明後日プロデュース第2弾公演『名人長二』が開幕! 主演・豊原功補が落語をベースに狂気と美意識を舞台に
豊原功補 高橋惠子│明後日プロデュースVol.2 芝居噺「名人長二」
豊原功補の主演舞台『名人長二』が、5月25日より6月4日まで東京・紀伊國屋ホールで上演される。
原作の『名人長二』は、モーパッサンの短編小説『親殺し』に着想を得て、落語家・三遊亭円朝(天保10年‐明治33年、1839‐1900年)が創作した長編人情噺だ。主演の豊原は、本作の舞台化に企画から携わり、初脚本・初演出も手がけている。会場は、落語会の開催も多い新宿の紀伊國屋ホール。共演は、高橋惠子、山本亨をはじめとした実力派キャストたち。初日の幕開けを数時間後に控えた、本番さながらの通し稽古より見どころをレポートする。
新宿・紀伊國屋ホールから江戸時代へ
ステージの中央に低い木製の台があり、その上に座布団が敷かれていた。落語の高座だ。一度暗転し、開幕と同時にスポットライトが照ら出したのは、座布団の上の落語家。豊原功補だった。小気味良いマクラ(落語でネタに入る前のトーク)で『名人長二』の背景を解説し、観客を作品の舞台となる江戸の入口までエスコートすると、入れ替わるように坂倉屋助七(モロ師岡)が登場して物語ははじまる。
実は、このオープニングは、先日稽古場を訪ねた際に一度見学していた。にもかかわらず、思わずカメラのファインダーから目を離し確認したほどに、豊原は別人に仕上がっていた。噺家・豊原功補の姿はぜひ劇場でみてほしい。
※あらすじやスタジオでの稽古風景、進化前の噺家・豊原功補は、こちらの記事でご覧ください。
美意識と情緒を感じる作品世界
舞台『名人長二』の見どころとして、まず現代の生活では触れる機会の少ない「美しさ」を紹介したい。たとえば衣装。次に引用する一説は、亀甲屋幸兵衛(山本亨)の装いを説明したものだ。
「糸織藍万のあわせに、琉球紬の下着を袷重ねにして、茶献上の帯で、小紋の絽の一重羽織を着て、珊瑚の六分珠の緒締めに、金無垢の前金物を打った金革の煙草入は長門の筒差」
事細かな描写だ。しかし落語でこれを聞いても、その姿をクリアに想像できる人は限られているだろう。本作は、原作にあるこのような表現を、可能な限り再現しているという。円朝が思い描いた小粋な装いの幸兵衛に、悪人と知りつつも惚れ惚れした。
高橋惠子が演じるお柳は、浮世絵の美人画からモデルが抜け出てきたよう。衣装だけでなく、佇まいや所作のひとつひとつに目を奪われる。過去に思いを馳せるときの表情、煙管をもつ指、何気なく傘をたたむときの身のこなしにも、美意識を感じた。
多彩な衣装とは対照的に、小道具やセットの数は多くない。白い扇子をキセルやお箸に、手ぬぐいをキセル入れやお財布に見立てるのは、落語へのオマージュだろう。想像の余地を残すセットだからこそ、音響や照明の演出効果は大きく響く。遠くい聞こえる朝顔の苗売りの声(これは志ん生ファンを公言する豊原の遊び心かもしれない)には、晩春の風を感じ、障子だと思っていた格子のついたてが緑に染まった時は、長二の運命を狂わせた竹林に投げ込まれた感覚に陥った。
実力派キャストが繋ぐ骨太な物語
劇中で重いシーンが続くと、落語のくすぐりのようにコミカルなやりとりが挟まれる。俳優陣はここぞとばかりにおかしみを発揮する。この先しばらくは、落語に丁稚が出てきたら菊池均也の、町奉行が出てきたら山本亨の顔がちらつきそうだ。
シーンとシーンをつなぐのは、唄と三味線の生演奏。そして、全体の要となるベテラン俳優らの”ひとり語り”。役者ひとりひとりの力量なしには成立しないこの構成に、豊原が共演者たちに寄せる絶大なる信頼を感じた。それに応えるように、梅沢や花王は語り部のような凄みをもって、モロ師岡は本物の噺家のような心地よい言葉つきで、それぞれがお互いの個性をひきたてながらその役割を果たしていった。経験豊富なベテラン俳優陣に埋もれることなく、神農直隆、岩田和浩、牧野莉佳ら若手キャストも、各々の役柄を生き生きと演じる。森岡龍は、傷と影を抱えながらもお調子者然として生き延びる、弟弟子の兼松役を務めた。「どんなにでたらめでも、生きなきゃだめだ」という台詞を体現するような、晴れ晴れとした希望を感じさせる演技だった。
落語を知らなくとも見どころの尽きない舞台だ。しかし古今亭志ん生や、五街道雲助らの長二郎に馴染みがある方ほど、衝撃の展開の『名人長二』になるだろうそして親子の愛憎だけでなく、長二は本当に狂気していたのかもしれないと考えさせられる“一席に”なるだろう。豊原版・長二郎の気迫にねじ伏せられる、明後日プロデュースVol.2 芝居噺『名人長二』は、新宿・紀伊國屋ホールにて6月4日(日)までの上演。
取材・文・撮影=塚田史香
■日時:2017年5月25日~6月4日
■会場:新宿・紀伊國屋ホール
■企画・脚本・演出:豊原功補 (原案:ギ・ド・モーパッサン「親殺し」、原作:三遊亭圓朝「名人長二」)
■邦楽演奏(唄・三味線)紫蘭まき、東音山本英利子