女性の視点で「美人画」を描いた画家・上村松園、傑作18点を一挙公開 『[企画展]上村松園 ―美人画の精華―』展レポート
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東京・恵比寿の山種美術館で『[企画展]上村松園 ―美人画の精華―』(会期:2017年8月29日~10月22日)が開幕した。同館の創立者で初代館長を務めた山﨑種二が上村松園と親交があったことから、同館は日本屈指の松園コレクションで知られる。本展では、所蔵する松園作品全18点が揃い踏みとなるほか、日本画だけでなく、浮世絵や洋画も交えて、時代を超えてさまざまな画家たちが描いてきた女性たちにスポットを当てる。
内面の美しさも描く上村松園
『上村松園 ―美人画の精華―』展示風景
展示室に入ると、まずは松園コレクションが一堂に私たちを出迎えてくれる。美人画というと、表面的な美しさや艶やかさに目が行きがちだが、松園の美人画には凛とした品格や優しさといった内面の美しさまでもが醸し出されている。絵画としての美しさもさることながら、おもわず松園の女性を見る目に感心してしまう。これは上村松園がおなじ女性だからこそ描き出せるものなのかもしれない。
上村松園《蛍》1913(大正2)年
本展のチラシなどにも使われている《蛍》は松園の初期作。蚊帳に美人という、いかにも艶っぽさを感じさせる画題だが、松園はそんな画題をあえて「高尚にすらりと描いてみたい」と思ったそうだ。松園は浮世絵も熱心に研究していたようで、ここで描かれている女性の立ち姿は、喜多川歌麿の「絵本四季花」に登場する蚊帳を吊る女にそっくりだという。また、同館顧問で明治学院大学教授の山下裕二氏は、浴衣の裾から見える足の指にも注目してほしいとのこと。足の指が長く描かれているのは、曽我蕭白の《美人図》の影響かもしれないと指摘する。
「真・善・美の極致に達した本格的な美人画を描きたい」と語った松園。自身の審美眼を常に磨き続け、その美意識を随所にちりばめるようにして、美人画に挑んできた気概が感じられる。
美は細に宿る。表装にも抜かりなし
写真左が上村松園《新蛍》1929(昭和4)年、右が同じく松園《夕べ》1935(昭和10)年
上村松園《春のよそをひ》1936(昭和11)年頃
松園は表装にも大変こだわったとのこと。いずれも上品なもので、松園のセンスの良さがうかがえる。例えば、《春のよそをひ》に見られる表装には、国宝の《片輪車蒔絵螺鈿手箱》からとった意匠、片輪車の裂地を使用。松園は古代裂にも造詣が深かったそうだ。また、《夕べ》の表装に使用されている裂地は、上村家と親しかった京都の表具屋「岡墨光堂」に同じ文様の裂地が残っているという。松園が着物や帯を合わせるような感覚で表装の取り合わせを楽しんでいた姿が目に浮かんでくるようだ。
装いの美にも注目を
上村松園《春風》1940(昭和15)年
上村松園《庭の雪》1948(昭和23)年
事実、松園自身、74年の生涯を通じて戦時中以外は和装を貫き、着物や髪型にもこだわったという。そのこだわりは美人画にも遺憾なく発揮されているので、着物と帯の取り合わせや日本髪の表現にもぜひ注目してみてほしい。特に日本髪の研究には熱心で、幼いころから近所の幼なじみの髷(まげ)を結ってあげていたほど。丸髷や島田髷、元禄勝山など、実に多彩な日本髪を目にすることができる。いずれの髪型もしっかりとした時代考証をした上で丁寧に描かれている。特に、生え際は髪の毛1本1本を面相筆で繊細に描いているので、間近で見ることをおすすめしたい。
左が鈴木春信《柿の実とり》1967-68(明和4-5)年頃
さらに、松園作品以外からも、それぞれの時代を生きた女性たちの装いを楽しむことができる。例えば、柿の実を取ろうとする若衆と娘を描いた鈴木春信の《柿の実とり》(前期のみ展示)では、娘は桐文様の振袖に市松模様の帯、若衆は木目絞りの着物に縞の帯とどちらもおしゃれだ。おしゃれには気を遣う一方で、若衆の背中に乗って柿の実を取ろうと手を伸ばす娘の姿は、他人の目をまるで気にしていないようで微笑ましい。
鳥居清長《社頭の見合》1784(天明4)年頃
鳥居清長《社頭の見合》には、8頭身かというほどスタイルのいい美人が6人もいるが、それぞれの着物や髪型は細部にわたって同じものはなく、その表情やしぐさも丁寧に描かれている。
個人的におすすめしたい作品は、月岡芳年の《風俗三十二相》。遊女や芸者、女主人など、江戸~明治の多種多様な職業・年齢の女性たちを描いた。“相”とあるだけに、全32図が「いたさう」「さむさう」など「○○さう」という、遊び心たっぷりの切り口となっている。32図のうち、前期と後期でそれぞれ8図ずつを展示予定だ。当時の美人画にありがちな画一的な描き方ではなく、表情に変化をつけようと意識した芳年。ひとたび見れば、一人一人の女性たちに向けられた芳年の愛情を感じずにはいられない。
カフェで供される展覧会オリジナルの和菓子
最後に、山種美術館で忘れてはならないのが、展覧会にちなんだオリジナル和菓子。今回も松園の作品を中心に、小林古径《清姫》や橋本明治《秋意》といった同展出品作品をイメージした和菓子が館内のカフェで味わえる。
この秋は、山種美術館で「芸術の秋」と「食欲の秋」の両方を満喫してみてはいかが?
会期:2017年8月29日(火)~10月22日(日)
※会期中、一部展示替え(前期:8月29日~9月24日、後期:9月26日~10月22日)
会場:山種美術館
休館日:月曜日(ただし、9月18日、10月9日は開館、9月19日、10月10日は休館)
開館時間:午前10時~午後5時(入館は30分前まで)
入館料:一般1000円(800円)、大高生800円(700円)、中学生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金、および前売料金
※障がい者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方、およびその介助者(1名)は無料
※きもの割引:会期中、きものでご来館のお客様は、団体割引料金となります
※リピーター割引:本展使用済み入場券(有料)のご提出で、会期中の入館料が団体割引料金となります(1枚につき1名様限り有効)
問い合わせ先:ハローダイヤル 03-5777-8600
http://www.yamatane-museum.jp/exh/2017/uemurashoen.html