「シャンソンはおそろしい」~女性の人生を綴る新シリーズでピアフを歌う元宝塚トップスター水夏希にインタビュー
水夏希
元宝塚歌劇団トップスターの水夏希がシャンソンに挑む「ドラマティカルシリーズ リーディングvol.1 『パンク・シャンソン』~エディット・ピアフの生涯~」が5月2日~6日、よみうり大手町ホールで上演される。さまざまな女性の半生を歌や踊り、リーディングでつづるシリーズの第一弾。フランスの国民的歌手、エディット・ピアフの人生を描く物語だ。「シャンソンは果てしなさ過ぎて、おそろしい」と言う水から、新たな分野への挑戦について話を聞いた。
――このシリーズを立ち上げたきっかけを教えていただけますか。
宝塚歌劇団を退団後、毎年夏に歌とダンスのコンサートをやっていたのですが、それを5回終えたところで新たに、これまでとは違う、小じんまりとじっくり何かに取り組む時間をつくろうと思いました。それも、今回は歌にしようと思ったんです。
――その歌は、なぜシャンソンだったのですか。
シャンソンをちゃんと歌ったことがなかったんです。タンゴなどは歌ったことがあったのですが。今回は、シャンソンをシャンソンとしてちゃんとお聴かせしてみようと思いました。そこで、シャンソン歌手の代表であるピアフを取り上げることにしました。ただ、彼女の人生は、知れば知るほど「うそでしょ?」「このエピソードは本当なの?」って思う、ありえないようなことばかり。現実は小説より奇なりって、まさにこのことだなと思いましたね。
――ピアフは歌うために神様が世の中に送りこんだような人でしたね。
本当にそう思います。47年間という短い人生の中であれほどの経験と思いをしている。歌のためにそういう人生を選んだわけではないのに、結果、その人生があったからこそ彼女の歌は追随を許さないものになっていきました。彼女の人生は必然だったのだなと思います。
――実際にピアフの楽曲を歌ってみていかがですか。
シャンソンって、楽曲自体はそれほど難しくないんですよ。半音とかシンコペーションとかもほとんどないですしね。でもその曲を、“歌”として聴かせる、魅せるとなったときに大きな差がでてくる。ただの記号である歌詞と譜面をどう読み解いて、どう捉えて、どう感じて、どう表現するかが、人によって全く違ってくる。その表現の数たるや、百や千どころではなく限りなくあって、それをどうチョイスしてどういう形にするか……。果てしなさ過ぎて、おそろしいですね。
――今回は、その歌が生まれた背景なども朗読の形で紹介されますね。
演出の鈴木勝秀さんは、リーディングに音楽を入れるのではなくて、言葉を発した時点でそれも音楽だとおっしゃっています。ピアフが出会った男たちがセリフを割って語るのも音楽だと。その“音楽”の流れの中に、私の歌をどうドラマチックに立ち上げていけるかですね。
――歌われる楽曲について紹介していただけますか。
「愛の讃歌」とか「ラ・ヴィ・アン・ローズ(バラ色の日々)」などは、皆さんよく知っているし、宝塚のショーでも使ったことのある曲です。でも、だからこそ難しいと思いますね。知っているからと通り過ぎてきたことを、本当に知っていたのか、じゃあどうやるのか、何がわかっていないのかなど、丁寧に向き合っていこうと思っています。一方で、「アコーディオン弾き」などは、私が今回、初めて出会った曲です。どの曲もそうなのですが、歌詞を聞いているうちにドラマが沸きあがってきて、いい曲だなと思いますね。
――ピアフという女性についてはどう思われますか。
生まれた瞬間から、自分の存在を肯定してくれる人がいなかった、愛してくれる人がいなかったというのが彼女の根本だなと思うんです。例えば、もし愛を知っていたら「親よりも愛してくれない」とか、誰かと比べたりもできる。でも、彼女はそれを知らないことから人生の旅が始まっている。無から始まっているから、理想とする愛を永遠に求め続けていったのかなと思いますね。
――弱い人だと思いますか? 強い人だと思いますか。
どちらかな、難しいですね。最愛の恋人のマルセル・セルダンが飛行機事故で亡くなったとき、ピアフも死ぬことだってできたけれど、生き続けた。自分の生きる使命みたいなものを無意識に知っていたのかもしれないですね。「歌うことが生きること」で、歌があったからこそ生きていられたのでしょうね。
――水さんにとって、ピアフにとっての歌のような存在はありますか。
何かを「表現すること」かな。歌でも踊りでもお芝居でも。それこそ、宝塚を退団するときに、この仕事を辞めるタイミングはあったし、その後も辞めることはできたと思うけど、辞められないし、これしかないと思えるんです。表現することに興味がつきないんですね。ちょっと知ってしまったら、その先がもっと知りたくなる。じゃあ、またその先はどうなっているのか、知れば知るほど果てしない欲求がわいてきます。ピアフの人生には及びもつかないですが、エンターテインメントの世界を選んだという共通項もあるので、今回はそういうものを最大限に膨らませてやろうと思います。
――宝塚在団中からダンスに定評がありましたが、新しいシリーズをスタートさせて、今後はどういう活動を考えていますか。
踊りがない舞台は不安だった時期もあったのですが、男性と共演するようになり、ジャンプでも技術でも、女性の自分には絶対にできないことを認識するようになったんです。動くことだけに頼る必然性を感じなくなったというか、年齢とともに自分が拠り所にしている部分が変わっていっているとも感じます。最近、お芝居のワークショップなどに行くと、「動きがきれいすぎるんだよね」っていわれるんです。宝塚で同期だった知人も、映画に出たときに「いつも口角が上がっているよね」といわれたと話してました。宝塚時代は猫背になるとか口角が下がるなんてありえなかった。でも、今はそうではない表現も見つけていきたいです。
――ストレートプレイも挑戦していますね。チャレンジしたことは?
ストレートプレイほどおそろしいものはないです。音楽やダンスがどれだけ助けてくれていたか。でも、だからこそ、同じセリフなのに俳優次第で全然違うものを届けられたりするのが面白くて、やみつきになるんです。リアリズムだけがすべてではないですが、リアリズムと対局のところ(宝塚歌劇団)にいたから、そのリアリズムを徹底的に勉強して、それを身につけた上でシェイクスピアやギリシャ悲劇にも挑んでいきたいと思っています。
宝塚のトップスターという頂点を極めた後も、新しいことへと挑み続ける水夏希。明朗でいてクールな語り口から、次のステージへとステップアップする強い覚悟が伝わってきた。シャープなダンス、男役出身者ならではの色気に、味わい深いシャンソンが加わった、水夏希のネクストステージに期待したくなった。
取材・文・撮影:田窪桜子
■日程:よみうり大手町ホール (東京都)
■会場:2017/5/2(火)~2017/5/6(土)
■構成・演出:鈴木勝秀
■アコーディオン演奏:アラン・パットン
■出演:水夏希/福井貴一・山路和弘・石橋祐
■日替わりゲスト:辻本祐樹・牧田哲也・渡辺大輔(五十音順)
<出演組合せ>
5月2日(火)19:00 福井・渡辺
5月3日(水)14:00 福井・牧田
5月4日(木)14:00 石橋・牧田
5月5日(金)13:00 山路・渡辺 / 18:00 山路・辻本
5月6日(土)14:00 福井・山路・辻本
※5月6日(土)14時回は出演者4名での特別バージョンとなります。
■公式サイト:http://aqua2013.co.jp/