普段は素朴&ナチュラル、舞台上ではキラキラ! 『ルグリ・ガラ』に出演する注目の王子、ワディム・ムンタギロフの素顔
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ワディム・ムンタギロフ (撮影:鈴木久美子)
英国ロイヤルバレエ団(ROH)のプリンシパル、ワディム・ムンタギロフは、いま世界でもっとも注目の男性ダンサーの一人だ。185cmという長身の、しなやかで気品のある王子の姿とその踊りは「ダンスール・ノーブル」をそのまま体現。元パリ・オペラ座バレエ団エトワール、現在ウィーン国立バレエ団の芸術監督であるマニュエル・ルグリも「男性ダンサーの理想の姿」と賛辞を贈る。古典作品を中心に世界各地のカンパニーで客演するほか、日本では新国立劇場バレエ団のゲスト・プリンシパルとしてしばしば来日。2015年の世界バレエ・フェスティバルに初参加し、2016年のROH来日公演でも『ジゼル』『ロミオとジュリエット』に出演しファンを魅了した。2017年8月にも『ルグリ・ガラ ~運命のバレエダンサー~』に出演するため来日予定だ。
今回は5月の新国立劇場バレエ団公演客演のため来日したムンタギロフのインタビューをお届けする。
ワディム・ムンタギロフ「さすらう若者の歌」(c) Daria Klimentova
■「レジェンド」を間近に感じた2015年の夏
舞台で眩いまでにキラキラと輝くムンタギロフだが、現れた本人は実に素朴でナチュラルな雰囲気。こちらの緊張感も一気に消えてしまうような人を和ませるような、柔らかな物腰で、応対をしてくれた。
――『ルグリ・ガラ~運命のバレエダンサー~』に参加が決まってのお気持ちを。
とてもうれしかったです。マニュエル・ルグリというあの伝説的なダンサーが僕を呼んでくれるなんて、本当にありがたいことです。実はこの7月から始まるウィーン国立バレエ団に『白鳥の湖』での出演が決まった時、マニュエルから「日本のガラでも踊らないか」というお話も同時にいただきました。僕にとっては幸運な話が2つ一度に来たという、とてもうれしい出来事でした。
――ルグリさんは去る4月に行われた『ルグリ・ガラ~運命のバレエダンサー~』会見時に、「ワディム・ムンタギロフとセミョーン・チュージンは、自分が理想とする美しいバレエを体現してくれる、世界最高の男性バレエダンサーだ」とおっしゃっていました。
本当ですか。そんなうれしいことを言ってくださったなんて恥ずかしくて、赤面してしまいます(笑)。
――ルグリさんの舞台を見たことはありますか?
2015年に東京で行われた「世界バレエ・フェスティバル」で初めて見ました。僕たちのような若いダンサーにとっては素晴らしいインスピレーションを得られる機会でした。あのレジェンド・マニュエルが僕らと同じ場所でクラスレッスンをしているなんて信じられなかったし。あの公演で彼に会えたことは、非常に大きな意義がありました。
■思ったら即行動、それが次の扉を開く
――イングリッシュ・ナショナル・バレエ団(ENB)から2014年にROHにプリンシパルとして移籍し、今は様々なカンパニーで客演するなど、目覚ましい勢いで活躍されています。ENBからROHへの移籍は大きな転機だったと思いますがその時のお話を。
何かを考え計画を立てて行動するということはあまり考えないのですが、あの時はENBのレパートリーは一通り踊り、また芸術監督が変わって客演で外に出ることが難しくなっていました。一カ所に閉じこもる感じがし、僕はまだ若いのにここで落ち着いてしまっていいのだろうか、新しいチャレンジをするべきだと思い、その途端すぐ、ROHの芸術監督のケビン・オヘアに電話をしていました。ROH移籍のためではなく、彼とはもともと知り合いだったので、あくまでも相談のためでした。ケビンは「はやる気持ちはわかるが、少しゆっくり考えろ。もちろんROHとしては来てくれるのは大歓迎だ」と言われたので決めました。そうとなったらことが運ぶのは早く、わずか数日で決まってしまった(笑)。
――思い立ったら即行動、だったのですね。そして一つひとつの舞台を誠実にこなすことでキャリアを積み、どんどん次の舞台を引き寄せている感じがします。
世界から欲されるのはうれしいことです。いろいろチャレンジして、様々なバレエ団で踊り、自分の芸術を高めていきたい。外に出ていろいろなダンサーに会い勉強することで得た全てが、自分の糧になっていきます。
■ヌレエフ作品の楽しさと難しさ
――日本では5月12日から「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン」であなたがマリアネラ・ヌニェスと踊った『眠れる森の美女』が公開されますし、5月5日、6日と新国立劇場でもまた『眠れる森の美女』を踊ります。新国立劇場バレエ団では米沢唯さんとよく組まれますね。
彼女はとても踊りやすいダンサーです。日本は大好きな国なので、僕にとって日本で踊ることは、同時にリフレッシュでもあります。昨年ROHの公演で来たときは、舞台のない日に思い立って一人で日光まで行ってきました。
――思い立ったら即行動(笑) ROHの『眠れる森の美女』でペアを組んだマリアネラ・ヌニェスとは「ルグリ・ガラ」でも共演しますね。
彼女はとても経験豊かで、一緒に踊っていて楽しいダンサーです。パートナーを組んでからまだ1年半ほどですが、どんどんよくなっています。いまは共に7月のウィーン国立歌劇場で踊る『白鳥の湖』の準備が大変で、ガラのことを考える余裕がないのです。ウィーンの『白鳥の湖』はヌレエフ版なので非常に難しく、そのことで精一杯で。ヌレエフ作品はENB時代に『ロミオとジュリエット』を踊りました。まさにマニュエルのDVDを見て勉強しましたが、あんな大変なロミオは初めてでした(笑) 終わった時はまるでフルマラソンをしたようで、正直ジュリエットの顔を見る余裕もなかった。ロミオは若くてまっすぐな――言い方を変えるとクレイジーなところもある一本気な青年なので、それに相応しいクレイジーな(笑)パがたくさんあるんだ、と。でも難しいとか、どう踊ろうなどと考えてはいけない。ヌレエフの作品は何よりもまず楽しんで踊らないとならない。どんなに苦しくても「恋ってこんなに素晴らしい!」と、心を乗せないといけない。ヌレエフ作品は『眠れる森の美女』『ライモンダ』などまだほかにもたくさんあるので、これからもっと経験したいです。
■「バレエ」を呼吸して育ってきた
――そうしたお忙しい日々の中で、どのようにリフレッシュを?
1日だけの休暇ならまったく何もしません。体力を回復させるため大抵家にいて両親に電話をしたりしています。1日以上あったら外に出て、人のいないところでゆっくり静かに散歩をする。
――ご両親もバレエをされていました。初めて舞台に上がった時のことは覚えていますか?
4歳くらいだったでしょうか。でも物心ついた頃には劇場で走り回っていました。ほとんど劇場で育ったようなもので、劇場が家でした。そこで父の踊りを見たり、家で父の衣装を着て真似をして踊ったりしていました。
ワディム・ムンタギロフ ENB「海賊」(c) L.Liotardos
――最後に日本のお客様にメッセージを。
毎日今度はいつ日本に帰れるんだろう考えています。日本のお客様はバレエを理解して愛してくださっているし、日本で公演をするたび、自分が一生懸命練習してきた甲斐があったと思えます。皆さん身体に気を付けて、また何度も僕に会いに来てください。
――ありがとうございました。
「バレエ」を自然に呼吸してきたムンタギロフと「バレエは運命であり人生」と語ったルグリ。この二人が『ルグリ・ガラ ~運命のバレエダンサー~』で同じ舞台に立つことは、ある意味必然のようにも感じた。
『ルグリ・ガラ ~運命のバレエダンサー~』は8月19日(土)に、大阪で幕を開け、名古屋、東京で公演を行う。これが最後の公演となるかもしれないルグリ、いままさに「旬」といえるムンタギロフ。間違いなく見ておくべきダンサーだ。
取材・文=西原朋未 写真撮影=鈴木久美子
【会期】
8月22日(火)18:30 Aプログラム
8月23日(水)18:30 Bプログラム
8月24日(木)18:30 Bプログラム
8月25日(金)18:30 Aプログラム
【会場】東京文化会館 大ホール
【会期】 8月19日(土) 14:00 Aプログラム
【会場】フェスティバルホール
【会期】 8月20日(日) 17:00 Aプログラム
【会場】愛知県芸術劇場 大ホール