真琴つばさインタビュー「見方によっては、理想的な家族像を描いている」 ブロードウェイミュージカル『アダムス・ファミリー』
真琴つばさ 撮影=荒川 潤
ブロードウェイミュージカル『アダムス・ファミリー』が2017年10月~11月にKAAT神奈川芸術劇場ほかで3年ぶりに上演される。ドラマやアニメ、映画化もされた『アダムス・ファミリー』は2010年にブロードウェイでミュージカル化され、日本では2014年に初演された。初演に引き続き、演出は白井晃、アダムス一家の父親・ゴメスは橋本さとしが演じる。初演にも出演し、存在感を発揮したアダムス一家の母親・モーティシアを演じる真琴つばさにインタビューを敢行した。
――3年ぶりのモーティシア役です。いかがですか。
嬉しいですね。モーティシア役は、男性のキーと女性のキーのちょうど中間にある自分の特徴的な声が悪気なく出せるので(笑)。彼女は「私が全てを操っているわよ」と言いながら、とっても家族に助けられていて、家族への愛が強いんです。ただ、ルールが崩れるのがとても怖いし、その対処法も分からないから、いろんな問題が起きてしまう。口では偉そうに言いながら、実はとても少女なんだと思うんです。父親役のゴメスに対しては、妻というよりは女なんですね、絶えず。初演の時は演じるうちに艶っぽさも出せたかなと思っています……モーティシアは自分を愛してくれないと嫌なんです。まぁ、総合してワガママなのよ(笑)。
――映画のイメージが強い役ですが、初演時に役作りで苦労されたところは。
私の子供、しかも思春期の男の子パグズリーへの愛をどう出すかということですね。思春期の子供ならではの女性に対する気恥ずかしさがあって、さらに私の威圧感も重なり、彼は演技する上で最初は引いちゃった部分があったかなと思うんです。でも今回私の息子役を演じるのが女の子(庄司ゆらの)になったと聞いて、どんな新しい風を吹かせてくれるか、とても楽しみですね。初演で元々やっていたメンバーは心を新たにするとは言っても、初舞台は2度出来ないでしょう?(笑) 人間家族の皆さんも新しいキャストでいらっしゃるし、新しい風が吹くことで“新・アダムス・ファミリー”が出来ると思っています。あと、今回はWキャストなので、毎公演が新鮮なのではないかなとも思います。
――Wキャストということは客観的にモーティシアを見ることが出来ますよね。Wキャストの壮一帆さんに期待することは。
ええ、Wキャストは面白いですよ。自分の持っていない部分を見せてくれたり、「こんな解釈があるんだ」と教えてくれたりして、最高の教本みたいな感じなので。壮さんは関西人なので物怖じをしない部分も多いと思うんですよ(笑)。どなたとやってもしっくりいきそうなので、その辺は見習いたいです。
あ、そうそう! 初演の時にひとつ出来なかったことを思い出しました。大きなテーブルで、橋本さとしさん演じるゴメスが座った瞬間に彼を見るというシーンがありまして。演出の白井晃さんには、見るタイミングや視線が違うとずっと指摘されていたんですよ。多分、そこは壮さんがお上手なんじゃないかな。関西人ならではのボケとツッコミのセンスがあるだろうし、橋本さんも関西ご出身だから、息はぴったりでしょう(笑)。
――逆にモーティシア役の先輩として見せたい部分や演じるポイントはどの辺りですか。
ポイントかぁ……。ポスター撮影の時に「世界は私のものよ」という気持ちで行けって、確か白井さんに指示して戴いて、そんな思いで挑んだらいい感じに撮れたことがありましたけど……(笑)。壮さんと私は年齢差が離れているので、私の方がなるべく壮さんに近づけるように心は若く、たまに何年か先に生まれた経験値を滲み出していきたいと思います(笑)。
真琴つばさ 撮影=荒川 潤
――初演に引き続き、今回も父親のゴメスは橋本さんです。
橋本さんは尻に敷かれて、一歩下がった旦那さんの雰囲気がとてもお上手なんですよね。イタリア俳優のマルチェロ・マストロヤンニを彷彿とさせるようなね。女好きなんだけれども、奥さんをいい気持ちにさせるのもうまい感じなんですよ。でも、娘の前に行くと適わない。そんな家族像を上手に表現してらっしゃいます。
――その他印象的な役柄はありますか。
澤魁士さん。執事のラーチ役のために生まれていらしたんじゃないのって。(笑)。この役のために役者続けてきたんじゃない?っていう感じ(笑)。あとは、今井清隆さんのフェスター叔父さん役もそう思う。適材適所の方がそろっています。そういう意味でも、3年ぶりの稽古場は楽しみですね。
――楽曲についてはいかがですか。ゴシックな雰囲気を残しつつも、アップテンポな曲も多い印象です。
そうですね。皆さんご存知の「♪タララ〜パンパン」(※Deck The Halls。ホンダのオデッセイのCMに使われたことがある)が出てくるのは、本当に最初の冒頭だけなんですよね。全体的には舞台のオリジナルの方が声が低かったので、私にとっても歌いやすい曲が多いです。森雪之丞さんの訳詞も素敵ですよね。しっくりきます。
――ダンスはいかがですか。
宝塚出身だからってなんでも出来ると思ってくれるなっていう話ですよ!(笑) 成績は中ぐらいなので、体当たりでやるしかないんです。でも、振付稼業air:manさんが振付の『アダムス・ファミリー』は体当たり系の踊り方でもいけるので、そういう意味では踊りやすいかな。多分壮さんはきっちり踊ってくださると思うけど、私は心は女房がコントロールしているっていう感じで頑張ります! あと覚えているのは、一番最初のオープニングの振り付けがとにかく細かったこと。全員揃ったことがあまりなかったんですよ! 誰かが必ず1回は間違えていた(笑)。まぁよく言えば、個性が豊かだったということでしょうかね。
――初演の時に、演出の白井さんに言われて大変だったことはありますか。
最後にゴメスとのからみがあるんですけど、そこで優しさや家族愛を出すことですね。……私の最近の課題なんですが、自分に対する厳しさがどんなセリフにも出てしまうんですね。結果それが相手をどこか攻撃してしまうようなセリフに聞こえてしまう。まずは自分の許容範囲を広げることが糸口かなと思っていて。そうしたら、相手へのセリフもちょっと変わってくるかなと。
――「厳しすぎる」と白井さんにも言われたんですか。
いや、実は何を言われたかあんまり覚えてないの(笑)。演出は細かくて丁寧だった気はするけれど……。自分に必死だったんです。稽古場でね、通販で買ったモーティシアのかつらを買って付けてやっていたぐらいで。私、不器用なので変なところで髪の毛に邪魔をされたら、それまで培ってきた役作りがマイナスになっちゃうから、なるべく無駄を排除していきたいと考えていたんです。私は髪が短いので髪を搔き上げるとか、触るとか、そういう動作を日常生活でしないんです。だから「髪が長いってどういうことをするかなぁ」って思いながら稽古していた記憶があります。次の稽古場ではしないですけどね! もう髪の毛あったらどうなるかわかったんで(笑)。
真琴つばさ 撮影=荒川 潤
――アダムス一家はちょっと普通じゃないことが好きな家族ですが、見ていると普通って何だっけと考えさせられます。
そう、普通じゃないけど、アダムス家にとっては普通なんですよね。 例えば我が家のしきたりが黒っぽい服を着るっていうことだけで。舞台上であるからより派手に演出していますが、エンターテイメントファミリードラマですよ。それぞれの家庭にもルールや理由があるでしょう、たとえ「変だ」と思うことでも、ちょっと考えれば、誰かにとっては「普通」だったり「身近」に感じられる部分があるから、映画も舞台も愛されるんでしょうね。
――なるほど。
ちょくちょく垣間見える嫁姑問題とか母親からの子供への思いとか描かれていることはどれも普遍的なものですよ。自分の家族に誇りを持っているからこそ、自分が家族を守らなければと言う使命感をモーティシアは持っている。誰よりも家族の中で繊細なんですけどね。
――少女のような繊細さは真琴さんご自身……
持ってますよ〜(笑)。
――その繊細さゆえ、モーティシアにとっては思春期の子供が恋人を連れてくるなんて気が気じゃないでしょうね。
安らぎがなくなる怖さだと思うんですよ。「毎日同じこと、変わらないことが、ちょっとしたことで変わっちゃう、崩壊しちゃう、あぁダメ!」っていう感じ。大袈裟なんですよ。大概父親が戸惑うはずなのに、なぜかアダムス家は母親が戸惑う。
――確かにどこにでもある家族風景かもしれません。作品の見どころにもつながってきますね。
そうですね。個性豊かなのが見ていて楽しいですよね。色々な場面でそれぞれに感情移入出来るから。劇中、突拍子もないことはあんまりしていないんです。料理は生きたネズミだったりするけれど(笑)、この作品が扱うテーマは身近だし、お年を重ねた方から若い人まで出演しているので、同期生のお子さんのミュージカル観劇初めにオススメしているんですよ。
――ちなみに真琴さんがご自分では普通だと思っていたけれど、他人から指摘された「我が家だけの普通」って何かありますか。
うちの晩御飯は大概一人ずつだったんですよ。家族で一緒にご飯食べたことなくて。家が自営業だったので、順々に食べていたんです。お正月さえ夕方4時頃まで起きてこないんですよ。前の晩遅くまで営業していたので。数年に1度ぐらい、駅の上のレストラン街に家族みんなで行っても、バラけるんです(笑)。一緒に家族でご飯を食べるという感覚は、宝塚時代に先輩のお宅に伺って初めて知りました。これが“普通”かと。
――レストラン街まで行ってバラけるのはすごいですね(笑)。
自己主張が強かったんでしょうね。アダムス家は多分それはない。モーティシアがゴメスにまず「何食べたい?」って聞いて、「とんかつ」って言ったら、「だからとんかつなのよ」って言うと思う。ゴメスがモーティシアが食べたいものを察して言うかもしれないけれど、モーティシアはそれに気がつかない。「私はあなたの通りにした」ってね。
真琴つばさ 撮影=荒川 潤
――5~6月に出演されていた『あさひなぐ』や、8月に出演される『にんじん』、そしてこの『アダムス・ファミリー』と、原作が漫画だったり映画だったり、大人や子供も楽しめる作品に出演されています。
乃木坂の皆さんとの舞台中にこの日本のエンターテイメントって女性が支えているって思ったんです。でも客席が男性だったんです。 その男性のお客様たちが『アダムス・ファミリー』を観にいらしたらどんな感想を持たれるのかなというのは気になりますよね。ミュージカルは敷居が高いと感じている方はこの作品は特に見やすいんじゃないかな。観る前にまったく分からないものって二の足を踏むんですけど、これは分かりやすい話ですからね(笑)。
私、舞台って観てからが楽しいというよりは観るまでも楽しくあって欲しいんです。今回は初日がハロウィンシーズンですから、例えば黒い服をドレスコード指定してもいいかもしれませんよ(笑)。客席と一体になって劇場ファミリーを作ったら面白いかも。
――面白そうですね。
見方によっては、この作品、理想的な家族像を描いているのかもしれません。作品の中でも、先祖への思いなどが描かれていて、どこか古き良き日本の良さも詰まっているような気もします。
――今回はKAAT神奈川を皮切りに、大阪・富山と続きます。
私の祖父が富山出身なので嬉しいなぁ。大阪は食の街だし、楽しみですね。宝塚時代から不思議だったんですが、大阪公演とは言ってもお客様全員が関西ご出身の方とは限らないんですけど、劇場はなんか関西の雰囲気になるんです。東京から離れた地方公演でも、東京のお客様もいらっしゃるのに、リラックスしたその土地の雰囲気になったりするんです。最終的な共演者はお客様ですから、劇場の息づかい・雰囲気を体感して、我々も当然変わっていきます。面白いです。
――3年ぶりの再演の目標は何かありますか。
母性愛と女性愛……初演時は優しさが中途半端でした。その時は精一杯だったのですが、まだ出来るっていうのを日々ネコで研究しているので(笑)、出したいですね。最後のゴメスとの芝居のシーンが、乙女心的な部分しか表現出来なかったので、夫婦の先にある男と女という関係性においての女性としての愛情みたいなのがもっと表現出来たらなと思っています。あとは、Wキャストの壮さんの演技をじっくり見て、色々いただこうと思っています!
――個性的な役が続きますが、今後やりたい役どころなどあるのでしょうか。
『あさひなぐ』で尼さんを演じて、『にんじん』で家政婦を演じて、『アダムス・ファミリー』でオバケのお母さんを演じて。普通の役をやりたいなぁって思ったりしてるけど、普通ってなんだっけって思ったりもして(笑)。宝塚時代に一度狼男からスカーレット・オハラという年がありましたが、今年はそんな感じですね。今後やりたいのは渡辺えりさんがやっていらっしゃるような役をやってみたいですね。人の心の中にぐいぐい入っていく感じ。“格好良い”という言葉が出ない役をやってみたいです。
――最後に一言お願いします!
『アダムス・ファミリー』は再演なんですよ!! 再演するということは良いということ。初演の時にも演出の白井さんが作られた世界観から、総合芸術の良さがとても滲み出ていました。初めての方でも楽しめる、最高の贅沢なエンターテイメント・ホームファミリードラマだと思います。めちゃめちゃ個性的な、でもめちゃめちゃ普通の人たちの物語です。ぜひみなさんにトータルで楽しんでほしいと思います。
真琴つばさ 撮影=荒川 潤
インタビュー・文=五月女菜穂 撮影=荒川 潤
ブロードウェイミュージカル『アダムス・ファミリー』
台本:マーシャル・ブリックマン&リック・エリス
作詞・作曲:アンドリュー・リッパ
原案:チャールズ・アダムス
翻訳:目黒条 / 白井晃
訳詞:森雪之丞
演出:白井晃
出演:橋本さとし、真琴つばさ/壮一帆、昆夏美、庄司ゆらの、澤魁士、梅沢昌代、今井清隆、村井良大、樹里咲穂、戸井勝海ほか
■2017年7月15日(土)10:00~ 各公演一般発売開始
【神奈川公演】KAAT神奈川芸術劇場
・2017年10月28日〜11月2日
【大阪公演】豊中市立文化芸術センター・大ホール
・2017年11月18日、19日
【富山公演】オーバード・ホール
・2017年11月24日、25日