明示されたバンドの強度と攻めの姿勢 Creepy Nutsのサプライズ登場にも沸いたandropツアー・セミファイナル

レポート
音楽
2017.7.13
androp / Creepy Nuts

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one-man live tour 2017 "angstrom 0.8 pm" 2017.7.4  LIQUIDROOM

andropにとって2年ぶりのライブハウスツアー『one-man live tour 2017 "angstrom 0.8 pm"』。全21ヶ所をまわるツアーのセミファイナル・恵比寿LIQUIDROOM公演で、初めに鳴らされたのは<もういいかい?/いや まだだよ 夢の途中さ>と唄う「Dreamer」だった。LIQUIDROOMのステージに立つのは2010年、2015年以来3度目となるandrop。後に佐藤拓也(Gt/Key)もMCで触れていたように、彼らはバンドの節目にあたるタイミングでこのライブハウスにやってくることが多かったというが、オープニングを飾るこの曲から既にバンドの肉体性がガツンと伝わってきた。

最新シングル「Prism」と同様、同期の使用は必要最低限、基本的に4人の音のみで演奏していた今回のツアー。会場のキャパシティも鑑みてか、音の広がりよりも一つひとつの粒を見せていくようなアレンジにバンドはシフトしていたが、それによって演奏の粒度や音の重なりがもたらす起伏、ダイナミクスの付け方など、よりプリミティブな部分で聴き手を惹きつけるような場面が特に多かった。喩えるならば、緻密に編み上げられていったアンサンブルを、自らの手で因数分解していくようなイメージ。セットリストを毎公演変えていたということもあり、このツアーを通して4人はまた、プレイヤーとしての地力を鍛えることになったのではないだろうか。

androp・内澤崇仁

androp・内澤崇仁

内澤崇仁(Vo/Gt)と佐藤がユニゾンで鳴らすイントロのリフがインパクトを残す「Corna」、ライブの場で育っていった「Ryusei」、バンドを支えながらも絶妙なタイミングでギミックを効かせる伊藤彬彦(Dr)の巧みさが光る「You」――と、セットリストが進むごとにオーディエンスの熱気は増していくばかり。フロアを埋め尽くすのはキラキラとした表情ばかりだったが、同じように、というかむしろ彼ら以上に、ステージ上のメンバーも充実の表情を浮かべていた。「You」を終えたところで一旦MC。最初の挨拶を噛んでしまい照れ笑いしたりしつつ、内澤、「(会場)全体でチームandropなので、嫌な思いをする人が一人もいないようにしたい」とオーディエンスへ伝える。その後は映画『君と100回目の恋』の挿入歌として提供された「BGM」を4人で表現できるようリアレンジしたバージョンで届け、内澤が弓で鳴らす歪んだ一音を機に「Kaonashi」へ。昨年のツアーは『blue』収録曲とそれ以外の曲を分断するような構成だったが、この日は「Irony」と「Sunny day」の間に「Sensei」を演奏。ドライなビートや言葉数の多いボーカルがより引き立つアレンジに生まれ変わっていたのが印象的だった。

androp・佐藤拓也

androp・佐藤拓也

再びMC。内澤は「悲しみや後悔含め、自分の人生が反射するように音楽になっている」「心の傷を持っているからこそ鳴らせる俺らの音楽がある」とこれまでのバンド人生を振り返り、andropの8年間を詰め込んだ曲だという「Prism」について「ずっと大切に演奏していきます」と噛み締めるように語っていた。一方佐藤は、“このツアーでの前田恭介(Ba)のシャツの柄が毎回気になっている”“ツアー中「遅刻しない」と言った翌日に伊藤が遅刻してきた”“内澤は財布を失くして伊藤からお金を借りていた”など、全国行脚でのエピソードを暴露。しかし3人のことだけを暴露するのは気が引けたのか、“打ち上げの席で眠ってしまい、いびきの音を内澤にチューナーで測定された”と自身の失敗談も披露する辺りが、彼の憎めないところである。

androp・前田恭介

androp・前田恭介

そしてクライマックスへ。佐藤が、LIQUIDROOMは節目にあたるタイミングでばかりライブをしていることに触れ、「今日も大きな節目になるであることを予告して、後半戦、いきたいと思います!」と堂々宣言。「Yeah! Yeah! Yeah!」「MirrorDance」「Voice」「One」とセットリストが進んでいくなか、「みんな、まだまだいけますか? 一緒に声出そう!」と内澤の言葉に導かれるようにしてオーディエンスのシンガロングは大きく大きく膨らんでいった。佐藤と前田はフロアを覗き込んでは笑顔を浮かべ、伊藤も弾むようなリズムで気持ちの昂りを表現。内澤の歌も力強さを増していくなか、「みんなの中で、あなたの中で、心の中で何回でも鳴ってほしい。「Prism」という曲をやります」(内澤)と、本編ラストには「Prism」を届けたのだった。先のMCにあったように、「Prism」が描いているのは、心の傷を生きている証と捉え、すべてを認めながら自分だけの光を掴んでいくことを決意した4人の姿そのもの。泥臭く、そして何よりも眩いサウンドが、堂々と鳴りわたったのだった。

androp・伊藤彬彦

androp・伊藤彬彦

オーディエンスの声に応えて再登場した4人は、アンコールで新曲を2曲演奏した。「Sunrise Sunset」は、ひだまりのように穏やかなミディアムテンポの曲。歌詞はandropの音楽を慕うオーディエンスに宛てた手紙のような内容になっていて、例えば<手を上げたなら>のフレーズに合わせてオーディエンスが腕を上げるなど、早速バンドとオーディエンスがコミュニケーションを取っている様子を見てとることができた。そして二つ目の新曲は8月23日にリリースされるシングルの表題曲「SOS! feat. Creepy Nuts」。ということで、ここでCreepy NutsR-指定とDJ 松永がサプライズゲストとして登場!

そもそも、お客さんまだ数人しかいない頃のCreepy Nutsのフリーライブを前田が観に行っていたらしく、「いつか一緒に何かできたらいいね」と言い合っていたことが今回のコラボのキッカケだったのだそう。ステージ上で和気あいあいと話し続ける6人の様子は何とも微笑ましかったが、いざ演奏が始まると一転、“夏が好きな人(androp)vs夏が嫌いな人(Creepy Nuts)”という構図の下、白熱のバトルが繰り広げられたのだった。“SOS!”“ビバ! ハレルヤ!”“#ウェイ”というキーワードからも察せられるように、これまでのandropではありえなかったようなハメの外し方が痛快なこの曲。同曲の演奏中のみステージの撮影&SNSへの投稿が許可されていたため、気になる人はぜひ検索してチェックしてみてほしい。

image worldの設立から1年3ヶ月。リスタートをキッカケにバンドの活動スタイルが変わり、演奏以外にもバンドに関わる活動を自分たちで行った経験が彼らに変化をもたらしたのだろう。生身のバンド感を真正面から曝け出していく演奏といい、リラックスしたテンションのMCといい、この日のandropはこれまでで最も人間臭いライブをしていた。そしてその根底にあるのは、ここ最近の彼らがインタビューなどでよく口にしていた“音楽は人だ”という点に他ならない。形のない“andropらしさ”に捉われず、いちミュージシャンとしての好奇心や向上心をエンジンに挑戦を続けると同時に、バンドの真芯にあたる部分を欠かさず表現し続けているのも、バンドが本当に大切にしたいことを見失わないため――つまり、自分たちの音楽を受け取る“人”たちのことを置いてけぼりにしないため――であろう。

「今年のandropはいろいろと攻めております」と前田。そして「先に言っておきますが、今までのandropを知っていれば知っているほど驚くと思います。でも心配しないでください!」と内澤。“音楽は人だ”を道標にしながら、andropの冒険はまだまだ続いていく。


取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=Taichi Nishimaki、Rui Hashimoto(SOUND SHOOTER)

 

 

リリース情報
ニューシングル「SOS! feat. Creepy Nuts」
2017年8月23日発売
■初回限定盤(CD+DVD) UPCH-7346 2,484円(税込) 2,300円(税抜)
■通常盤(CD) UPCH-5920 1,296円(税込) 1,200円(税抜)
CD
1. SOS! feat. Creepy Nuts
2. Sunrise Sunset
ほか収録予定
DVD ※初回限定盤のみ
収録内容未定
購入者特典
ステッカー
※特典は先着となり、予定配布数に達し次第配布終了となります。
※一部店舗などではお取り扱いのない場合もございます。特典の有無をあらかじめご確認の上でご予約ください。

 

ライブ情報
androp one-man live 2017 at 日比谷野外大音楽堂
10月28日(土) 東京・日比谷野外大音楽堂
17:15 開場/ 18:00開演
5,800円(税込、全席指定、6歳以下の入場不可)
企画制作 : image world
お問合せ : サンライズプロモーション東京 (TEL : 0570-00-3337)
 

 

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