「生でしか味わえない奇跡を観にきてください」瀬戸康史&寺十吾『関数ドミノ』インタビュー

インタビュー
2017.7.26
(左から)寺十吾、瀬戸康史 (撮影:荒川潤)

(左から)寺十吾、瀬戸康史 (撮影:荒川潤)


前川知大が主宰するイキウメの『関数ドミノ』は、2005年初演以来、2009年、2014年と再演を重ねてきた。そして今回、2017年10月4日(水)より本多劇場にて、初めて外部プロデュース公演として上演される。主演は、映画・ドラマでの活躍も目覚ましく、舞台では2016年の『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』や、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の『陥没』でも存在感を発揮した瀬戸 康史(せと こうじ)。演出を手がけるのは、役者として、演出家として、映画監督としてキャリアを重ねる、寺十 吾(じつなし さとる)。インタビューでは、前川知大の魅力や2017年版へのアプローチについて伺った。。

『関数ドミノ』あらすじ
ある都市で、奇妙な交通事故が起きる。
信号のない横断歩道を渡る田宮(池岡亮介)のもとに、車が突っ込んできた。しかし車は、田宮の数センチ手前で、あたかも透明な壁に衝突したかのように大破する。田宮は無傷、運転手の新田(鈴木裕樹)は軽傷で済むが、助手席に座っていた女性は重傷を負う。目撃者は真壁(瀬戸康史)、友人の秋山(小島藤子)、左門(柄本時生)の3人。事後処理を担当する保険調査員・横道(勝村政信)は、この不可解な事故の関係者を集め検証を始め、しだいに、HIV患者・土呂(山田悠介)、学生の平岡(八幡みゆき)、真壁の主治医・大野(千葉雅子)をも巻き込んでいく。すると真壁が、ある仮説を立てるのだった。それがドミノ理論。荒唐無稽な仮説だったが、不思議な現象が起こり始め…。

散りばめられたリアリティ

―― 瀬戸さんは、以前からイキウメの舞台をご覧になっていたそうですね。『関数ドミノ』のオファーがあった時の気持ちを教えてください。

瀬戸 僕は前川さんの作品が好きなんです。昨年は『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』にも出演させていただき、今年もこうして前川さんの作品に携われるのはうれしく思いました。

―― 前川さんやイキウメの舞台は、どこに魅力を感じますか?

瀬戸 イキウメは、SFだと言われることがよくあるのですが、僕はその中に散りばめられている現実、リアリティが魅力のひとつだと思っています。舞台を観終わった後に、すごく冷静になれる。今の自分でいいのかとか、世の中このままでいいのかとか(笑)、そんなことまでを考えさせられるんです。

―― 寺十さんにお聞きします。本作の演出のポイントをお聞かせください。

寺十 イキウメさんの作品では、日常とはちょっと捻じれたことが起こり、それに翻弄される人たちが描かれたりします。『関数ドミノ』でも奇跡と言われる現象が起きるのですが、ポイントは人間ドラマの方にある。結果的にある奇跡が起こるのだけれども、奇跡という現象よりは、奇跡を取り巻く人たちの方をクローズアップしていきたいなと思います。つまり、物語よりも、人物像ですね。

――瀬戸康史さんには、どんな印象をお持ちですか?

寺十 先ほど話に出ました『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』を観たのですが、その時の瀬戸くんの憑依したような演技が、すごく素敵だったんですね。憑依した時にしゃべる様々な現象が本当にあったのか、なかったのか、果たして奇ッ怪なことなのか……。そこを検証していく物語ですが、それよりも憑依した状態で演技する瀬戸くんが魅力的だった。この人はどういう人で、どういう性格で、どういう生い立ちの人なのかの方に興味をもったんです。なので先ほども言ったように今回は、人を描くことをメインにしていきたいなと思ったのです。

――瀬戸さんは、寺十さんにどんな印象をお持ちですか?

瀬戸 僕が勝手に思っているのは、「合うな」ということですね。勝手に思っているだけなので、もしかしたら寺十さんは「合わないな」と思われているかもしれませんが(笑)……そう感じています。稽古中はおそらく追い込まれることになるだろうと予想もしていますが、それも含めて、今からすごく楽しみですね。

――共演者の方々についてはいかがでしょうか?

瀬戸 柄本時生さんは、今回初めてご一緒します。個性的な方なのだろうと勝手な印象をもっているので(笑)、一緒に稽古やお芝居ができるのが楽しみですね。あとは共演したことのある方々ばかりなので、皆さんがこの作品でどう化けるのかも楽しみにしています。

寺十 若い役者さんたちは、瀬戸くんも、瀬戸くん以外の方々も、役に入り込んでいくタイプの方が多いようです。逆に、ベテランの勝村政信さんや千葉雅子さんは、役を自分のフィールドにもってきて軽妙に演じていただくイメージなので、「入り込む若い人たち」と「それを取り囲むベテラン」というバランスが、うまくできればいいかなと思っています。

2017年版の見どころ

――2017年版『関数ドミノ』の脚本ができるのは、まだこれからと伺っていますが、どんなところが見どころになると思われますか?

瀬戸 2009年バージョンと、2014年バージョンの間に、東北の大震災がありました。今回は09年バージョンに前川さんが少し手を加える形で上演されます。震災は、出身地が新潟の前川さんの心にも影響したであろう出来事だと思うので、「生と死」みたいなところは重要になってくるのかなと思います。

寺十 前川さんは、いつもはアテ書きだけど、今回はすでに書かれた脚本をもらって僕が演出します。その意味ではどういう人物ができあがるのか、前川さん自身もとても楽しみにしているようですね。

――前川さんからは、何かリクエストはありましたか?

寺十 全部お任せします、と(笑)。

瀬戸 本当に楽しみにされているようでした。

――それはそれで、プレッシャーに……。

寺十 なります、なります。一生懸命やらないとな、と思いました(笑)。

瀬戸 イキウメのファンの方々をあまり気にしすぎてもいけないのかもしれませんが、僕は真壁をどう演じたらいいか、と。後味が悪いだけの真壁には、なりたくないなというのが個人的にあります。また、過去の『関数ドミノ』はあまり意識したくないなとも思っています。

寺十 『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』をやったんだから大丈夫だよ!(一同、笑) 瀬戸くんのことは、前からテレビでも観ていて、初々しくて素敵な方だと思ってました。

瀬戸 ほめられるとうれしいですね(笑)。期待に応えなきゃと背伸びしちゃう部分はまだあって、そういう部分は要らないなと思っています。分らないことは分らないと言えるスタンスでいけたらいいですね。

静かな、シンプルなところから始めたい

――寺十さんは、以前に役者として前川作品『散歩する侵略者』(演出:赤堀雅秋)に、出演されていましたね。今回は立場が変わり、演出家です。同じ前川作品でもアプローチは変わりますか?

寺十 前川作品だからということではなく、演出モードと役者モードではまったく違いますね。演出の時は、脚本の読み方も俯瞰して読むことが多くなりますし、役者さんと台詞の相性ということにも意識を向けます。役者をやりながら演出もやって……となると、予定調和になりやすいところがあるのですが、役者だけの時は、台詞とシーンを別の目でみてもらって、判断してくれる方に丸投げしますね。

――瀬戸さんは、今回の役作りについていかがですか?

瀬戸 今、寺十さんが「役者の時は丸投げ」とおっしゃるのを聞いて安心しました(笑)。僕も丸投げで、寺十さんに観てもらうしかないのかなと思います。まずは本読みで、寺十さんがどう感じられるのかですよね。といっても、何も考えていかないというわけでなく、フラットな状態でいけたらいいのかなと思います。

――寺十さんから、俳優の皆さんに対してリクエストはありますか?

寺十 まずは本読みで「本に書いてあるとおりに読んでください」とお願いしたい。たとえば「君」と「お前」で同じ意味でも、台詞として言ってみると心地は違いますし、見えてくる関係性も違います。書いてあるとおりを口にすることで、台詞が自然に役者さんをそこに運んでくれる場合もあると思うんです。なので、あえてリクエストするなら、本読みには、どこまで考えずにこれるか。こちらも要求せずにいけるか。作るというよりは、見つけるという作業をしたいです。瀬戸くんが言うとおりですね。静かな、シンプルなところから始められたらいいですね。

『関数ドミノ』の希望、2人の運命

――公式サイトの前川さんのコメントにもありますが、2009年版は、2014年版と比べ希望のあるラストでした。瀬戸さんは、本作における「希望」をどう捉えますか?

瀬戸 真壁を演じる時のテーマは、「気づき」あるいは「気づく」ということだと思うんです。たとえば「自分にはこういう部分があったんだ」と気づくことによって、それ以降の生活態度や人との距離感を調整できて、おかげで、悪い方向には進まない。その気づきが、希望になっているのかなと思います。

――寺十さんは、劇中の「希望」へのアプローチを、何かイメージされていますか?

寺十 希望というのは、どんな絶望を味わった先にあるのかにより変わるものだと思うんです。その前まで希望で終わっていたものを、一度貶めて、そこからまた立ち上げていかなければならない。その時には、希望は新しい希望になっているんじゃないかと。で、明るいところで行われる希望は、手軽には手に入るけれども、非常に薄いものであったり、すぐに忘れてしまったりするようなものであったりする。

――高低差の中に希望が生まれる、というイメージでしょうか。

寺十 舞台を作る上では、まず稽古場で「こんな人ですら、なにかしら希望をもつ」「こんな人ですら、どこまで落ちていってしまうんだろう」という確認の作業をしていくことになると思います。はたして希望があるのかないのか、その結果「こんな希望があったね」となった時に、パァっと開けていくものかもしれない。

――『関数ドミノ』におけるもう1つのキーワード、「運命」についても伺います。公演とは話題がそれますが、ご自身の運命やジンクスめいたものを感じることはありますか?

寺十 3年前に娘が生まれまして、そこから仕事が増えました。エンジェル効果と言われていて、よくあることらしいんです。他の人とも「そういうことあるらしいね」なんて話をしました。

瀬戸 僕はプライベートで良くないことが起きると、仕事が良くなる。たとえば恋愛が上手くいかない。風邪をひく。すると、それに見合った仕事が入ってくる。(プライベートで)落ち込んでいる時なので、いいお話をいただけるのはうれしいのですが……、複雑ですよね(笑)。

――今回は全国7箇所での公演とあり、多くの方々が『関数ドミノ』に関心をもたれていると思います。読者の方々へ、メッセージをお願いします。

瀬戸 普段東京でしか上演していないお芝居を、九州や北海道に住んでいる方に観ていただける機会は少ないですから、ぜひ観にきていただきたいです。『関数ドミノ』をきっかけにお芝居を好きになってくださったら嬉しいです。個人的には、自分の地元である九州の方たちに、成長した姿を観ていただきたいなと思います。

寺十 演劇でしか味わえない、生でしか味わえない奇跡がありますので、それを観にきてください。

取材・文=塚田史香  撮影=荒川潤

公演情報
『関数ドミノ』
 
<東京公演>
■日程:2017年10月4日(水)~10月15日(日)
■会場:本多劇場

 
<北九州公演>
■日程:2017年10月21日(土)~10月22日(日)
■会場:北九州芸術劇場 中劇場

 
<大分公演>
■日程:2017年10月24日(火)18:00開場/18:30開演
■会場:ホルトホール大分 大ホール

 
<久留米公演>
■日程:2017年10月26日(木)18:30開演
■会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール

 
<大空町公演>
■日程:2017年11月5日(日)19:00開演
■会場:大空町教育文化会館 

 
<北見公演>
■日程:2017年11月6日(月)19:00開演
■会場:北見芸術文化ホール 中ホール

 
<兵庫公演>
■日程:2017年11月10日(金)~11月12日(日)
■会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

 
■作:前川知大
■演出:寺十吾
■出演:瀬戸康史、柄本時生、小島藤子、鈴木裕樹、山田悠介、池岡亮介、八幡みゆき、千葉雅子、勝村政信  
■公式サイト:http://kansu-domino.westage.jp/

 
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