UKのインディー・シーン最注目株、フォーメーションにインタビュー

2017.5.22
インタビュー
音楽

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カサビアンのセルジオ・ピッツォーノはアルバム『フォー・クライング・アウト・ラウド』のリリースに際し「ギターミュージックを奈落の底から救い出す」と言った。近年のイギリスにも優れたバンドは多くいる。The 1975やウルフ・アリス、ロイヤル・ブラッドなどは確実にヒットした。しかしシーン全体としてはかなり厳しい状況下において、10年以上に渡り一線で活躍してきたスターの”奈落の底”という言葉は重い。ではこの2017年にそんな向かい風を吹き飛ばすだけの何かが起こるのか?答えはもう少し時間が経たなければ分からない。だか少なくとも兆しは見えている。その中でもロンドンからの5人組フォーメーションのデビュー・アルバム『ルック・アット・ザ・パワフル・ピープル』が持つポテンシャルは絶大だ。1970年代後半から1980年代のポストパンクにあった情熱さながらの、ロックやジャズやファンクの要素をジャンクに混ぜ合わせるセンス。パワフルなドラムにギターレスな分ベースがメロディアスにビートを刻むことで、アンサンブルが引き締まり生まれるタフで美しいグルーブ。綿密に酩酊感や自由を表現し空間を支配するシンセ。そしてダイレクトに胸を刺すボーカル。そういった要素を土台とし、ミニマルが持つ中毒性もポップのダイナミズムも吸収した高い構成力と表現力。それはまるでダンスフロアに”パワフル・ピープル”が吸い寄せられ無限に広がって行く様を描いているようだ。今回のインタビューではバンドの発起人である双子の兄弟ウィル・リットソンとマット・リットソンの2人に、現在のイギリスのシーンのことやバンドのメンタリティから音楽的な成り立ちまでを語ってもらった。

――アルバムのジャケットやアーティスト写真、「Powerful People」のビデオでも着られているデニム・ジャケットがクールですね。背中に描かれている手錠はどういう意味なんですか?

ウィル・リットソン(Vo.):ありがとう。これは僕のガールフレンドがデザインしていて、候補はいくつかあったんだけど、アルバムのシンボルとして一番かっこいいと思ったんだ。手錠は”自由”を意味している。

――それで切れているんですね。

マット・リットソン(Key):そうだよ。

――モチーフに手錠を使うということは、かつては素行が悪かったとか理不尽なことで警察のお世話になったとか?

ウィル:そんなことはないよ(笑)。ちょっとした悪さは誰だってするだろ?でも警察に捕まったことはないね。僕はお酒も飲まないしベジタリアンだし健康的だよ。

マット:ロンドンだと物を取られたり殴られたりすることはよくあること。僕らはそんなことしないけど見た目がアウトサイダーだったからか恰好のターゲットだったんだよね。よくやられたよ(笑)。これは自分たちというよりソサエティとしての自由を表現しているんだ。

――フォーメーションというバンド名はアウトサイダーの集まりといった意味ですか?

ウィル:近いね。他の人と違うことでまとまっているというか、そういう感じ。

――今のロンドンではグライムがそういった"フォーメーション"と言いますか、カルチャーとして大きく広がりました。近年の象徴であるスケプタやストームジー、その前はディジー・ラスカルがいますが、まだ発祥初期の頃クラブでは警察沙汰もしょっちゅうで本当に荒れていたと聞いたことがあります。

マット:そうだね。グライムはかつてはサブカルチャーで警察が来るようなこともよくあった。確かに危ない奴らはいたよ。でもそれは”グライムだから”ということでは決してない。取り立ててそこだけが危険というわけではないんだけど差別的に扱われていた部分もあった。あってはならないことだし治安としても悪循環だよね。でも今は周囲と違っていることも受け入れられるようになってきて、グライムの名の元にいろんな人同士の良い繋がりが生まれて価値観をシェアできる。本当に素晴らしいことだと思う。

――グライムはメインストリームでも面白い動きを見せていますが、あなた達のようなバンドは厳しい状況にありますよね?インディー・ロックの巻き返し、そのホープとして期待が集まることに対してはどう思いますか?

ウィル:ポップでもインディーでもジャズでもファンクでも何でもいいんだ。聴いてもらえることが嬉しいし、それをどう捉えるかは聴いてくれた人次第。そうだね、今UKではたくさんのバンドがDIYでやってる。かつてみたいな景気のいい話なんて全然ないからね。みんな本当に大変だと思うよ。そんな状況で数ばっかり増えてる。まあ僕らもその一つだけど。

Formation

――カサビアンがエド・シーランから全英1位の座を奪いましたが、それについてはどう思いますか?

ウィル:カサビアンは10年以上のキャリアがあってファンベースが築かれているうえでのことだから僕らとは比べられないよね。でも希望が持てる出来事だし自分たちもそうなれるかもしれない。そこは昔より何が起こるか分からないのが今だと思う。

マット:SNSでの反応や実際に出ている数字を見れば分かるんだけど、僕らはイギリスだと全然知られていないのが現状。不思議なことに日本が一番反応がいいんだ。それは素直にめちゃくちゃ嬉しいけど、まだまだこれからだね。

――日本だと大きなコミュニティではないですけどインディー・ロック系のパーティではすでにDJがよくかけています。

マット:本当に?僕はそうやって踊ってもらえることが一番嬉しいんだ。

――ロンドンで面白いクラブやパーティはありますか?

マット:「Printworks」っていう新しいクラブができたんだけどそこはいいね。他には、好きな場所が潰れちゃって残念……。クラブはベルリンの方が面白いんじゃないかな。

――アルバムのタイトル『ルック・アット・ザ・パワフル・ピープル』の”パワフル・ピープル”という言葉はどういう意味ですか?

ウィル:ジノ・ヴァレリというアーティストが1974年に出したアルバムのタイトルが『パワフル・ピープル』。その出だしが「ルック・アット・ザ・パワフル・ピープル」でそれをそのまま使ったんだ。お金持ちとか政治家とかではなくて、ギャングやアウトサイダーのメンタルだったりコミュニティだったり、そういう人たちの強さを表している。

――経済的なことや社会的地位という意味では弱者でも強く生きている人。

ウィル:まさにそういうこと。

マット:みんなそもそも人間。みんながパワフルであることができる。

――歌詞に背中を押されるんです。自分がいかにくだらないかってことは自分が一番分かっているのに目を背けてしまう。そこと向き合えたうえで奮い起つような。リアルでポジティブになれるんです。

ウィル:ありがとう。みんな日々の生活や政治に思うこともたくさんあると思う。でも何かをただ批判したり不平不満しか出ないコミュニティにいたってしょうがない。人生に対してポジティブでいること、まず目的に向かってひとつになろうよってことが言いたいんだ。

――正しいと思っていることが届かない悔しさをポジティブにシェアできる仲間がいることの強みを感じます。

マット:そう。そういう奴らとバンドをやるといい。最高だよ。やってる僕が言うんだから間違いない。

――なるほど。それこそバンドである意味ですよね。フォーメーションの音楽的なルーツも訊かせてもらえますか?

マット:インディーもそうだしジャズやクラシックからの影響もある。プログレッシブやニュー・メタルもそうだね。

――ニュー・メタルは意外です。へビー・メタルなら何となく話は分かるんですけど。

ウィル多分その感覚は合ってる。イギリスではアメリカのへビー・メタルのニュー・ウェーブみたいな感じでオリジナル・メタルの色が強いバンドが流行っていたんだ。君が意外だと感じたのは僕らがリンプ・ビズキットやリンキン・パークを好んでいると思ったからだよね?

――はい。そこは普通に生活していると流れていくるから知っていた程度のものかと。

ウィル:うんそうだよ。僕らが好きだったのはバンドで言うとシャドウズ・フォールやラム・オブ・ゴッド。そっちの方がリアルだった。プログレッシブにしてもジャズにしてもそうなんだけど、緊張感のある音楽が僕には響いたんだ。

マット:ジャズ・ミュージシャンやプログレッシブのミュージシャンは楽器の演奏力が高い。へビー・メタルのミュージシャンもそうで、学ぶべきところがあるんだ。

――アルバムのサウンドに浮かんでくる直接的な影響源として、あえてへビー・メタルと遠からずという視点で考えてみるとナイン・インチ・ネイルズがそうなんじゃないかと。

マット:イエス!ナイン・インチ・ネイルズはフェイヴァリットだ。トレント・レズナーはフロントマンとして優れているしシンセの使い方も上手い。映画音楽やサイケデリック、パンクそしてヘビー・メタルなど様々な要素をブレンドすることにおいて抜群のセンスを持っているから感じることは多い。最高だよ。

――力強く引き締まったリズム、ベースはメロディーを持って鳴っていることも印象的でした。そこに空間的な広がりを持ったシンセのマッチングに大きな特徴があります。

ウィル:ベースにはリードギターとしての役割も持たせているからね。リズムからメロディーも強く出るようにイメージしているんだ。そのタイトなサウンドにシンセでレイヤーを加えていく。

――ギャング・オブ・フォーやポップ・グループといった1970年代後半のポストパンクにある、パンクの生々しさや粗さとファンクのケミストリーに、プログレッシブやサイケデリックの浮遊感やスケール感が重なったような感覚が新鮮でした。フィジカルでガンガン踊らされながらその世界観に引き込まれていくんです。

ウィル:ギャング・オフ・フォーは本当に大きな存在だね。サウンドも政治的な歌詞も含めて。サイケデリックで言えばイエス、ピンク・フロイドだね。マットはどう?

マット:あとはキング・クリムゾンとマーズ・ヴォルタかな。音に広がりやアクセントを付けたいときに彼らがやっていることが刺激になっているんだ。

――そういった音楽もジャズと密接な関係にありますが、フォーメーションにとってのジャズとは?

マット:ジャズは即興の面で影響を受けている。そうして生まれたメンバーとのコネクションが曲作りにおいて重要なんだ。最初からポップやロックを作ろうとするとお決まりのものになってしまうからね。ジャズの即興演奏をベースに考えるということは自分自身を表現することそのものであり、その集まりがフォーメーションなんだ。

ウィル:そう、だから歌詞も即興的な要素が強い。デヴィッド・ボウイやイギー・ポップもそうだったと思う。

Formation

――曲作りのプロセスについて訊かせてもらえますか?

マット:曲によって違うんだ。ドラムビートから作ることもあればコードから作ることもある。

ウィル:まず僕ら二人で作る。それをスタジオに入ってフルバンドでレコーディングして形にしていくことがほとんどだね。

――お二人で作った段階でほぼ完成されているというよりは、あくまでそれは土台で各パートのアレンジはメンバー個々の感覚に委ねていると考えてよいのでしょうか?

マット:完全にそうだね。それぞれの感覚にまかせる。スタジオではみんな本当に自由なんだ。だからついつい尺が長くなってしまうことも多いし、最終的にひとつの曲としてまとめるのは大変なんだけど。ミキサーやプロデューサーには苦労を掛けていると思う。でも彼らもまた自由。信用できるメンバーが集まってチームの力で完成したレコードだから堂々と出せる。「これがフォーメーションだ」ってね。

――パワフル・ピープルが集まって作ったレコードのチーム力。胸が熱くなります。

ウィル:特定のメッセージや思想があるわけではないんだけど「自分にも何かできる」というポジティブなマインド・セットがまず大切だと思う。それはコレクティブというか誰かと繋がっていくことでより強く感じられる。このアルバムも僕らが日々思うことや制作を通じて感じたことのドキュメント。レコードを作ってシェアしようということがまさに”できること”なんだ。だから僕らの音楽に触れてくれた人がまた誰かと繋がってくれたなら、そんなに嬉しいことはないね。

マット:本当にそうだね。僕は歌詞を書かないから音の面で言うと、まずはシンプルにダンスして楽しんでもらえるような作品にすることを強く意識している。それがシェアってことだと思うから。次にハーモニーだね。コード・プログレッションとか、一つひとつの音が繋がって広がっていく美しさ。そういうところに思いを込めているんだ。


取材・文=TAISHI IWAMI ライブ撮影=古溪一道(Kazumichi Kokei)