松岡充&劇団鹿殺し代表・丸尾丸一郎がユニット結成、VOL.M第1回公演『不届者』を東京と大阪で上演!
『不届者』合同取材会にて(撮影/石橋法子)
今秋、SOPHIA/MICHAELのボーカルで歌手・俳優の松岡充と劇団鹿殺しの丸尾丸一郎がユニットVol.M(ボリューム・エム)の活動第一弾として、第1回公演『不届者』を東京(9/27~10/1)と大阪(10/13~10/15)で上演する。紀州藩藩主の四男・新之助が元服と同時に「徳川吉宗」を名乗り、育ちも性格も正反対の徳川宗春と将軍の地位を巡り死闘を繰り広げる。松岡が主人公の新之助を演じる”不届き者”たちの物語だ。作品の見所について、松岡と丸尾が大阪の合同取材会で語ってくれた。
「明るくクリーンな松岡さんには、同時に引っ張りあう真逆のイメージがある」(丸尾)
ーーお二人の頭文字をとったユニットVol.M(ボリューム・エム)は構想5年だそうですね。そもそもの出会いは?
丸尾丸一郎(以下、丸尾) 2012年に再演された松岡さんの主演舞台『リンダ リンダ』(作・演出:鴻上尚史)で初めて共演させて頂きました。鴻上さんの描く松岡さんは、恋愛には悩むけどすごく芯の強いポジティブなキャラクターで、そことは違う一面を描きたいと思ったのがきっかけです。当時は主演と賑やかしのキャストだったので、「いつか僕の作品にも出てください」とは伝えたものの、自分に自信がつくまでなかなか本格的なオファーはできませんでした。ここ1、2年でようやく自分の作・演出作品にも自信が持て始めたので今なら演出家と役者として対等にお話ができそうだと思い、お声を掛けさせて頂きました。
ーーそれを受けて松岡さんは?
松岡充(以下、松岡) 僕は仕事を仕事としてやるのが苦手で、やるからには杯を交わすぐらいの感じでやっていくタイプなんですよ。作品をひとつ一緒に作り上げるとカンパニーの結び付きも強くなりますし。丸尾くんは僕とは違うタイプかな?と思いきや、意外にもどんどん懐に入って来てくれたので、千秋楽を迎えるころには「松岡さんの違う面を描きたいので、ぜひご一緒させてください!」と言って頂き、僕としては全然すぐにでもOKですよと。
ーー快諾されたのですね。
松岡 色々想像して頂けるのはありがたいことですし、嬉しかったですね。そこから僕は背中に「丸尾丸一郎」「鹿」というタトゥーを入れて……というぐらいの気持ちでいたのに、待てど暮らせど連絡が来ないわけですよ。で、ふっと見たら「OFFICE SHIKA × Cocco」でしょ。俺のことは忘れたのかなーと、背中の古傷がうずく感じでした。
次こそ俺の番やろと思ったら「OFFICE SHIKA × 奥菜恵」と目にして、「えーっ!!」って声出ましたよね。そこから、15周年記念公演も終わったし、しゃーなしに「やる?」で、僕のところに話が来た感じです。
丸尾 そんなことないですよ~。
ーー(笑)。ようやく実現の運びに。
松岡 「私を抱くならちゃんと抱いて、本気じゃないと怒るで!」「本気です!」というやりとりの後(笑)、じゃあ時間をかけてじっくり作ろうと1年前から作品づくりを始めて。白紙の状態から話し合っている所を撮影してYouTubeにアップしたり、台本もない時から「ロケに行こう!」と出掛けたり。
丸尾 松岡さんから「メリーゴーランドで回っているような、幻想的なイメージ」とアイデアを頂いて、東京サマーランドで撮影したんですが、『不届者』とはまったく関係のないものになりました(笑)。
ーー丸尾さんは、松岡さんのどんな点に触発されたのでしょう?
丸尾 松岡さんは明るくキャッチーでクリーンなイメージがある。でも僕の考えとしては、そういう人は同時に真逆のものが引っ張りあっているイメージが強くあって。SOPHIAにしてもただ音楽が好きとか勢いだけではダメで、ある種の計画性や野心、したたかさも必要だろうと。それらを持ち合わせないと一線には居続けられないのではないかと想像して、松岡さんの”月”の部分を描きたいという思いがありました。だから、タイトルは脚本を全部書き上げてから付けましたが、役柄のイメージや作品のカラーとしては、ずっと頭の中にありました。
「『松岡充は何かあるぞ!』と想像して頂けるのは、役者冥利につきます」(松岡)
ーー松岡さんは役柄、物語について何か感じる部分はありますか?
松岡 最初、丸尾丸一郎は僕のことを暴きたいんだろうなと思ったんですよ。例えば、人間やからそういう部分もなくはないと思うんですね。ただそれを見せて誰が気持ちいいんだろうと。それも彼に伝えたし、1年間互いに向き合って話をしていくうちに、「ほら、裏があったやろ!」と暴くことが目的ではなく、人のことを憎むから、人のことを大切に思えるとか、そのふたつがちゃんと同居しているのが人間なんだと。
片方の松岡充というイメージしか持たない人にも、それはちゃんと見てもらいたいと言ってくれて、うずいていたタトゥーも誇らしく感じました。蹴落としたいわけじゃない、もっとみんなに愛してもらいたいと。「俺だけが知っている魅力を、みんなにも見てもらいたいんや!」と言われた彼女の心境です(笑)。
松岡充
ーー先ほどから、彼女的な立ち位置はブレないんですね(笑)。
松岡 やっぱり演出家って現場において絶対的な存在で、例えるなら神ですよね。しかも丸尾くんは作者であり俳優でもあるから、ゴット・オブ・ゴット・オブ・ゴットですよ。何とでもひとの人生をもて遊ぶことができる。音楽界から演劇、俳優の世界に来ているのでそういう風に見えるところもあるんです。その思い通りに振り回される感じを、すぐ彼氏彼女に例えてしまうんですけど(笑)。ただ幕が開いたら好きにやらせてもらいますよ、という気持ちは根底にあります。本番始まったら演出家も「待て!」とは言えないので、醍醐味でもありますね。
ーーあらすじについて、もう少し教えてください。
丸尾 チラシの段階では、徳川吉宗の成り上がりの話をベースに撮影していたのですが、何かもう少し刺激が欲しいと思っていたときに、松岡さんから「最終的にもっとも不届者だったのは丸尾くんだった!」という結末もいいんじゃないかとアイデアを頂いて。先ほどの神の視点じゃないですけど作・演出家という立ち位置の面白さは使いたいなと思い、現代の保険金詐欺事件を下敷きにした話にしようと。劇中劇じゃないですけど、松岡充演じるウメモトという冴えない男のところに保険屋が来て「このシナリオ通りにやれば大丈夫ですよ」と、保険金詐欺の台本を渡す。ウメモトがそれを実行していくと、時空を超えて吉宗の人生になっていく。現代のキャバクラの保険金詐欺事件と吉宗の暗殺劇がリンクしていくお話です。
松岡 それも詐欺をしようとしているのか、そのひとも騙して洗脳されているのか、入り組んでいる感じですね。
ーー劇中で松岡さんの歌声は聴けるのでしょうか。
丸尾 必然性を感じれば歌のパートも入れるかもしれませんが、歌ありきの作品ではありません。確かに松岡さんの歌声を聴いたら、他の方とは違うものをしっかりと感じ取れるすごい武器なので、気合いの入った今回の作品で使わない手はないとも思うんですよ。でも基本は役者、松岡充に対して書いているので。彼のカッコいい面、困惑している面、コメディ要素も一杯ある。この人泣いてんの、笑ってんの、どっちだろう? という人間が持つ多面的であやふやな部分を見せられたらいいなと思います。
松岡 ちょっと台詞にメロディをつけるかもしれません、幕が開いたらこっちのもんなので(笑)。
ーー吉宗がのし上がっていく痛快さが、見所のひとつに?
丸尾 吉宗のパートではのし上がって行くんですけど、でも描きたいのは野心の強さというよりもあやふやなもの。人間って誰しもが、生まれた時はきれいな心で真っ当に生きたいと思う。でも自分の尊厳を傷つけられたり、愛する人を傷つけられたとき、やらざるを得ない状況があるかもしれない。悪こそ美学みたいな考え方の人もいたりする中で、最終的に殺人や詐欺にいってしまう人もいれば、どこかで止められる人もいる。程度の差こそあれ、真っ当か否かの境界線はあいまいで、そういう人間の危うさを描いていきたい。もちろん最終的には、お客さんがこれから生きていく上で少しでも大切にしてもらえる「何か」を持って帰って頂ければいいなと思います。
松岡 僕、普段から何か裏がありそうってすごい言われるんですよ。「どこの力使ってんの?」とか(笑)。それぐらい不思議みたいです。僕の業界における立ち位置が、色んなことをやらしてもらってるから。そこは丸尾くんも同じだったかもしれません。話してみると「意外に普通なんですね」と分かってもらえると思うんですが。でも、せっかく「松岡充は何かあるぞ!」と想像して頂けることは役者、ミュージシャン冥利につきるので、今回の徳川吉宗とウメモトに投影して頂けるのはすごく嬉しいですね。
取材・文・撮影=石橋法子
■音楽:オレノグラフィティ
■出演:
松岡 充
橘 輝
鷺沼恵美子
峰ゆとり
近藤茶
椙山さと美
谷山知宏(花組芝居)
小沢道成(虚構の劇団)
<東京公演>
2017年9月27日(水) ~10月1日(日)
天王洲銀河劇場
2017年10月13日(金) ~10月15日(日)
サンケイホールブリーゼ
■アフタートークイベント
9 月 28 日(木)19:00の回〜 特別対談「音楽と舞台」
出演:松岡充、丸尾丸一郎
スペシャルゲスト:喜矢武豊 (ゴールデンボンバー)
9/29(金)19時の回「江戸時代、知られざる変態たち」
出演:松岡充、荒木宏文、池田純矢、オレノグラフィティ、丸尾丸一郎
MC:美甘子(歴ドル)
10/13(金)19時の回「ここが変だよ関西人」
出演:松岡充、荒木宏文、池田純矢、オレノグラフィティ、丸尾丸一郎