明日海りお&仙名彩世の新トップコンビ大劇場お披露目公演 観劇レポート
『邪馬台国の風』 (C)宝塚歌劇団
6月2日、宝塚大劇場で花組公演が開幕した。花組トップスター・明日海りおの相手役に仙名彩世を迎えた、新トップコンビによる大劇場お披露目公演だ。
『邪馬台国の風』(作・演出/中村 暁)は邪馬台国の卑弥呼伝説を下敷きに、ひと組の男女の宿命と”はじまり”を描いたロマン溢れるオリジナルドラマ。2幕の『Santé!!』(作・演出/藤井 大介)は「ワインを飲んで見る数々の夢」がテーマの楽しいレビュー作品。
宝塚で初めてのレビュー『モン・パリ』が上演されてから今年で90周年を迎え、受け継がれる伝統と未来への勢いを感じさせる心弾むショーを展開する。
古代ロマン『邪馬台国の風』
『邪馬台国の風』 (C)宝塚歌劇団
「生まれながらに背負った宿命は変えられない。でも、生きる道は自分で切り拓ける!」
今から1800年前の古代日本。富める小国、邪馬台国を中心とした倭国連合は、彼らを支配下に置きたい狗奴国との間で対立を深めていた。そんな折、狗奴国に両親を殺され孤児となった少年タケヒコは人知れず文武に長けた渡来人に育てられ、やがて邪馬台国の最高戦士へと成長する。一方、神託を司る巫女として邪馬台国に迎えられたマナ(仙名彩世)は、まだ戦士となる前のタケヒコ(明日海りお)に命を助けられた過去があった。その時マナはタケヒコ対して「あなたはいつか海を渡り遠い国へ行く」こと、そして自分たち二人は「遠い昔に出逢い、もう一度めぐり逢うと誓っていた」ことを告げたのだった。不思議な縁に導かれるように時を経て、再び相見えた二人。今やタケヒコは邪馬台兵の長となり、マナは名を変えて邪馬台国の女王ヒミコとなっていたーー。
『邪馬台国の風』 (C)宝塚歌劇団
明日海りお&仙名彩世による愛とロマン溢れる壮大な歴史ファンタジー。戦乱の世に、一国の運命を司る女王と勇猛果敢な最高戦士を軸とした本作は、身分違いの恋物語として、また他国との陰謀渦巻くスリリングな国盗り物語としても楽しめる。そんな中、恵まれた資質を国のために活かすことを宿命付けられた主人公たち。内なる葛藤の果てに、彼らは自らの未来にどんな運命を導き出すのか。
『邪馬台国の風』 (C)宝塚歌劇団
タケヒコ役の明日海りおは登場の度に成長していく姿が頼もしく、棒術を駆使したアクションにも気迫がこもる。仙名彩世は独特な声の響きが神秘的で、神の言葉を聞くヒミコ役にもぴったり。対する、狗奴国の王ヒミクコ(星条海斗)と荒ぶる兵士をまとめる将クコチヒコ(芹香斗亜)は悪役として静と動の違いを際立たせ、反乱分子であるアケヒ(花野じゅりあ)、奴王ヨリヒク(瀬戸かずや)らと結託すると、幾度となくタケヒコの前に立ちふさがる。そこへ駆けつける邪馬台国の戦士たち。演じる鳳月杏、桜咲彩花、水美舞斗、柚香光、城妃美伶がそれぞれに個性を輝かせ、生死を共にする仲間の存在も物語をドラマティックに盛り上げていく。劇中では勧善懲悪な展開も用意され、スリリングだが痛快なカタルシスも味わえる作品だ。
『邪馬台国の風』 (C)宝塚歌劇団
本作は英雄誕生までを描いた長いプロローグとしても見てとれる。タケヒコとヒミコが手にしたラストシーンは、これから数々の伝説を紡いでいくであろう新トップコンビの姿にも重なり、明日海りお&仙名彩世が率いる新生花組の新たな船出にふさわしい”はじまりの物語”としても強く印象に残った。
レビュー・ファンタスティーク『Santé!!』~最高級ワインをあなたに~
レビュー・ファンタスティーク『Santé!!』~最高級ワインをあなたに~ (C)宝塚歌劇団
「赤い命の水を君にあげよう。誰かを愛するためにね、君は生まれてきたんだ!」
フランス語で“乾杯”を意味するタイトル通り、「ワインを飲んで見る数々の夢」がテーマのレビュー。愛や夢、ロマン、そして最高級のフランス料理とワインが楽しめるパリを舞台に、ポン!っとコルクの栓を抜くように個性豊かな歌とダンスが華やかに弾け出す。幕開けからミラーボールがシャンパンゴールドの光の泡を振り撒くと、ボルドー5大シャトーが現れ「自分こそが最高のワイン」と競い合う。すかさずスピーディーな主題歌「Santé!!」を合図にキャストたちが客席にまで踊り出て、会場全体を熱狂的にスパークさせる。その後も、衣装、美術、照明、視界に入るすべてをワイン色に染め上げながら、様々な味わいで観客を酔わせていく。花組が誘う歓喜の渦に飲み込まれる楽しさを、ぜひ会場で体感してほしい!
レビュー・ファンタスティーク『Santé!!』~最高級ワインをあなたに~ (C)宝塚歌劇団
明日海は冒頭から酩酊した表情と仕草でコミカルに笑わせたかと思えば、キザな紳士から妖艶な淑女まで(!)多彩な表情で魅了する。とりわけ長渕剛の「乾杯」をアレンジした楽曲で踊る黒燕尾の群舞は、一糸乱れぬダンスと宝塚ならではの男役の美学に酔わされた。そんな明日海に寄り添う仙名彩世は、明日海とのデュエットダンスではロマンチックにステップを刻み、娘役を率いる場面では誰よりも激しく妖艶に舞い、歌やダンスでも確かな実力の持ち主であることを知らしめる。
レビュー・ファンタスティーク『Santé!!』~最高級ワインをあなたに~ (C)宝塚歌劇団
その他、スーツにソフト帽でジゴロを演じる芹香斗亜や、大勢の娘役を従えカンカンを踊る柚香光、そして「愛の讃歌」が彩るエディット・ピアフと恋人マルセルの悲恋のドラマを演じた美穂圭子と星条海斗まで、目を惹く男役スターやシーンが目白押し。最後は再びキャストらが「乾杯!」と声を上げながら主題歌「Santé!!」を歌い出し、会場のボルテージは一気に最高潮へ。終演後も気づけば主題歌を口ずさんでしまうほど、祝祭感溢れるステージが堪能できるはずだ。
レビュー・ファンタスティーク『Santé!!』~最高級ワインをあなたに~ (C)宝塚歌劇団
レビュー・ファンタスティーク『Santé!!』~最高級ワインをあなたに~ (C)宝塚歌劇団
レポート・文=石橋法子