『シン・ゴジラ』『君の名は。』から岡崎体育まで! メディア芸術の“いま”を映す『第20回文化庁メディア芸術祭』をレポート

2017.9.19
レポート
アート

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メディア芸術の“時代(いま)”を映し出すイベントとして、国内外の優れた作品を一挙に紹介する『第20回文化庁メディア芸術祭』が、2017年9月16日(土)〜28日(木)の期間、NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]及び、東京オペラシティ アートギャラリーで開催されている。

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門で構成される本展は、1997年にスタートして以来、高い芸術性と創造性をもつメディア芸術作品を顕彰するとともに、受賞作品の展示や関連イベント等を行ってきた。20回目を迎える今回は、世界88カ国・地域から寄せられた4,034作品の応募作品から厳選して選ばれた、全受賞作品と功労賞受賞者の功績が150点以上紹介されている。一般公開に先駆けて行われたプレス内覧会より、大賞に輝いた注目の4作品を中心に本展の見どころをレポートしていきたい。

エンターテイメント部門の大賞は、納得の『シン・ゴジラ』

エンターテインメント部門では庵野秀明・樋口真嗣監督による特撮映画、『シン・ゴジラ』が大賞を獲得した。

日本に襲来したゴジラという虚構の巨大生物とそれに立ち向かう官僚や政治家たちを描いた本作は、国内シリーズ初のフルCGで体長118.5mという“史上最大のゴジラ”が描かれた超大作。今にも大画面から飛び出してきそうなゴジラの持つリアリティは、日本中を熱狂と興奮の渦へ巻き込み、興行収入80億円を超える大ヒットを記録した。

本作は、最先端のCGを駆使して特撮映画の限界に挑戦した、シリーズ12年ぶりとなる最新作だ。ゴジラの爆発力とその物語に象徴されるように、製作現場やそのプロセスにも「破壊」と「創造」のエネルギーが充満していたのだろう。展示空間ではそんなことを想起させる劇場公開時を再現した迫力満点の映像をはじめ、貴重なスケッチや造形などが展示されており、改めて『シン・ゴジラ』の威力に対面できるスペースとなっている。

CGのもとになった、ゴジラの模型


「前前前世」からの記憶と男女のつながりを描いた『君の名は。』

アニメーション部門では、世界120カ国以上の国と地域で上映されて話題となった新海誠監督の『君の名は。』が大賞に輝いた。こちらでは本編のなかから一部のシーンがスクリーンで映し出されるスペースや印象的なシーンがパネル展示されており、劇場公開時のあの感動を追体験することができる。

時空を超えて想いが届く、という神秘を美しい映像で描いた『君の名は。』のワンシーン

女子高生の宮水三葉と男子校生の立花瀧という運命の糸で結ばれた二人が、強い想いによって3次元の枠を飛び越えて、予測された未来を変えることができる可能性を示した本作。「愛とは何か?」という普遍的なテーマを投げかけながらも、時空間の概念やリアルとファンタジーの境界線を美しく繊細に描いた作品として、高く評価された。流れるように紡がれていくストーリーでありながらもこれまでにはなかった壮大なテーマへの大胆なアプローチで、日本の劇場アニメーションの新境地を切り開いた。

現代社会のシステムや生命体の動きを示唆

アート部門で大賞に輝いた『Interface I』。本作はドイツ人のアーティスト、ラルフ・ベッカー氏による、メディアインスタレーションである。

暗闇の空間を一つのスクリーンのように見立てた『Interface I』では、電気信号で赤く光るゴムバンドが上下に不規則に揺れ動いている。ここでは、地球の環境放射線を感知するシステム「ガイガー=ミューラー計数管」の存在が、全体の動きに影響を及ぼすトリガーとなっているという。ガイガー=ミューラー計数管では、気温や湿度といった自然環境から入力される情報がモーターに影響を与え、それぞれに突発的でランダムな動きを次々と生成していく。

この仕組みはまさに、一つの統制システムがミクロの世界に、またミクロな動きがシステム全体に影響を及ぼしながら成り立つことを示唆している。つまり本作は現代社会の縮図であり、社会システム、経済学、生物学や人体に至るまで、まさに地球上の森羅万象をあらわすメタファーであると言えるだろう。ぜひ身近な日常に引き寄せて、じっくりと鑑賞してみてみたい。

暗闇の空間に折れ線グラフのように浮かび上がる『Interface I』


ガイガー=ミュラー計数管からノイズのようなランダムな信号を受けて、モーターは突発的に動く

リアルに音が聴こえてくるかのようなマンガ『BLUE GIANT』

マンガ部門では、石塚真一の『BLUE GIANT』が大賞となった。ジャズに魅せられた少年・宮本大が一流のジャズプレーヤーを目指し成長していく過程を描いた本作は、作者の迫力あふれる筆致とジャズの即興演奏のライブ感が直に伝わってくるような作品で、音楽ファンならずとも多くの人々がジャズに魅了された。

「音が出ない」というマンガの性質を逆手にとって「まるで音が聴こえてくるかのように」描かれた本作。無音の展示室の空間でも音をリアルにイメージできるような、ダイナミックで力強いタッチが大きなパネル展示からも、その魅力は存分に伝わってきた。

『BLUE GIANT』の迫力あるパネル展示

個性派揃いの選出が目立った、優秀賞や特別賞にも注目!

さて大賞の4作品以外にも、各部門で特別賞や優秀賞に輝いた作品も紹介しよう。これらの作品は大賞には及ばなかったものの、多くの人々の心を捉えた作品には変わりなく、個性的で今の社会様相を象徴するような作品が選ばれた感があった。

まずアニメーション部門で優秀賞を受賞した、山田尚子監督の「映画『聲の形』」である。マンガを原作に製作された本作は、人と人とのコミュニケーションにおける伝えることの難しさやそれゆえの尊さが描かれている。成長期に直面するコミュニケーションの葛藤は、現代社会のそれにも通じ、大人の心にも訴えかける大切なメッセージを投げかけてくれるだろう。


続いてエンターテインメント部門の優秀賞に輝いたのは、言わずと知れた人気ゲーム『Pokémon GO』。位置情報を活用した斬新なこのゲームアプリは、昨年夏にリリースされて以来プレイヤーが一気に急増し、瞬く間に社会現象となった。また会場では、自分が選んだモンスターと一緒にジムの上で写真撮影することも可能だ。映像を立体的に映し出す最新のVRの技術を活用し、自分のスマホで位置を合わせて、撮影を楽しむことができる。

「Pokémon GO 相棒ポケモンと記念撮影!」のコーナー

同じくエンターテイメント部門の優秀賞に選ばれたのは、市原えつこによる『デジタルシャーマン・プロジェクト』だ。本作は家庭用のロボットに個人の顔を3Dプリントした仮面をつけることで、ロボットに故人の身体的特徴や音声を憑依させ、49日間遺族が故人を偲ぶという、新しい弔いのかたちを提示した作品だ。科学技術が発達した現代における死の捉え方を問う作品としての目新しさだけでなく「メディウム=媒体」としてのテクノロジーを“憑依”になぞらえた点にも、注目してみたい。

市原えつこ氏と彼女の顔を3Dで映し出した、ロボットのPepper

さて、エンターテインメント部門では優秀賞のほかに新人賞も見逃せない。本賞に輝いたのはYouTubeで話題騒然となった、岡崎体育と寿司くんによる作品「岡崎体育『MUSIC VIDEO』」。こちらは「カメラ目線で歩きながら歌う」、「急に横からメンバーが出てくる」などミュージックビデオでありがちな“あるある”を、自身がひたすら歌詞で再現していくという話題作だ。

岡崎体育と寿司くんによる作品「岡崎体育『MUSIC VIDEO』」

制作費は6万円のみ。本人と映像監督の朋友・寿司くん、マネージャーの3名で撮影したという本作は、SNSを中心に大反響を巻き起こしたことも記憶に新しい。

ポップでパンチの効いた耳に残る歌詞をはじめ、笑いのツボや共感ポイントが満載の本作は、ミュージックビデオの新しい可能性を感じさせてくれる作品として、ぜひともチェックしたい。

 

アートやテクノロジーの境界線が曖昧になり、リアルと仮想現実の世界がゆるやかに融合している現代。本年のメディア芸術祭では、まさにそういった現象をアートへとして昇華させた作品が多く選出されていたのが印象的であった。言葉だけでは伝わりにくい表現も、アートを媒介することによって、より多くの情報伝達と変換が可能になるという事実にも、改めて気づかされる機会となるだろう。

ぜひこの文化庁メディア芸術祭を通じて、メディアアートの今と最先端のテクノロジーの可能性を感じてみてはどうだろうか。

イベント情報
第20回文化庁メディア芸術祭

日時:2017年9月16日(土)〜28日(木)
会場:NTTコミュニケーション・センター[ICC]及び 東京オペラシティ アートギャラリー 他
開催時間:11:00〜18:00 ※22日(金)・23日(土)は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
入場料:無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会
http://j-mediaarts.jp
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