ギャラリーに泊まる?! 西野達《カプセルホテル21》夜間イベント体験レポート
六本木の東京ミッドタウン内の21_21 DESIGN SIGHTで、企画展「『そこまでやるか』壮大なプロジェクト展」が開催中。クリストとジャンヌ=クロード氏の《フローティング・ピアーズ》(2016 年)など、大胆なアイディアを実現するクリエイターたちのプロジェクトを紹介しています。
その1つが、西野達氏による《カプセルホテル21》。「六本木のど真ん中に突如として出現したアートホテル」をコンセプトにした新作インスタレー ションです。ギャラリー内にベッドを設置するという発想自体にも驚きますが、なんと実際に夜間滞在できるとのこと!(※イベント開催日のみの予約制で、現 在9月分の予約を受付中。応募者多数の場合は抽選です。最新情報は公式サイトでご確認ください。)
展示空間で一夜を過ごすという新しい体験をしてきたので、その様子をレポートします。
西野達ってどんな人?
1960年、名古屋生まれ。1997年から主にヨーロッパで活動。屋外のモニュメントや街灯などを取り込んで部屋を建築しリビングルームや実際にホ テルとして営業するなど、都市を舞台とした人々を巻き込む大胆で冒険的なプロジェクトを発表することで知られる。現在はベルリンと東京を拠点に活動しています。代表作には、シンガポールのマーライオンを使ったホテルプロジェクト「The Merlion Hotel」(2011年)、NYマンハッタンのコロンブスのモニュメントを使用したプロジェクト「Discovering Columbus」(2012年)、ロシアのエルミタージュ美術館内のインスタレーション「So I only want to love yours」(2014年)など。
シンガポールのマーライオンを囲ってホテルの部屋にしたり、ニューヨークのコロンブス像を囲ってリビングルームにしたりと、パブリックな空間をプライベートな空間に変えてきた西野氏。今回の《カプセルホテル21》ではギャラリー内にベッドを設置するということで、やはりパブリックとプライベートの交差が注目されます。
過去のインタビュー記事もご覧ください→Interivew「若いうちに海外に出ろ!」西野達さんインタビュー
《カプセルホテル21》に滞在してみました!
夜21時前、21_21 DESIGN SIGHTに到着。ミッドタウン・ガーデンにギャラリー3が浮かび上がっています。安藤忠雄氏設計のギャラリー3は、2017年3月にオープンしたばかり。1枚の鉄板を折り曲げたような屋根が特徴のコンクリート造の建物です。
近づいてみると、外からベッドが丸見え……! 覗き込む通行人もいました。
早速ギャラリー内へ。窓際にずらりとベッドが並んでいます。無機質なコンクリートの壁と、整えられた布団が絶妙にマッチして、近未来的な雰囲気を醸し出し ています。また、シャンデリアに見立てた西野氏自身の彫刻作品や、大きな写真作品が飾られており、全体的にホテルのイメージが演出されていました。
1台だけ独立したベッド
最も天井が低いベッド
ベッドは全部で17台。素材や幅は同じですが、それぞれ天井の高さが全く違います。1段のところは人が立っても余裕のある高さですが、3段になると横になるのが精いっぱいで、座ることも出来ないほど。また、上段には脚立で上らなければなりません。
他の16台と向かい合うように1台だけ独立したベッドは、会期直前に西野氏が思い立ち、大急ぎで追加したものだそう。特別感がありますね。体験の際 にどのベッドを使えるかは、あらかじめランダムに決められています。最初はどこに当たるか分からなかったので、写真を撮りながらドキドキしていました (笑)。
受付で簡単に注意事項の説明を受け、ベッドナンバーとシャワー予約券をもらいました。シャワーは夜22時頃から深夜1時頃までと、翌朝5時以降、1人1回のみ10分間使えるとのことなので、23時30分に予約しました。
私のベッドは12番。幸い天井が高く、端なので比較的過ごしやすそうです。とはいえ、発泡スチロール製の壁は薄く、音が響く階段も目の前。はたして眠れるのでしょうか……?
横から見た様子。パイプで組まれた足場の下には何も無く、向こう側まで見通せます。
どこから見てもパイプやコードが剥き出し。建設中にも見え、一夜を過ごすことを考えると不安に……。
ところが、中に入ってみると思ったより頑丈でした。壁に寄りかかっても大丈夫! 布団と枕も清潔で居心地が良いです。カプセルホテルなのに窓が大きく、外からも中からも丸見えですが、意外にもくつろげました。開放感があるおかげでしょうか?
そして、ベッドの脇にはテレビ(iPad)とコンセントが! 意図的に雑な作りにしたそうですが、設備は妙にホテルらしくて、ギャップが面白いです。コンセントは安全上の制約により夜間使用不可ですが、テレビはイヤホンを繋いで観ることができます。
全室に備えられたテレビ(iPad)、コンセント、ライト
今回は西野氏のトークがなく、別の日に行われたトークの映像が中央のモニターに流れていました。ちょうどベッドから見える位置だったので、布団をクッションにして鑑賞。靴を脱いで落ち着いたら、自分の家のような感覚になってきました。
ふらっと散歩に出ると、美しいイルミネーションが! 徒歩0分でミッドタウンに行けるなんて、最高の立地ですね。
給湯室に出現したシャワーブース
シャワーは10分間の時間厳守なので、メイクを落として汗を流す程度で出ました。シャワーブースは給湯室に取り付けられています。「ここで脱いでいいのかな……?」と少し戸惑いましたが、使い心地は全く問題ありませんでした。
給湯室とベッドゾーンの間には会議室があり、イベント中は休憩室として飲食やコンセントの利用が可能でした。参加者同士で雑談する姿も見られました。
あくまで私が見た印象ですが、今回の参加者は20代、30代の若い人たちが多かったようです。抽選なので回によるでしょうが、それなりに体力があって、旅慣れている人でないと厳しい環境かもしれませんね。
就寝前に読もうと文庫本を用意していたのですが、疲れていたのですぐ眠る体勢に入りました。アイマスクをして、iPodで音楽を聴きながら布団に潜ります。緊張してすぐには寝つけませんでしたが、心配していたほど物音は気にならず、気がついたら眠っていました。
翌朝5時、太陽の光で目覚めました。突然芝生とビルが見えて、一瞬焦りました(笑)。明るい光の差し込むギャラリーは、夜とは違う顔を見せてくれます。仕切りが無いとはいえ闇に包まれていたプライベートな空間が、一気に明るみに晒されたようで、なんとなく恥ずかしい気分になってきました……。
外に犬の散歩をしている人が通りかかったので、通行人が増えないうちに身支度をしてチェックアウト。誰かのアラームが鳴り続けていましたが、半数程度の参加者はまだ寝ているようでした。
私物が置かれ雑然としたギャラリー内
それぞれのベッドの様子が外から丸見えです。
取材後記
当初、「展示空間で一夜を過ごす」というのは単純に珍しい体験だという認識しかしていませんでした。しかし実際には、ギャラリーという場所よりも、 ベッドそのものについて意識が向いていきました。「プライベートなはずの空間がプライベートではない」という違和感が新鮮だったのです。見られる前提で参加して いるにもかかわらず、見ないでほしいと思いましたし、他のベッドを見るのもタブーな気がしました。
こうした斬新なプロジェクトを実現させるには、日本は諸外国に比べ規制が厳しい国だそうです。《カプセルホテル21》も、できれば毎日宿泊できるようにしたかったものの、特別イベント開催がやっとだったのだとか。非日常の体験は、当たり前だと思っていたことを見つめ直すきっかけになります。こうしたプロジェクトが増え、アートに触れる体験が身近になっていけば、思いもよらないアイディアが生まれるかもしれませんね。
こちらのインスタレーションは、夜間イベントに参加しなくても、開館時間内に実際にベッドに入って休憩することができるので、ぜひ会期中に足を運んでみて下さい。
文・写真=稲葉 詩音
日時:2017年6月23日(金)~10月1日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHT