市村正親インタビュー~蜷川幸雄1周忌追悼公演『NINAGAWA・マクベス』で蜷川魂を背負い、突き進む 

インタビュー
舞台
2017.5.24
市村正親

市村正親


蜷川幸雄演出の精華を体現する作品の一つ『NINAGAWA・マクベス』。1周忌追悼公演として日本をはじめ、海外を巡演する舞台が6月23日からの香港公演を皮切りに幕が上がる。シェークスピアの名作の舞台を、大胆に日本へと置き換え、桜吹雪が舞うなど蜷川の詩的な美意識が隅々まで貫かれた名作だ。2015年に続いて主演を務める市村正親は、「蜷川魂がふんだんに織り込まれている。蜷川さんの世界をまだ見たことのない若い人たちや世界の人たちに、しっかりと堪能してもらいたい」と語る。そんな彼に蜷川との思い出や今回の公演にかける思いなどを聞いた。

--蜷川さんの1周忌法要を終え、いよいよ稽古が始まります。今の心境は。

一緒に海外公演に行けないのが本当に残念だけれども、蜷川さんの魂をしっかりと心の中に焼きつけて行ってきますとご報告しました。
                                   
今は時間があると、『NINAGAWA・マクベス』の台本ばかり広げています。8割ぐらいのせりふは思い出したかな。あとは稽古場で早く皆と合わせたい。せりふの一言一言に蜷川さんの思いがこもっているような気がしています。普通のシェークスピアの『マクベス』の台本と比べると、『NINAGAWA・マクベス』は半分くらいの厚さ。無駄なものを全部処理されているんですね。初演(平幹二朗主演)は1980年と聞いているけど、今やっても全然古くない。本当にすごいなあと思います。400年前のシェークスピアを、日本のスタイルで作り上げたのが、今の時代に逆に新鮮な感じがします。

--2015年に『NINAGAWA・マクベス』で初主演するまでのエピソードを教えてください。

ぼくはね、蜷川さん演出の作品に、50歳で『リチャード3世』(1999年)、53歳で『ハムレット』(2001年)に出ました。一番うれしかったのは蜷川さんに「リチャード3世を市村でやろう」と思ってくれたことです。リチャード3世の役は皆やりたがるんですよ。そして、その後に「即、ハムレットをやらせたい」と言わせた市村正親という俳優は大したものなんですよ(笑)。53歳でハムレットというのは、やれなくもないけど、いいのかな? ほかにも若い人がいるのに、と思うじゃないですか。でも、蜷川さんは、「お前でやりたいんだ」と言ってくれた。なぜかと聞いたら、「せりふで勝負したいからだ」と。これはまた俳優にとってはうれしいじゃないですか。

そのあと、『ペリクリーズ』(2003年)では、盲目の琵琶法師の役。「目も見えない手も使えない中で何ができるか、見せてくれ」と蜷川さんは言うんです。そういう挑戦的な演出家だったので、すごく楽しかった。相当体力がないとできないから、大変だったですけどね。『ペリクリーズ』のあと、12年間のブランクを経て、『NINAGAWA・マクベス』で再び蜷川さんとご一緒したのは、運命的なものを感じましたね。

--マクベスのきらびやかな羽織はかまの衣装の第一印象は。

萬屋錦之介さん、錦兄がおりてきました。錦之介さんが演じた舞台『反逆児』で着ていた歌舞伎っぽい衣装だったから。ぼくは21から24まで、その舞台で共演していた西村晃さんの付き人を務めていましたから、舞台の袖でずっと見ていたんです。錦兄だったら、どういう風にせりふを言うかなと思いました。

--2015年の時、蜷川さんからの演出はどうでしたか。

もう、怒られっぱなし。「違う違う、そうじゃない!」ってね。その時、使った台本を見ると、ダメ出しが書いてありますよ。「もっと心の動揺を表現する」「ダイナミックに斬りすぎない」「引くのではなく前へ前へ」「大きな状況としてつかまえる」とかね。これを見るたびにグッとしてきますよ。。

蜷川さんがいない演出ってどうなの? という声があるかもしれないけれども、ぼくの中には稽古のダメ出しが相当ある。それがまだ完璧にできていないうちに、前回の公演では千秋楽を迎えたので、今回こういう形でまた『NINAGAWA・マクベス』をやれるのがありがたいです。蜷川さんの大きな声で怒鳴られると、萎縮してしちゃって、やれる演技も素直にできなくなる(笑)。でも、今回は蜷川さんの魂だけ残っているので、皆でそこへ向かって突き進んでいけばいい。ある意味での脅迫的なことはないので、のびのびと自由にできるかな(笑)。「なんだよ! 俺がいなくなったら、そういういい芝居をするのかよ!」と、蜷川さんに言われるような気配を感じています(笑)。

再演がいいのは、せりふが体の中に入っているから、自分の気持ちでしゃべれること。前回は、覚えたものを必死に言っていたから。

--今回も使うその台本には、蜷川さんのサインが入っているそうですね。

「市っちゃん! 頑張った! 蜷川幸雄」とあります。2015年の千秋楽の1週間ぐらい前、休憩の時にね、「ニーナ、ちょっとサインして」と頼んだら、書いてくれたんですよ。今度、海外公演から帰ってくる時には、「市っちゃん! よく頑張った!」と書いてもらえるような『NINAGAWA・マクベス』にしたいと思います。

--その台本はお守りのようなものですね。

そうですね。蜷川さんがもっと元気だったら、もっとダメ出しをしていたかもしれない。だからぼくも暴走しようと思っています。

--今回は、香港、英国、シンガポールでも上演します。世界に向かっての挑戦となります。意気込みのほどを。

ぼくは世界でやろうなんて思ってない。世界でやろうなんて思うと、『マクベス』に登場する魔女の予言に惑わされて失敗すると思うんですよ。世界に行って悲劇になる。日本の東京で作った『NINAGAWA・マクベス』の上演が、香港であったり、ロンドンであったりするだけで、別に世界に行くんじゃない。向こうの人たちが来られないから、じゃあ、こっちが行くかみたいな感じ。それくらいの余裕をもって、やります。

蜷川さんの名前は、ロンドンでは有名なので、期待度が高い。ということは、お客さんがいっぱい入ると思うんです。気持ちいい状況でやれる。見せてやろうという感じだね。だって、日本の話になっているからね。ぼくの後ろには、ニーナだけじゃない。錦兄もついていると思うから。

--ご自身が思う『NINAGAWA・マクベス』の見どころとは。

ぼくと田中裕子さんで演じる激しい夫婦愛ですね。どうあるべきかも含めて、しっかりお見せしたい。裕子さんあってのマクベスですからね。始めは、「(王殺しは)もうやめよう」とマクベスが言うと、裕子さん演じる妻から「何言ってるの」と言われて発破を掛けられる。だけど、後半、ふたりは妄想に取り憑かれていく。

日本の桜やバーナムの森、衣装も非常にきれいだし。蜷川魂がふんだんに織り込まれているので、蜷川さんの世界をまだ経験していない若い人たちや世界の人たちにしっかり堪能してほしいですね。

--彩の国さいたま芸術劇場に新設された蜷川さんのメモリアルプレートに刻まれた言葉と同じように、「疾走するジジイであり続けたい」そうですね。疾走するための健康法やスタミナ源を教えてください。

ぼくはね、(2014年に胃がんの手術をして)胃が半分になっちゃったから、食べる量を減らしています。ということは、尿酸も下がるし、糖尿も減る。人間ってだいたい食い過ぎなんですよ。本当はちょっとでいいのにね。膝も、この前の『NINAGAWA・マクベス』の時に痛めて手術をしたんです。また悪くなるといけないので、違う方法で汗をかこうと思って、筋トレとマグマヨガをやっています。マグマヨガで溶岩の中で1時間ヨガをすると、1リットルくらい汗をかいて、体温も1度ぐらい上がります。そうすると、免疫力がアップして非常に強い体になるんですね。食べたら出す、食べたら出すのがいいのかなと思います。あとはストレッチ。本番前にマグマヨガは必ず行きますね。それから、ほどよき赤ワインと白ワイン。(仕事が)終わったら少し覚醒させたいから、1日グラス3、4杯、ボトルだと3分の2ぐらいいただきますね。

数多くの名作を遺してきた蜷川さんの『NINAGAWA・マクベス』を背負えるのは、俳優冥利に尽きる。秋のシンガポール公演の大千秋楽までけがのないように走りきりたいです。

演出家亡き後の追悼公演は、演劇が生ものであるだけに難しさもある。だが、映像がいくら残っていたとしても、作品の手触りや劇場の空気感までは伝えきれない。世界と闘い続けた蜷川幸雄という希代の演出家の魂を、どう受け継いでいくのか。その名前を背負う今回の追悼公演は、その試金石になるかもしれない。自然体で、しかし熱い思いを秘めて挑もうとする市村のマクベスから目が離せない。 

取材・文=鳩羽風子  カメラマン=清田征剛

公演情報
蜷川幸雄一周忌追悼公演『NINAGAWA・マクベス』
 
■作:ウィリアム・シェイクスピア
■演出:蜷川幸雄
■主催:公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団 ホリプロ
■オフィシャルエアライン:ANA
■イギリス公演共催:国際交流基金
■公式サイト:
http://ninagawamacbeth.com/
 
■キャスト:
マクベス 市村正親
マクベス夫人 田中裕子
バンクォー 辻萬長
マクダフ 大石継太
ダンカン王 瑳川哲朗
門番 石井愃一
魔女1 中村京蔵
老人/シーワード 青山達三
マルカム 竪山隼太(さいたまネクスト・シアター)
魔女2 清家栄一
ロス 間宮啓行
アンガス 手塚秀彰
医者 飯田邦博
貴族 塚本幸男
魔女3 神山大和
侍女 景山仁美
レノックス 堀文明
老女 羽子田洋子
老女 加藤弓美子
暗殺者 堀源起(さいたまネクスト・シアター)
マクダフ夫人 周本絵梨香(さいたまネクスト・シアター)
メンティース・王 手打隆盛(さいたまネクスト・シアター)
ドナルベーン/小シーワード 秋元龍太朗
フリーアンス 市川理矩
シートン 白川大(さいたまネクスト・シアター)
使者 續木淳平(さいたまネクスト・シアター)
ケースネス 鈴木真之介(さいたまネクスト・シアター)
使者 髙橋英希(さいたまネクスト・シアター)
使者 後田真欧
暗殺者2 五味良介
召使い 西村聡
召使い 岡本大地
マクダフ息子 牧純矢(Wキャスト)
マクダフ息子 山崎光(Wキャスト)
※配役は稽古に入った段階で変更する場合あり
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■会場&日程:
【香港】
Grand Theatre, Hong Kong Cultural Centre
(10 Salisbury Road, Tsim Sha Tsui, Kowloon, Hong Kong)
6月23日(金)~25日(日)
◆チケット前売日:2月23日(木) 
◆問合せ先:
・公演について:(852)-2268-7325
・チケットについて:(852)-3761-6661
・電話予約(クレジットカード販売):(852)-2111 5999
・インターネット予約:www.urbtix.hk 
◆ウェブサイト:www.lcsd.gov.hk/cp

 
【日本】
埼玉/彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
◆公演日:7月13日(木)~ 29日(土)
◆チケット前売日:4月22日(土) 
◆チケット料金:S席¥12,000- A席¥9,000-
◆問合せ先:ホリプロチケットセンター 03-3490-4949 
◆ウェブサイト:http://hpot.jp/

 
佐賀/鳥栖市民文化会館 大ホール
◆公演日:8月5日(土)~6日(日)

 
【イギリス】
ロンドン/Barbican Theatre 10月5日(木)~8日(日)
プリマス/Theatre Royal Plymouth 10月13日(金)~14日(土)

 
【シンガポール】
シンガポール公演予定

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