サイダーガールとHalo at 四畳半のスプリットツアーファイナルで「人見知りバンド」たちが描いた景色は

レポート
音楽
2017.4.5
Halo at 四畳半 撮影=佐藤広理

Halo at 四畳半 撮影=佐藤広理

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Livemasters Inc. 5th Anniversary Tour "3 on 3" 
2017.03.23 LIQUIDROOM ebisu

今年設立5周年を迎えたライブマスターズ株式会社。すっかり恒例となったカウントダウンイベント『GT2017』、Hello Sleepwalkers/CIVILIAN/Ivy to Fraudulent Gameによる東名阪ツアー『Dreieck』――と続いてきたアニバーサリー企画の第3弾として、サイダーガールHalo at 四畳半による東名阪スプリットツアー『Livemasters Inc. 5th Anniversary Tour "3 on 3"』が開催された。各地ごとにゲストバンドを招いてのスリーマンを展開してきたこのツアーだが、3月23日の東京・LIQUIDROOM ebisu公演にはmol-74が登場。因みにツアータイトルに用いられている“3 on 3”というのは、3対3で行われるストリートバスケットボールの試合形態のこと。出演バンドがスリーピースというわけではない。しかし全箇所スリーマン形式でツアーをまわっている、という点からも想像できるように、このツアーはどうやら同じステージ上で演奏をする3組をひとつのチームとして捉えているよう。切磋琢磨しながら、一丸となってひとつのゴールを目指していったこのツアーは、最後にどんな景色を生み出したのか。その模様をレポートしていきたい。

mol-74 撮影=佐藤広理

mol-74 撮影=佐藤広理

最初に登場したmol-74は、温かで物憂げな春風を届けるように「エイプリル」でスタート。武市 和希(Vo,Gt,Key)の透明感のある歌声とそっと彩りを加える井上 雄斗(Gt,Cho)のサウンドによって生まれるやわらかな世界に、楔を打つような坂東 志洋(Dr)のビート。一般的な4ピースバンドとは異なり、ドラムを下手側に置くセッティングも功を奏したのか、以前よりも音の輪郭がはっきりするようになった印象。5月リリースのミニアルバム『colors』の収録曲も含むセットリストからも、彼らが今挑戦の季節にいることが伺えた。神秘的な音像の中、井上のプレイに一層熱が入り、坂東の手数がじわじわと増え、武市の高音ファルセットがどこまでも伸び――とバンドの内側から熱が高まっていく。上から下からそして横からと場内を侵食していくサウンドを前に、オーディエンスもじっくりと聴き入る。

mol-74 撮影=佐藤広理

mol-74 撮影=佐藤広理

MCでは武市が、ステージに出る直前までHalo at 四畳半・白井將人(Ba)にイジられた、しかしそのおかげで緊張がほぐれた、と伝える場面も。その後は“3on 3”になぞらえて、「僕はバスケが苦手なんですけど、音楽でスリーポイントを決めて帰りたいと思います」と宣言し、「僕らの中で一番楽しい曲」だという「%」へ。オーディエンスはAメロの始まりとともに揃って高速手拍子をしたり、変拍子を駆使した曲調に身を任せるように身体を揺らしたり、自由に楽しんでいるようだった。そして「いつかここでワンマンライブをやれるように頑張るので見届けてください」(武市)という言葉とともに、目一杯の明転の中で「tears」を響かせ、サイダーガールへバトンを繋ぐ。

mol-74 撮影=佐藤広理

mol-74 撮影=佐藤広理

サイダーガール 撮影=佐藤広理

サイダーガール 撮影=佐藤広理

続くサイダーガールは、「ドラマチック」のどこまでも開かれたサウンドが清々しいオープニング。全体を通して見るとラストの「NO.2」以外は“1stミニアルバム→2ndミニアルバム→3rd&4thミニアルバム”とリリース順に曲を並べたようなセットリスト。そのため、この日のライブもバンドの軌跡を確かめるようなテンションのものだった。昨年は特に全国各地のフェスやイベントにも精力的に出演していたが、例えばリズムのアクセントの置き方、力強さを増したYurin(Vo/Gt.)のヴォーカル、彼の歌声を支えるような知(Gt.)のコーラス、歌心のあるフジムラ(Ba.)のフレージング、など成長が垣間見える部分が多い。

サイダーガール 撮影=佐藤広理

サイダーガール 撮影=佐藤広理

東京でのライブは年末ぶり、さらにリキッドルームのステージに立つことはフジムラの夢のひとつだったと言っていたが、とはいえブランクを感じさせることも気合いが空回りすることもなく、自然体で成長を重ねていくバンドの姿がそこにあった。正統派のギターロックサウンドが聴き手の胸を昂らせるなか、中盤にはオレンジの照明に包まれながら、渾身のバラード「夕凪」も演奏。さらに「ハロはスゲー良い曲で、スゲー良いライブをするんですよ。だから一緒にまわって得られるものが大きかったんです」(Yurin)と3日間を共にした仲間を讃えたあとは、「せっかくなのでHalo at 四畳半の曲を……」と「春が終わる前に」を披露した。変な話、そういう曲紹介さえなければまるでサイダーガールの曲に聴こえてしまうほど一切違和感このカバーによって、やはりこの2組は親和性が高いのだとここにきて改めて実感する。そして「ベッドルームアンドシープ」「NO.2」の連投で、駆け抜けるようにしてステージを去っていった。

サイダーガール 撮影=佐藤広理

サイダーガール 撮影=佐藤広理

Halo at 四畳半 撮影=佐藤広理

Halo at 四畳半 撮影=佐藤広理

ラストはHalo at 四畳半。〈何処までも飛べるだろう/その手を離さぬように〉と唄う1曲目「リバース・デイ」が始まるとオーディエンスは高く腕を突き上げる。感情を漲らせ外気をビリビリ震わせまくる渡井翔汰(Vo&Gt)の歌や、齋木孝平(Gt&Cho)による泣きのギターソロ。それらをガッチリとボトムアップしつつ、ギミックに富んだプレイを見せるのが白井&片山僚(Dr&Cho)のリズム隊だ。歌モノバンドとはいえヴォーカルに甘えないメンバーの姿勢が向上心へ繋がり、バンドが頼もしくなるほど、渡井の歌はもっと強くなっていく。彼らはそういうメカニズムでここまで進んできたバンドなのだろう。MCでは、互いに人見知り同士にも関わらずサイダーガールと仲良くなれた喜びを白井が語り(袖からは「イェーイ!」とYurinの声が)、渡井が「人見知りっていうのは人に言葉を受け渡すことが苦手な人のことだと思います。でも今の時代においてそれは決して悪いことではないと俺は思う」「それがあったから俺は音楽をやれてるし、サイダーガールとツアーをまわれたし、こんなにたくさんの人の前で唄えてる」と補足。人見知りゆえに「伝える」という行為に対して慎重な人たちの集まりであるこの2組。ツアーをまわり、互いのステージを見合うなかで、相手の誠実さに気づき、心動かされ、2組の距離は自然と縮まっていったようだ。本編ラストに鳴らされた「シャロン」は、この場にいる全員の臆病な心や不器用な性格をまるごと肯定するかのよう。いくつもの拳が上がるなか、「千葉県佐倉市、Halo at 四畳半でした! そして、ツアー“3 on 3”でした!」(渡井)という最後の挨拶とともに大団円を迎えたのだった。

Halo at 四畳半 撮影=佐藤広理

Halo at 四畳半 撮影=佐藤広理

ハロの4人が再登場したアンコールでは、初日の名古屋公演にてサイダーガールが「このツアーのために持ってきました」と言ってやり始めた曲があったこと、よくよく聴くとそれが自分たちの曲で驚いた……と白井が明かし、あえて曲紹介をせずに「ドラマチック」をカバーしてみせる、という粋な場面も。そんな音楽を介したコミュニケーションからも、このツアーの充実感がよく伝わってきたのだった。


取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=佐藤広理

Halo at 四畳半 撮影=佐藤広理

Halo at 四畳半 撮影=佐藤広理

セットリスト
Livemasters Inc. 5th Anniversary Tour "3 on 3" 
2017.03.23 LIQUIDROOM ebisu
 
・mol-74
1. エイプリル
2. light
3. グレイッシュ
4. ヘールシャム
5. %
6. tears
 
・サイダーガール
1. ドラマチック
2. 魔法
3. 夜が明けるまで
4. 夕凪
5. スワロウ
6. 春が終わる前に(Halo at 四畳半カバー)
7. オーバードライブ
8. ベッドルームアンドシープ
9. NO.2
 
・Halo at 四畳半
1. リバース・デイ
2. カイライ旅団と海辺の街
3. アメイジア
4. 硝子の魔法
5. ペイパームーン
6. モールス
7. 箒星について
8. シャロン
[ENCORE]
9. ドラマチック(サイダーガールカバー)
10. 飛行船
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