根本敬×会田誠による巨大絵画が京浜島に誕生 『根本敬ゲルニカ計画』『鉄工島FES』記者会見

2017.7.20
レポート
アート

左から、会田誠、根本敬、松蔭浩之、谷崎テトラ、市川平

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1981年に『月刊漫画ガロ』でデビューを果たした漫画家の根本敬(ねもと たかし/けい)。90年代に発表した『因果鉄道の旅』や『人生解毒波止場』などの、極めてアクの強い市井の人にスポットを当てたアングラなエッセイは、現在でもサブカルのバイブルとして多くのファンに愛されている。

その根本は現在、鉄工所の島として知られる大田区京浜島において、349cm×777cmというピカソのゲルニカサイズの巨大絵画を描くプロジェクト、『根本敬ゲルニカ計画』に取り組んでいる。根本による新しいゲルニカが完成した暁には、その巨大作品を展示して、音楽、映画、アートパフォーマンスなどが体験できる『鉄工島FES』の開催が予定されている。7月14日、原宿にて開かれた『根本敬ゲルニカ計画』と『鉄工島FES』の記者会見の様子をレポートする。

 

画材アドバイザーとして会田誠を起用

オフィシャルサイトでは『根本敬ゲルニカ計画』について「根本敬が『個人の意志を超えた大きな何かに突き動かされて』、ピカソの《ゲルニカ》サイズ(349×777cm)の絵画を描こうとするプロジェクト」と説明されている。

「ニコ・ニコルソン『美術手帖』2007年4月号より」

当日は根本の他、画材アドバイザーをつとめる現代美術家の会田誠も登壇した。「なぜ、このタイミングでゲルニカなのか?」「どのような経緯があってゲルニカに行き着いたのか?」それらの疑問に対して根本は「基本的に理屈で考えることはない。気がついていると、なにかやって次に繋がっている。本能とか直感といったものです」と答えている。

さらに、「今までやってきたことの延長線上にゲルニカがあるんだけど、僕が描いてきたマンガと違ってサイズが大きすぎるから、これまでの方法は通用しない。そこで会田さんにアドバイスをいただくことになりました」と、会田誠にアドバイザーを依頼した経緯を明かした。

根本敬作品1

根本敬作品2

高校時代からガロを読んでいたという会田は、このオファーを快諾。「画材アドバイザー」として、根本の描く絵に自身が影響を与えないよう細心の注意を払い、絵の具や筆のセレクト、大きい絵を描くときに陥りがちな失敗をアドバイスするにとどめたという。

 

100円ショップで購入した虫取り編みが大活躍

ゲルニカクラスの巨大な絵画を自分の手だけで描いていると、全体像が見えなくなってしまう。それを回避するために、会田は100円ショップで2メートルほど伸びる虫取り網を買ってきて、その網の部分を台所用のスポンジに付け替えてオリジナルの画材を制作した。2メートルの長さがあるので、描いているときも常に全体像が把握でき、力を入れずに絵の具を塗ることができるという。

それに対して根本は、「失敗しても上から塗りつぶしていけば絵画としての味が出ます」という会田のアドバイスを引き合いに出し、「会田さんのアドバイスは正解でした。とてもいい先生です」と返答。ゲルニカ計画の遂行に向けて、二人三脚がうまく回っていることを示した。

 

鉄工所の島をクリエイティブハブへ――
湾岸エリアを文化的な観光資源に

後半は大田区の京浜島で行われる『鉄工島FES』についての概要説明の時間となった。『鉄工島FES』とは9月30日(土)と10月1日(日)の2日間にわたって開催されるイベント。起点となるのは『根本敬ゲルニカ計画』のアトリエにもなっているアートファクトリーのBUCKLE KÔBÔ。周辺の湾岸エリアをよりクリエイティブな地域にするべく、太田、品川の観光協会と連携して新しい文化を発信していく。

「鉄工島FESロゴ」

伊藤悠事務局長によると、大田区はこの30年で区内の鉄工業が40パーセントも減少したという。京浜島では廃業した工場が、ゴミ処理場やリサイクルセンターに変わっており、かつてのものづくりの島は、今や作った物を処理するような場所に変わって来てしまっている。そんな現状を打破するべく『鉄工島FES』は企画された。

「BUCKLE KOBOオープニングの様子」©花坊

イベント当日は、完成した『根本敬ゲルニカ計画』の作品展示をメインに、アート・音楽・演劇・映画などの企画が予定されている。鉄や廃材を楽器にする音楽ユニット「PBC」のライブ、市川平のミキサー車を改造したプラネタリウムカーや、未来美術家遠藤一郎の「未来へ号」などの車によるキャラバン、セミナーやワークショップで防災の知識を学ぶ「防災ブートキャンプ」など、当日の京浜島は多種多様な人の集まる街となりそうだ。

根本敬とPBCのメンバー(左から市川平、松蔭浩之、谷崎テトラ)

PBCの松蔭浩之による楽器のデモンストレーション

 

「アート」と「ソーシャル的なもの」は、「水」と「油」な一面もある

大田区では中小の町工場が減少していく中、『鉄工島FES』はこれまで工業地域だった京浜島を中心に、湾岸エリアを新たな文化観光資源として再生することを目標にしている。地域や社会の抱える問題をアート的なプロセスで解消するという、時代性を反映したイベントとなっている。

一方、『根本敬ゲルニカ計画』について会田はラストで以下のようにコメントをした。

「根本さんの作品については介入しないようにしていますが、雑談をする中で福島の原発事故とかの話をしたことはあります。今回の作品のベースになっているのは、歴史的な事件を題材にしたピカソのゲルニカです。ソーシャルな絵画の代名詞ともいえる。それを踏まえると、ゲルニカ計画についても最近の日本社会の出来事に対応した要素がないか、お客さんや新聞記者は期待するはず。そういう視点はわかります。でもだからといって、福島の建屋をただ描けばいいというわけではないと思いつつ、まだ結論は出ていないんですけどね。絵とソーシャルなものは水と油なところもやはりあります」。

根本敬ゲルニカ計画』と『鉄工島FES』。2つのプロジェクトが見せる化学反応をその目で確かめてほしい。なお、本プロジェクトに関しては、MotionGalleryにてクラウドファンディングを実施中だ。イベントに参加するだけでなく、応援をしたいという方はぜひチェックしてみてはいかがだろうか。

「鉄工島 LIVE vol.1(LIVE:F.I.B. JOURNAL/ARTWORK:藤崎了一)」©小林麻衣子

「BUCKLE KOBOオープニングライブ(LIVE:PBC(谷崎テトラ、ジャン・ピエール・テンシン、松蔭浩之))」©花坊

MotionGalleryにてクラウドファンディングを実施中!
『鉄工島FES』詳細:https://motion-gallery.net/projects/tekkojimafes