普段ミュージカルをやっていて、言いたくても言えないことを、役を通して言えるんですよ(笑)。

福井 役で言ってるのか素で言ってるのかが、わからない(笑)。

板垣 いや、そこは、あくまで役で、ですよね(笑)。劇中のキャラクターが言ってる。

福井  (何かを察したかのように)あ、はい、そうですね。役です(笑)。

原田 ​そういう形でミュージカルにもの申しながらも、同時に、ミュージカルを称える作品、ミュージカル愛に溢れる作品でもあるんです。

板垣 そう。愛とツッコミに溢れたブラック・コメディですね。ブラック・コメディだから、ちょっとアブない橋を渡らないと面白さは出てこない。ツッコミの部分では、日比谷界隈やあざみ野(※某大手劇団の所在地)界隈の業界の人に、ウケるかもしれないし……怒られるかもしれない(笑)。そういう危険なところを役者の二人には渡ってもらいますけど、最後には愛のあるところに結実して、感動的に終わるかもしれないのです。

訳詞・日本語上演台本・演出の板垣恭一

■小さな空間でホンモノに触れあえる

--こういうタイプのミュージカルに福井さんが出演するのはとても新鮮です。

福井 僕は“あざみ野代表”的といいますか(笑)、ミュージカルの王道のようなところで色々やらせていただいてきてますから、こういうブラック・コメディの経験はほとんどありません。しかも、大久保のR'sアートコートという小規模な空間というのも、芝居で出演するのは初めてで。

板垣 福井さんにとっては、これが小劇場デビュー。福井さんを間近で観られるのは、お客さんにとっても嬉しいはずですよ。

福井 いろいろな発見が多いんです。自分でもわからなかった部分を板垣さんや原田さんに引き出してもらったりして。細かい段取りを憶えるのは大変ですけど、やっていて本当に楽しいです。

--その一方、原田さんは、オフブロードウェイのような小劇場でのミュージカルに以前から積極的に係わってきてますよね。

原田 ​自主企画などで小劇場での公演をやるようになり、その魅力に憑りつかれてます。もちろん、大劇場のグランド・ミュージカルも大好きですよ。でも小劇場はやはり、ひとつの時間と空間をお客様と共有している感覚が好きなんです。

『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』稽古風景

--その小劇場公演に、『レ・ミゼラブル』など有名舞台で大役を務めているお二人が挑むことも意義深いですよね。

板垣 そうなんですよ。ホンモノさんが演じている(笑)。

福井 ホンモノさん、て……(笑)。

原田 ​大作ミュージカルで大きな役をやっていてよかった~。『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』に出ていて本当によかった~(笑)。

--では最後に読者の皆様に向けて、勧誘のメッセージをお願いします。

福井 大久保の小さな空間で、お客様と一緒に作品を創り上げていきたいという気持ちです。そして日本初演の舞台ですから、作品の誕生する瞬間をぜひ見届けていただきたいですね。沢山の人に観に来ていただけると嬉しいです。

原田 ​オーケストラピットがあるわけでもない小劇場のミュージカルって、舞台と客席の間に垣根がなく、本当に役者とお客様との距離が近いですよね。だから劇の進展だってお客様次第といってもいいほどです。僕らが舞台で提案するものを、お客様から返してくださるような、気楽な感覚で観に来ていただけたらと思います。

板垣 この舞台を作るにあたって標語として掲げたのが「大人が真剣にふざける」。お客様にはそんな光景をぜひ楽しんでいただきたいですね。会場の事情で実際は許されないけれど、理想としてはビールを飲みながら、「んなことあるかい!」なんて野次を飛ばすのもOKみたいな、そんなテイストの芝居を目指してます。「一緒に遊ぼうぜ」「一緒にふざけようぜ」というくらいの気軽な気持ちで来ていただけたら、と。そして、もし周囲にミュージカルを観たことがないという人がいたら、ぜひ連れてきていただきたいですね。こんな敷居の低い、ふざけたミュージカルもあるんだと。仮にミュージカルが嫌いな人でも、その嫌いな理由によって、面白がれる内容になっていますしね(笑)。

(左から)原田優一、板垣恭一、福井晶一

取材・文・写真撮影:安藤光夫

「一緒に遊ぼうぜ」の精神で、自ら持参してきたグーテンベルク帽を被る筆者も加わっての記念撮影

公演情報
『グーテンバーグ!​ザ・ミュージカル!』
 
■日程:2017年3月17日(金)~3月20日(月・祝)
■会場:新大久保・Rʼs アートコート(労音大久保会館/東京都新宿区大久保 1-9-10 TEL03-5273-0806)
 
■訳詞・日本語上演台本・演出:板垣恭一
■出演:福井晶一・原田優一
■音楽監督・ピアノ:桑原まこ
 
■原作:アンソニー・キング(Anthony King)&スコット・ブラウン(Scott Brown)
■翻訳:工藤紅
■振付:当銀大輔
■演出助手・美術・舞台監督:小形知巳
■照明:中村嘉雄
■音響:高木佳未
■制作:鈴木里咲
■アシスタント・プロデューサー:杉本宏、岡田徹也
■プロデューサー:坂紀史、宋元燮
■企画・製作・主催:株式会社ショウビズ、conSept
■公式サイト:http://www.gutenberg-jp.com/
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