おっちゃん&ミンジュの怪しいK-Pop喫茶[第17話] 無限宇宙の少女時代
MBC新週末ドラマ「お膳立てする男」に出演するスヨン/オン・ジュワン © News1
鏡の国のアリス(Drawing by John Tenniel) 以下同
ミンジュ「(くりくり、ぽち)お、スヨンがまたドラマ出るんやて」
客「ほー。ええやないか。『私の人生の春の日』や『38師機動隊』での演技も好評やったし、もおすっかり女優さんやなぁ」
ミンジュ「なになに……MBCの週末ドラマで『お膳立てする男』のヒロインだそうな」
おっちゃん「週末ドラマは視聴率が稼げる。話題になるとええな」
客「スヨンちゃんて、JTBCのウェブドラマでも主演が決まってへんかった?」
ミンジュ「そやそや、『知るかもしれない人』ちゅうタイトルやった」
客「売れっ子やなぁ」
おっちゃん「……ん? 待てよ、確かソヒョンもMBCの週末ドラマに出るんやなかったか?」
ミンジュ「マジで? (くりくり)ああ、ここに出とる。『泥棒野郎、泥棒様』のヒロインやって。てことは5月からスヨンのドラマとソヒョンのドラマが立て続けに放送されるって事かいな(ぴゃー)」
客「他にもユナちゃんが100%事前制作の時代劇『王は愛する』を収録中やし、ユリちゃんも最近『コ・ホ、星が輝く夜に』や『被告人』で演技力を認められて来とるで」
ミンジュ「(うーむ)まさか少女時代が演技時代に変身するとは」
おっちゃん「ちゅうか、テヨンはソロ歌手として大活躍やし、ヒョヨンも演技には興味なさそうやで。歌組、演技組がはっきり分かれて来たってことやろ」
客「確かに。ソヒョンみたいに二足のわらじを履いてる娘もおるし、ソニみたいにバラエティ担当ちゅう少数派もおるけど、ひとりひとりが才能を認められてグループの枠にとらわれず活動できるのはええことや」
ミンジュ「全員売れてるってことやからね。そやけど、この8月で少女時代はデビュー10周年やろ? こんな感じで個別活動ばっかやってて、グループでの記念イベントとか活動が出来るんかなぁ」
おっちゃん「そこは会社がきちんと調整しとるんやないの。なんちゅうても今まで韓国には10年間休まず続いた女子アイドルグループはなかった。記念のイベントや新曲での活動、ないはずがない」
客「そーか、少女時代、デビューしてもお10年たつんか」
おっちゃん「そうやで。10年間継続するだけでも大変なことやのに、ずっとトップに君臨し続けとる訳やから、これは大偉業や」
客「確かになぁ。(しみじみ)ワシらは数多い宇宙の中で、少女時代が存在し、なおかつトップアイドルでおり続けとる貴重な宇宙に生きとる訳や。これは感謝せねば」
ミンジュ「数多い宇宙? なんやらSFみたいなことゆい出したで」
客「SFなもんか。宇宙はひとつやない……これはユニバースに対してマルチバースゆう考え方やけど、今の物理学では主流になりつつある理論なんやで」
ミンジュ「へー。妙なことに詳しいんやね」
客「そら大学で教えとるからな」
ミンジュ「(ぴゃー)お客さん、そんな偉いお人やったの? てっきりただのアイドルヲタかと思うてた」
客「はっはっは、見た目は子供、頭脳は大人、それがワシや」
ミンジュ「見た目もジジィやないか」
客「真実はいつもひとつ、はもお古い。これからは真実は無限にある時代や」
ミンジュ「ぴゃー」
おっちゃん「ほなヲタク教授の意見やと、少女時代がおらんような宇宙もあるってことかいな?」
客(教授)「そやねん。マルチバースが現実なら、そんな宇宙は山ほど存在するやろうな」
おっちゃん「そらまた魅力のない宇宙やな」
ミンジュ「どゆことなの? 解説キボンヌ」
客(教授)「そやな……宇宙のありようのような科学的な事柄に対する多数的なモノの見方……パラダイムちゅうんやけど、これは人類の歴史の中で何度も大きく変わってきた訳や」
ミンジュ「な、なんか難しい話になりそおな(汗)。訊かんならよかった」
客(教授)「まぁ出来るだけ簡単に説明したるがな。そもそも大昔の人は、世界が平らな地面で出来とって常に動かず、お天道様の方が空を回っとる思うてた」
おっちゃん「亀の上に乗ってるとかな(笑)」
客(教授)「インドではそお思われとった。それが時代が進んで観測の手法が発達すると、どうやら世界は丸い玉でこっちが太陽を回ってるらしい事に気づいた」
ミンジュ「あー、コペルニクスとかガリレオとか、なんとなく聞いたよおな」
客(教授)「そおそお。コペルニクスとガリレオじゃおよそ1世紀近い開きがあるけど、だいたい17世紀頃に地動説が一般化した。パラダイムの変化や」
ミンジュ「地動説なら、今でもそのまんなじゃないの?」
客(教授)「ガリレオの頃の地動説ではまだ我々は特別な存在で、太陽が宇宙の中心やと思われとったんや。ところが20世紀になって、我々の太陽は4000億個の恒星を含む銀河系の中にあり、しかもその銀河の中でも外れの方にあることが発見された。太陽自体が比較的平凡な恒星や言うことも判った」
ミンジュ「へー」
客(教授)「もっと言うなら、我々の棲む天の川銀河も宇宙に無数にある銀河のひとつに過ぎない。地球は特別な星でも何でもなくなった訳や」
ミンジュ「田舎で可愛い可愛い言われてアイドル目指してた娘が、いざ都会へ出てみると、特に可愛くもなく平凡な顔立ちやったと気づくようなお話やな」
おっちゃん「なんじゃい、その例えは?(呆)」
客(教授)「まぁそれもパラダイムシフトの一種かもしれへんな(笑)。あるひとつの発見をきっかけに、まるで鏡をくぐり抜けたアリスのように、世界の見方がまるっきり変わってしまう。それが科学のおもろさや」
ミンジュ「おもろいかなぁ?」
おっちゃん「そんで、マルチバースはどないなってん?」
客(教授)「うむ。この100年でパラダイムは何度となく変化しとる訳やけど、どんどん人間の手には負えんようになって来とるみたいなんや」
おっちゃん「手に負えん?」
客(教授)「例えば、宇宙の始まりは137億2千万年前のビッグバンによるってのが一般に知られとると思うけど…」
ミンジュ「あの大人気の5人組が宇宙の始まり?」
おっちゃん「やかましい!」
客(教授)「単純に無限小の一点から宇宙が始まったとすると、今の宇宙像と相容れない問題がいろいろとあって、それを修正するためにインフレーション理論ちゅうのが提唱されてな。宇宙の始まりのある時期に空間そのものが指数関数的に膨張したちゅう説や」
おっちゃん「それとビッグバンとどない違うの?」
客(教授)「ビッグバンは今の宇宙の膨張速度から逆算した結果出てきた宇宙の起源説な訳やけど、インフレーションはもっと進んだ意見が取り入れられとって、ある種の真空が別種の真空に相転移する時に起こった現象とされる。原初の目に見えんくらい小さかった宇宙が、まばたきするくらいの間に直径数百億光年にまで膨れ上がったと言う説や」
おっちゃん「待て待てい。そんなに急速に膨れ上がったら、膨張速度が光速を越えるやないか」
客(教授)「その通り」
おっちゃん「そやけど、いかなる物体も光速を越えることは出来んのやろ? おかしいやないか」
客(教授)「それもその通り。そやけど、光速を越えられんのは空間の中にある物体だけや。空間そのものには当てはまらん」
おっちゃん「なんか卑怯な意見やなぁ。そもそもある種の真空が別種の真空に変わる時にものすごいエネルギーが発生するっちゅうのも訳わからん。単なる言葉遊びとしか思えん」
客(教授)「数学的にはちゃんと説明出来る話や」
ミンジュ「つまり5人組の東方神起が2人組の東方神起に相転移した時、宇宙を膨張させるほどのファンの怒りが爆発したって事やないの?」
おっちゃん「無理矢理理解しようとすんなよ、めんどくさい」
客(教授)「わっはっは。で、このインフレーション説に量子重力学や超弦理論やらを応用させて、日々新しい宇宙論が生まれつつあるのが今の状況や。そんでその多くのモデルがこの宇宙はひとつではなくたくさん……ひょっとしたら無数にあるんやないかと示唆しとる訳や」
おっちゃん「多元宇宙てのは昔のSFによう出て来とったけど、まさか現実にそうなっとるとは(ぴゃー)。事実は小説より奇なり、やな」
客(教授)「ま、説なんであって、事実がどうかはわからんのやけどな」
ミンジュ「花郁悠紀子の『フェネラ』って漫画にそんなんあったなぁ。人間界と妖精界がつながっちゃう話」
おっちゃん「バーミューダ諸島の沖が異次元への入り口になってるとか」
客(教授)「菊地秀行の小説なんてそんなんばっかりやで。そやけど、これらの説によるとワシらが別の宇宙と接触するのは無理や。そやから何の影響も受けんし、存在したところで知りようもない」
おっちゃん「(かくん)立証不可能な説なんかい? そんな『水曜日のダウンタウン』に投稿も出来んような説が、物理学会では真面目に受け取られとるっちゅうんか?」
客(教授)「いかにも。おもろいやろ?(はっはっは)」
おっちゃん「学者ってのは変人の集まりやな(呆)」
ミンジュ「そやけど、見ることも触れることも出来ないような宇宙が仰山存在するなんて事、なんで判るのかなぁ?」
おっちゃん「“それが科学や”て言う気やで、きっと」
客(教授)「ま、そうなんやけどね。ただイッコだけ、量子力学や相対論を使わんでもミンジュちゃんに理解できる説明がある。それを話してやろう」
ミンジュ「マジで?」
客(教授)「うむ。それは宇宙はひとつしかないちゅう考え方や」
ミンジュ「(かくん)宇宙は無限にある、言うたやないの」
客(教授)「まぁ待てや。この考え方では、宇宙はひとつしかないけど、大きさは無限とする」
おっちゃん「無限の大きさなんてある得るの?」」
客(教授)「あるかどうかは判らんが、インフレーション理論の変形からはそんな考えも出てきておるし、実際に我々の宇宙は観測可能な限界よりはるかに大きいやろうちゅうのが最近の主流になってきておる。ここで観測可能な限界ちゅうのは、光の届く範囲ってことや」
ミンジュ「それってK-Popに例えるとどう言うことやの?」
おっちゃん「例えんでええって」
客(教授)「ビッグバンを知っとるなら、宇宙が膨張しとることは判るやろ。地球から遠くなるほど相対的に膨張速度は大きくなる。ある距離から先は光より大きな速度で膨張するようになる。この宇宙に光より早いものは存在せんから、そっから先の情報は絶対に届かへん。ましてや互いの距離はどんどん離れて行ってる訳やからなおさらや。ここまでは判るやろ?」
ミンジュ「まぁなんとなく」
客(教授)「ちゅうことは、宇宙はひとつでも、その中に互いに影響されることのない空間が無数に並んでいるような状態になる。チェス盤みたいなもんを想像したらええ」
おっちゃん「なるほど」
客(教授)「この色分けされた空間の大きさは有限やけど、その数は無限にある。つまりある空間内に存在するあらゆる原子の組み合わせパターンより、空間の数の方が多い。しかも無限に多い。つまり、ある空間と全く同じ原子の組み合わせが別の空間で繰り返されることになる訳や」
おっちゃん「な、なるほど」
客(教授)「結局、無限の宇宙ちゅう考え方そのものが多元宇宙と同じ結論になる(Q.E.D.)」
ミンジュ「えーっと、ウチと同じ人間がどっかの場所におるってこと?」
客(教授)「宇宙が無限なら、確実にそうなる」
ミンジュ「マジで~?(キモーイ)」
客(教授)「まぁどうせ見ることも知ることも出来んのやから、トゥイードルダムとトィードルディーみたいに肩を組むのは無理や」
客(教授)「それどころか、自分が何人おったところで、この世界の自分には何の影響もない」
おっちゃん「逆に言うと、ワシがおらん世界も存在する訳やな」
客(教授)「その通り。科学の基本的な考え方に、物理法則が禁止しないものは必ず存在するっちゅうのがある。生命が存在しない小宇宙もあれば、タコみたいなエイリアンだらけの小宇宙も大いにあり得る。そして少女時代が存在しない小宇宙も無数にあるはずや」
ミンジュ「あー、それでさっきの話になる訳やね」
客(教授)「ようやく気づいたんか(呆)」
ミンジュ「だってそれまでの話が長いんやモン」
おっちゃん「確かに、少女時代が存在せんでK-Pop界の女子アイドルが少女時節だけっちゅう世界は嫌やなぁ」
客(教授)「まったくやな」
おっちゃん「出来ればジェシカが離脱してないで、毎年4回くらいカムバックする少女時代がおる世界がよかったけど」
客(教授)「贅沢言うんやない。今は少女時代のおる世界に生まれたことに感謝せい」
おっちゃん「へい」
ミンジュ「なぁなぁ。そしたらウチがマドンナやレディー・ガガみたいにスーパースターになってる小宇宙もあるんかなぁ(わくわく)」
客(教授)「いや、それはない(きっぱり)」
おっちゃん「自分のヒットは物理法則で禁止されとるからな(笑)」
ミンジュ「ひーっ、宇宙から嫌われとるっ!(驚愕)」
※100%事前制作の時代劇…時代劇に限らず、韓国のドラマは放送前に数話ほど制作して、その後視聴者の反応を見ながら当初の筋書きを修正しつつ作り継いでいくのが一般的である。これは視聴率やネットでの反応をリアルタイムに取り入れられるメリットがあるが、あまりに視聴者におもねりすぎてグダグダの内容になってしまう例も少なくない。特に作家性が希薄になることから制作サイドからの反発も多く、視聴者の影響を避けるため、100%事前に作ってしまってから放送する形式が増えつつある(『ロードナンバーワン』『パラダイス牧場』『麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~』など)。しかし、なぜかヒットにつながった例は少ないのである。
※少女時節…20014年3月にSCエンターテインメントからデビューした4人組グループ。その全員が主婦で、3人が子持ちと言う異色のアイドルであった。当時そこそこ話題になり活動にも期待が持たれたが、セビョル号事件のため地上波のテレビ局がほぼ芸能番組を取りやめたため、お茶の間でお目にかかる機会がなかった。その後15年7月にメンバーを入れ替えてカムバックしたが、すでに時勢はTwiceや女友達など超若手グループのものとなっており、彼女らの時節は巡ってこなかった。