平岩紙(大人計画)、日本総合悲劇協会『業音 GO-ON』を大阪で語る
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日本総合悲劇協会『業音 GO-ON』で主演を務める平岩紙(大人計画) [撮影]吉永美和子
泥臭く生きることを「ええやん、それで」と思える作品です
「大人計画」の松尾スズキが、“悲劇”を追求した作品を上演するユニット「日本総合悲劇協会」。そのレパートリーの中から、松尾が「自分の代表作」と公言する『業音』が、大人計画メンバー中心の顔ぶれで、実に15年ぶりに再演される。自業自得ながらも理不尽な結婚生活を強いられる元アイドル・土屋みどりを中心に、様々な人間たちが不幸の沼にどんどんとハマっていく姿を、痛々しくも笑えてしまう独特の松尾節で描き出した作品だ。今回の再演でみどり役に大抜擢された平岩紙が、出身地の大阪で会見を行った。この役への意気込みを始め、初演の様子や松尾スズキの世界の魅力、さらには意外と男前な素顔まで、ナチュラルな関西弁を交えながら語ってくれたその模様をお届けする。
■封印を開けるのは怖かったけど、開けちゃったな! と
──てっきり東北の方のご出身かと思ったら、実は大阪出身なんですね。
よくそう言われますねえ。生まれ育ちは吹田市で、小さい頃はよく万博公園まで太陽の塔を見に行ってました。関西弁の役も本当に少ないから「関西(出身)なんやー」って、よくビックリされます。
──だったら大阪公演の時は、皆さんを地元のオススメのお店に連れて行ったりとか……。
ないですねえ。大阪に限らず、地方公演に行った時に「せっかくだからどこかに行こう」みたいなのがないんですよね、私。全然ホテルにいっぱなしでも平気なので、面白みのない人間やなって思います(笑)。
──『業音』には2002年の初演も別の役で出演していましたが、その時の思い出を教えていただけますか?
私にとっては(松尾作品の中では)一つだけ浮いていて、他に似ているものがない特殊な作品です。初演では何か緊張感というか、独特の空気がありましたね。終演後のお客さんも「えらいものを観てしまった」みたいな空気で帰っているのが伝わってきました。私の方も毎回「終わった終わった」みたいな気持ちがなくて、いつも何か「明日こそ、またやってみよう」みたいな……答えが見つからないけど、その時できることを穴掘って穴掘って演じてた、という感じ。千秋楽になっても終わった気がしなくて、「やり切った」なんて一生言えないような、不思議な舞台でしたね。
平岩紙 [撮影]吉永美和子
──松尾さんも「このままでは終わらせたくない」と思っていたそうですね。
他の人はわからないけど、さまよいながら演じるという感じでしたから。それは「役が(身体に)落ちなくてダメ」という意味じゃなくて、「こっちにも行けるし、でもこっちにも行ける」という振り幅がすごーく広いんです。だから松尾さんが15年来なかなか手を出せなかったって意味もわかるし、外からほとんどゲストを呼ばず、劇団員だけで向き合おうと思ったその気持ちも、わからなくもないなあって。何か本当、重い鉄の扉の向こうに『業音』という作品が封印されていて、それをガーッと開けたら、当時の空気のままブワーッ! と襲われそうというか。だから今は、開けるのはちょっと怖かったけど、開けちゃったな! みたいな気持ちです。
──今回はついに、松尾作品で初めての主演を務めるわけですが。
一番最初に「主役は平岩でどうだ?」って言っていただいた時は、やっぱり「私で大丈夫だろうか?」と思いました。初演の時に、(初演でみどりを演じた)荻野目慶子さんの演技を肌で感じていたというのもあって。でも自分が17年間役者経験を積んできて、ようやく挑戦させてもらってもいい役なのかなと思います。松尾さんも「どうせ主演をやるなら、一筋縄ではいかない作品の方がいいだろう」と言ってましたし。
──それって「平岩さん主演の舞台」というアイディアが先にあって、『業音』を選ばれたということなんでしょうか?
どっちだったんでしょうねえ? でもずっと「『業音』を再演したい」という話は聞いていましたし、松尾さんにとって強い思い入れのある作品なんですね。だからプレッシャー……と言ってしまったらそこまでですけど、しっかりやらなきゃ、ちゃんと背負ってやろうみたいなのもあります。やっぱり悲劇でテーマも重いんですけども「こういう生き方って人間らしいなあ」と思える作品なんですよ。なかなか一言では言えない世界ですけど、泥臭くても格好悪くても、全員が欲むき出しで必死に生きようとしている。「人間臭い」ってこういうことなんだなって思いますし、そうお客さんにも思ってもらえるよう、説得力を持って演じられたらと思います。
『業音』初演より。宙吊りになりながらギターを弾いているのが平岩紙。 [撮影]田中亜紀
■どんな占いに行っても「男ですねあなた」と言われます(笑)
──改めて脚本を読み返した時の感想は。
「今と変わってない」と思いましたね。初演の時も今も、社会的な介護問題だとか、貧困問題だとか、テロだとか、そういうことが問題としては変わってないなあと……変わってほしいんですけど。昨日は稽古で本読みがあったんですけど「ああ、こんな面白い台詞だったんだなあ」と、悲劇なのにゲラゲラ笑ってました(笑)。
──悲劇なのに笑ってしまって「うわ、こんなことで笑う自分って何て残酷なんだ」ってなるのは、松尾さんの世界の特徴ではありますよね。
笑いたいけど何か不謹慎だなあとか、ここってバカ笑いしていいの? みたいな。でもやっぱり人って、どういう哀しいシチュエーションの時も、何か笑ったりするものなんですよ。やってる側としては、全然笑ってほしいと思っています。
──今回演じる、みどりという女性はどう思いますか?
やらなきゃいいことに手を出して、不幸の方に転がっていく人です。人って「誰かがいないと寂しい」と思って生きているものですけど、この女の人は特に、誰かにもたれかかって生きようとしてるなって感じがすごくします。友達にはなりたくない(笑)。「日頃の行いそんなんやから、そうなるねん、人生」って言いたくなりますね。それは私と真反対だなあと思うし、自分がたどることはない人生だと思います。
平岩紙 [撮影]吉永美和子
──ご自身は、あまり人に頼らないタイプだと。
あんまり好きじゃないんですよ。それでもやっぱり誰かに助けられて生きてますけど、なるべく借りを作らず、迷惑かけずに生きていきたいなというのがあって。だからたとえば、クリスマスシーズンの街頭インタビューで「彼からバッグが欲しい」とか言ってる女の人を見ると「自分で買えや!」って思いますしね(笑)。
──平岩さんっておっとりした人という印象を勝手に持っていたんですが、実は男前な性格なんでしょうか?
「男やねえ」ってよく言われますね。どんな占いに行っても「はい、男ですねあなた」って言われますし、オッサン入ってるなあと思います(笑)。だからこういう、すごく女性っぽくて色気のある役って、昔だったら「恥ずかしい~!」と思ってできなかったですね。でも自分も37歳になって、酸いも甘いもいろんな経験がある上で演じるわけですし、みどりに対しても「わからなくもない」と思える部分があるんですよ。本当に自分とは真逆の人ですけど、何か納得させられてしまうものがあって。そこは観てる人にも、「わかるわかる」って言ってもらえるようには演じたいですね。決して「カッコいい生き方だね」って言ってもらえる人じゃないんだけど、愛着を持っていただきたいというのはあります。
──松尾さんの演出ってどんな感じですか?
先輩たちからは「昔は厳しかった」って聞くんですけど、私はそういう印象はあまりないです。張り詰めた空気になるのが、好きではないんじゃないですかね。稽古場を嫌なムードにしないからありがたいです。やっぱり笑いを作る現場って、張り詰めたらのびのびできないじゃないですか? それと松尾さんって、稽古を見ていて自分がウケた時に「みんなも笑ってるかな?」って、笑いながら周りを確認するんですよ(笑)。やっぱり松尾さん自身が面白いことが好きで、優しい人だから、稽古場もそういう雰囲気になってます。作ってる作品も、一見過激で残虐なことをしているようでも、やっぱりその話や台詞の裏には松尾さんの優しさが流れていますし。だから演じてても気持ちがいい瞬間があるし、お客さんにもその深い所が伝わればいいなあと思います。
平岩紙 [撮影]吉永美和子
──確かに松尾さんの作品は、観劇後は……それこそさっき言われた「えらいものを観てしまった」って気分になって、でも次第にいろんな社会問題や人生にまで考えが及びますよね。今回はいっそう、そういう舞台になりそうな予感がします。
そうですよねえ。こちらも「いろんな隠れたメッセージを感じ取ってもらえたら」という気持ちでやってますし。でもそのメッセージを、ガーンと押し出すこともしない。そのシャイで奥ゆかしい所も松尾さんの作品の好きな所ですし、観た後に深い人生の話とかを考えてもらえたならば、それは何かしら届いたってことだろうなと思いたいです。この作品も結局は「生きる」って話なんですよ。誰しもが人生で踏み外す瞬間とか、失敗する瞬間はあるけど、でも生きる希望は持っているというのがあるから。「生きよう」ってもがいてる感じがすごくバタ臭いけど、「ええやん、それで」って思える作品だと思います。
取材・文:吉永美和子
■日程:2017年8月10日(木)~9月3日(日)
■会場:東京芸術劇場 シアターイースト
<名古屋公演>
■日程:2017年9月13日(水)・14日(木)
■会場:青少年文化センター アートピアホール
<福岡公演>
■日程:2017年9月16日(土)~18日(月・祝)
■会場:西鉄ホール
<大阪公演>
■日程:2017年9月21日(木)~24日(日)
■会場:松下IMPホール
<松本公演>
■日程:2017年9月29日(金)・30日(土)
■会場:まつもと市民芸術館 実験劇場
<パリ公演>
■日程:2017年10月5日(木)~7日(土)
■会場:パリ日本文化会館 大ホール
■作・演出・出演:松尾スズキ
■出演:平岩紙、池津祥子、伊勢志摩、宍戸美和公、宮崎吐夢、皆川猿時、村杉蝉之介、康本雅子+エリザベス・マリー(Wキャスト)
■公演特設サイト:http://otonakeikaku.jp/2017go_on/