第二十沼(だいにじゅっしょう) 『アナログレコード・カッティング沼!』
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沼。
皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?
私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。
一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れることを
「沼」
という言葉で比喩される。
底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。
これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。
毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
第二十沼(だいにじゅっしょう) 『アナログレコード・カッティング沼!』
アナログレコードという最強の音楽メディア
最も古く長い歴史を持ち、音楽メディアとして君臨していた
レコード
磁気テープが登場したあとも、そのサウンドのあたたかさ、そしてレコードに針を落とすという
儀式
音楽を聴くまでの手間は、楽しむためのウォームアップだったのかもしれない。
お父さんのレコードの盤面を指で直に触って怒られた、という方々も多いだろう。
そんな中、80年代に入るとようやくデジタル技術の発達とともに、コンパクトディスク、いわゆる「CD」というものが登場したのだ。
しかし、コレが後に厄介を引き起こす大きな原因となることなど、だれも予想だにしていなかった。
デジタルメディアの黎明期。
この言葉は全ての電子機器において私が最も恐れている一つである。
率直に言うと、CDは音が悪いのだ。
そもそも16bit/44.1という今となってはローファイ極まりないスペックにも関わらず、90年代〜2000年代とアナログレコードにとってかわる音楽メディアになってしまった。
まだ8bitの方が個性があって良い、と思うほど中途半端なビットレート。
アナログレコードと違い、パーソナルコンピューターを使えば、音の劣化なく(とは言っても16bitだが)そのままコピーができてしまう。
つまり、音楽家を殺す技術行為となったのはいうまでもない。
その後、現代ではパーソナルコンピューターの進歩と共にビットレートは超ハイクオリティーオーディオに移行し、音楽は完全に「データ」として扱われることになる。
完全にコピー可能な「音楽」は価値を無くし、タダで聴くもの、という意識が定着化してしまったのだ。
アナログレコードにイースター(復活祭)到来!
当然だがCDが登場し普及し始めると、アナログレコードは急激に忘れ去られた存在となった。
世界中でいくつのレコードプレス工場が倒産したことだろう・・・。
しかし・・・信じられるだろうか???
現代この「アナログレコード」の良さが再び注目されているというのだ。
これは嘘ではなく現実だ。
CDに王座を奪われてから30年近く、それでも頑張ってレコードをプレスし続けてきた会社がいくつかある。
長い不遇な時代を凌いできた事はとても素晴らしいことだ。
しかし、このアナログレコード復興の盛り上がりをみせる中、大手レコード会社もいち早く目をつけ、あらゆる大物アーティスト達がアナログレコードを発売することになる。
ただでさえ指で数えられるほどの少ないプレス業者は人手不足、そして事業縮小で小さくなった工場で大量のプレス作業を行わなくてはならなくなったのだ。
そんなプレス工場にとって、このような大口注文は願ってもないことだろう。
長い不遇の時代をのりきった努力、辛さは身にしみる程理解できる。
その努力は時を超えて実を結んだのだ。
しかしその間、それらのプレス工場を支えてきたアーティストは
殆どがアンダーグラウンドの連中だ。
3ヶ月待ちは当たり前?レコードプレス事情!
昨年、私も22年ぶりにDJを復活させたが、DJブースにはキラキラ光るデジタル機器に混ざって、ほとんど使われないレコード用ターンテーブルを見た時に心をなでおろした。
私はCDプレイヤーを持っていない。
せいぜいパーソナルコンピューターに搭載されたディスクドライブがある程度だ。
大げさではなく、自分のCD作品を聴くのは、長年乗り続ているクラシックカーのカーオーディオの中だけだ。
ダンスミュージックシーン、アンダーグラウンドシーン、インディペンデントレーベルなど、生産性よりも音にこだわる同士達が少ないながらもレコードプレス工場を支えてきたと言っても過言ではないはずだが、資金にものを言わせた大手レコード会社の大量発注により、アンダーグラウンドの連中がレコードをプレスするのに膨大な時間待たされることとなってしまったのだ。
それまでアナログレコードしか発売しない、というこだわりのもと成立していたあるアメリカのテクノレーベルが遂にデジタル配信せざるところまで追い込まれた。
商売あがったりだ。
プレス工場を責めるつもりは無い。
しかし、なんと悲しい出来事だろう。
やっぱアナログレコードが好き!!音もジャケも最高!!
そんな中、去年 私のプロデュースするgalcidがDetroit Undergroundから音源をリリースした。もちろんデジタル配信、そしてCDもリリースしたが、メインは12‘inchシングルだ。
既に日本のプレス工場は激混みで、出来上がるまでに何ヶ月も先になるという。そこで、我々はドイツのあるプレス工場に発注する事に決めた。
たまたまスケジュールが空いていたところに、友達の紹介でむりやりねじ込んだ形だ。
レコードになった自分の作品は、スマートフォンやPCで見るサムネイルジャケットとは違い、一つのアート作品としての所有感に満たされる。
グラフィックデザインは、かのデザイナーズリパブリックのイアン・アンダーソン自ら手を上げてくれた。
オルトフォンの針を最初に盤面に落とした時、あまりの音の良さに涙した。
音の彫刻家、橋本氏との出会い
我々がレコードをリリースした数ヶ月後、東京でおこなわれたダンスミュージックの祭典「TDME」が開催され、galcidも出演のはこびとなった。
当日の模様はBOILOR ROOMでも世界配信され大きな反響を呼び、東京発のオリジナルの電子音楽を世界に届ける事に成功したようだ。
そして、その現場で一人の奇特な職人と出会う事になる。
この時代にレコードを「プレス」ではなく
「カッティング」するという限りなくアーティスト、そして音の彫刻家とも言えるカッティング職人の橋本さんだ。
この時点でgalcidの次回作がイタリアのLyase Recordingsからリリースされる事が決まっており、作品も既に完成していた。
橋本さんは先日OPENさせたばかりの「CUT & REC」のカッティング職人であり、昨年お会いした時にはまだ会社を立ち上げる準備期間であった。
そこで試しに一枚 galcidの次回作、そして未発表曲の音源をカッティングしていただく運びとなった。
繰り返すが、これはプレスとは違いカッティングなのだ。
つまり、世界で1枚しか無いレコードをつくるという作業なのである。
実時間をかけ、平面の塩化ビニール盤に音の溝を掘って行く作業だ。
生産性を考えれば、型を起こしてプレス(コピー)をした方が断然効率も良いはずであり、経済効果を生む事はたしかだ。
数日後、届けられたオリジナルのレコードの質感におどろかされた。
先ずは驚くほど音が良いのだ。
オリジナルで渡したデジタルデータより明らかに!!
そして遥かに良いサウンドにしあがっているのだ。
ジャケットもそうだ。
ただのJPEG写真を送っただけなのに、超絶ハイクオリティーな盤が出来上がってきたのだ。
これは会うしかない!
会いたい!!!
"CUT & REC"に訪問!マシンにご対面!
橋本さんに異常に興味をもった私はアポイントを取り、出来たばかりの「CUT & REC」のファクトリーにお邪魔することになった。
「どうしてレコードにこだわるんですか?」という私の愚問に彼は
「音がいいからですよ」
と即答した。
ファクトリーにお邪魔すると、見たことのないカッティングマシーンとアウトボードが2セット置いてある。
それについて言及すると。
「このカッティングマシーンは、ドイツに住んでいるあるお爺ちゃんから買ってきたものに
私が手を加えたものなんです。
このアウトボードはマスターリングEQのようなもので、これもそのオジイちゃんが作っているんですよ」
「え?っていう事はこのドデカイ機械をドイツから輸送してきたのですか?しかも2つも」
という質問に橋本さんは笑いながら
「そうですよ」
と何事もないように答えた。
さらに私は続けて質問した。
「このまだカッティングされていない塩化ビニール盤はどこで仕入れるんですか?」
橋本さんはこう答えた
「お爺ちゃんから買ってます」
と。
「・・・・それって、お爺ちゃん死んじゃったらどうするんですか?」
「もう手に入らないですね」
橋本さんも、ドイツのお爺ちゃんも狂っているとしか思えない。
いや、失礼、私の気概と同様のシンパシーを感じたのだ。
ドッペルゲンガーか?自分と同じ事を話す他人
何故この仕事をはじめたのか?純粋な疑問をぶつけてみた。
すると彼はまたしても即答で。
「良い音を、みなさんに届けたいんです」
という。
彼は以前、デジタル関係の音響機器のメーカーにも務めた事があるそうだ。
「デジタルはどんなに細かくレゾリューションが分解しても「0と1」という断片的なものには変わりないですからね。レコードは、ほら、擦って鳴るじゃないですか。「0と1」の間に何かがあるんですよ」
私は自分と会話しているようで恐ろしかった。
可聴範囲を超えた部分にこそ、音の旨味が存在する事を彼は知りつくしている。
でなければ、たった一枚のレコードをカッティングする工場など立ち上げるはずがない。
「自分だけの一枚のレコードって、なんだか素敵じゃ無いですか」
笑顔で答える橋本さんに心をうたれた。完全にやられた。
詳しく知りたい方は、直接こちらのURLにアクセスしてほしい。
世界でたった一枚しかないレコードを本当に作ってくれる人がいる。
ドイツの爺ちゃんが死ぬまでは・・・。
CUT&REC
世界に一枚だけのオリジナル・レコードをオンラインで作成できるダブプレート・サービス『CUT&REC(カット・アンド・レック)』。
音源と画像さえあれば、誰でも一枚からジャケット付きのアナログレコードを作成可能です。
バンドやDJのオリジナルトラックの収録や、大切な人へ送るメッセージに。
あなたのその瞬間をオリジナル・レコードに刻みます。
CUT&REC ウェブサイト:https://cutnrec.com/
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Instagram : https://www.instagram.com/cutnrec/
あなたもまだまだ遅くは無い。
早いとこレコードプレーヤーを購入し、
一緒に沼の住人になろう・・・。