シド 1年7ヶ月ぶりのワンマンライブ、武道館2daysを成功させたバンドのポピュラリティ
シド『夜明けと君と』2017.5.13(SAT)日本武道館 撮影=今元秀明
シド『夜明けと君と』
2017.5.13(SAT)日本武道館
『夜更けと雨と』『夜明けと君と』と題した日本武道館2days公演で、1年7ヶ月ぶりとなるワンマンライブを見事に成功させたシド。公演タイトルからも分かるように夜更けから夜明けをイメージし、2日間で重なる選曲はごくわずか。インディーズ時代やメジャーでも初期の楽曲も配置したこだわりのセットリストは、ここからまた彼らが活動を本格化する上で“シドの音楽性のオリジナリティ”そして、“シドの音楽性が持つ普遍性”を実感させる上で非常に重要だったのではないか。若干、話がそれるが、2010年代後半の今、ヴィジュアル系というカテゴリーは、日本のロックバンドならではの幅広い音楽性を許容し、バンドシーンにおけるベテランから中堅の活動を支える前向きなものとして再定義されつつあるのではないかということ。昨年、X JAPANやLUNA SEAを頂点として多数のバンドが結集した『VISUAL JAPAN SUMMIT 2016』が大きな話題を呼んだことや、当該シーンとは距離を置きながらも出演バンドの音楽や存在感に魅了され続けているリスナーが多数いることも、今になって明らかになってきたことで、それは確実に日本のロックのユニークネスを表していると思うのだ。
マオ/シド『夜明けと君と』2017.5.13(SAT)日本武道館 撮影=今元秀明
スタンドのステージサイド席までぎっしり埋まった武道館は、シドとの再会を待ち焦がれるファンの感情が充満。ステージ奥の巨大なビジョンに夜明けをイメージさせる映像が投影され、メンバーが登場すると悲鳴に近い歓声が上がり、イントロが一瞬ブレイクした早々、キャノン砲から銀テープが放たれる。1曲目はまさに始まりに相応しいブライトネスと希望に満ちた「ANNIVERSARY」だ。ロックバンドという括りさえ飛び越えるキャッチーなメロディを持ちながら、演奏のボトムは太くシュアなもの。シドというバンドのオリジナリティと軸を改めて思い知る。それにしても背景のビジョンの大きさに驚く。メンバー4人の表情を捉えて後方のファンにも伝えるには余りある大きさ。ドームライブで用いるぐらいの大きさなのだが、他のどんな演出よりも今、彼らがどんな表情で歌い、演奏しているか?が、特に今回のライブでは大切な伝達手段だったのだろう。シームレスにダンスポップからラウドまでを1曲に内包した「laser」、エンディングに向かって起こるシンガロングの大きさがファンの渇望感と喜びを如実に表していた「Re:Dreamer」まで一気に披露してくれた。
最初のMCから「今日、雨なのに傘持ってないって人には傘、表で売ってるから」と、マオが自分でも「初っ端から物販のMCするの俺ぐらいでしょ」と笑いを誘う。続くブロックでは16ビートやファンクネス、アーバンなムードの漂う曲、「cosmetic」「CELEBRITY」「ドレスコード」が演奏され、リズム隊の安定したグルーヴにも彼らのジャンルレスな引き出しの多さを再発見。しかもエロティックなのに具体的ではないイメージを喚起するマオの作詞。いい意味でヴィジュアル系バンドが全面的に引き受けてきたというか、好んで表現してきたセンシュアルな言葉が、今や他ジャンルのポップミュージックには余り見受けられない事実をも思い出させる。これは閉じたジャンルではなく、演者の器量があることを逆に示してもいる。
Shinji/シド『夜明けと君と』2017.5.13(SAT)日本武道館 撮影=今元秀明
なぜか中盤、マオが3人に向かって投げたMCのお題は「どういうことがストレスか」というもの。揚げ足を取りながら楽しむマオのドSっぷりはメンバーの仲の良さを素で見せる格好の場面になっていて、二枚目キャラとのギャップという意味でもこのバンドが愛される理由なのだと思った。まぁ二の線とは言い難いゆうや(Dr)がカメラ目線で投げキッスをしたあとの照れ笑いと目尻の笑い皺すら、今の彼らしくてとてもチャーミングだった。バンドの中に素で親しみを持てるメンバーがいるのは今後必ず強みになるだろうから。
中盤もシドの楽曲のクオリティと普遍性を感じさせる名曲「星の都」、この曲などはネオアコやスピッツを想起させる部分もあるし、歌謡としてのメロの強さとファンクネスが合体した「ミルク」も、曲の良さで引き込まれた。
明希/シド『夜明けと君と』2017.5.13(SAT)日本武道館 撮影=今元秀明
後半は一気にギアアップしてハードでソリッドなレパートリーに突入したのだが、「Dear Tokyo」は実はヘドバンをするにはポップな曲だし、サビのシンガロングも自然と起こるぐらい、オーディエンスも歌える曲だ。ポップなアレンジを施しながら、ロックバンドのライブの楽しさを定着させてきた彼らのライブの見せ方、楽しませ方は実にプロフェッショナルだ。そして「昨日やったから今日はもうやらないと思った? やるよ!」と、武道館中がバウンドし、椅子席でもファンがその場で回ったりアクションの激しい「循環」で、ステージ上も下もスタンドも歓喜とカオスのクライマックスへ。本編ラストの「one way」ではマックスの光量で客電もついた状態で、今この瞬間を分かち合う光景に、バンドもファンも昇華されていくようだった。骨太なバンドサウンドと親しみやすい、まさに日本のポップ / ロックが融合したシドのライブは、想像以上に間口の広いものだった。
ゆうや/シド『夜明けと君と』2017.5.13(SAT)日本武道館 撮影=今元秀明
アンコールでは、今年第二弾のシングルで、ぐっとラウド / エモ寄りでソリッドな「バタフライエフェクト」を披露。ここでもバンドの音楽的なレンジの広さを感じさせてくれた。この路線とファンキーな楽曲が今の気分やトレンドに合致するところだが、シドはおそらくそこにこだわることはしないだろう。続いて初期ナンバー「吉開学17歳(無職)」を火柱が上がる中、明希もShinjiも走り抜けながらプレイ。本編も含めて「「循環」と「17歳」はやっておきたかった」とマオ。原点を確認しながら今の力量でライブを行なうことが、彼らにとっても再び全力で走りだすガソリンだったのだろう。
5曲演奏し終わったところで、スクリーンに映画の予告編的にニューシングル「螺旋のユメ」のリリース、9月リリース予定のニューアルバム、そして全国ホールツアーが続々発表。ファンの悲鳴もボリュームアップするばかりだ。情報解禁したことでメンバー自身も感極まった印象で、武道館が熱狂と暖かさに包まれる。「“モテる男はサプライズが得意です”これ、ニュースの見出しにならないかな?」と、あくまでもマオらしいMCで笑わせながら、ラストはまさにこの2日を通して到達するべく配置された、歌心に溢れる「光」を鳴らしきって、笑顔で全20曲を完奏。発売後、即完売した2days公演だが、当初は不安もあり、これほど多くのファンが詰め掛けてくれたことに感謝しきれないと、ステージを去りがたい様子の4人。音楽的なポピュラリティはもちろん、実に人間的な魅力に溢れるライブだった。
取材・文=石角友香 撮影=今元秀明
シド『夜明けと君と』2017.5.13(SAT)日本武道館 撮影=今元秀明
>>【ライブレポート】『夜更けと雨と』2017.5.12(FRI)日本武道館
2017.5.13(SAT)日本武道館
01. ANNIVERSARY
02. laser
03. Re:Dreamer
04. cosmetic
05. CELEBRITY
06. ドレスコード
07. 星の都
08. マスカラ
09. ミルク
10. Room
11. Graduation
12. Dear Tokyo
13. 循環
14. one way
<ENCORE>
15. バタフライエフェクト
16. 吉開学17歳(無職)
17. 嘘
18. V.I.P
19. 夏恋
20. 光
2017年8月2日(水)発売
※TVアニメ「将国のアルタイル」オープニングテーマ
【初回生産限定盤(CD+DVD)】KSCL-2943/2944 1,500円+税
【通常盤(CD)】KSCL-2945 800円+税
【期間限定通常盤(アニメ盤)(CD+DVD)】KSCL-2946/2947 1,500円+税
※収録内容は後日発表
アルバム
2017年9月発売
※詳細後日発表
2017年5月27日(土)・28日(日)
さいたまスーパーアリーナ(アリーナモード)
【出演】
シド / 綾野ましろ / Aimer / ELISA / Kalafina / GARNiDELiA / ClariS / さユり /
SawanoHiroyuki[nZk] / 三月のパンタシア / 高垣彩陽 /
CHiCO with HoneyWorks / 戸松遥 / TrySail / 春奈るな / FLOW / LiSA
AND MORE…(両日共通)
※シドは両日出演となります。
【料金】
各8,640円(税込)
SID TOUR 2017
9月23日(祝・土) 千葉:松戸・森のホール21 開場16:00/開演17:00
9月24日(日) 千葉:松戸・森のホール21 開場15:00/開演16:00
10月1日(日)福岡:福岡市民会館 開場17:00/開演18:00
10月8日(日)神奈川:厚木市文化会館 開場17:00/開演18:00
10月12日(木)大阪:オリックス劇場 開場17:30/開演18:30
10月15日(日)新潟:新潟テルサ 開場17:00/開演18:00
10月21日(土) 群馬:ベイシア文化ホール(群馬県民会館)開場17:00/開演18:00
10月27日(金) 東京:東京国際フォーラム ホールA 開場17:30/開演18:30
11月3日(祝・金)兵庫:神戸国際会館 こくさいホール 開場17:00/開演18:00
11月4日(土)京都:ロームシアター京都 メインホール 開場17:00/開演18:00
11月7日(火)埼玉:大宮ソニックシティ 開場17:30/開演18:30
11月11日(土)愛知:日本特殊陶業市民会館 フォレストホール 開場17:00/開演18:00
11月12日(日)愛知:日本特殊陶業市民会館 フォレストホール 開場15:00/開演16:00
11月21日(火)東京:中野サンプラザホール 開場17:30/開演18:30
11月23日(祝・木)宮城:東京エレクトロンホール宮城 開場17:00/開演18:00
11月25日(土)北海道:わくわくホリデーホール(札幌市民ホール) 開場17:00/開演18:00