EXILE佐藤大樹×増田俊樹がW主演! “逆2.5次元プロジェクト” 「錆色のアーマ」ゲネプロレポート
「錆色のアーマ」が、6月8日に東京・AiiA 2.5 Theater Tokyoにて幕を開けた。W主演を務めるのは、本作が初めての舞台出演となるEXILE最年少パフォーマーの佐藤大樹と、声優・俳優として幅広い活躍をみせる増田俊樹の2人だ。
漫画・アニメ・ゲームなど(2次元)を原作に舞台(3次元)を創る“2.5次元作品”は、今や日本が世界に誇るコンテンツのひとつだが、“逆2.5次元”と銘打つ「錆色のアーマ」は、2.5次元とは逆のフローで舞台をオリジナルとしてアニメなどのメディアミックス展開を図っていく試みだ。このプロジェクトの原点、すべての原作となる舞台で、脚本を手がけたのは、なるせゆうせい。演出は、元吉庸泰。開幕当日に行われたゲネプロと会見をレポートする。
佐藤大樹×増田俊樹のW主演
会見には、佐藤と増田がキャラクター衣裳で登場した。「錆色のアーマ」は、戦国の世を舞台に天下統一を夢見る男たちの生き様を描く完全オリジナルストーリーだが、登場人物は史実に基づき設定されている。増田俊樹は、説明不要の戦国武将・織田信長を、佐藤大樹(EXILE/FANTASTICS)は、信長に才能を買われ侍従となる孫一(マゴイチ)を演じる。
(左から)佐藤大樹、増田俊樹
――開幕を控えた心境は?
佐藤:今日まで最高のスタッフさんとキャストの皆さんと、力を合わせてゼロから作ってきた舞台です。今は、これをお客様にはやく観てほしいという気持ちでいっぱいです。
増田:頼れる仲間たちと稽古に励み、素晴らしい舞台ができているという自負はあります。しかし一個人としては久しぶりに立つ舞台であり、舞台の上には魔物が棲んでいるとも言われており、本番では何が起こるか分りませんが、良いことがたくさん起こるよう望みます。しっかり前を向いて歩く座長(佐藤)の背中を追いながら、(信長として)刃向いながら、自分も前を向いて歩きます。
――役作りで意識したことは?
佐藤:孫一は、実在の人物ですが情報は少なく、これまでにも様々な描かれ方をしてきました。演出の元吉さんにも言われ、「もし、自分ならこういう孫一になるだろう」という役作りに挑戦しています。あとは、喜怒哀楽を、特に笑顔を意識しています。
増田:織田信長は、すでに数えきれないほど紐解かれ、探られてきた人物です。その信長が「錆色のアーマ」の世界の中でどんな考えをもって生きていたか、一向宗や明智光秀との関係など、史実に沿いながらもこの作品世界ゆえの、信長の弱さをどこまで描きだせるか、意識して役作りをしました。
――見どころは?
佐藤:敵役となる、顕如(輝馬)と信長の歌のシーンが、声も歌もいいし、存在感も華もあり、個人的に好きです。それに負けない見せ場を作れるよう、自分は雑賀衆7人のチームでのダンスやアクションを頑張ります。
増田:孫一の率いる雑賀衆には、個の演技では出せない力があります。歌、ダンス、殺陣はランダムに、今までに経験した舞台の中では見たことがないくらい入り乱れます。挑戦的な演出です。
「錆色のアーマ」
考察、実験、実践。
開幕にあたり、演出の元吉庸泰は次のようなコメントを寄せている。
「逆2.5次元、ここが原作。『よい原作』であるためには『よい演劇』でなくてはならず。それでいてしっかり2.5次元の作品でなくてはならない。そのために俳優たちは膨大な量のキャラクター考察と実験と実践を繰り返した」(一部抜粋)
この“考察、実験、実践”を説明するのが、佐藤と増田が会見で明かした「シーンがばさばさとカットされていった。どんどん洗練されていった」というエピソードだろう。元吉は、場面として使えないから(=ボツ)ではなく「描きすぎだ」と判断したシーンを最終稽古のぎりぎりまで削っていったのだという。同時にキャストたちに「シーンはなくなっても(キャラクターの通ってきた道として)心の中では失くさないで」と伝えたのだそう。
アーマ、七羽の八咫烏
【あらすじ】
鉄砲ひとつで戦乱の世に名乗りを上げた孫一という男がいた。その鉄砲技術を手中に収め、天を食らおうとする信長という男がいた。始めのうち、信長は孫一たち雑賀衆を利用しようとし一もまた故郷の村を襲った信長を嫌い憎んだ。信長暗殺を企み、信長の袂に潜り込んだ孫一率いる雑賀衆。次第に信長は孫一たちの才能に惹かれ信長の求心力に惹かれていた。
そこに忍び寄る第三の目、顕如が率いる一向宗という存在。救済信仰を傘に信長打倒を狙い、織田軍の内部に謀反の種を蒔く。そして、自らの野心の火を抑えられぬ光秀は顕如と手を組んでしまう。
孫一は光秀の罠に陥り、雑賀衆の仲間と完全に分断される。次第に進む信長暗殺計画。バラバラになる雑賀衆の仲間達。
すべてがその場所、本能寺へと集約されていく。
果たして、孫一と信長は、その場所で何を見るのだろうか?
雑賀衆は、実在の鉄砲傭兵集団だ。劇中でも雑賀の村を拠点に、オリジナルの武器を携え操る7人衆として登場する。その雑賀衆を率いるのが、孫一。演じる佐藤は、本作で初めて歌唱に挑戦した。佐藤のもつ、初々しさ、明るさ、挑戦する姿勢が、そのまま劇中の孫一の魅力となり、感情豊かで前向きなキャラクターを生み出す。メンバーで居残り練習もして仕上げたというダンスシーンも必見だ。佐藤の、力むことなくキレがあり、心も弾むようなバネのあるダンスは、シーン全体の躍動感を引き上げ「雑賀衆の頭」としての役割を見事に果たしていた。
「錆色のアーマ」
猪突猛進の孫一に振り回されながらも、楽しそうな6人の仲間たちからも目が離せない。この舞台版から始まる「錆色のアーマ」というプロジェクトの“原作”となるからこそ、キャラクターのひとりひとり、武器のひとつひとつが丁寧に作り込まれていた。
「錆色のアーマ」アゲハ役・神里優希
物語のキーアイテムとなる“アーマ(武器)”を構える姿は、はやくもアニメ・漫画化を想像してしまう美しい構図を描いていた。キャラクターは個々の性格や佇まいに一貫性があった。孫一を含む全員が、武器や体のどこかに八咫烏(やたがらす。足が三本の烏)の印をまとっていることにも注目したい。「良い原作であるためには、良い演劇でなくては」という演出家の言葉は、基本中の基本であり、同時に何より難しいことだ。その試みにカンパニー全体が一丸となって挑戦しているのを感じられた。
「錆色のアーマ」鶴首役・荒木健太朗
「錆色のアーマ」蛍火役・永田崇人
「錆色のアーマ」(左から)木偶役・章平、黒氷役・平田裕一郎
「錆色のアーマ」不如帰役・崎山つばさ
覇道をいく者、選ばれし者
雑賀衆と敵対する陣営もまた強烈な個性を放っている。
声優での活躍を経て舞台に帰ってきた増田俊樹は、オリジナルでありながら120%の信長を作り上げている。時代を越えた大胆な衣裳・メイクにもかかわらず、立ち居振る舞いから滲む風格は紛れもなく信長。殺陣でも「人間五十年」の舞でも、劇中歌のラップの歌いまわしや、会見やカーテンコールの一礼でさえ、増田は信長でありつづけた。腰に携えるのは、抜身の刀。この刀を渡された時「鞘に収まらない刀を見て腑に落ちた。これをもつ意味を考えると身が引き締まる思いがした」という。
「錆色のアーマ」増田俊樹
「錆色のアーマ」市瀬秀和、増田俊樹
同じく権力を奮う立場にありながら、信長とはまったく別のオーラを放つのが、輝馬演じる、一向宗の長・顕如だ。法衣こそまとっているが、一目で「大変なのが出てきたぞ!」と思わずにはいられない存在感。顕如と信長が出会うシーンでは、2人のパワフルな歌と演技が、両者の力の拮抗、そして決裂しはじめた天下の分け目を描き出す。
信長と顕如が放つ圧倒的な力の下、野心溢れる明智光秀(栩原楽人)が健気に従い、知力と武力に恵まれた数珠坊(市瀬秀和)がひれ伏すのも納得。孫一を筆頭に雑賀衆が力を結集させ、闘いに挑む姿に心を打たれる。
「錆色のアーマ」顕如役・輝馬
「錆色のアーマ」明智光秀役・栩原楽人
顕如役・輝馬と明智光秀役・栩原楽人
映像や照明による眩しいほどの演出、ピアノとパーカッションが心を揺さぶる生演奏のBGM、そして生身の人間が同じ空間で演じるからこその気迫をぜひ劇場で感じてほしい。
本作を観るまで「逆2.5次元ってどういうこと?」という疑問がゼロではなかった。しかし、答えは劇場にあった。物語もキャラクターも丁寧に作り込まれた、エンタテイメント性の高い舞台作品。その上で、3次元でありながら2次元を思い描かせる力があり、うっかり「あとで原作を読み返そう」と思いかねない世界観ができつつあった。
舞台「錆色のアーマ」は、東京・AiiA 2.5 Theater Tokyoで、その後、大阪・森ノ宮ピロティホールにて6月22日より25日まで上演。
「錆色のアーマ」
「錆色のアーマ」佐藤大樹(EXILE/FANTASTICS)