春風亭一之輔の話芸を間近で堪能! ありそうでなかった、平日夜の新しい贅沢『リビング落語』が開幕

レポート
舞台
2017.4.4
春風亭一之輔 撮影=髙橋定敬

春風亭一之輔 撮影=髙橋定敬

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新しい感覚で楽しめる落語会、『リビング落語』がはじまった。4月3日に開幕した記念すべき第1弾は、春風亭一之輔による『春風亭一之輔ノ世界 春の陣』(2017年4月3日~6日)。会場は、渋谷・道玄坂のeplus LIVING ROOM CAFE & DININGだ。落語界の一流エースが登場するとあり、新年度最初の平日にもかかわらず会場は満席となった。初日のゲストは、紙切りの林家二楽。演目は次のとおり。

一、オープニングトーク:春風亭一之輔、林家二楽 
一、「新聞記事」春風亭一之輔
一、紙切り:林家二楽
〜仲入り〜
一、「花見の仇討ち」春風亭一之輔

 

ビギナーにも通にも、贅沢な落語会

『リビング落語』イメージ

リビング落語』イメージ

「一之輔師匠を、この人数で、この距離で?!」これが、最初の感想だった。筆者が座ったのはDinningエリアの後方の席だったが、高座までの距離は池袋演芸場の角の席ほどだろうか。

落語会にしては暗め客席の照明、食事込みでありながら開演前にテーブルの上が片付けられる配慮も嬉しい(終演後にまたいただくことも可能だ)。さらには、隣りの他人が気にならない座席のゆったり感など、ひとつひとつの要素のおかげで気持ちが落語に向きやすく、会場全体に高座を中心とした一体感があったように思う。気の早い話だが、春風亭一之輔に続き、柳家喬太郎(4月24日~4月26日)も柳家三三(5月8日~5月11日)もこの距離感で楽しめると思うと、あらためて贅沢な落語会だと驚かされる。

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

もうひとつ触れておきたいのが、会場となっているeplus LIVING ROOM CAFE & DININGの雰囲気だ。インテリアや内装は質感も良く、壁には現代アーティストのアート作品がかかっており、圧倒的にお洒落な空間が広がる。しかし決してスノッブではなく、居心地が良いのだ。NYが拠点のアーティストのアパートメントってこんな感じかな……と想像しつつ「なるほど! だから‟リビング”落語か!」と遅まきながら、会の趣旨に気づかされる。大人が気持ちよく落語や演芸を楽しむのには、まさに最適な空間なのだ。

 

オープニングトーク

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

BGMがお囃子にかわり、メガネ姿の一之輔が登場。高座の斜め後方にあるステージ後方エリアのお客さんにひとしきり絡んでからトークへ。『リビング落語』では、寄席のように色物さん(※音曲や曲芸・奇術・踊りなどの総称)を呼びたいと考えたこと、大初日のため15時には会場入りしセッティング等を確かめたことなどを語る。

そして、ゲストの林家二楽を紹介。今度はふたりでステージ後方席のお客さんに絡み、その後「紙切り」の話題へ。一之輔の「伝統芸『紙切り』に一番大切なのは?」との問いに、二楽が「紙ですよ」と真顔で返すなど、会場は笑いに包まれた。二楽は、紙切りに使っている鋏と立川談志との関係や、古今亭志ん朝とのエピソードも披露した。

左:春風亭一之輔 右:林家二楽 撮影=髙橋定敬

左:春風亭一之輔 右:林家二楽 撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

 

愛すべきクレイジーな八五郎

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

一之輔の一席目。まくらでは、自身の子どもの小学校での出来事を紹介しつつも「こういう話をしたら普通は子どものネタにいくんですけれど、急に(子どものネタを)したくなくなっちゃった」と笑ってみせ、おもむろに「世の中にはわからないことがございます」と切り出して『新聞記事』の噺へ。ご隠居さんのドヤ顔と間、八五郎の愛すべきお馬鹿キャラ、天ぷら屋の竹さんのキレっぷりに、笑いが途切れることがなかった。

 

体を揺らして魅せる、目も耳も楽しい名人芸

林家二楽 撮影=髙橋定敬

林家二楽 撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

続いて、林家二楽による紙切りが開幕。紙切りを初めて観る来場者もいた当公演。しかしながら、試し切りの「桃太郎」から会場は大盛り上がり。客席にリクエストを聞けば、エリアを問わずあちこちの席から声が上がった。手と体と口を動かし続けながら披露される、二楽の即興の技。中でも「大谷翔平選手」のお題に対しては、とある粋な演出で会場を魅了。仲入りの際、来場者の間でも「あれはすごかった」と話題にあがっていた。

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

 

満開の桜の樹の下で、超一流の話芸

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

最後の一席は、予告通り一之輔の『花見の仇討ち』だ。簡単に概要を紹介する。

『花見の仇討ち』あらすじ
季節は春。満開をむえかる上野の山で、江戸っ子4人組が花見をしようということに。ただ桜を見るだけではつまらないから、花見客を相手に「見たものがアッと言って口がふさがらないような、お金のかからない出し物をやろう」と盛り上がる。そこで4人のうちの一人、熊が提案するのが『巡礼兄弟の仇討』という設定の茶番劇だ。熊は、3人に筋書きを説明する。

≪桜の木の下で仇役が煙草を吸っているところに、親の仇を探す兄と弟(巡礼兄弟)がその火を借りにくる。兄弟は、目の前の男に気づき「ヤァ〜めずらしや!汝は~」と口上を述べ、両者が刀を抜く。そこに六十六部役が現れて、仲裁に入り背負っていた櫃から酒を出し振る舞い、かっぽれを踊る。見物人たちは「なんだ、花見の趣向だったのか!」と驚く≫という計画だ。しかし、兄弟役は頼りなく、仇討の口上や殺陣の稽古をさせて当日を迎えるも、やっかいな親戚や、ありがた迷惑な侍の登場に振り回されて……


仲裁役の「六十六部」は全国を旅する巡礼者だ。六十六部は背中の箱(※おいびつ、本来はお経などが入っている)にお酒を入れて行く算段になっている。落語初心者も多くみられた今回の高座では、一之輔がこの辺りもテンポよく説明していた。

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

「こういうことをやると必ず俺がわりをくう」と仇役の熊がぼやく通り、兄弟役も六十六部役も頼りない。間の抜けたやり取りが続くが、続くほどにおかしみが積み重なっていく。隙あらばギャグが入り、アクションも多めで、終盤で続く怒涛の殺陣のシーンではお腹を抱えて笑ってしまった。

噺の中で、桜の樹について細かい描写があったわけではない。それでも一之輔がみせた4人組の、“必死なのにユルい”掛け合いはどこか春らしかった。終演後、帰り道で思い出す『花見の仇討ち』の背景には、満開の桜がみえた。

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

 

平日夜の贅沢な使い方

『リビング落語』は、カフェなどの小規模な落語会では観られない人気・実力を兼ね備えた第一線の噺家さんを、ディナーショーよりもぐっと近い距離感で、初心者に参加しやすい環境で楽しませてくれる。さくっと仕事を切り上げて駆け込めば、温かい食事とお酒、そして極上の笑いが待っている。大人のための、平日夜の「間違いない」使い方だ。

来場者の中には、この会の総合プロデューサーである寺岡呼人をきっかけに来場したという、落語初体験の女性グループも。「とっても楽しめました」「落語ってこんなに楽しいんですね」「高座が客席と近いなと思いました」と笑顔で話してくれた。

ありそうでなかった新しいスタイルの落語会『リビング落語』。第一弾『春風亭一之輔ノ世界 春の陣』は4月6日まで開催。その後も、第二回 柳家喬太郎『柳家喬太郎と道玄坂の夜』、第三回 柳家三三『Salon De 三三』と続く。

撮影=髙橋定敬

撮影=髙橋定敬

イベント情報
リビング落語『春風亭一之輔ノ世界』春の陣

日時:4月3日(月)~4月6日(木)
開場/開演開場・お食事開始 18:00/開演 19:30(各回共通)21:30頃終演予定
会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING(渋谷区)
出演:春風亭一之輔(オープニングトークと落語2席)
共演:
4月3日(月)紙切り:林家二楽
4月4日(火)音曲漫才:おしどり
4月5日(水)実録漫談:コラアゲンはいごうまん
4月6日(木)漫才:ロケット団

「リビング落語」 第二回 柳家喬太郎 「柳家喬太郎と道玄坂の夜」
日程:4月24日(月)~4月26日(水)
共演:一龍斎貞寿、一龍斎貞橘、神田茜
 
「リビング落語」 第三回 柳家三三 「Salon De 三三」
日程:5月8日(月)~5月11日(木)
共演:柳亭市馬、古今亭菊志ん、尾瀬あきら

公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/theliving/rakugo/index.html
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