『RENT』2017年日本版ゲネプロ(堂珍ロジャー)レポート~新鮮さと強靭さが比例する不朽のロック・ミュージカル
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミュージカル『RENT』2017年日本版が、7月2日(日)18時に開幕した。マークを村井良大、ロジャーをユナク、ミミをジェニファー、コリンズを光永泰一朗、エンジェルを平間壮一、モーリーンを上木彩矢、ジョアンヌを宮本美季、ベニーをNALAWをそれぞれ務めた。同キャストによって7月1日に行われたゲネプロ(総通し稽古)の模様は、SPICEが7月2日にレポートした。
そして、7月3日(月)19時には、上記配役のうち、ロジャー役を堂珍嘉邦、ミミ役を青野紗穂、エンジェル役を丘山晴己、モーリーン役を紗羅マリーがそれぞれ務める舞台が初上演された。また、それに先立つ同3日午後に、同キャストによるゲネプロ(総通し稽古)も行われた。SPICEでは、2日に引き続き、そのゲネプロの模様もレポートする。
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
7月3日ゲネプロの配役は以下の顔ぶれだった。
マーク:村井良大
ロジャー:堂珍嘉邦
ミミ:青野紗穂
コリンズ:光永泰一朗
エンジェル:丘山晴己
モーリーン:紗羅マリー
ジョアンヌ:宮本美季
ベニー:NALAW(COED-V)
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ときに些か唐突ではあるが、今年2017年のトニー賞で最優秀ミュージカル作品賞など6冠に輝いた作品が『ディア・エヴァン・ハンセン』だった。社交不安障害を持つ高校生を主人公とする心揺さぶる傑作、いまブロードウェイで最も盛り上がりを見せている舞台である。この演出を手掛けたのが、マイケル・グライフ、そう1996年にオリジナル『RENT』を演出したその人である(今回の日本版の演出も彼の名がクレジットされている)。彼は他にも『グレイ・ガーデンズ』『ネクスト・トゥ・ノーマル』『イフ/ゼン』など数々の話題作を手掛けてきた。スタイリッシュかつ先鋭的な演出が際立ち、ミュージカルを現代の舞台芸術として確立させた第一人者である。『RENT』は20年前のミュージカルだが、そこに古さを感じさせないのは、グライフの“現代的”感覚が演出の中に息づいているからであろう。
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
今回の2017年日本版は、そんなグライフの演出をベースとして、アンディ・セニョールJr.が、2012年、2015年に引き続き、日本版リステージの演出を担当している。彼は俳優出身で、その後複数の『RENT』カンパニーに関わりを持ち、マイケル・グライフの演出補として働いた経験もある。その密度の濃いゲネプロに接して、彼はグライフの意思を理解し、グライフの信頼が篤く、空間と俳優を通じて『RENT』という作品を最良の方向に活かしうる感性を有する演出家なのだと、改めて思えた。
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
さて、7月3日からの登板となった堂珍嘉邦。前回からのロジャー続投だが、マークの村井良大と共に、絶妙のコンビネーションを醸す。彫の深い顔立ちで、背が高く、本当に見映えが素晴らしい。ミミとの絡みから垣間見える複雑な愛の戸惑いなど、繊細で深みのある演技にも磨きがかかり、観る者をすっかり魅了させてやまなかった。
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
さて、今回の日本版には『RENT』初出演の俳優が複数いる。ミミの青野紗穂、コリンズの光永泰一朗、エンジェルの丘山晴己、モーリーンの紗羅マリー、ベニーのNALAWである。そして、7月3日に『RENT』初登場となったのが、先述のとおり、青野・丘山・紗羅の三人であった。
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミミの青野紗穂は現在19歳、2012年5月4日、ORC200「第16回ヴォーカルクィーンコンテスト」でグランプリとオーディエンス賞をダブル受賞した経歴を持つシンガー。舞台出演は過去にもあるが、本格的なミュージカルのヒロイン役を演じるのは今回が初めて。幼な顔の容姿こそ可愛いが、強靭な声帯から発せられる伸びやか、且つ、しなやかな歌声は「ライト・マイ・キャンドル」「アウト・トゥナイト」「アナザー・デイ」「ウィズアウト・ユー」などの名曲を情緒たっぷりに聴かせる。ミミにしては外見が健康的(そして、いい意味で肉感的)だが、これは彼女に限らず、元となったオペラの『ラ・ボエーム』も含めて、たいていの歴代ミミが病弱さから程遠いキャスティングなので(笑)、ご愛嬌ご愛嬌。彼女には、もっともっと経験を積んで、これからの日本ミュージカル界を背負って立って欲しい、とも個人的に思った。
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
エンジェルの丘山晴己は、花柳流の日本舞踊の家に生まれながら、14歳にして渡米し、アメリカのダンサーとして活躍、ブロードウェイのステージに立ったこともある、マルチパフォーマーだ。日本では宮本亜門演出のミュージカル『ウィズ~オズの魔法使い~』等に出演。もっとも、そんなことを知らずとも、彼のエンジェルには、今までにない、ただものではないオーラが放たれていた。彼の優雅な軽快さは見ていて本当に心地よい。
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
モーリーンの紗羅マリーは、13歳の時からモデルとして活動を始め「ViVi」などの女性ファッション誌を中心に活躍。現在も数多くのファッション誌に出演するだけでなく、東京ガールズコレクションなど数々のファッションショーにも出演し、その人気は国内にとどまらず、台湾や香港、北京をはじめとするアジアでのショーやイベントにも多数出演しているモデルである。2018年春公開の映画『ニワトリ★スター』にヒロインとして、映画“初”出演を果たすことも決定しており、女優としての活躍にも目が離せない。そんな勢いのある彼女にふさわしい奔放なモーリーンの役。オリジナルではイディーナ・メンゼルが迫力たっぷりに演じた難役を、ゲネプロで懸命に熱演していた紗羅。今後出演を重ねるにつれ、内に秘めたる野生味をどんどん炸裂してゆきそうな予感を抱かせた。
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
『RENT』はこうして新鮮なヴァラエティを絶やさないことで、作品がますます現代のスタンダードとしての強靭さを増してゆくように思える。初演から20年たっても、鮮度の落ちない秘訣が、3日のゲネプロを観ながら、なんとなくわかってきたような気がした。
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
ミュージカル『RENT』ゲネプロより
取材・文・撮影=安藤光夫
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■日程:2017年7月2日(日)~8月6日(日)
■会場:シアタークリエ
■脚本・歌詞・音楽:ジョナサン・ラーソン
■演出:マイケル・グライフ
■日本版リステージ:アンディ・セニョールJr.
■出演:
マーク:村井良大
ロジャー:堂珍嘉邦/ユナク(超新星)
ミミ:青野紗穂/ジェニファー
コリンズ:光永泰一朗
エンジェル:平間壮一/丘山晴己
モーリーン:上木彩矢/紗羅マリー
ジョアンヌ:宮本美季
ベニー:NALAW(CODE-V)
新井俊一、千葉直生、小林由佳、MARU、奈良木浚赫、岡本悠紀
■公式サイト:http://www.tohostage.com/rent2017/