「自由はきっと心の中にある」 篠井英介と演出家・鈴木勝秀が語るコメディ『グローリアス!』の音痴な歌手の魅力とは?

インタビュー
2017.8.15
篠井英介、鈴木勝秀

篠井英介、鈴木勝秀


音痴と称されながら熱狂的なファンを集めた実在の女性歌手、フローレンス・フォスター・ジェンキンズを描くコメディ『グローリアス! ~Glorious!~』が、8月18日にDDD青山クロスシアターで開幕する。フローレンスを演じるのは女形の篠井英介。演出を、篠井とは『サド侯爵夫人』などでタッグを組んできた演出家・鈴木勝秀が担当する。このほど稽古場を訪ねて、『グローリアス!』の魅力を篠井と鈴木に聞いた。

――コメディ作品が少ない鈴木さんが、『グローリアス!』を演出しようと思われたのはなぜですか?

鈴木 ただのコメディではなく、このフローレンスの生き方が自分たちにも近いと思えたんです。上手いか下手かもわからないまま、好きで好きで好きで芝居をやってきた自分たちと、歌い続けてカーネギーホールから出演のオファーが来るまでになったフローレンス。自分が青山劇場で演出をしたときなどを思い出し、続けてやっていくことがたどりつけるということなんだ、そういう人たちの話なんだと思ったんですね。フローレンスは、コズメという素直にブラボーを送れるピアニストと出会った。篠井英介さんと長く舞台を作ってきた僕はコズメでもあるなと思い、フィットする部分もありました。英介さんとご一緒できるということも大きな理由でしたね。

――海外では女優が演じているフローレンスを、今回女形で演じますね。篠井さんは、どこに魅力を感じましたか?

篠井 年を重ね女形の役が少なくなる中で、初老のおばさんがヒロインの作品を僕にといって下さったのがすごく嬉しかったんです。そして、演出がスズカツちゃん(鈴木勝秀)。信頼があるので、委ねていろんなことも相談できるだろうと思いました。コメディならではの難しさもあり、稽古が佳境に入るにつれ改めてスズカツちゃんでよかったと思っています。

――出演者は3人だけ。フローレンスがコズメに出会い歌い続け、カーネギーホールからオファーが来るというシンプルな物語で、説明せりふも少ない。それなのに、登場人物それぞれのキャラクターが際立つ戯曲ですね。

鈴木 この戯曲は6人バージョンと3人バージョンがあったそうです。3人バージョンはすごく削ぎ落とされていますね。僕は説明が多いものより、言葉で説明されていない部分が多い戯曲が好きなんです。稽古を見ながら新たに日々生まれてくるものをいかすようにしています。

篠井 これまで、スズカツちゃんと組んできた作品の役柄は、ある種の深みがって人間ドラマがまさにそこにあるというものでしたが、フローレンスは実在の人物でもあり、こんな人ですとはっきりしている。それをどう僕なりに見せていくかがポイントですね。音痴なのに、また聞いてみたくなるのは人間的な魅力があったに違いない。じゃあ、その魅力はなんだろうと考えました。それは、彼女の可愛さとかチャーミングさ、そしてなによりも一生懸命で、ものすごく楽しそうにイキイキとステージに立っていたからではないかと思うんです。だからこそ、お客さまはその姿に癒されたり励まされたり、笑わせられたりしたんだろうと。まず、チャーミングな人になって、その次に深みを出さないと思いました。その深みの表現には、女形の工夫があるのですが、そこは秘密です。

――篠井さんは劇中で歌も披露します。音痴なのに圧倒的魅力があったフローレンスの歌はどう表現されますか。

鈴木 英介さんがソプラノを歌うこと事態がまず無理ですよね? オペラをすごく歌えているように一生懸命やるだけでそこは到達できると思います。歌の上手い女優さんが下手に歌うより有利かもしれない。一オクターブぐらい急に下がったりするような自由さがあって、歌をそのまま再現するのとは違う方法でお見せできるかなと。

篠井 僕も歌はあまり意識してつくっていなくて、ばらけた声で出している程度かな。わざと音痴にもしてないですが、スズカツちゃんが面白がってくれているので、いろんな方法を自己流でチャレンジしているという感じですね。

――フローレンスもまさに自己流というか自由ですよね。閉塞感のある今の日本では、彼女にあこがれも感じます。

鈴木 自由であることを僕たちは求めていますよね。じゃあ、何が自由かといったら、それは精神しかない。精神の自由をどう獲得していくかと考えたとき、英介さんの場合は男が女をやるというすごい制約があるので、逆にそれがすごく演劇的自由になるんです。アメリカのリアリズムとは相入れない、日本人がやってきた中で到達できる自由さが生まれるのではないかなと思っています。英介さんとやるとその自由度を確認できるし、想像力は絶対に制限されない中でやれる手応えがあります。

篠井 自由はきっと心の中にある。それを持ち続けているかどうかが、表現者としての自由さのすべてといえるぐらいですよね。僕も女形として体とか声とかしばられるからの自由がある。制約のない自由は面白くないですからね。

――フローレンスの生きた当時のアメリカと今の日本は時代感覚も違いますね。

鈴木 時代感を配慮するとものすごく「アメリカ」を考えないといけなくなってしまい、それを始めると具体的なことが必要になる。僕は翻訳劇では、場所と時間をあいまいにするという形でやることが多いんです。戯曲の時代の一部を切り取るのではなく、人間の本性というかプリミティブな部分からでてきている変わらない部分に焦点をあてて、現在の日本とどう繋がっているかを一番考えたいんです。

篠井 僕もスズカツちゃんの翻訳劇のやり方が好きなんですよね。普遍性みたいなものに行きつくようにしてくれる。かつて翻訳劇は青いシャドウをぬって鼻をつけていた時代もあるけど、描かれているのは人間。万国共通時代を超えてその人間に共感しようとするところが好きですね。

――では、この作品で現在の日本に繋がっている部分は?

鈴木 最近、夢をあきらめかけているなと感じることが多くて、自主規制も激しいと思うんです。「忖度」という言葉なども含めて、自分で規制していく傾向が強くて、それは嫌だと感じる。フローレンスは自分を自主規制していくことはないんです。そこが、現代に訴えられる部分だと思います。

篠井 逆にいうとうらやましいね。彼女の自由度とか情熱とかが。若い頃は演劇への情熱はあったし、フローレンスに負けないぐらいだったと思うけど、分別も手にした今、60代を過ぎてあのエネルギーを持つフローレンスはすごいと思うんです。彼女は本心もたまにふっと言葉に出したりして、そこもすごいですね。

――音楽を愛して自由に生きたフローレンスに出会い、今後は演劇とどう向き合っていこうと考えますか?

鈴木 自分がやりたいことをずっとやり続けたことが何より一番だったということですね。年をとってくると、好きなことだけやっていても時間が足りないということを感じていて。今は自分の中で嫌いなことはしないというのが一番かな。嫌なことはしない。好きなことをできるだけやりたい。そういうことを再確認はしています。そして、それが本当に好きかどうかということを、少しはわかるようになってきたかなという気はしています。

篠井 僕も久しぶりにヒロインをやって、役者というのは精神力、体力、気力があって初めて舞台に立てるのだということを再確認しています。これほどの役をしばらくやっていなかったので、フローレンスをしっかりやりこなせたら次に進めるかなと、ちょっと試金石みたいにも感じています。

音楽が好きで楽しいからというフローレンスと、楽しそうにやってるねと思っていただければそれでいいという篠井さん。「どこか似てますね」と話すと、篠井さんは、「そうなんだよねぇ」とふんわりと笑った。そんなヒロインに「ブラボー」を送り続ける、コズメのような鈴木勝秀さん。二人の出会いが生み出すのコメディはきっと人生讃歌になるのではと、期待がふくらむ対談となった。

取材・文・撮影=田窪桜子

公演情報
『グローリアス! ~Glorious!~』
 
■作:ピーター・キルター
■翻訳:芦沢みどり
■演出:鈴木勝秀
■出演:篠井英介 水田航生 彩吹真央
■企画・製作:シーエイティプロデュース
■制作協力:ミーアンドハーコーポレーション

 
<東京公演>
■公演日程:2017年8月18日(金)- 9月15日(金)
■会場:DDD青山クロスシアター 【 会場HPはこちら 】
■住所:東京都渋谷区渋谷1-3-3 ヒューリック青山第2ビル B1F 【 Google Map 】
■主催:シーエイティプロデュース

 
<東京(江東区)公演>
■公演日程:2017年9月20日(水)18:30開演 ※開場は開演の30分前
■会場:江東区文化センター ホール 【 会場HPはこちら 】
■住所:東京都江東区東陽4-11-3 【 Google Map 】
■主催:シーエイティプロデュース
■共催:公益財団法人江東区文化コミュニティ財団、江東区文化センター

 
<金沢公演>
■公演日程:2017年9月22日(金)18:30開演 ※開場は開演の30分前
■会場:北國新聞 赤羽ホール 【 会場HPはこちら 】
■住所:石川県金沢市南町2-1 【 Google Map 】
■主催:2017ビエンナーレいしかわ秋の芸術祭実行委員会、石川県、石川県芸術文化協会、北國芸術振興財団
■共催:北國新聞社

 
<富山公演>
■公演日程:2017年9月23日(土)15:00開演 ※開場は開演の30分前
■会場:富山県民会館ホール 【 会場HPはこちら 】
■住所:富山県富山市新総曲輪4-18 【 Google Map 】
■主催:シーエイティプロデュース、イッセイプランニング、富山テレビ放送
■後援:富山県、公益財団法人富山県文化振興財団、北日本新聞社

 
<大阪公演>
■公演日程:2017年9月25日(月)18:30開演 ※開場は開演の30分前
■会場:サンケイホールブリーゼ 【 会場HPはこちら 】
■住所:大阪府大阪市北区梅田2-4-9 ブリーゼタワー7F 【 Google Map 】
■主催:サンケイホールブリーゼ

 
<神奈川公演>
■公演日程:2017年9月27日(水)14:00開演 ※開場は開演の30分前
■会場:杜のホールはしもと ホール 【 会場HPはこちら 】
■住所:神奈川県相模原市緑区橋本3-28-1 ミウィ橋本7階 【 Google Map 】
■主催:シーエイティプロデュース
■共催:公益財団法人相模原市民文化財団

 
■公式サイト:http://www.glorious-stage.com/
 
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