パリの展示レポート:ロダン100年展 Rodin. L'exposition du centenaire
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今年で没後100年を迎えたフランス人彫刻家、ロダン。これを記念してパリのフランパレで開催されたロダン100年展に足を運んでみました。
日本人がロダンといえば一番に思い浮かべる作品は『考える人』ではないでしょうか。あまりに有名な作品ではありますが、その不動の男の彫刻に、それ以上の思い入れがある人はそういないはずです。
筆者自身も、ロダン以前に、彫刻というアートそのものに興味も縁もなかった生活を日本で送っていました。ところがパリに住んでからというもの、ロダンという彫刻家の存在はずっと身近なものになっていきました。
街を歩いていたり、公園のベンチに腰掛けてサンドイッチを食べている時、目の前にロダンの彫刻作品が普通に存在するパリ。『考える人』以外のロダンの本物の作品をこうして目の当たりにすると、つい見入ってしまうようなパワーがあることを知りました。
そして数年前、パリにあるロダン美術館の建物と庭が素敵だと聞き、足を運んでみたことがあります。昔、ロダンが住んでいた邸宅兼アトリエだったその建物はパリの高級地に佇んでおり、思わずため息が出るようなお屋敷でした。
高い天井に、大きな窓から気持ちよく光が射すそのお屋敷には、白くなめらかな肌をした女性の彫刻が所狭しと展示されています。あまりの生々しい美しさに、つい触ってしまいたくなる欲望に必死に抗ったのを覚えています。
この日、彫刻というものはこちらに差し迫ってくるような感覚を呼び起こすものだということを初めて感じました。また、この屋敷にある全ての作品から醸し出される艶かしさのせいか、彫刻美術館というより、ロダンの秘密の館に忍び込んで秘密を覗いてしまったような後ろめたさを感じてしまう不思議な体験でした。
さて、今回のグランパレでの展示会には、ロダン美術館で感じたような濃厚で秘密めいた空気は一切ありません。
19世紀の近代彫刻の父として歴史に名と共に残された彼の名作を一堂に集めた同展。ロダン美術館よりもはるかに広い空間で、ダイナミックに、そして、贅沢にロダンの作品を味わえる迫力の内容でした。
今回の展示会で改めて、同じアーティストの作品でも、場所や作品によっ全く違った見方・感じ方ができると感じさせられました。
今年フランスで公開されたロダンの映画『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』(日本では今年11月に公開予定)では、愛人と妻の間でゆれるロダンの姿が描かれています。ロダン美術館の中で漂っていた空気は、まさにその愛の葛藤。そして、このロダン展示で筆者が対面したロダンの顔は、その愛の葛藤の中で揺れ、作品を生み出しつづけていた1人の優しい男の顔だったのです。