MEGAPTERAS インタビュー 5人の精鋭による強力ユニット、ついにデビュー作を発表

インタビュー
2017.4.6
MEGAPTERAS

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「僕ら、飲み会からスタートしたバンドですから……」
ステージ上の黒田卓也が自嘲気味に語り、客を沸かせる。この日、メガプテラスの5人はデビューアルバム『フル・スロットル』が完成して初めてのステージに立っていた。メンバーは、黒田卓也(tp)、西口明宏(ts,ss)、宮川純(p,key)、中林薫平(b)、柴田亮(ds)。
デビューアルバムと言っても“手練れ”の5人によるプロジェクト。ステージ上の彼らのプレイに、微塵の拙劣さもない。そんな最高のライブが始まる直前、このインタビューはおこなわれた。しかし、彼らが語ったのは、ステージで客を沸かせる黒田の軽妙な喋りとは裏腹の、あまりに意外な苦心談。ただ、その一方で、目の前に現れたインタビュアーさえも楽しませてやろう、という不敵なまでのサービス精神も見せる。
彼らのミュージシャンとしての非凡さをここで細かく説明する必要もない。なぜなら、図らずも、このインタビューで見せた彼らの挙動や言行はそのまま「メガプテラスの作風」を象徴しているからだ。先に言ってしまおう。彼らは、妥協を許さない先鋭的なジャズユニットであり、いかしたファンクバンドであり、また、ひたむきな職人集団であり、陽気なエンターテナーでもあるのだ。

──まずは、このプロジェクトの発端を教えてください。

西口:スタートしたのは2011年。僕と黒田さんのリーダーバンドみたいな感じで始まったんですけど、まあ、年に2回くらい集まってやる程度で。

──黒田さんはその頃からニューヨーク暮らしですよね。

黒田:そうですね。だから、正月とか夏に集まるんですよ。メンバーはみんな関西出身なので、帰省のついでに会う感じでした。

西口:それで、4年前くらいかな……「これは名前つけた方がええんちゃうか?」ってなって。メガプテラスになりました。

──「名前をつけた方がいい」っていうのは、つまり「グループとしての方向性が見えた」ってことですか?

黒田:はい。その時はまだ“なんとなく”ですけどね。

──そもそも、黒田さんと西口さんと中林さんは、古くからの知り合いだったわけですよね。

黒田:そうです。もう25年くらいの付き合いですかね。僕だけひとつ先輩ですけど、中学も高校も同じなので。そのあと僕はニューヨーク(ニュースクール大学)に行って、西口はボストン(バークリー音楽大学)だったので、向こうでもたまに会ってましたよ。

──そんな西口さんがバークリー時代にドラムの柴田さんと出会って、柴田さんの紹介でキーボードの宮川さんが合流した、と。

柴田:そうですね。そんな流れで5人が集まったんですけど、この二人(黒田と西口)のことはね、僕は昔から知ってましたよ。何しろ関西のローカルシーンで、デカい顔してましたから。

西口:お前の方がデカい顔してたわ。

黒田:めちゃめちゃデカかったよオマエ。

柴田:うるさいわ。黙れ!

──はい、ちょっといいですかー! インタビュー開始2分で喧嘩って(笑)どういうことですか!? えーと、つまり十代の頃からお互いの存在だけは知ってた、と。

黒田:はい。でも、純(宮川)だけ知らなかった。彼は名古屋だったので。のちに柴やん(柴田)に紹介してもらって、そのときが初めてですね。ちょうど、グループとしてのビジョンがようやく見えはじめた頃だったかな。僕ら4人で酒飲んでて「これはいよいよキーボードが必要や」って話になった。で、柴やんが「気になる男がいる」って言い出して。そこで純の名前が挙がった。

──柴田さんはそのとき、なぜ「宮川純が必要だ」と感じたんですか?

柴田:全部の条件を満たしてたから。

──条件とは?

柴田まず、彼が素晴らしいプレーヤーだということ。それから“フレッシュな人材”であったこと。あと、人間的にもね、僕らのこの、どうしようもない“濃い関西のノリ”をわかってくれる人がよくて。しかも、名古屋だから距離も近いな(笑)と。

──宮川さんは、この話が来た時はどう思いました?

宮川:嬉しかったです。僕も名古屋にいながら関西でもよくプレイしてたので、西口さんや黒田さんの存在も知っていたし。そんな西口さんがアメリカから帰ってきた、って話も人づてに聞いていて。たしか、そのタイミングでメガプテラスの話が本格的に動き始めたんですよね。

西口:うん、そうだった。

宮川:しかも、ちょうど卓也さんが最初のアルバム『Bitter and High』を出したタイミングでもあって。それを聴いてもいたので、会ったことはなかったけど、とにかく「薫平さんと西口さんと卓也さんは、すごい人たち」っていう認識が最初からあった。

柴田:最初に会ったのは八ヶ岳のジャズフェスだったかな。

宮川:そうですね。そのときは違うバンドで出演していて。

柴田:そのときが事実上の顔合わせみたいな感じで。「そうか、キミが宮川くんか」と。

西口:なんでそんな偉そうやねん。

柴田:別に偉そうちゃうわ。

──はいそこ、喧嘩しないでくださいねー。

左から、西口明宏、中林薫平、黒田卓也、宮川純、柴田亮

左から、西口明宏、中林薫平、黒田卓也、宮川純、柴田亮

それぞれ違うバンドでの活動もありながら、こうして意気揚々と新たなプロジェクトに乗り出した5人。しかし、そう簡単にはいかなかった。メガプテラスに立ちはだかった苦難とは何か。そして、彼らはどのようなステップを経て、現在のスタイルにたどり着き、この傑作アルバムを完成させたのか。

宮川:このバンド名をつけるくらいのタイミングで合宿したんですよ。曲になっていない「素材」でもいいから、みんなで持ち寄って、全員で音を出しながらアレンジとか作曲作業をしたんです。

──なんかもう、ロックバンドみたいな感じですね。

黒田:今回のアルバムが一応、ファーストアルバムってことになってますが、じつは過去に1回だけレコーディングしてるんです。3年前に。それはいわゆる普通のジャズクインテット的な感じで。

──そのときには一応、音源は出来上がった、と。

宮川:はい。録るには録ったんですけど、この音源をそのまま出してもなぁ……っていう思いが残ったんですね。あまり練り込む時間もなかったし。

──納得できない“何か”があった、と。

宮川:ただ、グループとしての方向性とかサウンド感みたいなものが見えたのは大きな収穫でした。それからしばらく経った頃に、また何度かのセッションを経て、もう一回、本腰入れてやろう、っていうモードになって。ただし「今までと一緒じゃダメだよね」という話にもなり。まずは、みんなで音を出しながら、じっくり丹念に創っていこう、と。

──その上で、何かルールは設けたんですか? 例えば「こういう路線はやめようぜ」とか。

宮川:うーん、そういうのは特にないですけどね。

柴田:むしろ、設定やルールをあらかじめ設けずに、それぞれが持ち寄った素材みたいなものを、みんなで演奏しながら、良い方向に導く感じ。

宮川:ひとつあるとしたら「普通のジャズクラブじゃないところでもフィットするような楽曲にしよう」みたいな意識はあったかもしれませんね。

──そこはアルバムを聴いて感じましたよ。複雑なリズムを使っている曲でも、自然に気持ちよくステップを踏める楽曲に仕上がっていますね。それはメロウでエレガントな曲であっても、疾走感のあるアグレッシブな曲であっても、きちんと作動している。体が揺れるというか躍動を促されるんです。

宮川:楽しく踊れる、っていう部分は重要でした。スタンディングの会場でもいけるように意識はしています。

黒田:このバンドでは、「カッコよかった」とか「クールだった」と感じてもらうよりも「楽しかった」と思ってもらえるような、そんなパフォーマンスができればいいと考えてるんです。まあ、そのためなら服を脱ぐことも辞さない(笑)くらいの心がけでね。

──今日のライブでは脱がなくていいですからね。

宮川:いや、実際にね、一昨年のクリスマスにやったライブでは、この二人(黒田&西口)、演奏の前に漫才やりましたからね。

柴田:ああ、わりと本気のヤツな。

宮川:もともとね、飲み会の延長で結成されたバンドですから。これはもう仕方ないです(笑)。

──なるほど。ライブを見てようやくメガプテラスの全てがわかるわけだ。アルバムを聴いただけだと、クールでカッコいい印象しかなかったですよ。

黒田:レコーディングに関しては、また別のこだわりが反映されているんです。例えばね、ただ単にマイク立てて、メロディ鳴らして、ソロ回して「ほら、ジャズってすごいでしょ」みたいな、そういう感覚とは別のものを作りたかったんです。いや、そういう録音物がダメだと言ってるわけじゃないですよ。ただ自分は、プレイの内容はもちろん、サウンドスケープに関しても、自分なりのこだわりをきちんと反映したものを作りたかった。

──それは、これまでアメリカと日本でさまざまな“録り方”を見てきた結果、ということですか?

黒田:そうですね。少なくとも僕はせっかくこれまでニューヨークでいろんなバンドに参加して培ったノウハウとか、ホセ(・ジェイムズ)との仕事とか、そういうクリエイティブを知ってしまったこともあって。なにより、このメンバーなら、バンドとしてそういうサウンドを実現できる、という思いもあった。

──今回、見事にそれを証明しましたね。

黒田:最初にレコーディングしたときと比べると、例えば同じ曲をやっても“ここにストリングスを入れた方がいいんじゃないか?”とか“このキーボードの音色はシンセサイザーの方がいいんじゃないか”みたいな発想やアレンジを施せるようになっていますね。

──つまり、ライブでの再現性や、手持ちの楽器に固執せず「ここは思い切ってエフェクティブな処理を施した方が面白い」みたいな判断もあるわけですか。

黒田:ありますね。

柴田:例えばね、まず譜面があって、それぞれのパーツは個人に委ねる。それってジャズ的な録り方なんですよ。もちろん、それは正しい録り方なんです。ただ、僕らの場合はそうじゃなくて、全員が俯瞰した視点でトータルなサウンドを見て、みんなでじっくり作り上げていく。普通はね、譜面を渡してしまえば、作曲者はあんまり言わないものなんですよ。「ドラムはもっと、こう叩いて欲しい」とか。そこはプロのプレーヤーとして任せるというか、委ねる部分でもあるので。でもこの方法だと“メガプテラスが目指す音には到達できない”ということに気づいた。

──もっと“バンドとしての作り込み”が必要だ、と。

柴田:場合によっては一度、曲を解体して、再構築する。もちろん、その過程にもメンバー全員が関与する、ということです。

宮川:だから、ひとつの曲が完成する過程にもいろんなパターンがあるんですよ。例えば、僕が提案したコード進行があって、これに対してフロントの二人がメロディをつけてくれたりとか。だからCDのクレジット上は、それぞれの楽曲に“作曲者”が存在しますけど、実際にはみんなのアイディアが反映された“5人の曲”なんです。僕はこれまでそういう作り方をするバンドを経験してこなかったので、すごく新鮮で面白いですね。

──しかし、一度完成した録音物をお蔵入りにして録り直すって、ものすごい信念というか精神力が必要ですよね。

柴田:プロとしては、もしかしたら間違ったことをやってるのかもしれません。なんせ、一銭にもならないことに多くの時間を割くわけだから。何日も合宿をして、納得いくまでひたすら試行錯誤を繰り返すし、このアルバムのレコーディングに関しても、ニューヨークまで行ってやりましたけど、その間に入る日本での仕事を断るわけです。ただ、それを“やれる”っていうのは、信頼関係の賜物だし、それだけの手間やリスクを冒してでも“やる価値がある”と思える。それがこのバンドの魅力だし、それだけのコミットメントと信頼関係が、このバンドにはある。

──(さっき喧嘩してたくせに……)ところで、グループとしての野望とか、達成したい目標みたいなものはあるんですか?

中林:これは昨日、みんなで酒飲みながら話してたんですけどね。

──あの……さっきから聞いてると、重要な話の時には、もれなくセットで“居酒屋”的なものがついてきますよね。

中林:はい、すいません(笑)。大体のことは酒の席で決まるので……。これはまあメガプテラスの野望とか目標とは少し違うんですけど“こういう存在でありたい”っていうビジョンはあるんです。

──具体的には、どんな?

中林:例えばね、メガプテラスのライブに行くと必ず、何か面白いことが起こる。

──漫才とか。

中林:いや(笑)、それも要素のひとつかもしれませんけどね、例えば「メガプテラスのライブには、音楽以外にも、アートやファッションに敏感な人たちがたくさん集まってくる」っていう状況を作るだけでも、その空間は魅力的な場所になると思うんですよ。

──音楽を含む“複合的なカルチャーの発信地”みたいなイメージですかね。

中林:そう。メガプテラスのライブに行くと、何か面白いカルチャーと出会える。それは何でもいいんですよ。アートでもいいし食べ物でもいいし。そういうユニークな人たちの交流の場だったり、情報交換の場になっていくのも素晴らしいことだと思うんですね。そういうカルチャーを体感できる場所として、メガプテラスのライブ現場が機能すればいいな、と思ってます。

──うん。ちょっとワクワクしますね。

中林:僕らの飲み会はね、こういう真面目な話もしてるわけですよ。

──酔っ払って騒いでるだけじゃなかったんですね……。

黒田:そう。薫平の言う通り、僕らは会場に行って、ただ演奏するだけじゃなくて、その場で聴いてくれている人たちと「いい時間を共有できた」と思えることをゴールに設定しているんです。そのための環境づくりも含めて、演奏以外にやるべきことはたくさんある。

──なるほど。そりゃ“服を脱ぐことも辞さない”宣言も出ますよね。

黒田:そういうことです。

──ところで、こうしたインタビューとか、レコーディングやライブ以外で、5人で会うことってあるんですか?

全員:ありますよ。

西口:しょっちゅうです。

柴田:さっきも言った通り、基本は飲み会ですから。よく5人で飲んでます。

──飲み会での話題で、いちばん盛り上がるトピックって何ですか?

黒田&西口:(見事なユニゾンで)柴田の悪口ですね。

──そこで2管のコンビネーションとか見せなくていいですから。っていうか、それもう完全にネタじゃないですか……。

柴田:いやこれネタじゃなくてね、ホンマにね、マジな話なんですわ(泣)。

──いや、あなたもね、オチとかつけなくていいんですよ。

こうして、一同の笑いをもってインタビューは閉じるのだが、仲がいいのはよくわかった。しかし5人にとってメガプテラスは決して“居心地のいいぬるま湯”ではない。曲づくりやレコーディングに関するエピソードを聞くまでもなく、相当にタフで繊細な「ものづくり」をやっていることは容易に察しがつく。
このインタビューのあと、5人は颯爽とステージに登場し、さらりと演奏を始めるのだが、5人揃って音を出した瞬間の、なんともまあカッコいいこと。インタビュー中、黒田は「クールであることや、カッコよさの優先順位は低い」という旨の発言をしているが、メガプテラスのプレイは圧倒的にクールで、ホットで、カッコいい。しかし、それでもステージ上の黒田は、わざわざ道化役を買って出るのだ。皆を楽しませるために。


取材・文=楠元伸哉 撮影=藤森勇気

リリース情報
『Full Throttle』
発売元:ユニバーサル・ミュージック・ジャパン
発売日:2017年2月15日
オフィシャルサイト
http://www.universal-music.co.jp/megapteras/
UNIVERSAL MUSIC STORE
http://store.universal-music.co.jp/product/uccj2140/
iTunes Store
https://itunes.apple.com/jp/album/full-throttle/id1202106686?app=itunes&ign-mpt=uo%3D8
Spotify
https://open.spotify.com/album/2F1lao3ZpMCXsnBqtuTc7f

 

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