『グレース・ケリー展』をレポート 装いを通して見えてくる、女性にとっての「真の美しさ」とは
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オスカー女優からモナコ公妃へと華麗なる転身を遂げたグレース・ケリー。“Grace” という名にふさわしく、生まれながらに備わった気品や優雅さをそのまま体現するかのような人生を送り、今なお多くの女性たちを惹きつけてやまない。
そんな彼女の人生を紹介する展覧会『グレース・ケリー展〜モナコ公妃が魅せる永遠のエレガンス』展が5月10日(水)〜21日(日)、iTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズで開催中だ。本展は、2016年9月より東京、横浜、大阪など全国を巡回し、好評を博したことでも話題を呼んだ。そして今回はモナコ公室秘蔵の約140点の貴重なコレクションを見ることができるラストチャンス。一般公開に先んじておこなわれた内覧会より、本展の見どころをレポートしていきたい。
ドラマティックな人生の幕開け
展覧会の序幕を飾るのは、「ハリウッドが生んだクールビューティー」のコーナーだ。こちらでは彼女の生い立ちから、ハリウッド女優として名実ともに成功するまでのドラマが描かれている。
写真家・ハウエル・コナンによる貴重なショット。ジャマイカの紺碧の海を背景に。
本展の見どころに入る前にまず、彼女がハリウッドで成功するまでのストーリーを簡単に紹介しよう。1929年、フィラデルフィアの裕福なケリー家に誕生したグレース。小さい頃から「いつか舞台女優になる」という夢を心に抱いていたという。そのため高校卒業後は親の反対を押し切って単身ニューヨークへ渡り、演劇学校で演技の勉強を学んだ。しかし当時はマリリン・モンローなどセクシーが全面に出た女優の全盛期。数々のオーディションに挑戦するも「背が高すぎる、痩せすぎる、顎ががっちりすぎる」などといった理由から、なかなか望むようなチャンスに恵まれない時期が続いた。
そんな中、グレースの“類いまれな美しさ”を見出し大抜擢したのが、かのサスペンスの帝王・アルフレッド・ヒッチコック監督であった。ヒッチコックは「グレースのエレガントなセクシーさに魅力を感じた」と彼女を賞賛したというが、他の女優にはないクールビューティーの魅力を早々に見抜いていたのであろう。監督の確かな審美眼はその後、見事証明されることになる。グレース・ケリーは映画初主演からわずか4年で、映画『喝采』でアカデミー賞主演女優賞受賞という、ハリウッド最上級の栄冠を獲得する幸運へと導かれたのだ。
1955年、映画『喝采』でアカデミー賞主演女優賞を獲得した際の栄光のトロフィー
続く第2章「恋をしたオスカー女優」では、日本初公開のウエディングドレスを目にすることができる。1955年に『喝采』でアカデミー主演女優賞に輝いたグレースは、その年の5月に開催されたカンヌ映画祭に出席し、そこで運命の人、モナコのプリンス・レニエ3世との出会いを果たす。すぐさま熱烈な恋に落ちた2人は、ハリウッドとモナコ、9000キロにも及ぶ距離を手紙のやり取りで埋めていき、出会いからわずか1年足らずで結婚するに至った。
日本初公開となるウエディングドレス
グレースがロイヤルウエディング当日に選んだのは、エレガントな光沢を放つシルクタフタに繊細なバラのレースの刺繍、何千ものパールが贅沢にあしらわれたロングトレーンの純白ドレスであった。この特別なドレスを纏ったグレースは、世界中の多くの人々を魅了したことだろう。思わず立ち止まって、全方位からじっくりと見入ってしまう。
磨き抜かれたセンスと、
知性に裏付けられた抜群のコーディネート術
公務からプライベートまで愛用していたスーツ
第3章「現代を生きたプリンセス」から後半にかけては、グレースのセンスを思う存分堪能できる衣装の数々に出会うことができる。そのスタートを飾るのは、モナコ公妃となったグレースが、公務からプライベートまで愛用していたスーツを紹介するスペースだ。こちらではグレースが最も愛したと言われているディオールのスーツから、シャネル、ジバンシーまで、フランスのハイブランドのスーツが一堂に会する。
グレースの美意識が惜しみなく凝縮された、ドレッサールーム
第4章「スタイルアイコンのドレッサールーム」では、公妃の名を冠した伝説の「ケリーバック」を筆頭に、彼女が実際に愛用していた品々が飾られている。こちらでは衣装の展示がない分、洋服とあわせてコーディネートに欠かせなかったバッグや帽子、アイウェアなどの小物類が一段と存在感を放っている。時を経ても全く色褪せることのないアイテムの数々は保存状態も非常によく、「一点一点のモノを大切に扱いずっと付き合っていく」というグレース自身の人となりも感じられる。
彼女の名前を冠した、世界に3つしかない「ケリー・バッグ」
エルメスの代名詞ともいえる「ケリーバッグ」。ケリーバッグといえば、グレースが長女ロリーヌ公女を妊娠中にパパラッチに囲まれ、大きくなったお腹を隠したため名付けられたというエピソードでも有名だ。表面にグレース公妃の美しいポートレートがプリントされたこちらは、公妃の没後25年となった2007年にモナコで開かれた展覧会に出展するためにエルメス社が特別に制作したという貴重なアイテム。世界にたった3点しか存在しないというケリーバッグは必見だ。
帽子のお洒落術にも長けていたグレース。つばの広いものから、ターバンのようなスタイルまで。
ドレンドをさりげなく取り入れたアイウェアも、グレースの必須アイテム
装いを通して見えてくる、グレース・ケリーの人となり
展覧会の後半では、グレースがパーティーや舞踏会といった社交場で着用していた華やかなドレスが一挙公開されている。まず目を引くのは、やや目線の高い場所に一列に並んだ黒いドレスたち。「リトルブラックドレス」といえば、「女性を最も美しく魅せるためには黒一色のシンプルなドレスがよい」とシャネル女史が生み出したモードの美学だが、本展のブラックドレスを前にすると、その言葉が実に本質をついたものだと感じられる。色はすべてブラックで統一されているとはいえ、素材やカット、シルエットの違いで表情を変えるドレスたち。フォーマルからパーティー、ビジネスなど、どんなシーンでも映えるうえにノーブルな存在感をたたえるリトルブラックドレスは「いざという時の一着」として、公妃にとってとても頼もしい存在であったに違いない。
女性の品格を映し出す「リトルブラックドレス」
単に自分に似合う、おしゃれに見える、という衣装の意味を超えて、社交という重要なシーンにおいてファッションがいかに効果的なコミュニケーション手段であるかということをよくわきまえていたグレース。多くの視線が集まる舞踏会のシーンでは人々の心を鼓舞するように、時にはその場を包み込んで和ませるように、また時には夫を立てるために一歩引いた空気感を演出するようにと、TPOに合わせたファッション術に非常に長けていたそうだ。ハリウッドで女優として頂点を極めたグレースは、公妃となってからもその天性のギフトを生かし、衣装を自らの大切な表現手段の一つとして、さらにはコミュニケーションの切り札として、まさに装うことで「演じ分けていた」のである。
1982年、自動車事故によって52歳の生涯の幕を閉じた、グレース・ケリー。しかしながら一国の王妃として施設の設立やチャリティーなど、数々の公務に尽力した功績ははかり知れない。グレース自身「女性は、目標を定めたらどんなことでも達成できると信じています」という言葉を残しているように、本展ではグレース・ケリーという女性を象徴するエレガントな魅力だけでなく、彼女の意思の強さや責任感、女性ならではの勇敢さといった側面も十二分に感じ取ることができる。「真の美しさとは、真のエレガントとは?」そんな女性たちの永遠のテーマに対して、何か大切なヒントが見つかるかも知れない。このまたとない貴重な展覧会を、ぜひお見逃しなくご覧いただきたい。
会期:2017年5月10日(水)〜21日(日)
会場:iTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズ
開館時間:日〜木 10:00〜19:00、金・土 10:00〜20:00
※入館は各閉館の30分前まで ※最終日は17:00閉館
入場料:一般 1,000円(税込)、大学生・高校生・中学生 800円(税込)、小学生以下無料
https://www.gracekelly-exhibition.com/