ストイックに研鑽を続ける鈴木舞と實川風による二重奏「作曲家や演奏家が命を削って作り上げた音楽を伝えたい」

レポート
2017.5.9
鈴木舞&實川風

鈴木舞&實川風

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出会いから10年の時間が作り上げた信頼のメロディー 鈴木舞&實川風 “サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.4.2. ライブレポート

サンデー・ブランチ・クラシックは「クラシック音楽を、もっと身近に。」をモットーに、一流アーティストの生演奏を気軽に楽しんでもらおうと毎週日曜の午後に開催されている。4月2日は両名ともに国際コンクールで上位入賞するなど、華々しい活躍で注目されるヴァイオリニスト鈴木舞と、ピアニスト實川風(じつかわ かおる)が登場した。

MC中の2人

MC中の2人

鈴木によれば「私たちは同じ東京藝術大学付属高校というところに通っていた、同じ学年です。いま私たちが何歳かというのがバレてしまうんですけれども、出会ってから10年余り。毎年のようにふたりで演奏させていただいています。ヨーロッパのデュオ(二重奏)のための講習会というのも一緒に行って、10日間みっちりデュオをやったりしましたし、これから先もいくつかコンサートやレコーディングが予定されています」とのこと。20代半ばにして既に10年の共演歴を誇る、気心の知れたデュオなのだ。

まずは20世紀を代表する大ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツがヴァイオリンとピアノのために編曲したドビュッシーの小品「ゴリウォーグのケークウォーク」と「美しき夕べ」から演奏がはじまった(鈴木が師事していたヴァイオリニスト、ピエール・アモイヤルはハイフェッツの高弟であるため、鈴木はハイフェッツの孫弟子ということになる)。

實川も「小品ほど難しくって、ソナタはピアノが完全に主導権を握る場所もあるんですけれど、小品はヴァイオリンが完全に主導権を握っている……、だけれどもピアニストは邪魔もしないけれども、実は音楽を前に進めていたりとか、淡々とした仕事は小品の方が意外とあるかもしれないです」と語っているように、一聴したところ簡単そうに聴こえる小品ほど、突き詰めていくのは難しい。

カフェでお食事を楽しみながら

カフェでお食事を楽しみながら

実際、絶妙なテンポの揺らしが演奏の肝となる「ゴリウォーグのケークウォーク」では、出だしの方で若干の噛み合わなさを感じないでもなかったが、そこは気心知れた仲である。相手の変化に合わせてすぐに軌道修正をはかり、阿吽の呼吸を感じさせる息の合った演奏を聴かせてくれた。「美しき夕べ」はその名の通り、夕暮れのあの柔らかで繊細な色彩感を音楽で描いた作品であるのだが、鈴木は銘器アマティからビロードのような音色を最大限引き出して、ドビュッシーらしい繊細な世界観を見事に描いてみせた。サポートにまわる實川も、鈴木のそうした音楽性を徹底的に引き立てるから見事である。

曲間には「今日はこんなにもたくさんのお客様にいらしていただき、どうもありがとうございます。なんと満席ということで、とても嬉しいです」と鈴木がご挨拶。その後、鈴木が一度舞台をおりて、實川のソロとなる。

「先ほどうかがったんですけれども、ここリビングルームカフェというのは演奏家の方が自宅に皆様を招いてくつろいでいただくという、僕の側がホスト側という、そういうコンセプトだと聞きました。僕も演奏していて、家にこんなお客さんを呼ぶ部屋があったらいいなということを空想しながらですね、今日は30分間、僕が一番いい気持ちに浸って、演奏してるんじゃないかなと、そんな気持ちおります(笑)」と、自身が一番楽しんでいることを正直に告白する實川。彼のソロで聴かせてくれたのは同じくドビュッシーの「花火」(『前奏曲集』第2巻より)だ。続けて、曲の背景を丁寧に説明していく。

「この曲はフランスの夏にある、建国記念日に打ち上げられる花火。それは国民的行事なんですけれども、その様子にドビュッシーが感銘を受けて書かれました。花火の飛び散るような色彩感、本当に色んな花火が出てきます。聴いてお分かりになると思うんですけれども、一番最後に打ち上げられる花火が一番大きな、日本でも最後にむかって盛り上がっていきますけれども、そういう感じで色んな花火が出て来る曲になっています。」

實川 風

實川 風

この解説からダイナミックな演奏を予想していたのだが、その期待は良い意味で裏切られた。繊細さが楽曲全体の基調となっているため、花火の数や大きさが段々と増していく過程が無理なく自然と浮かび上がってきた。実際、實川は「僕はいろんな音色を組み合わせて〔音楽を〕作るというのがけっこう好きでして……ネクラな趣味ですけれども(笑)」というほど、人一倍の音色へのこだわりをもっているのだ。

満席の会場から大きな拍手が送られると、再びマイクをもった實川は、チップシステムについて触れながら「クラシックの演奏家というとですね、よくあるのはチケットをお買い頂いて、本番にむけてプレッシャーを感じて、“いい演奏をするぞ”といつも思っているんです。けれども今日は自分の演奏が直にかえってくるという有難くも大変厳しくもある、大道芸人の原点に戻ったような気分です。もし良い演奏だったと思いましたら、0をいくつ付けていただいても僕たちは困りませんので(笑)、よろしくお願いいたします」と会場からどっと笑いを引き出し、今度は鈴木へマイクを譲る。

プログラム本編のラストとなったのは、わずか24歳でこの世を去った天才リリー・ブーランジェの「ノクターンとコルテージュ」だ。鈴木は珍しいこの曲を師匠のアモイヤルから薦められて弾くようになったという。

「ノクターン(夜想曲)」は、フランス音楽らしい流麗な音楽なのだが、どことなくロシアの作曲家ボロディンを想起させるようなノスタルジックな音楽からの影響も感じさせる。この作品を「美しき夕べ」と同じような、手触りの良いビロードのようなサウンドで叙情的に奏でた。「コルテージュ(行列)」については鈴木自身が「行列というと皆さんどういうイメージでしょうか? 私なんかは、日本の行列というとラーメン屋さんの行列とか、そんな印象なんですけれども……(笑)。この曲を聴いたとき、子どもたちが例えば、遊園地の乗り物を待っているとか、綿あめの順番を待っているとか、そういうすごくワクワクした行列、待つ時間をイメージ」したと解説しているように、懐古的でノスタルジックな雰囲気を残しつつも、幸せが満ち満ちた雰囲気で会場を包み込むと、あたたかな拍手が返された。

鈴木 舞

鈴木 舞

アンコールに応える前には、9月20日発売のCDについて、スペシャルな情報が発表された。

 鈴木:今度ふたりで演奏する9月20日発売のCDなんですけれども、なんとボーナストラックを入れております。その録音はもう終わったんですけれども2曲だけ、とってもとってもビッグな方がピアノを弾いてくださって……。それも楽しみにしていただけたら嬉しいです。

 實川:〔そちらが〕本編かもしれないです(笑)。

 鈴木:そんなことはないです(笑)。

仲の良さを感じるやり取りの後にはアンコールとして、ヴュータン作曲「アメリカの思い出(ヤンキー・ドゥードル)」が演奏された。鈴木は「ヴュータン作曲のヤンキー・ドゥードルという曲を弾かせていただきます。どんな曲だろう?……っていう顔をなされていらっしゃるのが見えるんですけれども、メロディーを聴けば『ああこの曲!』と、絶対皆さん必ず知っている曲です」と事前にアナウンス。

1分ほどの前奏の後に、おぼろげに登場した旋律は、誰もが手遊び歌として遊んだに違いない「アルプス一万尺」――そう「アルプス一万尺」という歌は、アメリカの愛唱歌「ヤンキー・ドゥードル」に独自の訳詞をあてたものだったのだ。名ヴァイオリニスト、ヴュータンが「ヤンキー・ドゥードル」を華麗に変奏していくこの「アメリカの思い出」がド派手な終わりをむかえると今日一番の拍手と歓声が鳴り響いた。

終演後にお客様とのふれあいも

終演後にお客様とのふれあいも


彼らは「フランス音楽」と、どのように向かい合いながら、今回の素晴らしい演奏を聴かせてくれたのか――その秘密をインタビューでうかがった。

――實川さんが『サンデー・ブランチ・クラシック』に出演するのは初めてですが、鈴木さんは2回目ですね。前回はバラエティに富んだ曲目でしたが、今回は「フランス音楽」に絞ったプログラム。まずは、おふたりが感じる「フランスもの」の魅力を教えてください。

鈴木:6年間、フランス人のアモイヤル先生についていたんですけれど、そのあと「ドイツもの」もやはりレパートリーにしたいと思って、今はドイツに住んでいるんです。ドイツの先生と勉強していると、今まで以上に「フランスもの」の個性が感じられるようになりました。

「フランスもの」というと、やはりどんなに悲しかったり、どんなに落ち込んだり、どんなに悲劇でも、やっぱり笑顔で語れる強さというものがあると思うんですね。「ドイツもの」はズーンと沈んでいく感じなんですけれども、涙を流しながらほほ笑んでいるっていうシーンが見えるような、そんな曲が多いかなと思います。

――そこが魅力だと感じていらっしゃるんですね。

鈴木:はい。あとは華やかで、音色もやはりファンタジックなものを求められるんです。演奏の解釈も、こうだからこうしなきゃいけないというよりは、演奏者のイマジネーションにゆだねるって言うところがすごく大きいので、そういうところも魅力だと思います。

――師事されたアモイヤル先生からそのように習われたのでしょうか?

鈴木:そうですね。「もっとファンタジーとか、自分のイメージを明確に持て」というのが、すごく言われたことの一つですね。

――今度は、實川さんから見た「フランスもの」の魅力を教えてください。

實川:僕自身、実は長年自分が何にむいているんだろうかって、ずっと考えているんです。それはもういろいろ弾いてきて、ショパンもたくさん弾いたし、先生に言われてドビュッシーの「前奏曲」も、ラヴェルの「クープランの墓」とか、「ロシアもの」も弾いて、今はベートーヴェンをたくさん弾いているんですけど。

ドビュッシーなんかはピアノ曲だけではなくて、オーケストラ作品でも色彩ですね、やっぱり。すごくありきたりな話になってしまいますけれども、やっぱりあの時代の同じ20世紀でもベルクとか、ウェーベルンの書いたものは全く違うところにあって、ロシアだとラフマニノフとかプロコフィエフとかと時代は被っていますけど、音色の作り方が違います。〔フランスものには〕音色を考えながら弾く楽しさが、すごくあるんじゃないかなと。

「ドイツもの」は単体の響きの美しさではなくて、フレーズの語り口で言葉を重ねていってひとつの文章にしていったり、フレーズの作り方で美しさを見いだしたりすると思うんです。でも「フランスもの」って、何かこうモチーフを重ねてとかそういのはあまりないんですけれども、その場、その場の瞬間的な美しさとか、そういうものにトライするので、僕自身はそれもやりたいと思いつつ、なかなか難しいなと思っています。まだそんなに沢山は弾いていないので、これから「フランスもの」の方もやっていきたいなと思っているところで御座います。

インタビュー中の様子

インタビュー中の様子

――なるほど、おふたりの違いも面白いですね。鈴木さんも實川さんも華々しいコンクールの成果を残していらっしゃいますけれど、本日の演奏からはいかにもソリスティックにバリバリ弾くという印象はまったくなくて、驚くほど繊細な印象を受けました。鈴木さんご本人の心中としては、どのような演奏を目指していらっしゃるのでしょうか?

鈴木:今までフランスものをずっとやってきて、華やかな音色、そしてカラフルな音色というのを常に求めてきたんですけれども、やはりドイツに移ると、温かくて深みのある音色というのが求められるんですね。だからそういう音のバリエーションももちろんそうですけれども、増やしたり、もっと深い音を出せるようにって言うのが今後の課題です。

――温かくて深みのある音というのは、本日の演奏で強く感じました。そうした方向性は、ドイツ方面への留学というのが大きかったのですね。

鈴木:すごく影響されていますね。もちろん先生に教えていただくのもそうなんですけれども、現地の音楽家の演奏を聴くと、ものすごくインスパイアされます。例えばオーストリアに行く前はモーツァルトが苦手であんまり好きじゃなかったんですけれど、ウィーンフィルとかザルツブルクのオーケストラのモーツァルトをたくさん聴いて、こういう風に弾くのか……と、どんどん好きになって、得意になっていったんです。なので今、まだドイツに引っ越して間もないんですけれども、たくさん演奏を聴いてもっともっと吸収をしていきたいなと思っています。

――演奏間のトークで、明後日からCDのレコーディングが控えていらっしゃるとのことでしたが、どのような演目を録音されるのでしょうか?

鈴木:プーランクのソナタと、サン=サーンスのロンド・カプリチオーソ、あとは短い小品ですね。

――おふたりの演奏でプーランクやサン=サーンスが聴けるのが楽しみです! ひとつ気になったのですが、レコーディングの前って演奏家はどんな心境なんでしょうか?

鈴木:お客さんを前にした演奏と、レコーディングって全然違うんですね。今まで何回かレコーディングさせていただく機会があったんですけれども、お客さんを前にしたときってお客さんの反応、それから会場の響きとかそういうことを考えて、いかに計画をするのかっていうのを常に、演奏中も意識しているんです。

でもレコーディングって言うのは、コンサートの会場と違ってどんなに小さい音も拾ってくれるじゃないですか。だから音量のことを気にせずに、いかに作曲家や曲の世界を自分の周りの空間で作るかが重要なので、全然違う音楽作りだと思うんですね。

明後日からレコーディングということで、レコーディングのためにこの一週間、準備して作ってきたので、今日お客様の前で演奏するの大丈夫かなって、実はちょっと心配だったぐらいなんです。でも、皆様を前にしたらスイッチが入りましたね。

――では、リハーサルで準備してこられた音楽作りとは違ってきたんですね。

鈴木:全然違いますね。

――實川さんとしては、そうした変化を演奏中に感じられましたか?

實川:実は、僕の方がライブモードに入ってしまいました(笑)。テンション高くなり過ぎちゃったかなって、自分の中では思って。結構勝手に変わるものかもしれないですね。

インタビュー中の様子

インタビュー中の様子

――そうだったんですね(笑)。では、逆に鈴木さんは實川さんのライブモードに入ったのを受けて、本番中にどう思われましたか?

鈴木:嬉しいですね。室内楽でヴァイオリンがメインといえども、やはり共演者が変わると全然音楽が変わるので、ピアニストがライブモードになるかならないかで、こっちも対話として全然音楽が変わってくるんです。話が弾む……っていうんじゃないんですけれども、とても楽しいです。

――最後に今後、おふたりがそれぞれ一番取り組んでいきたいことは、どのようなことなのかを教えてください。實川さんは多岐にわたる活動をされていて、最近だとアニメ「ユーリ!!! on ICE」の音楽にも参加されたりもしていますよね。

實川:やっていきたいことというのは、とにかく音楽を通してコンサート会場でお客さんに一体感を感じてほしいのと、作曲家のメッセージを伝えるということですね。その作曲家の一番すごい部分、作曲家が伝えたかったことというのを、きちんと演奏でやってあげると、それはもう演奏家の力ではなくて、作曲家の持つ曲のパワーが助けてくれるんです。それをいつも引き出したいなという風に思っていて、録音もだからそのつもりでやっているんです。

アニメの方は、ピアノコンチェルトを書いたから、難しいから弾いて下さいっていう依頼がありまして。それで、すごくいい曲だったので、必要とされているアニメの情景を意識しながら、一番効果的になるようにやるならやろうと思ってやりました。音楽を常に、何かジャンルで選んだりとか、こういうのはやりたくないとか言わずに、どうやったらうまく伝わるかを考えて活動していきたいと思っています。

――鈴木さんはいかがでしょうか?

鈴木:CDも手にとっていただきたいと思うんですけれども……、やはり作曲家が曲を書くときって命を削って書いていると思いますし、書かなければ生きていけないというぐらいの精神状態で書いているような人たちもいるんです。私たち演奏家も本当に命を削って、小さい頃から遊ぶこともせずに音楽にかけてきた、人生をかけて音楽をやっている私たちが、時間をかけて情熱をもって届けたものを、是非直接受け取ってもらいたいという気持ちがすごくあります。一回一回の本番で、私たち演奏家の情熱もそうですし、作曲家の情熱が伝わるようにって言うのはすごく思っていますね。

もちろんコンチェルトも大好きなんですども、やはり大きい会場よりも、今日みたいな小さい会場の方が一人一人のお顔が見られたり、表情が見られたりとか、舞台と客席が遠いよりは近い方が空気が変わった感じとかも伝わるので、こういうアットホームなところでもどんどん演奏していきたいなと思っています。

――おふたりとも、観客の方々へ伝えたいという思いは強く共通していらっしゃるのですね。今日は短い時間でしたが、素晴らしい演奏とお話をありがとうございました。

世界で活躍する音楽家の演奏を、わずか“500円”で聴けるサンデー・ブランチ・クラシックは、毎週日曜13時から。渋谷駅から約6分という良好なアクセスで、気軽に足を運べるのも魅力である。

實川 風(ピアノ)、鈴木 舞(ヴァイオリン)

實川 風(ピアノ)、鈴木 舞(ヴァイオリン)

取材・文=小室敬幸 撮影=荒川 潤

サンデー・ブランチ・クラシック情報
5月14日
岡田 奏/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円

6月4日
1966カルテット/女性カルテット
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円
 
6月18日
文代fu-mi-yo/声楽家
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: 500円

■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
※祝前日は通常営業
■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html​
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