松平健 “描けなくなった”下村観山に共感も、その才能を讃える「西洋と和の融合を楽しんで」

インタビュー
アート
12:00
『下村観山展』音声ガイドナビゲーター・松平健

『下村観山展』音声ガイドナビゲーター・松平健

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『下村観山展』が、2026年3月17日(火)から5月10日(日)まで、東京国立近代美術館にて開催される。“下村観山”といえば、紀伊徳川家に代々仕えた能楽師の家に生まれ、日本美術の道を切り拓いた画家。関東で13年ぶりの大回顧展となった本展では、傑作150件超がお披露目され観山のバラエティ豊かな作品群を堪能できる。
そして、音声ガイドナビゲーターを務めるのは俳優の松平健だ。言わずと知れた代表作『暴れん坊将軍』で松平が演じた徳川吉宗が紀州藩出身で、和歌山にゆかりもあり、観山との共通項があることからオファーに至ったという。音声ガイド収録を終えたばかりの松平に、『下村観山展』への期待について語ってもらった。

『下村観山展』音声ガイドナビゲーター・松平健

『下村観山展』音声ガイドナビゲーター・松平健

――『下村観山展』音声ガイドナビゲーターのお話がきたときは、どのような思いでしたか?

これまであまりナビゲーターやナレーションをやったことがなかったので、「なぜ私なのかな?」と最初は思いました。ですが、下村観山が和歌山出身ということなので「暴れん坊(将軍)」のつながりかな、という思いでしたね。

音声ガイドの収録で一番意識したことは、観山の人生がわかりやすく伝わるように、ということでした。ナレーションは自分が動いてセリフを言うのとはまた違いますので、言葉だけでその方の人間性や背景、いろいろなドラマが伝わるようにしなければいけないんです。日頃使われない言葉も多かったので、そのあたりはちょっと苦戦しましたね。今回は美術というこれまで私があまり触れてこなかった世界のことでしたし、新鮮な思いでやっていました。

――実際にナレーションを通じて、観山の人柄や作品など、印象的だったことはありましたか?

観山はいろいろな師匠に習っていたそうなんです。そうして自分の世界や幅がすごく広がっていったんだろうと感心しました。非常に勉強熱心と言いますか、研究熱心な方だったのではと感じます。あとは、絵自体が金をバックにしている作品が多いので、そのあたりも面白みを感じました。

――松平さんが特に「見てみたい」と心を奪われた作品は、どちらでしたか?

いろいろな作品が気になりましたが、西洋と和の両方を描けることが観山の特長なんですよね。特に《木の間の秋》は見てみたいなと思いました。観山は、縦の線をすごく練習していたそうなんです。近くで見るのと、引いて見るのとで、その味わいが違うのではないかと感じます。引くと奥行きも伝わるので、どういうふうに変わるのか、実際に見てみたいですね。

――観山はイギリスに2年ほど留学した経験があったので、洋と和の融合については、その経験も生きているんでしょうか。

きっとあるでしょうね。観山のエピソードでほかにも印象的だったのは、画家として活動を始めたのちに東京美術学校に入り、​また1からというときに線が描けなくなった、というエピソードです。初心に戻ってみると、線一つ引くにもまたそれでうまく描けなくなったりすることもあるのか、と。観山は能楽師の踊りの袖の振りを見て、その流れでまた絵が描けるようになったそうなんです。いろいろな悟りを経て成長し、こんにちの作品があると知ると、感慨深いものです。

――松平さんも演技をされる上で、これだけ経験を積まれても観山の線のお話のような似たような意識はありますか?

もちろんありますよ。舞台の初日なんかは、今でもとても緊張します。完璧にできることはなかなかないので、我々はいつもお客様に教わっているような感じです。

『下村観山展』音声ガイドナビゲーター・松平健

『下村観山展』音声ガイドナビゲーター・松平健

――観山は温厚な性格で情が厚く、酒豪だったという説があります。松平さんに共通する点はどこかありますか?

まあ……若い頃はよく飲んでいたのでそこでしょうか(笑)。

――そうですか!また、後進の画家に対しての指導もとても熱心だったそうですが、そのあたりはいかがですか?

自分が育った時代というのが、「見て覚える」というものだったので、具体的な指導の仕方は教わっていないんです。だからか、若い人にもなかなか手取り足取り説明するというよりも、「見て覚えて」みたいに思います。

――ちなみに、松平さんにとって師匠と言える存在はどなたでしょうか?

師匠は勝新太郎先生です。私に時代劇を教えてくれた方です。

――勝さんの背中を見て、盗んで、常に意識されていらしたんですね。

そうですね。立ち回りなんかも、そばでずっと見させてもらいましたから。そのスピード感やリズム感は、いろいろ勉強させてもらいましたね。

――反対に、若い人から学んだりするような感覚もありますか?

ありますね。時代とともにいろいろやり方も変わってきていますからね。映像も昔はフイルムで撮っていたのが、今度はビデオになって。昔は近くで監督が演技を見て撮影していましたけれど、今はその場にいなくて監督は離れたところで画面を見ながらというのが当たり前になりました。撮り方もカメラはいろいろな方向から撮ったりして、俳優は同じ芝居を何回もやるんです。そのあたりは昔と随分変わってきたと思います。今のやり方で慣れている若い人たちは、おそらくこの世界はこういうものだと思ってやっているんでしょうね。昔とちょっと違うので、我々はなかなか難しいかな。いつも本気でやっていますけど、同じ芝居はできないので難しいところですね。

『下村観山展』音声ガイドナビゲーター・松平健

『下村観山展』音声ガイドナビゲーター・松平健

――ところで、松平さんはご自身で絵を描いたり、書をしたためたりなどの趣味はありますか?

以前はありましたよ。一筆画で花を描いたりしていました。若い頃、いっときなんですけどね。

――一筆画を描くようになったきっかけは何でしたか?

知り合いの方の紹介で、はじめたんです。若い頃は水彩画が好きで、結構描いていました。一筆画は筆で描くんですけど、花びらも凝って描いたりしました。2色使ったら滲んで綺麗に(色が)出たりしたんです。集中して、いっとき凝ってやっていましたよ。

――一筆画はどなたかに差し上げたりしたんですか?ご自宅で飾られたり?

あげることはなかったけれど、それを使ってはがきを作ったりしていましたね。飾るなんてことは、ないですよ(笑)。もうそっと、奥にしまって……。人物を描こうとチャレンジしたこともありましたし、油絵もやろうかなと思って少しやったけども、我流ではなかなか難しいですよね。やっぱり師匠がいないと。

――今は描かれていないそうですが、普段の気分転換や一息つく時間などは何をしていることが多いですか?

一息つく時間は、今はやっぱり歩くこと、ウォーキングが好きですね。ウォーキングの途中で喫茶店やカフェに入ってお茶を飲んだり、一服したりする時間がほっとします。ジムに行ったりもしていたんですが、長く続けているのはウォーキングです。

――いろいろお話いただき、ありがとうございました。最後に、本展を楽しみにしている読者にぜひメッセージをお願いします。

下村観山という画家は、様々な偉大な師匠について学ばれて幅広い絵を生み出しました。その絵は時代によってどんどん変化していて、西洋の技術を取り入れた西洋絵画風の陰影を楽しめるものもありますし、実際に見ると迫力も桁違いだと思います。西洋と和の融合というのを、ぜひ楽しんでいただければと思います。


取材・文=赤山恭子

イベント情報

下村観山展
会 期:2026年3月17日(火)~5月10日(日)
会 場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
(〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1)
休館日 :月曜日(ただし3月30日、5月4日は開館)
開館時間:10:00~17:00(金曜・土曜は10:00~20:00)※入館は閉館の30分前まで
主 催:東京国立近代美術館、日本経済新聞社、テレビ東京、BSテレビ東京
【巡回情報】
会期:2026年5月30日(土)~7月20日(月・祝)
会場:和歌山県立近代美術館
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