三角みづ紀(詩)+森山開次(演出・振付)が語る『SLOW MOVEMENT ‒The Eternal Symphony 2nd mov.‒』
SLOW MOVEMENT『The Eternal Symphony 2nd mov.』
年齢、性別、国籍、障がいの有無などを越えて集結した人びとが、街中でパフォーマンスを繰り広げることで<多様性と調和>のメッセージを広めることを目指す、SLOW LABELのパフォーマンスプロジェクト「SLOW MOVEMENT」。少し前のことで恐縮だが、新豊洲Brilliaランニングスタジアム2月11日にて行われた『The Eternal Symphony 2nd mov.』について、パフォーマンスの台本とも言える詩を手がける三角みづ紀、演出・振付を担当したダンサーの森山開次の話を交えて紹介する。
新豊洲Brilliaランニングスタジアム(為末大館長)は競技用義足の開発、義足アスリートの強化訓練、かけっこスクールなどが開催される会場だが、同時にSLOW LABELの活動拠点でもある。未だ移転がなされていない豊洲新市場、巨大なお盆に乗った観客席が回転することでエンターテインメントをこれまでにない感覚で体験できるIHIステージアラウンド東京とは目と鼻の先。近未来都市に変貌しそうな新豊洲にあることは、これからの<多様性と調和>のあり方を象徴するかのようだ。
このランニングスタジアムが2016年末にオープンして以降、SLOW LABELが初めて行ったパフォーマンスが『The Eternal Symphony 2nd mov.』だ。
すべてのものに命があって、すべてのものがかけがえなく大切
三角みづ紀
SLOW MOVEMENTの第1弾となった『The Eternal Symphony』に続き、『The Eternal Symphony 2nd mov.』も詩人・三角みづ紀による一編の詩がもとになっている。
三角は、 SLOW LABELの発足を手がけたスパイラルの紹介で、SLOW LABEL代表であり、SLOW MOVEMENTの総合演出を務める栗栖良依と出会い、「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014」に参加した(ちなみにヨコハマ・パラトリエンナーレ2017が5月27日から始まる)。
SLOW MOVEMENT『The Eternal Symphony』
三角「パラトリが終わった後の冬に栗栖さんと直接お会いして、SLOW MOVEMENTというプロジェクトをスタートしたい、こういうことをやりたいからテーマとなる詩を書いてほしいと言われました。私自身、身体障がい者であり難病を患っているので、もともと生と死が混じり合った世界観を書いていましたが、栗栖さんが描きたい世界ーーSLOW MOVEMENTのテーマでもある多様性と調和、つまりすべてのものに命があって、すべてのものがかけがえなく大切だという思いは、私のテーマと共通していたんです。当初はほかのクリエイターさんと親しかったわけではありませんが、栗栖さんが選んだ方々だから不安もありませんでした。すべて委ねて詩がどう広がるのかとても楽しみでしたね」
『The Eternal Symphony』はサーカスアーティスト・金井ケイスケを中心に、一般公募で選ばれたさまざまなパフォーマー15名がワークショップを重ねながらパフォーマンスを作り上げた。会場は、渋谷区・国連大学前広場、江東区・豊洲公園、横浜・象の鼻テラス。そして六本木アートナイトで発表してきた。会場となる野外の空間に合わせ、またクリエイターたちのさまざまなアイデアによって作品は変容していった。そして以下が『The Eternal Symphony 2nd mov.』のために三角が書き下ろした詩だ。
SLOW MOVEMENT『The Eternal Symphony 2nd mov.』
脈動する地に 種をまく
SLOW MOVEMENT『The Eternal Symphony 2nd mov.』
森山開次さんのイメージは多大な熱、火、そして赤
三角「栗栖さんから前作の続きを書けないかという依頼がありました。前回の詩は船に乗り込むところで終わっているので、しっかり船出をして大地についたその後を描こうと。テーマは通底しています。そして森山開次さんが参加されることがわかっていたので森山さんをイメージした要素を盛り込みました。森山さん自身が愛そのもので、白い衣裳のパフォーマーたちの中に森山さんが入ったら、多大な熱を放つんじゃないかと。最初の詩は水を自然の要素として入れたんですけど、今回は火を入れました。不思議なことに、並行して作業を進めていた衣裳の武田久美子さんも“森山さんは赤!”とおっしゃって、イメージを共有できたんですね」
SLOW MOVEMENTはこれまで白い衣裳、白い装置でパフォーマンスを行ってきた。栗栖からそのへんのことを「“0”、“無”、“何もない”、“何者でもあり何者でもない”ということをすごく意識していて、プロジェクトを作るうえで白から始めたいと強く思ったんです。パラトリエンナーレも白い衣裳でしたが、それをSLOW MOVEMENTで引き継ぎ、発展させる形でスタートしたんです」と聞いたことがある。だから赤い衣裳を身につけた森山開次をはじめとするパフォーマーが登場したときは、新鮮というよりは驚き感じた。第2章の始まりは、新豊洲Brilliaランニングスタジアムという拠点を得た喜び、SLOW MOVEMENTの新たな挑戦を十分に予感させた。
SLOW MOVEMENT『The Eternal Symphony 2nd mov.』
森山開次
アートはアーティストだけのものではなく、さまざまな方々と共有すべきもの
それでは続けて森山開次のインタビューをお届けしよう。
ーーSLOW MOVEMENTとの出会いから教えてください。
森山 昨年の秋、スパイラルさんを通じ、栗栖さんをご紹介していただきました。スパイラルさんとはこれまでにさまざまな大型イベントでご一緒させていただき、地元の人数100名を振付などをしてきました。とはいえ障がいを持った方々の振付は初めてで不安もありましたが、栗栖さんから全力でバックアップするという力強いお言葉をいただき、まずはおためしワークショップからスタートしました。最近障がいを持つ方との接点をいただく機会が増え、さまざまな課題にぶつかると同時に、自分の活動や表現に反映されることを発見しています。そんな自分が得た糧を皆さんに返していきたいという思いも生まれ、今回受けさせていただきました。
ーー栗栖さんに求められていることはどう解釈していらっしゃいますか?
森山 栗栖さんにはSLOW MOVEMENTで明確に目指しているものがある。それは2020年のパラリンピック開閉会式も一つですが、多様性と調和というテーマのもとに活動し、その活動を着実に進めていくというエネルギーを強烈に感じています。それをお手伝いする僕らアーティストに求められているのは、いろいろと生み出す力によって具体的な形にすること。同時に場を与えていただいているので、僕たちがやっていることをもっともっとみんなに還元していくことではないでしょうか。つまりアートがアーティストだけのものではなくて、さまざまな方々と共有していくという。僕らはその方法論を持っているので、それをもっと有効に使っていくことが大事かなあと思いますね。総合演出に栗栖さんがいても、本当に自由にやらせていただきました。
SLOW MOVEMENT『The Eternal Symphony 2nd mov.』
SLOW MOVEMENT『The Eternal Symphony 2nd mov.』
ーー三角さんの詩からどんなインスピレーションを得たのですか?
森山 第2章では大地をテーマにと栗栖さんから提案されて、三角さんも「第2章」であることと「大地」を掛け合わせて詩を生み出してくださった。水から上がり大地に立ったときにどんなことがみんなと一緒にできるか。初めてのランニングスタジアムでの公演でしたから、会場から得たインスピレーションを生かした演出にしたかったんですよね。大地から歩くということをテーマにして、また大地を象徴する花を装置として作りましたが、それらから抽象的なストーリーが生み出されたらいいなと。そこに三角さんの詩があったからこそ、紙を巻いていく動きなどを美術に発展させていくことができましたね。
車椅子に乗ったり障がいを持っているパフォーマーにとっては歩くというのは大変だったかもしれないけど、そこは皆さんが理解してくれて、それぞれがそれぞれのアプローチで表現してくれた。あまり気を使いすぎても作品が膨らまないし、車椅子に乗っていても歩くという感覚はあるものですし、そこはしっかり受け止めていただけたと思います。誰しもスタートとゴールという節目はあるわけで、その間は早くてもカタツムリのようにゆっくりでもいい。それから、ここで何度も何度もパフォーマンスを繰り返すであろう彼らに、短距離走を練習する選手の皆さんへの祝祭的な気持ちも託しました。
SLOW MOVEMENT『The Eternal Symphony 2nd mov.』
ーー作品作りを通して感じたことはありますか?
森山 みんなの中からエネルギーが出てくるようにしたかったし、アーティストの作品ではなく出演者たちの作品になるように、サポートできたらいいなと思っていました。そのためにメンバーの皆さんの力を信じて、少しハードルを高めに設定したんです。シーンもたくさんあるし、実は(動くための)きっかけもすごくたくさんあった。それをなるべくわかりやすくしたり、意味合いをシンプルにして、中身はそれぞれが自由に動けるようにといった構成を心がけました。やっぱり僕たちが振付だったり、衣裳や装置でいくら周辺を固めても、彼らが生き生きと見えてこないといけないので、その塩梅がとても大事だと感じましたね。メンバーがそれを超えて表現できるように力を引き出すのが僕の役割です。そういう意味ではみんな場慣れしていたし、時折は甘えが出たり集中できないときもあるけれど、課題をどんどん出しながらもやれるんだということを信じてあげることが大事だと思いましたね。
ーー第2章であることと、作品で描かれた芽生えとのイメージのシンクロが印象的でした?
森山 スタートとゴールもそうですが、三角さんの中にある、種を蒔く、芽生える、育つ、熱があふれるなどキーワードをもとにメンバーの皆さんが実感をもって表現しようとしたことで、お客さんたちにも伝えることができたと思うんですね。言葉を発することも初めてでしたが、そういうやりとりを膨らませるきっかけになったらいいなと。出演してくれたメンバーはまだ出たいと思えるし、前向きだからいいんですけど、障がいを持っている方の中にはきっかけを失ってしまっている人たちも少なくない。そのきっかけをお見せすることで、装置で使った花のようにパカっと割れて出ていく、そして僕たちも受け入れていこうと。出演者がそれを体現することで、ほかの仲間たちの勇気にもなる。そんな思いを種を蒔き育っていくことと重ねて捉えていただければうれしいですね。
ーーSLOW MOVEMENTの活動について、メッセージを。
森山 第1章をサーカス・アーティストの金井ケイスケさんが、第2章を僕がやって、第3章は何があるのかなと楽しみですね。それにかかわるかどうかは別として、空、宇宙でもいいし、もっともっと羽ばたいていく物語が生まれたらいいなと思います。いろんな人がかかわったほうが、メンバーが羽ばたくきっかけにもなるし、固まらないほうが面白いと思いますね。また同じメンバーでできたらいいけれど、新しいアーティストも入って膨らんでいくことが大事で、そうやってムーブメントになればいいと思います。
SLOW MOVEMENT『The Eternal Symphony 2nd mov.』
後藤みき、定行夏海、高津会、古川彩香
麻生昌範、阿部秀宣、石原彩名、榎本トオル、小川香織、さとうあい、佐藤彩奈、齊藤望、清水瑚都、須磨日子、瀬下和幸、中村大輝、廣岡美羽、ヒロミ、松永紬、安田理以
■舞台監督:河内崇(ルフトツーク)
■音響:中原楽(ルフトツーク)
■美術アシスタント:佐藤瑞歩
■衣裳・ヘアメイク アシスタント:大澤夏珠、甲斐七海、権田政剛、山田恵愛
■衣裳パーツ・テキスタイル制作:さをり工房ゆう
■ドキュメンテーションディレクター:橋本誠(ノマドプロダクション)
■記録映像:池田美都
■撮影協力:yahikoworks、岸川雄大
■記録写真:川瀬一絵
■制作:秋元千枝・野村梢・塚原沙和・宮武亜季(SLOW LABEL)
■制作補佐:野崎美樹・伊藤悠・宮辺薫(SLOW LABEL)
■アクセスコーディネーター:廣岡香織(SLOW LABEL)、増子仁美、前場紀子
■広報:瀧本恵理・橋爪亜衣子・橋本真紀子(スパイラル/株式会社ワコールアートセンター)
■宣伝美術:SAFARI.inc
■WEB:田中雄太
秋葉よりえ、江崎建司、大里千尋、岡嶋聡美、勝又久志、小林勇輝、下山雪菜、田村悠貴、中西里紅、秦慎太郎、波羅典子、星洸佳、本城まどか、本田綾乃、松本美吹、松本毬子、安室久美子、山田素子、吉田萌
アトリエコーナス、一般社団法人石川県繊維協会、有限会社オフィスルゥ、江東区青少年対策豊洲地区委員会、江東区立第二辰巳小学校、江東区立豊洲西小学校、ランニングスタジアム運営委員会、株式会社繊維リソースいしかわ、東京ガス用地開発株式会社、ラック産業株式会社、株式会社ワコール