日本センチュリー交響楽団の真価が発揮された、シトコヴェツキーとのシューマン交響曲第2番!
4度目の共演となるマエストロ・シトコヴェツキーとの相性は抜群! (C)s.yamamoto
ハンガリーの巨匠ヤーノシュ・コヴァーチュが、お国もののリストやコダーイの作品を携え日本センチュリー交響楽団を指揮した定期演奏会の様子が、先週末にネット上で話題となった。ハンガリー国立歌劇場の指揮者を40年に渡って務めるなど、音楽に対して真摯に向き合うマエストロ・コヴァーチュと、そんなマエストロから何かを学びたいと指揮をオファーした日本センチュリー交響楽団が、熱く真剣勝負のリハーサルを経て、息の合った演奏で聴衆を魅了したであろう事は、容易に想像が出来る。
大阪を代表するオーケストラ、日本センチュリー交響楽団 (c)s.yamamoto
しかしオーケストラと指揮者の関係において、回数を重ねた先にこそ生まれる深みのある音楽があるのもまた事実。そういう意味で、4度目の登場となったドミトリー・シトコヴェツキーの指揮した日本センチュリー交響楽団第217回定期演奏会(6月16日、17日)は、前半にジョン・アダムズとジョン・コリリアーノというアメリカの現代作曲家の曲を並べ、後半にはロマン派のシューマン交響曲第2番を聴かせるという捻ったプログラムだが、これが予想を遥かに超えるほど素晴らしく楽しいコンサートだった。
時間が経過しても色褪せない名演の記憶。楽団の将来を占う意味でも大切なこの定期演奏会を、カメラマン山本成雄さんの写真で振り返りたい。
身構えるお客さまを心地よく裏切る。現代曲とはいえ聴きやすい曲「議長は踊る」 (c)s.yamamoto
前半のプログラムはシトコヴェツキー自身が希望したものだそうだが、現代曲というだけで「難しそう!」と思われがちなイメージを変える、とても聴きやすく魅力的な音楽。両作曲家と親交が有り、二人をよく知るマエストロが、我々に素敵な佳曲を紹介してくれた。
1曲目のアダムスの 管弦楽のためのフォックストロット「議長は踊る」は、一般的な「ミニマルミュージック」に有りがちな単調なものではなく、多彩な和声の変化を伴う自由な曲で、聴き終えた客席からは笑顔が見られ、「なんだ、難しくないんだ!」と云う雰囲気が伝わって来た。
それは、マエストロとオーケストラのメンバーの間に過去3回の演奏会で培われた信頼関係が構築されていたからこその演奏だったのかもしれない。
「レッド・ヴァイオリン」組曲を弾き振りするシトコヴェツキー (c)s.yamamoto
2曲目のコリリアーノ「レッド・ヴァイオリン」組曲は、壮大なミステリー大作映画「レッド・ヴァイオリン」のために書かれた音楽を組曲として編集したもの。作曲したコリリアーノはこの曲でアカデミー音楽賞を受賞している。
ヴァイオリンをめぐる壮大なミステリー「レッド・ヴァイオリン」を奏でるシトコヴェツキー (C)s.yamamoto
ヴァイオリニストとしても人気と実力を併せ持つマエストロだけに、この曲を目当てに今回の定期演奏会を訪れたファンも多く見受けられた。
前回、マエストロ自身の編曲によるバッハ「ゴールドベルク変奏曲」を一緒に演奏し、マエストロを音楽家として敬愛しているオーケストラメンバーも多く、一緒に演奏出来る喜びに溢れた音楽がシンフォニーホールに鳴り響いた。
スケールの大きな音楽を奏でるシトコヴェツキー (C)s.yamamoto
マエストロ・シトコヴェツキーの弾き振りから生まれる音楽はスケールが大きく、アンコールで演奏したバッハ無伴奏作品との対比も素晴らしかったが、この日最大の成果は、後半に演奏された圧巻のシューマン交響曲第2番だった。
精神的にも落ち込み、カオスの中にあったシューマン自身の病状が回復の兆しを見せた時期に書かれたシンフォニーだが、まさにそれを絵に描いたような演奏で…
混沌から生まれた音楽が、最後は勝利のクライマックスに向かって進んで行くさまが、瑞々しく表現された名演だった。
混沌から始まった音楽は、圧倒的なクライマックスへ! (C)s.yamamoto
シューマンの交響曲第2番は演奏機会の比較的少ない作品だが、私としてはバーンスタインのレコードを擦り切れるほど聴いたお気に入りの曲。ただ、実演で良い曲だと実感出来る演奏に出くわす事は稀で、退屈な演奏が実に多い。
マエストロ・シトコヴェツキーは自在にオーケストラをコントロール。 (C)s.yamamoto
聴衆も今回のような素晴らしい演奏に触れれば、この曲の評価も変わり、演奏機会も増えることだろう。
温かい拍手に包まれ、マエストロはにこやかにメンバーと握手。達成感に満ちたメンバーの表情が印象的だった。
色々な曲を聴いてみたくなるマエストロとセンチュリーの組み合わせ! (C)s.yamamoto
ただ、客席が少々寂しいのが気になるところ。 「テクニシャン揃いのオーケストラが奏でる十八番のシューマン!おまけにシトコヴェツキーの弾き振りを添えて!」という事なら、純粋にもったいないなぁ!というのが実感。
技術的に優れているというだけではなく、終演後にはメンバーがお客さまをお見送りするなど、とても感じの良いオーケストラだけに、何か応援したい!と思わせる魅力がこのオーケストラにはあるように思う。
注目すべきプログラムが目白押しの今シーズンの日本センチュリー交響楽団。
終演後、自主公演のプログラミングを担っている山口明洋シニアマネージャーに、今回の定期演奏会の成果などを聞いてみた。
--この定期にマエストロをお呼びになった目的は何でしたか? そして、その目的は達成出来ましたでしょうか?
シトコヴェツキー氏とは既に4回の本番を一緒しています。ベートーヴェンの運命やブラームスの第2番といった作品を演奏してきた経験から、一筋縄ではいかないシューマンの第2番という素材を通してオーケストラが多くの音楽上の示唆を受けることを期待していました。また、前回(2015年2月)はシトコヴェツキー氏の編曲によるバッハのゴルトベルク変奏曲を弾き振りで共演しました。この経験にセンチュリーは大きな自信と幸せを感じ、氏の音楽に強い共感を持ちました。
前半のアダムス、コリリアーノは共演を重ねて来たからこそできる、シトコヴェツキー氏とセンチュリーゆえに出来るプログラムだったと思います。新しいレパートリーに挑戦していくことはとても大切で、作曲家と交流のあるシトコヴェツキー氏のアプローチは刺激に溢れていました。今回の定期では期待以上の経験を積むことが出来たと思います。
--今回の定期をお聴きになって感じられたことをお聞かせください。
センチュリーにとってシューマンの交響曲第2番はとても大切な作品で、初めて取り上げたのは、第2回定期演奏会、第1回の東京定期でも演奏し、2枚のCDもリリースしています。しかし最近はちょっと演奏の機会から遠ざかっていました。シトコヴェツキー氏のタクトの下での演奏を聴き、改めて作品の魅力を実感しました。このような作品は何度でも挑戦し、より高みを目指したい。そんなことを考えていました。
--最後に読者の皆さまに、メッセージをお願いします。
個性豊かな共演者や作品を通して、もっと皆様と繋がりたいと思います。ぜひコンサートにお越しいただき、終演後にぜひ感想をお聞かせ下さい。
本拠地シンフォニーホールに高らかに鳴り響くセンチュリーサウンド! (C)s.yamamoto
取材・文=磯島浩彰