「30歳の女なんて生きてるだけで偉いんだよ」アラサー独身女子の本音さく裂『野良女』稽古場レポート
舞台『野良女』
アラサー独身女子の本音を赤裸々に描いた舞台、『野良女』が2017年4月5日よりシアターサンモールで上演される。『校閲ガール』や『花宵道中』などの作品を世に送り出してきた宮本あや子の小説が原作。佐津川愛美(28)、芹那(31)、沢井美優(29)、深谷美步(33)、菊地美香(33)とリアルアラサー女優たちが集結し、注目されている。稽古も大詰めに入った3月25日に東京都内で行われた公開稽古を、アラサー独身女子SPICERの五月女(28)が取材した。
舞台『野良女』公開稽古で熱演する佐津川愛美
冒頭のシーンを中心に約30分間が報道陣に公開された。5人が演じる登場人物たちは、アラサー女子にとって「あ〜こういう人いるよねぇ〜」と頷きたくなる人物ばかり。
佐津川が演じる派遣社員の鑓水清子(28)。《地方から出てきて1人暮らし。大学卒業後も就職先が決まらず、派遣社員となって現在5社目。話しかけやすい気さくな美人だが、恋人は2年いない。ただ、実際寂しいかと考えるとそうでもない》という設定。
沢井が演じる役員秘書の佐藤朝日(30)は《鑓水の大学の先輩。実家は超お金持ち。大学ではミスコン三連覇するなど、とにかくモテる。実はバツイチで、最初の結婚は姑と合わず離婚。現在は50代の飲食店チェーン店の社長、日本支社設立のために来日中の外国人を2人掛け持ち》だという。
深谷が演じる壺井頼子(29)は《半年前に正社員採用されたばかりだが、早くも転職活動中。納期と上司と取引先に振り回され、短期留学でカナダに行っていたことがあるがTOEICの点数は低い。結婚していないことを心配した祖母から男性を紹介されてお見合いをすることに。ただカナダに住む元彼に対して未練を持っている》んだとか。
……設定が、リ、リアル過ぎませんか?
舞台『野良女』公開稽古の様子。左から佐津川愛美、菊地美香、芹那
設定のリアリティーも然ることながら、セリフの一つ一つが「刺さる」。特に行きつけの小汚い居酒屋で泡盛を飲みながら会話するシーン。
「わたし25を過ぎたら普通は結婚できるものだと思っていたんですよ!」
「自分が30歳になること自体想像していなかったし、こんな安くて汚い居酒屋で女友達と残念な会話をしているなんて想像もできなかった」
赤裸々に語られるガールズトークは、まさに「アラサー女性のアラサー女性によるアラサー女性のための演劇」だった。ちなみに、「ヤリチン」「恋愛よりも挿入!」などと下ネタも容赦なく叫ぶ。妙に生々しく、どこか清々しい。
舞台『野良女』公開稽古の様子。左奥から沢井美優、佐津川愛美、深谷美步、手前中央は菊地美香
公開稽古後には、女優陣5名がインタビューに応じてくれた。
――劇中で印象に残るセリフや共感できるセリフは?
沢井:なんだろう……。共感というか刺さる言葉が多すぎて(笑)。「食べ物が唐揚げからタコわさになったのは胃腸の事情」っていうのがまさにアラサーを表しているなって思いますね。他にも本編を通じて素敵なセリフもあるし、おいおいっていうセリフもあるんですけど、それは劇場で。
芹那:後半の方で鑓水のセリフで「30歳の女なんて生きてるだけで偉いんだよ」っていうセリフが好きです。
佐津川:私もそのセリフ好き。この作品には最終的には自分を肯定するようなことがいっぱい出てくるので、そういうところも見どころだと思います。
菊地:鑓水の若い子に向けた「あ〜全部持ちやがって」っていうセリフの後に、「私も昔はそうだった」っていうセリフ。アラサーを超えているお局様でも「あ〜」って思って頂けると思うし、これからアラサーに向かっていく子たちにもアラサー女があがく気持ちをわかっていただけるかなと。
深谷:私は「かわい子ぶってんじゃねーよ、ばーか」っていうセリフがすごい好きです。
――舞台を通じて感じた「アラサー女子」の魅力ってどんなところなんでしょう?
沢井:経験値。無くしたものも多いし、得るものも多いし、その狭間にいるなって思って。その経験値がプラスにもマイナスにも露わになる年だなって思っています。
菊地:アラサーって魅力でいっぱいだと思っていて。失敗しても「大丈夫、まだ取り返せる」って思うし……。日々の稽古場でうまくいかなかったことも前向きに捉えるだけの経験値を積んできてるなと思う。実際みんなお仕事してきている中で、多分5年前は心折れて泣きながら帰った稽古場も、今なら笑いながら話ができるっていうか。上手に甘えられるし、いいことばっかりだなって思います。ここにいて特に感じますね。休憩時間も台本にかじりついていたのが、みんなでジュース作ったり、ご飯食べに行ったり。ちょっとした余裕が生まれてきたし、そういう意味ではいいことばかりだなって思う。
佐津川:私、女の子だけの現場っていうのがあんまりなくて、(稽古に)入るまで緊張してたんです。女同士って怖いって思ってたから(笑)。でも、今回これだけ楽しいのは、10代の時ってみんな頑張りすぎちゃって、周りが見えなくなるところがあるけど、今回のチームはそれぞれがそれぞれのいいところを見つけてくれて、それを何か絶対否定しないでいてくれるから。そんな風に、みんなのいいところを見てくれるのも、経験値の一つなのかなと。楽しくてびっくりしています。
舞台『野良女』公開稽古後に取材に応じる出演者ら
――最後に意気込みをお願いします。
沢井:気づけば初日までもうすぐなんですけど、稽古を重ねる度に、私たち、必死だなって(笑)。必死にいいものにしたいという思いでやっているんですけど、今を生きるのって大変なんだなっていうのもを感じていて。でも、楽しみながらやっています。観に来てくださる方も一緒に今を生きて欲しいなと思います。
芹那:アラサーとしての新たな自分を桶川(※芹那の役名)を通して、もちろん、共通する部分も共通しない部分もあるし、他の役にも共通する部分もあると思うんですけど……全部ひっくるめて、今の私にしかできない役なので、この環境を楽しみたいです。
菊地:『野良女』という作品自体が攻めている作品で、それが今回の舞台の売りでもあるんですけれども、楽しくポップにやりつつ、深いところにググッと入り込んでいくような作りになっています。ファンの方からも「そんなに赤裸々な美香ちゃんを見たらどうしよう、好きじゃなくなっちゃうかも」と心配されるんですけど、是非、戦っている私たち女優、戦っているキャラクターたちを通して、男性にも女性の弱さや脆さを感じて頂けたらと思います。すべての皆様に何かひとつでもメッセージを届けられるようにどのシーンも作っていきたいなと意気込んでおります。
深谷:とにかく熱い芝居にしたいと思っていて、きれいごとじゃなくて、醜い姿でもがいている姿を観てもらいたいです。あと、もう一人出演者がいるんですけど(※池田倫太朗。5人の女性それぞれの意中の男性役を1人の男性キャストが演じる)、それも見どころです。
佐津川:まだ全然できていない状態で、稽古をやっていく中で変わっていくことも多いですが、本当にみんなで戦っています。私も毎日生きることが必死。肩を寄せ合って助け合いながらアラサーがみんなで頑張っているよね?(笑) よく食べて、よく喋って、プライベートのこと話したりなんかもして。できている本がどんどん人間味あるものになってきていて、最後には勇気をもらえるような作品になるんじゃないかなと思っています。女性の方に観て頂きたいですし、男性にも楽しんで頂けるようになっていると思います。笑った後に背中を押せる作品になっていくと思うので、劇場にぜひ足を運んで頂きたいです。
また、「一人でも多くの女性に『野良女』を見てほしい」という本公演のプロデューサーを務める横塚孝弘氏の願いから、“女性限定割引”が発売されることになった。
ふと。劇中のセリフを思い出し。
「三十代の女なんてさ、生きてるだけでえらいんだよ。だって死にたくなるようなことをいろいろかわしてここまできてるんだから」
お一人の女性に対しても、限定割引を発売します。終演後に、1人でも入りやすい美味しい店で、頑張っている自分自身を「接待」してあげてください。各公演5席限定5500円で販売いたします。自分接待を支援します。
下ネタが多いという事で敬遠されている女性が多いのではと察しています。確かに下ネタはあります。ただ、この下ネタが全てではありません。劇中で描かれているのは、5人の女性の喜怒哀楽です。是非、シアターサンモールで「野良女」の世界を体感してください。
プロデューサー挨拶 全文:http://noraonna-stage.jp/news_20170327
取材・文・撮影=五月女菜穂(28)
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日程:2017年4月5日(水)~9日(日)
会場:新宿シアターサンモール
原作:宮木あや子
演出:稲葉賀恵(文学座)
脚本:オノマリコ(趣向)
音楽:オレノグラフィティ(劇団鹿殺し)
出演:佐津川愛美、芹那、沢井美優、深谷美歩、菊地美香 ほか