未来の子供たちへと繋ぐ至高の音と精神 初開催の『Rocks ForChile』最速レポ
ストレイテナー 撮影=平野大輔
Rocks ForChile 2017.3.25 Zepp OSAKA Bayside
3月25日、『Rocks ForChile』という名の新たなロックフェスが産声をあげた。数あるフェスの中でこの『Rocks ForChile』が他と一線を画すポイントが、“FOR CHILDREN OF THE FUTURE”とサブタイトルにある通り、「未来の子供たちへ」のメッセージを掲げている点。や物販の収益の一部をセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに寄付するほか、大阪の児童養護学校への楽器の贈呈に充てたり、難民キャンプのVR体験ブースがあったりと、これから音楽と出会い、未来の音楽シーンを作っていくであろう子供たちへの想いを形にしたフェスなのである。この趣旨に賛同したアーティストたちが、まだ新築の匂いの残る大阪の音楽シーンの新たなシンボル・大阪・Zepp OSAKA Baysideに集い、第一回から豪華かつ多彩な顔ぶれによるライブが繰り広げられた。
揺れるドレス 撮影=平野大輔
開場して間もなく、進行役を務めるFM802のDJ・野村雅夫がステージに登場して呼び込んだのは、この日のオープニングアクト。2016年4月結成、『関西高校生バンドフェス2017』の優勝をかっさらったバンド・揺れるドレスだ。Zeppの大舞台を踏む貴重な機会に挑んだ彼らは、まず向き合いゆっくりと音を合わせたかと思えば、歯切れの良いカッティングと軽快なリズム隊が印象的なバンドサウンドを響かせて場内を驚かせる。ソウルテイストを纏った楽曲たちの完成度は高く、初々しくもちゃっかり野心をのぞかせたMCも清々しかった。続いてはさらに年代が下がり、小学生ダンサー・ユニット・SOUL BRENDの面々が登場。ただでさえ広いステージがより広大に見えるにもかかわらず、その中心で堂々とスポットライトを浴び、終始キレのあるダンスパフォーマンスを見せるあたり、末恐ろしい。
WEAVER 撮影=平野大輔
オープニングアクト2組を大きな拍手であたたかく送ったフロア。ふと気づけば人口密度がグッと上昇しており、開演時刻が迫っていることに気づく。一組目はWEAVERだ。「大阪、みんなはじめようか!」と杉本雄治(Vo/Pf)が高らかにフェスの開幕を告げると、場内を明るい光と「S.O.S.」のダンサブルなサウンドが満たしていく。編成上唯一自由に動ける奥野翔太(Ba)は、ステージ最前まで歩み出て盛り上げながら、キツいエフェクトまで駆使したりと安定したベースプレイでサウンドに厚みをもたせている。「初めて観る人?」との問いへのリアクションからして初見のファンも多かったようだが、関西出身の彼らだけあってご当地ネタを交えながらのMCで笑いを誘ったかと思えば、続くバラード「Beloved」ではドラマティックな美メロと響かせたりと、どんどん場内を引き込んでいった。後半にはWEAVERの新境地とも言える80’sテイストの新曲「Shake! Shake!」、レーザー光線と河邉徹(Dr)の刻む硬質なハンマービートから人力EDMにアレンジされた「ティンカーベル」を披露するなど多彩な引き出しを見せつけ、最後は歓声に迎えられた「トキドキセカイ」で締め。見事初回のトップバッターという大役を果たしてみせた。
WEAVER 撮影=平野大輔
TRICERATOPS 撮影=平野大輔
幕間にお笑いなどが楽しめるように設けられた、フロア上手側のサブステージの紹介と、そこでの小学生ストリートパフォーマー・LEOのパフォーマンスに沸いた後、メインステージにはTRICERATOPSが登場した。サウンドチェックからクラシカルなブルースセッションを展開するあたり、やはりこの人たちは生粋のロックバンドだ。「MILK&SUGAR」にしろ「GOING TO THE MOON」にしろ、構成自体はごくシンプルなのだが、譜面には現れない、この3人にしか生み出し得ないグルーヴと良い意味での余裕が、楽曲に奥行きをもたらしている。和田唱(Vo/G)は楽しそうに弾きまくり、林幸治(B)は淡々と色気のあるフレーズで、吉田佳史(Dr)はビシッと端正なドラムプレイで魅せ、オーディエンスは思い思いに身体を揺らす。MCでは「子供と一緒に楽しめるフェスってありそうでなかった、とても良いこと」(和田)と、このイベントについて共感を示しつつ「その割には出るバンドが非常に硬派なんですね(笑)」「今日観にきた子供は非常にロックな少年に、青年に育っていくんじゃないかな」と核心に迫る発言。会場が沸く。その後も“非常に硬派なバンドたち”の一員として、「MIRROR」「Raspberry」などを披露。子供に見せるべきオトナのロックってつまりこれなんだな、と断定したくなるようなライブであった。
TRICERATOPS 撮影=平野大輔
MANNISH BOYS 撮影=平野大輔
トライセラ・和田が言うところの“非常に硬派なバンドたち”ということで言えば、その筆頭格といえるのが3組目に登場した斉藤和義と中村達也のユニット・MANNISH BOYSだろう。ホーンとベースを従えての彼らのステージは挨拶代わりの「MANNISH BOYSのテーマ」から。スカ調のご機嫌なナンバー「曲がれない」、怪し気に疾走して高揚を誘う「グッグギャラグッグ」と繋ぐうちに場内のボルテージは急上昇していき、中村によるドラムを叩きながらのフリーな煽りにもレスポンスよく応えていく。メロディアスな曲調もよく似合う斉藤の歌声を堪能できたのは「Only You」。その憂いと叙情性を含んだ響きに、パワフルかつテクニカル、もはやリズム楽器の範疇では語りきれない中村のプレイが合わさることで、他に類を見ないMANNISH BOYSの音となっていることがよく分かる。斉藤の軽快なステージアクションにも沸いた「GO! GO! Cherry Boy!」から再加速したライブは、「Mach Venus」であっという間に終りの時を迎える。MCがほとんどマトモに入らないこともあって、実際のところ演奏曲数自体は一番多いのだが、それでも物足りなさを感じさせるほど圧倒的なクオリティ。瞬く間に目も耳も奪っていく彼らのステージは、まさに嵐のようであった。
MANNISH BOYS 撮影=平野大輔
MANNISH BOYS 撮影=平野大輔
go!go!vanillas 撮影=平野大輔
トリ前を任されたのは、出演者のうち一番最近までキッズ年代であった(ライブ中には「まだまだ子供」との発言も)go!go!vanillas。牧達弥(Vo/G)もMCで言及していたが、この日の先輩共演者たちの音楽にも触れながら成長してきたという彼らがこの重要な持ち場に就いたことこそ、ロックを次の世代に継承するというこのフェスの意志を体現しているのではないだろうか。「俺たちのロックンロールの魔法にかかっていけ!」と「マジック」から幕を開けたバニラズのライブ。そこで鳴らされる音もまたロックの歴史上で脈々と受け継がれてきた伝統と、2017年に鳴る音としての時代性とが融合を果たしており、老若男女に強烈に作用するものだった。ジェットセイヤ(Dr)は叩きながら立ち上がり、牧、柳沢進太郎(G)、長谷川プリティ敬祐(B)の3人はステージ面積をいっぱいに使ったアクションや3声のハーモニーで楽しませ、「ヒンキーディンキーパーティークルー」「エマ」「カウンターアクション」などキラーチューンを惜しみなく投下していく。最後はこの後に控える大トリ、ストレイテナーのホリエアツシ(Vo/G/Key)がプロデュースを手掛けた「おはようカルチャー」で締めるという粋なバトンパス。その痛快なライブは、ロックの今と未来が明るいことを信じさせるだけの説得力に満ちていた。
go!go!vanillas 撮影=平野大輔
go!go!vanillas 撮影=平野大輔
ストレイテナー 撮影=平野大輔
初開催の『Rocks ForChile』、記念すべきヘッドライナーを務めたストレイテナーを今日一番の大歓声とクラップが迎える。いきなりレゲエ調のリズムに乗ったジャムという意表をつく演出からなだれ込んだ「From Noon Till Dawn」でライブはスタート。派手に明滅する照明に照らされたフロアからは無数の手が上がり、日向秀和(B)の放つ凶悪な重低音に導かれ「SPEEDGUN」へ。フェスにこういった曲を持ってきてくれるのがストレイテナーのいいところ。大山純(G)のファンキーなカッティングにフロアが身を委ねた、すっかり定番のダンスナンバー「Alternative Dancer」、さらには大阪初披露の新曲「月に読む手紙」と続ける。各パートが軽やかに音を重ねた真ん中にホリエのやわらかな歌声が響く、とてもピースフルな楽曲だ。最強アンセム「Melodic Storm」でライブはクライマックスへと向かい、爽やかな疾走の中にどこかセンチメンタルな余韻を残す「シーグラス」で締めくくられた。アンコールで再登場すると、「最近大阪で全然やらないですね、と言われた曲」との前フリから、ナカヤマシンペイ(Dr)渾身のビートがフロアを撃ち抜く。「KILLER TUNE」だ! 言わずもがな、文字通りのキラーチューンっぷりでZeppを揺らし、4人はステージを後にした。
ホリエは、これだけ先輩方がいる中自分たちがトリなのは、真ん中だから。つまりは世代をつなぐ役割なのだろうと語っていたが、きっとその通りだと思う。オルタナティヴ・ロックの尖った部分、時代を超えるポップソングの普遍性、先輩/後輩、そしてファンからも愛されるバンド・ストレイテナー。彼らがトリで本当に良かった。そう思った参加者はきっとたくさんいる。
ストレイテナー 撮影=平野大輔
ストレイテナー 撮影=平野大輔
この日登場した多彩な出演者。そして、「子供たちのため」としながらも骨太な顔ぶれの意味。それは子供達に伝えて引き継いでもらいたい、いろんなタイプのロックと精神、思想がそこにあるからに他ならない。音楽に力はあるのか。何ができるのか。世界を変えられるのか。この日の『Rocks ForChile』で鳴った音、語られた言葉、滲み出た生き様を受け取った次の世代が描く未来こそ、数え切れないくらい繰り返されてきたその問いに対する一つの答えとなるはずだ。
取材・文=風間大洋 撮影=平野大輔
ストレイテナー 撮影=平野大輔
揺れるドレス(オープニングアクト)