「”ありがとう”の反対は”当たり前”」sumikaがチャレンジし続ける理由
sumika
フロントマン片岡健太が体調を崩し、休養を余儀なくされた2015年から一転、2016年はsumikaにとって飛躍の年となった。同年3月にリリースした両A面シングル『Lovers / 「伝言歌」』では、トラディショナルなポップスの魅力に迫ることで生まれた、肩の力が抜けたサウンドと心地よく跳ねるビートに乗って、持ち前のキャッチーなメロディがより輝きと味わいを増した。続くミニアルバム『アンサーパレード』と『SALLY e.p』では、曲調、コード運び、各パートの音色、アンサンブル、あらゆる面でさらに豊かなセンスを発揮。そこに片岡の歌があることで、一人ひとりの心に残る温もりの輪がどんどん広がっていく。そして、今年2017年7月にはZEPP OSAKA BAYSIDEとZEPP TOKYOでキャリア史上最大のワンマンが決定。5月末には、UKのファッションブランドALLSAINTSとビルボードライブのサポートにより、アコースティック編成名義のsumika[camp session]が、約2年振りに復活する。そこで、メンバー全員に集まってもらい、音楽に対する思いやライブの魅力について語ってもらった。
――片岡さんの休養期間を経ての2016年は激動の年だったと思いますが、振り返られて、今のお気持ちを訊かせてください。
片岡健太(Vo./Gt.):取り巻く環境はガラッと変わりましたね。最初は僕が休養していた期間が明けて心機一転、第二章が始まるような感覚でした。積み重ねてきたこともあるけど、もう一度ゼロからスタートする気持ちも強かったんです。だから、まずは新たに出発したsumikaというバンドの認知度を、休養前のレベルにまで持っていくことを意識していたんですけど、有り難いことに凄いスピードでそこを遙かに超えていきました。支えてくれるスタッフも、お客さんの数もみるみる増えていくんです。ライブ会場を選ぶときは、観たい方がどれくらいいるかを予測して、全員がちゃんと観られるであろう会場を選ぶんですけど、前とは規模感が全然違うんですよ。とにかくいろんな景色が目まぐるしく変わっていったんで、2016年は「化」という一文字で締めくくりました。今は少し気持ちも落ち着いたんで、変わっちゃいけないものを、ちゃんと見つめ直そうとも思っています。
片岡健太 / sumika
――2016年最初のリリースは『Lovers/「伝言歌」』でしたが、振り返ってみると、おっしゃったような結果になるいきなりの決定打でしたね。sumikaの新たな局面を示す、とても開けたポップソングだと感じました。そこは鍵盤の小川さんが正式加入されてから2作目ということも、大きかったと思うんです。小川さんが弾く音を活かそうと考えることで、sumikaの音楽がより広い層に届くようになった。
片岡:小川くんが弾くピアノの音色って、バンドの音楽を聴くとかライブハウスに行くとか、そういう習慣がない人にもフラットな耳で聴けて気持ち良く響くと思うんです。そもそも、僕らが目指すところはそこだったんですけど、小川くんが入る前は、ギターが2本いて、メンバー全員がしっかり音を出してないとバンドじゃないような気がしていて。そういう意識が邪魔していた部分もあった気がします。でも、ピアノの特徴をしっかり活かすために、例えばエレキギターの音をゼロにするとか、躊躇なく引き算ができるようになりました。このメンバーで作った音楽なんだから、誰かの音が入ってなくてもsumikaであることに変わりはないと、休養中に僕自身の思いが固まってから再スタートを切ることができたんです。それが、なんとなくですけど、良い結果に繋がった大きな要因のひとつだったのかなと思います。小川くん、どう?
小川 貴之(Key./Cho.):自分のことだからなんとも……恥ずかしいけど嬉しい話です(笑)。
――バンドの音楽を聴くとかライブハウスに行くとか、そういう習慣がない人にも届く音を意識して音楽性を変化させていくことって、なかなか大変じゃないですか? 特定のコミュニティを飛び出すわけですから孤立するリスクもあるし、どうしたって迎合的だという批判も生まれます。でもsumikaは、片岡さん自身も戸惑うほど凄いスピード感で輪が広がりつつも、無理がないというか、すごくナチュラルに変化していったように思います。
片岡:例えばオムライス専門店とか、ラーメンは醤油だとか、そういう括りみたいなものは、バンドにとって悪いことではないし、そこからしか生まれないエネルギーもあります。でも僕らはもともとファミレス的な感覚というか、美味しそうならあれもこれも、ミーハーなんですよ。2016年に入ってから特に、メンバーもスタッフも「うちはファミレスです」って、はっきり言える強さを持てるようになった。そんな感じですかね。……なんか、分かりにくいですね。
――いえ。分かりやすい話だと思います。そのオムライスにあたる部分が確固たるものなら、めちゃくちゃかっこいいんですけど、例えば”フェスでウケるための音楽”となると、そもそもそれって何?って話じゃないですか。各々面白いことをやっている人たちが集まるのがフェスなわけで。ライブハウスもそう。場所やそこにいる人を好きであることは、そこでウケるための音楽をやることではないと思うんです。そういう意味でsumikaの在り方って本当に理想的。
片岡:変わらない美学みたいなものもあるんです。変えることって怖さもありますし。でも自分は一人じゃなくて、チームでやってる。仲間がいるから気持ちが強く持てるんです。メンバーやスタッフが嫌じゃなきゃそれでいい。
黒田隼之介(Gt./Cho.):間違いないですね。そこで持てる安心感は本当に大きいです。
片岡:だからこそ、そんな僕たちを評価してくれる人にも心から「ありがとう」って思えるんです。そうですね、音楽をやる目的が”聴いてくれる人のため”になると、”ニーズに答える”ことが当たり前になってしまいます。それって本当の意味で感謝することとは真逆のこと。僕は”ありがとう”の反対が”当たり前”だと思ってるんです。
黒田隼之介 / sumika
――自分たちも縛られる、ファンは偽りを受ける、でも需要には応えてる。変な感じだし、本質的な部分で、誰にとってもいいことはないですよね。
片岡:そもそも僕が作る曲、最初にメロディーが浮かんで録ったボイスメモにはなんの価値もない。そこに価値を付けてもらって完成した音源を聴いてくれたり、ライブに来てくれたりする人たちに対して、感謝の気持ちをアップデートしていくことが、変化するということでもありますし、そうしてお客さんと気持ちの良いラリーを続けていくことが、これから先も音楽を続けていくということだと思っています。
――sumikaのライブって、バンドとお客さんの繋がりにおける唯一の強さが印象的なんです。私がMCで盛り上がりを煽ったりお客さんに感謝を述べたりする場面が多いライブを、あまり好きではないということもあるんですけど、正直なところ、初めてsumikaを観たときは、感謝や共有感覚を表すMCが多過ぎるんじゃないかと思いました。でも、終盤頃には「分かる分かる」って頷きながら楽しんでる自分がいて、なんか鍵を開けられた感覚で。その謎が解けた気がします。片岡さん以外の皆さんも、そこは同じ思いなんでしょうか?
荒井智之(Dr.):実は、メンバー同士でそういうことをほとんど話したことがなくて、お客さんに対する思いは個々に持っていますし、それをどう伝えるかもそれぞれのスタンスなんですよ。
黒田:他のメンバーのMCを聞いて「そんなこと思ってたんだ」って、お客さんと同じタイミングで知ることもあります(笑)。
荒井:セットリストや構成についてはめちゃくちゃ話し込むんですよ。でも、そういうメンタル面の話にはならないし、統一する意識もないですね。昔はあったかもしれないけど、今は個々にちゃんと強い思いがあることが分かるから、それでいいと思ってるんです。それに僕しか思わないこともあるじゃないですか。ドラムとして、まずメンバーに気持ちよく演奏してもらいたいとか。
黒田:そういう持ち場感覚は、違ってきて当然ですからね。
片岡:本当に姿勢として間違っていると思ったら、そういう話は絶対にするだろうし、今はそれがない良い状態だと思います。
――7月にはZEPP東京と大阪でのワンマンライブが、そしてもうひとつのトピックとして、5月にアコースティック編成名義であるsumika[camp session]が約2年ぶりに動きます。改めてsumika[camp session]の魅力を訊かせていただけますか?
片岡:会場が大きくなればなるほど、自分たちがやっていることを、増幅させなきゃいけない。そうやって多くの人に届ける楽しみもあるんですけど、自分たちの手の届く範囲で、自分たちの温度感を伝えようって、それが僕らの柱にあるんで、[camp session]は僕らの素により近い感じですね。今それがやれるのは、僕らにとってもご褒美のような感覚です。
小川:リラックスしてやれているぶん、[camp session]のリハやライブを通して、自分たちの曲の良さを噛みしめることもよくあるんですよ。「これめっちゃ良い曲だよね」って、自画自賛(笑)。
小川貴之 / sumika
――sumika[camp session]という名の如く、仲間とキャンプをしていて、誰かがチューニングもままならないギターを弾き出して、みんなで歌って楽しむみたいな、音楽の根源的な魅力はsumikaのライブを観ていても伝わってくるんですよ。アコースティックとは対極にあるフィジカルでロックバンド然とした曲でもそう。
片岡:なるほど。原始的な感覚というか、場所の雰囲気とか自分たちの思いが向くままに演奏しようってことが基本にあるんで、そう感じてもらえたなら嬉しいです。
――そこがsumikaの最大の魅力だと思っているんで、[camp session]のステージは凄く楽しみなんです。
荒井:[camp session]は、リラックスしてやってるから、緩くなり過ぎちゃうかもしれない、というか、緩い空気にならなかったことがないんで、そこはある意味心配な点でもあるんですけど(笑)。
黒田:[camp session]はアコースティックだからどうというより、お客さんとのキャッチボールにおける温度感だと思っているんで、まずは僕たちが肩の力を抜いてボールを投げて、みんなで楽しめたら最高だと思ってます。
小川:まず自分たちが会場を好きになって楽しむ。その感覚をお客さんとフラットに共有したいんです。個人的にはビルボードのグランドピアノが弾けることが嬉しくて。早く聴いてもらいたいです。
取材・文=TAISHI IWAMI 撮影=Yuma Totsuka
Billboard Live TOKYO「Billboard Live×ALLSAINTS “Fashion with Music”」
sumika[camp session] Live Journey 2017 -Ensemble-
5月27日(土)Billboard Live OSAKA
OPEN/START 1stステージ 17:00/18:00
2ndステージ20:00/21:00
5月28日(日)Billboard Live TOKYO
OPEN/START 1stステージ 17:00/18:00
2ndステージ20:00/21:00
日程:2017年6月22日(木)
会場:神奈川・CLUB CITTA'
OPEN/START 18:00/19:00
前売/当日 ¥3,900/未定 (ドリンク代別)
会場:兵庫・Harbor Studio
OPEN/START 18:15/19:00
前売/当日 ¥3,900/未定 (ドリンク代別)M
7月15日(土)Zepp Osaka Bayside
OPEN/START 17:00/18:00
7月26日(水)Zepp Tokyo
OPEN/START 18:00/19:00