【エイブル・アート・ジャパン インタビュー】 アートによるソーシャルインクルージョン*の最前線!

9月29日より、「アトリエ・ポレポレ 20年の軌跡展 ポレフォニ―」が世田谷美術館区民ギャラリーで開催されます。障害のあるなしに関わらず、誰もが自由に表現することが出来るアート空間「アトリエ・ポレポレ」は、1995年、NPO法人エイブル・アート・ジャパンの発足とほぼ同時にその活動をスタート。互いの違いを尊重しあいながら、その多様性により力強いエネルギーを生み出してきた活動は、このNPOの真髄とも言えるものです。

エイブル・アート・ジャパンの柴崎さん、中谷さんに、エイブル・アートの活動の20年間の軌跡について伺いました。

*ソーシャルインクルージョンとは、「全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」という理念

「一人ひとりの成長の速さとかステップって違っていいし、違うことが当たり前っていう、ほんとの美術の前提が、ここにはあると思います。私たちは、人々の考え方や環境を変えていくツールとしてのアートに向き合いたいんです。」

「一人ひとりの成長の速さとかステップって違っていいし、違うことが当たり前っていう、ほんとの美術の前提が、ここにはあると思います。私たちは、人々の考え方や環境を変えていくツールとしてのアートに向き合いたいんです。」

――「障害の有無を越えての活動」をテーマにされていますが、日本では特に「障害者」という枠組みの活動に入っていくことに抵抗のある人も多いと思います。その中で、アートを媒介することにより、多くの人が活動に興味をもって参加しやすくなっていますね。

柴崎:エイブル・アート・ジャパンは、障害のある人のアート活動に注目していた美術家や福祉施設の職員、また企業の人たちが集まって設立されました。当初は、まだそういった活動が認知されていませんでしたが、アーティストの作品の強烈なインパクトや、それを支えている人たちの情熱や熱気に引き寄せられるように多くのボランティアが集まり、共に美術展をつくってきました。

特に日本では美徳として、あえてこういう社会的な活動をアートシーンの人たちは口にしたがらなかったと思います。しかし1990年代以降、アートが単なる作品ではなく、人々の考え方や環境を変えていくツールでもあるんだと、美術界の中でもその意味や価値観が変わってきました。私達の活動も、作品を生み紹介するというだけではなく、”障害”という概念に対する差別などにも変化をもたらし、彼らがもっとポジティブに表現者として活躍出来るようにしなければと考えています。

NPO法人エイブル・アート・ジャパンの事務所に併設されているA/A gallery 2015年6~7月に開催されたエイブルアート芸術大学による「人生★スクランブル交差展」の様子

NPO法人エイブル・アート・ジャパンの事務所に併設されているA/A gallery 2015年6~7月に開催されたエイブルアート芸術大学による「人生★スクランブル交差展」の様子

――「社会の芸術化、芸術の社会化」をテーマに活動されていますね。

柴崎:「障害のある人たちが対象の活動」という枠が取り払われていくのが、私達の最終的なゴールです。「障害のある」というカッコの意味それ自体が、価値とか楽しさとして伝えられようになればと思います。

というのは、作品の中ではあえて見せないのですが、やはりまだまだ障害のある人たちに関わる差別や偏見など、社会の中での生きにくさは、本当に沢山あるんです。そこを克服するために、アートをツールやフックとして、人々の気持ちや考えに影響を及ぼしていきたいです。

「アトリエ・ポレポレ」に参加するメンバーの制作の様子。ここでは、それぞれが自由に自分の表現を楽しんでいる

「アトリエ・ポレポレ」に参加するメンバーの制作の様子。ここでは、それぞれが自由に自分の表現を楽しんでいる

――今年で20周年を迎えますが、始めた頃と今との一番の違いは何ですか?参加する人の層に変化はありましたか?

柴崎:一番の変化としては、若者が作品やアーティストの面白さにダイレクトに惹かれてギャラリーを訪れたり、福祉施設などの現場で働いていることです。

中谷:私自身、もともと障害のある人や福祉に関わる接点はありませんでした。作品自体やそれを作っている場に興味を持って施設を訪れる中で、スタッフや障害をもっている人たちがすごく楽しそうで魅力的だったので、この世界に入ったんです。

特にこの2~3年は、障害のある人のアートを見る機会が増えてきている感じがします。芸大出身で、福祉施設でのアート活動をサポートしている方も増えていますね。

柴崎:アーツ千代田3331のポコラート展をはじめ、公募展の機会は飛躍的に増えてきました。地方にも障害のある人の作品を発表するギャラリーが増えていたり、障害のある人たちが活動できる自由なアトリエ風のスタジオも多くなってきています。

障害の種別や有無、年齢、国籍を超えた自由なアトリエとして活動を続けてきた「アトリエ・ポレポレ」。運営は参加者の家族やボランティアが中心となって行う

障害の種別や有無、年齢、国籍を超えた自由なアトリエとして活動を続けてきた「アトリエ・ポレポレ」。運営は参加者の家族やボランティアが中心となって行う

――エイブル・アート・ジャパンの運営するA/A galleryは、障害のある作家の作品を専門に紹介し販売するギャラリーですが、展示や販売方法などで、特に他のギャラリーと違う部分はありますか?

柴崎:一般的に、自分がアーティストと自覚している人たちは、作品をアウトプットするための保管や額装、価格設定や権利契約の確認などを自分でしますよね。でも障害者アーティストの多くは、売るとか見せることを目的として活動していなかったり、そういった仕組みがあるということ自体を知らない人が多いんです。

結果、全てのセルフプロモーションの調整を私達がするので、展覧会を開くまでに普通のギャラリーとはちょっと違う労力がかかります。ようやく作品の売り買いの機会も増えてきているのですが、今の盛り上がりとアーティスト自身の環境に差があるので、時間的にも運営資金的にも、とても大変です。

2010年、障害のある人の表現と社会をつなぐアートスペースとして、アーツ千代田 3331内にオープンしたA/A gallery

2010年、障害のある人の表現と社会をつなぐアートスペースとして、アーツ千代田 3331内にオープンしたA/A gallery

――障害の有無に関わらず、「表現する」ということに抵抗がある方も多いかと思いますが。

柴崎:日本の美術は作品のクオリティとか優劣とかが先にきてしまって、まずやることを許し、自由に表現すること自体を保障するっていう空気が薄いですよね。

私達エイブル・アート・ジャパンの発足とほぼ同時に、会員有志によりスタートした「アトリエ・ポレポレ」は、開放的で明るく、いろんな人が交流しながら刺激を生める場をつくっています。その人自身にとって大切な時間ややり方を選びながら、みなが集まって尊重しあう中で、作品を追及したり、自分とは何か、ということを長い時間かけて問いかけています。

また2005年からは、「エイブルアート芸術大学」という個人の学びを重視したアトリエもスタートしました。参加者の中には、実は一般のサラリーマンとかOLも数人いるんです。「人前で絵を描いて見せるなんて、小学校から嫌な思いをしてこりごり」っていう人たちが、このアトリエだったらやれるんじゃないかと入ってきています。それがこのアトリエの凄さ、よさですね。一人ひとり成長の速さとかステップって違っていいし、違うことが当たり前っていう、ほんとの美術の前提が、ここにはあると思います。

「アトリエ・ポレポレ」の参加者はこれまでにのべ100名以上。見学者も多く訪れる

「アトリエ・ポレポレ」の参加者はこれまでにのべ100名以上。見学者も多く訪れる

――アトリエでの制作の様子はどんな感じですか?

柴崎:やってもやらなくてもいい、というような空気ですね。

中谷:来てしばらくぼーっとしている人もいたり、参加者なのか運営してる側なのかがわからないくらいです。月1回きて、気が向いたら何かするという感じで、美術家のファシリテーターの人もすごく自由なので、「他のアトリエも転々としたけどここなら」という人は多いですね。参加者のやりたい意思がないと絶対20年も続いてこなかった場所ですが、それが今だに衰えず、むしろ参加者が増えてるっていうのは、やはりこういった場所が必要とされているということなんだなあ、と思います。

毎月2回、アトリエに来ることを楽しみにしている参加者のみなさん。描いた絵をすぐに見せてお互いに話が出来るのもアトリエならでは

毎月2回、アトリエに来ることを楽しみにしている参加者のみなさん。描いた絵をすぐに見せてお互いに話が出来るのもアトリエならでは

――NPO法人として運営をする上でのチャレンジ、また工夫されている点は何ですか?

柴崎:やっぱりノンプロフィットの活動って、維持がすごく大変で。アートというものは、自由であるほどお金にしにくいという側面があります。その哲学とか空間を守りたいと思う一方で、どこかで活動費やスタッフの人件費を生まなければいけない、というリアルな問題がありました。

 

そこで、作品のデジタルデータの貸し出しにより著作権使用料を得る、「エイブルアート・カンパニー」というプロジェクトが生まれました。その結果アーテイストの作品の裾野や、取り扱うアーティストの幅がとても広がっています。

 

――これまでに様々な大企業ともコラボされていますが、企業の側も積極的なんですね。

中谷:最近では、株式会社フェリシモによる、Challenged Creative Projectの一環として、エイブルアート・カンパニーのアーティスト集団の作品を使った洋服のブランドが立ち上がりました。寄付金つきの商品で、それをひとつ買うごとに200円が基金としてNPOに入る仕組みです。

――最後に、5年後の東京オリンピック・パラリンピックに向かって、いま思い描いているイメージやビジョンはありますか?

柴崎:文化プログラムの議論が活発になってきていますが、障害のある人たちが自ら積極的に参加し、発表の形をつくりあげていく自律性が、日本ではまだまだ足りないと思うんですね。障害のあるアーティスト自身がディレクターやプロデューサーだっていう、欧米では当たり前の世界が、日本の中ではとても少ない。

アーティストの発表の場をつくるにはビックチャンスである2020年をあくまでも通過点として、発言し主張するアーティストを、もっと支援していきたいです。そのようにして、風土自体を変えるために活動していきます。

柴崎由美子 (NPO法人エイブル・アート・ジャパン 代表)
障害のある人たちとともに対話・創作・仕事開発・復興活動などを実施。障害者アートの社会的意義を問う活動をライフワークにしている。奈良・たんぽぽの家アートセンターHANAディレクター(2004年~09年)を経て、エイブルアート・カンパニー事務局(2007年~)、2013年より現職。

 

中谷由美子 (NPO法人エイブル・アート・ジャパン スタッフ)
1988年奈良生まれ。障害のある人の表現のおもしろさに惹かれ、2013年に奈良の福祉施設「たんぽぽの家アートセンターHANA」に就職。その後、2014年5月より東京に移りNPO法人エイブル・アート・ジャパンに勤務。現在は主にエイブルアート・カンパニー事務局として、アーティストのマネージメント等を担当。

 

 

[TABインターン]山際真奈: 1994年千葉県出身。カリフォルニアの大学でリベラルアーツを専攻する大学生。アジア文学・哲学・芸術が集中研究分野。人間と自然の関わりの中から生まれる芸術表現の探求をライフワークとしたい。かぼちゃの煮つけとお散歩を常に欲している。夢は自給自足。

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